醜い私に。   作:ミ゙ヅヅヅ

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話の修正・統合をしました。話の大筋に違いはないので、確認しなくても冇問題(もうまんたい)です。やっぱり、プロットって大事ですね……。

*今回の話は旧7話を修正ものです。修正箇所多かったので、再投稿しました。



路傍に落ちたる石転

 鈴子はスーパーや服屋、食事処などが建ち並ぶ坂道を上り、入り組んだ住宅地を通り抜ける。片道十五分ほど歩いた所で、鈴子の通う高校が見えて来た。

 鉄筋コンクリートの四階建ての校舎。偏差値は高いが、それでも県の公立高校の中では四番目ぐらい。私立を含めば、もう少し順位は落ちる。特徴というものが殆どないような、極めて無個性な高校だ。

 

 

 鈴子は階段を上り、二年二組に教室の前まで到着する。廊下に設置されている時計を見ると、針は八時半近くを指していた。朝のホームルームが始まるのが八時四十分なので、結構な人数が教室に集まっている時間であろう。

 

 

 鈴子は、大きな音を立てないよう静かに扉に手を掛けた。ドアは全開にはせず、目立たない程度だけ開ける。カラカラと、小さな音だけが教室中に響いた。

 鈴子は、教室の方を見ないようにして入り、すぐに背を向けドアをゆっくりと閉める。教室は喧騷に包まれていた。しかし、鈴子が教室に入ったその瞬間だけは、教室の空気は完全に止まった。

 

 鈴子を一瞥し、何時より来るのが早いな……と不快の感情が発露されているようだ。声としては聞こえて来ないが、その感情は犇々と伝わってきた。

 

 

 

(いつもより、空気が重苦しい)

 

 

 鈴子はそう思った。

 一瞬だけ止まった会話は既に再開されたが、彼女が教室に入る前に比べると、何だかぎこちなくなっている。窓側の一番前の席へと身体を向ける。そこは鈴子の席であった。

 新学期が始まって間もない五月の今、席替えは行われて居らず名前順の儘だ。

 

 彼女は周りを見ないようにして、席へと向かった。件の席近くに居た人たちは、徐に携帯を弄ったり、教科書をロッカーに取りに行ったりしだす。鈴子には、この行動が此方に関わりたくないという、意思の現れに感じて已まなかった。

 

 

 少しだけ自惚れていた。鈴子はそう感じた。何時ものことなのに、感傷が普段よりも大きい。

 

 

(脆くなったのかな……)

 

 

 教室の空気に耐えられない。鈴子はそっと目を落とす。

 その場に居ることが不相応のような、場違いのような感覚を覚える。実際はどうなのか知る由もないが、少なくとも鈴子にはそう思えた。

 鈴子は自席に着いてすぐ、机の横に鞄を置いて教室を出る。彼女はトイレまで向かった。

 

 

 

(どうして、この時間に来たんだっけ)

 

 

 

 鈴子は心の中で呟く。理由など分かり切っている。約束していない登校時間に、未練がましく合わせようとしたのだ。分かっているのに、それでも、こんなことを考えてしまう。

 

 彼が自分を嫌っていないのは、確かだと鈴子は考える。こんな自分に対し親切にしてくれる時点で、他の人より嫌悪の感情は少ないのだろう。もしかしたら、好意的に思われているかも知れない。

 

 とても優しい人だ。勘違いしてしまいそうなぐらいに。

 

 

 鈴子はスマホのロックを解除する。画面に表示された時間から考えると、朝のHRまで余裕がある。彼女は思考を深めた。

 

 

 

(わたしから、動かないと駄目だよ……ね)

 

 

 悩ましげにそう考える。しかしどのように動けば良いのか、鈴子にはテンで分からなかった。

 彼の教室に行こうにも、迷惑を掛けてしまう。偶然に頼るのは不確定すぎる。昼休みの下駄箱近くで出会ったのだから、外で食べている可能性があるが、それが分かった所で何だというのか。

 

 真逆(まさか)、昼休みに彼の食べている所を探し当て、烏滸がましく居座ろうというのか。鈴子はそこまで考えて身震いした。

 

 

(そんな真似出来る筈がない)

 

 

 そんなこと、付き纏いと何ら変わりがない。

 鈴子は暗い気持に沈む。周りに、人が居ないときに話し掛けるのがベストであるが、そんな場面など限られている。

 可能性があるとすれば下校時だが、帰りのホームルームが長い鈴子のクラスでは、先に帰られてしまうだろう。

 

 登校時でも、何時もより二本早い電車に乗れば一人で居るであろうが、鈴子にその電車に乗る勇気はない。八方塞がりだ。

 

 

(そもそも、話し掛けても良いのかな)

 

 

 そんな疑問まで湧いてくる始末である。答えのない思考は、底なし沼のように抜け出せない。泥濘に足を取られたようだ。

 

 

 

 結局、何も結論が出ない儘時間が過ぎ去ることとなった。

 

 

 

 

◇◇

 

 

 チャイムの音が鳴り渡る。

 朝のHRの始まりを告ぐる鐘の音だ。鈴子は、チャイムが鳴るギリギリの時間に教室に戻ってきた。席に着いてすぐ……と言った辺りでチャイムが鳴り響いたのだ。教師が教室に入ってきたのは、そのすぐ後であった。

 

 

