醜い私に。   作:ミ゙ヅヅヅ

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色々と修正。



表題役は私じゃなくて

 

──頭がズキズキと鼓動するように痛む。

 

 

 脳は酷い熱を持ち、少女に苦情を訴える。

 

 視界は辺り一面真っ暗闇で、一寸先すら見えない。思考も靄掛かったようにして、はっきりとしない。もがくように腕を動かすと、柔らかな感触が腕に当たり、(いた)くこそばゆく感じた。

 

 それは少しだけ、温かみを持っており、それに包まれてジッとしていると、次第に頭から熱が引いていった。

 

 

(……これは、布団?)

 

 

 鈴子は知らない単語を呟くかのように、その言葉を心の中で口にした。数秒感触を味わったのち、この物体は掛け布団であろう、と結論づけた。

 

 掛け布団の内側を摑む。

 

 シュウと布が擦れる音が鳴り、掛け布団の皺が伸ばされる。手には、伸ばされて余分になった布が集められた。

 

 

──如何(どう)して、私は掛け布団を被っているのだろうか。

 

 

 突如として湧いた疑問に、頭を捻らせた。布団の中で眠った記憶などないのに、如何してだ。

 不安を覚えれば早いもので、意識が急速に覚醒していった。

 

 明らかにおかしな状況だ。鈴子は動搖から身体を大きく搖らした。少女は必死に頭を巡らせて、今の状況把握に努めようとする。

 

 

 いつの間に自分は眠ってしまったのだろうか。心の中でそう呟いて記憶を辿れど、眠りに着いた覚えは一切ない。

 

 

 鈴子は寝惚けた頭に負荷を掛けて、今日の出来事を思い返す。

 

 

 保健室に連れて来られた覚えがある。相手は他クラスの男子生徒だ。どうして保健室に行ったのだったか。

 確か、保健室に着くと保険医はおらず、書き置きだけが残されていた。

 

 

(そうして、保健室でその男子生徒と相対することになった)

 

 

 都合良く記憶を書き換えた、そう考えた方が自然、それほど荒唐無稽な記憶に感じた。随分と居心地の良い記憶だ。

 

 そんな中、彼が保健室を後にしようとしたので、(いたづら)に時間を引き延ばして、少年を引き留めようとした。そこで、意地汚い自身の考えに嫌悪感を示し、それを正当化しようとして、その後──

 

 

 

 

──ああ、そう言うことか。

 

 

 鈴子は心の中で呟く。即座にして状況を悟ってみせた。気分はまったく晴れなかった。

 つまる所、感情の整理が着かず頭を熱くさせ、また迷惑を掛けたという訳だ。

 

 

 (おおよ)そ、オーバーヒートでも起こして気絶した、という所だろうか。

 転びそうになった所を抱き留められ、そのことで脳のキャパシティを超え、その場に倒れ込んだ。

 詳細は不明瞭であるが、恐らくこのようなものだろう。

 

 

 (うな)されるようにして、鈴子の身体は震える。

 喉にある、喉頭蓋が上へと上がる感覚だ。何かに(つか)えて、上手く空気が吸えず少しのあいだ悶える。

 

 

──少し吐きそうだ。

 

 

 喉が少し酸っぱく感じて、呼吸をするのが苦しい。息を吸うと、酸により敏感になった喉に空気が触れて、イガイガする。

 思い返すと昼食後すぐに寝転んだことになっている。逆流性食道炎というものだ。食べた物が胃から込み上げてくるようで気持が悪い。

 

 

 鈴子は大きく咳込んだ。

 

 

 

「……何か飲み物でも買って来ようか?」

「え」

 

 

 耳元から声が聞こえて反射的に目を開く。螢光燈の光が目に入り込み、とても眩しい。

 目を細めようとするも、鈴子の目に人影が映りその行動は中断される。明順応はまだ完了されておらず、ぼやけた視界が認識される。

 

 

 しかし、その人影の主が誰であるかは声色から推測できた。

 

 

「……乾井くん?」

 

 

 鈴子が出した言葉は人の名前。“くん”と付けていることから男子生徒の名前と分かる。勿体ぶらずに書くと、自身が迷惑を掛けてしまった少年の名だ。

 

 目が光に慣れてくる。その人影の主は、鈴子が少年で間違いなさそうだ。鈴子の瞳に少年の姿が映る。

 

 鈴子はギョッとして保健室の壁に掛けられた時計を見る。短針は3の数字を、長針は1と2のあいだを示している。授業で言うと、六限の最中であった。

 

 

「……な、ちこっ、いや……なんでまだ」

 

 

 頭の中で思考した言葉が、フィルターを介さずに口から溢れ出る。──如何して未だこの場に居るのか。多大な迷惑を掛けたし、授業だって遅刻しているのに。

 