「クラス委員、号令」

 

 

 起立、と大きな声が聞こえる。その声に倣い立ち上がって挨拶をする。席に着くと、暫く教師の諸連絡が続いた。

 この学校では、担任教諭の話が終り次第休み時間に入る方式になっていた。しかし、何処かで述べた通り、鈴子のクラスでは担任の話が長く休み時間は際限まで短かった。

 

 普段は、どう過ごせば良いか分からない休み時間が少ないことに感謝していたが、今回ばかりはそれを恨んだ。

 

 

 

(せめて、帰りのHRはどうにかならないのか)

 

 

 少しだけ不機嫌な顔で、鈴子はそう思った。他クラスとの時間差は、凡そ四分半。長いときだと、八分ほどの差がある。

 連絡事項も的確であるし、人望もある。しかし、こういう面だけは嫌われている教師であった。

 

 

(早く、終らないかな)

 

 

 昨日のことがまるで噓であったかのような、代り映えのない教室。何も変わらないHRであった。

 そして、それはその後の授業でも言えることであった。

 

 

 一限目の古典から四限目の英語まで、何時も通りの授業であった。古典の授業は助動詞の意味、活用形を埋めるだけの単調なものであったし、英語の授業は簡単なテストと文法の説明をされた。

 

 少し嫌だったのは二限目の化学の授業だ。化学室で投影機を用いたスライドショー形式のもので、席は自由席であった。

 何処に座れば良いのか……と鈴子は少しだけ困ってしまった。結局は、トイレで時間を潰して、余った席に座ったのだが。

 

 本当に普段と何も変わりがなかった。

 

 

 

 

(そう言えば、もうチャイム鳴ったっけ)

 

 

 鈴子は朧げにそう思った。四時限目の授業が終り、二分ほど経っている。彼女は机の上に広げられている英語の教科書を仕舞う。そして、代わりに弁当箱と水筒を取り出した。

 

 

(昼食でも摂ろう)

 

 

 鈴子はそう思い自席から立ち上がった。そっと、弁当箱と水筒を持って教室の扉を抜ける。彼女が向かうのは体育館裏だ。それは、鈴子が平時より、食事を摂っている場所であった。

 

 彼女は、無意識に辺りを見渡すようにして歩く。

 何かを探すような素振りであった。その仕草の儘、彼女は階段を一つ降りると下駄箱まで向かい、校舎を出る。

 

 陽が強く射し込んで来て、視界が一瞬白く染まる。日光が強く感じ、鈴子は咄嗟に手を翳した。歩みを止めていた足をもう一度動かそうとした。

 

 そう思った所で突如として、後ろから声が掛かった。

 

 

「今からお昼なの?」

 

 

 陽の眩しさに細めていた目が、不意に見開かれた。急に足を止めた為、身体に振動が伝わる。後ろへと振り返る。

 

 

 

「えと、昨日ぶりだね。雨笠さん」

 

 

 そこには、かの少年が立っているのが見えた。少しだけ怪しな挙動をしているが、そこに居るのが確認出来た。

 自然と目が潤っていく。脈搏が早くなるのが感じられた。鈴子は目を数度(しばたた)かせて、涙を流れないようにする。

 

 

 

「き、昨日ぶり……」

 

 

 鈴子は、顔を少し下げて応える。妙に気恥ずかしくて、面を上げれない。そうして下の方を見ていると、彼の手にビニール袋が持たれているのに気がついた。

 それを凝視していると、彼がその視線に気づいたのか言葉を発した。

 

 

「今からお昼食べに行くところなんだ」

 

 

 それは、ある程度予想していたことだ。何故昨日、下駄箱近くに彼が居たのかを考えると答えは絞られてくる。あの時、彼が手ぶらだった理由は分からなかったが、すぐにゴミ箱に捨てられるコンビニ食品であるならば納得だ。

 

 鈴子は深呼吸をする。

 

 

「あ、あの……普段は何処で食べて、いるの?」

 

 

 鈴子は、勇気を振り絞って尋ねた。この好機を逃さない、と意気込んでのことだ。

 

 

「あー、分かるかな。グラウンド方面の長椅子の所なんだけど」

 

「……彼処にベンチ、あり……ましたか?」

 

「テニスコートが併設されている所の近くで、ええと」

 

 

 彼は暫く言葉を考える素振りを見せる。グラウンドの近く。鈴子は考えるも、グラウンドが広過ぎて位置が特定出来ない。

 庭球面の近くとなると、ある程度場所は限られてくるが、それでも彼女にはその長椅子の場所が思い浮かばなかった。下手をすれば、何時も鈴子が食べている場所より遠い場所かも知れない。

 

 うんうんと悩んでいると、少年は何かを思い付いたように黙り込んだ。どうしたのかと思い、彼女は彼を見つめる。

 

 

「場所教えるから着いて来て」

 

「え」

 

 

 彼は鈴子に向かって手招きをする。言葉は鈴子の耳に届き、脳まで伝達される。しかし、彼女にはただの文字の羅列のようにしか認識出来なかった。

 

 

「ほら、此方だよ」

 

 

 鈴子は呆然とした儘であった。

 




宇宙作戦隊の徽章、発表されましたよね。あれ、絶妙にダサい感じで好きです。宇宙作戦隊っていう、冗談みたいな名前もセンス感じます。
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