 凡そ、そのような旨の思いが、鈴子の心に積み重なる。放って置けば良いものを。少女は辺りを見回し少年の他に誰も教室に居ないことを視認する。

 律儀に、教師を呼ぶなという鈴子の言を守っているのだろうか。そのことが更に少女を混乱させた。

 

 

如何(どう)……して。ここ、に?」

 

 

 やっと思いで言葉を発する。それは、鈴子が一番疑問に思っていることだ。教師に任せて授業に行けば良いし、そうでなくても寝かせるだけで十分だ。少女は少年に真意を問う。

 

 

「……もう少し此処に居て欲しいって言われたし、それと、その心配だったから」

 

 

 そんな鈴子の考えとは裏腹に、彼はさも当然のようにそう言った。

 又だ。また、都合の良い言葉が聞こえる。自分にそんな言葉を吐いたって、良いことなどないはずなのに、こうして少年の口から聞こえの良い言葉が発されるのだ。

 

 

「……ぅう」

 

 

 表情筋がおかしな表情を浮かべようとする。それを誤魔化そうと鈴子は布団をめくってベッドから起き上がろうとする。

 

 

「……体調は大丈夫。えと、起き上がれる?」

 

 

 少年は鈴子にそう呼び掛け、手を差し伸べる。鈴子は、その彼の所動に疑問符を浮かべた。

 

 手を差し伸べる。その動作は一体何を意味するのだろうか。無意識的に少女は手を、彼の前へと伸ばした。

 

 

「あ、れ??」

 

 

 手に、しっかりとした硬い感触が伝わってくる。普段から体温が低い鈴子には、少しだけ温かく感じた。

 鈴子の上体が起こされる。ベッドの上で足をぶらりとさせ、腰を掛けた状態だ。

 

 

「え、わた。……て、手。手を握、にぎって─」

 

 

 鈴子は何か口早に言葉を発して、摑んでいた手を離した。頰に熱が籠もる感覚がした。

 

 

 少女は大きく、目叩(まばた)きをする。そして、ぼんやりと引き戻した手を見つめた。手を離した直後のため、握りこぶしを少しだけ開いた形のままだ。

 

 鈴子は顏の暑さを誤魔化すようにして立ち上がると、少年の姿を視界から外した。静かな保健室に、時計の秒針の音がやけに響いた。

 

 

◇◇

 

 

 保険医が戻って来たのは、六限目の終わり頃だった。

 戻って来た保険医に如何して此処に居るのか問われたものの、鈴子は適当な事情を捏ち上げて保健室から出た。六限目のチャイムが鳴ったのも、丁度その辺りだった。

 

 この高校では、水曜日は授業が五限までで終り、六限目はロングホームルームと言う時間が充てられていた。総合学習の時間。

 帰りの会を備えている授業で、チャイムと同時に学校が終了するものであった。その為、続々と昇降口に人が向かっていくのが良く分かる。

 

 

 

──授業をサボタージュした。

 

 

 正直、そのこと事態は余り気にしていない。六限のLHRは元より、五限の授業は副教科であったので特段授業の遅れの心配はないからだ。

 

 では、鈴子は一体何を気にしているのかと問うと、少年を巻き込んでしまったことだ。自分本位な言動に巻き込み、サボタージュをさせてしまった。改めて思い返した彼女は、目に見えるほど狼狽する。

 

 

「……ごめんなさい」

 

「うん?」

 

 

 少年は、彼女の突然の声に何故謝られたのか理解出来ずにいた。戸惑いの感情がそこに見える。

 

 

「……授業、を。サボることに、なって」

 

 

 彼女はポツリと呟く。消え入りそうな、小さな声だ。彼は暫く呆けていたが、その言葉に合点がいったのか、目線を鈴子に向け直す。

 

 

「行こうと思えば行けた訳だし、サボったのは僕の意思だよ」

 

 

 少年はそう言った。その言葉に、鈴子は言い知れぬ歯痒さを覚えた。彼女が、かように悶々としている内に、彼は廊下を見据えて言葉を出した。

 

 

「確か、隣のクラスだったよね。鞄取りに行こうよ」

 

 

 取り繕っていないような、自然な表情だ。どうして、ここまで親切に振る舞うのか、鈴子には甚だ疑問であった。どんなに必死に理由を考えても、答えが見つからない。

 

 

「……わたしと居たら、変な目で見られるよ」

 

 

 鈴子はそう呟く。先ず間違いなく、周りから避けられることになるだろう。どの程度かは分からないが、少なくとも周囲からは浮いて見えると思われる。

 

 

 注意をするような鈴子のその声は、辺りの喧騷に紛れて消えた。

 




今回のサブタイ、表題役と書いてタイトルロールと読みます。中二病ですね。
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