醜い私に。   作:ミ゙ヅヅヅ

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感動する系の恋愛短篇読んで、メンタルがぐわぁってなったので哲学を摂取します。その関係上、過去の回想シーンから入ります。



正義の味方の心咎

 

 ピシャリと、何かが開く音が鳴る。レールに駒を転がすような音。脳がその音を認識した直後には、酷く眩しい光を感じた。白っぽいような強烈な光だ。

 咄嗟にそれを遮ろうと、手を目の方へと持っていこうとする。しかし、その行動は叶わなかった。

 手首を何者かに摑まれる感触がする。とても冷たい感触だ。体温という体温が全て奪われるような、そんな感覚。彼女は朧げながら目を見開いた。

 

 

「やっほう、鈴。今日は起きるのが遅かったね」

 

 

 少しだけ低い声が、部屋を包むようにして響く。とても、ゆったりとした声だ。

 

 

「……おはよう、姉さん。まだ八時なんだけど」

 

 

 恨みがましい声が、鈴子の口から漏れる。

 とても眠たい。こんな朝っぱらから、騷音を聞きたくはなかったと、鈴子は件の人物を睨む。顔を少し膨らませて、拗ねたように振る舞った。

 鈴子の視界には、悪戯(いたづら)な笑みを浮かべた、背の高い少女が映っている。その背の高さは、小学生(・・・)である鈴子からすると、それはもう巨人のようであった。

 

 自分も中学生になれば、あれほど大きくなるのだろうか。

 鈴子はそう思考するも、何だか気味が悪くなりやめた。背の高い自分が、上手く想像出来なかったのだ。

 

 

「それで、突然部屋に入ってきてどういう了見なの」

 

 

 と、鈴子は言う。

 部屋に入って来ることは構わない。普段ならば、それを咎めることはないだろう。

 しかし、今日は日曜日だ。憂鬱な学校のない、心地良い日。誰しもが、休息を享受する日。そんな日の睡眠を妨げられたのだ。文句の一つぐらい許して欲しい。

 少女は、鈴子が居る附近を見つめて答える。

 

 

「特に用件はないよ。それとも、妹の部屋に入るのに理由なんて必要?」

 

 

 あっけらかんとした口調で彼女は言う。

 そう言われると、何も言い返せない。鈴子自身、彼女のことを嫌えていないのだ。こうして、腹が立つ程度には彼女のことを信頼している。

 

 

「でも、そうだね。……特に話す内容がないのは困ったことだ」

 

 

 芝居がかった表情で、彼女は呟く。

 何かの教本を読むように、スラスラと。彼女の顔を見ると、何か後ろめたいことがあるのか、少しだけバツが悪そうだ。

 

 彼女は軽く、手を叩く素振りを見せる。

 

 

「勉強でも見てあげようか。最近、よく勉強してるみたいだし」

 

「こっちは、起きたばかりなんだけど」

 

 

 起きてすぐに勉強することは効果的、と電視(テレビ)か何かで見たことがある。しかし、それを試みるには鈴子の意思が足りなかった。

 

 

「朝ご飯もまだ出来てないし……何か話でもする?」

 

「……もう一度寝る、という選択肢はないんだね」

 

「あっても却下するかな」

 

 

 拒否権はないのか、と鈴子は思った。

 横暴だが、それに従うほかない。鈴子個人としても、特段断る理由はないのだし、問題はない。

 

 

「それでどうするの」

 

「うーん、そうだね。じゃあ一つ、お姉ちゃんから話をしよう」

 

 

 明るめの口調でそう言う。彼女は暫く何かを考える仕草をした後、徐に話し始める。

 

 

 

「鈴ちゃんは、テセウスの船って話知ってる?」

 

 

 聞いたことのない話だ。船の前の単語が、人なのか地名なのか、将又(はたまた)概念なのかすら分からない。しかし、彼女の今の表情には、心当たりがある。

 はたと、鈴子は何か思い当たったかのような表情を見せた。

 

 

「ひょっとして、この前わたしが出した思考実験の仕返し?」

 

 

 その言葉に彼女は、からからと笑いだす。

 

 

「正しくは復讐だね。仕返しより、少し重たい」

 

 

 そう言って彼女は、視線を窓の方へと向ける。

 復讐とは、とても面倒くさいことになった。意固地になった彼女を止めることは、容易ではない。鈴子はため息を吐く。

 

 こんなことならば、歴史に葬り去られた悪魔を投げ掛けなければ良かった、と鈴子は歎いた。しかし、それももう遅いらしく彼女は口を開く。

 

 

「その昔、テセウスという名前の外国の異人さんが居たんだよ」

 

 

 流暢に彼女は語り出す。その言葉で鈴子は漸く、その単語が人の名前であったと気づいた。少女は続ける。

 

 

「その人は、英雄譚が出来るほど偉大な人だったんだ。それで、生前彼の使っていた船を残そうという話になった」

 

 

 話は分かる。偉人を讚える為に、物品を保存する。それは、とてもありふれたことだ。つい先日も、幕末の名士を紹介する展覧会が行われたのは記憶に新しい。

 

 

「それでね、船を残したんだけど。あるとき、その一部が壊れちゃうの」

 

「それは大変だね」

 

「そう、たいへん」

 

 

 とても、大変そうには見えなかった。

 

 

「だから、壊れた部品を修理したの。一箇所だけ新しくなった船。これはテセウスの船と呼べる?」

 

「当然、呼べるよ」

 

 

 迷いなく答える。それは当然の如く、彼の船だ。

 

 

「じゃあ、年月が経ちそれに伴い部品が朽ちた。そして、同時に修理を施していくの。そして、とうとう最後の部品が取り替えられた」

 

 

 鈴子は無言で、彼女の話を聞く。少女は、視点の定まらない目で鈴子を見てから口を開く。

 

 

「この船は何だと思う?」

 

 

 鈴子は答えられなかった。

 全部変わってしまえば、それは別の船だろう。理性がそう言う。しかし、それを認めてしまうと、一部でも改修した時点でそれは件の船ではなくなってしまう。

 その船を、鈴子はテセウスの船と呼べてしまう。

 

 

「それじゃあ、ある歴史学者が元の部品を全て保管していたとする。その部品で船を造るとすれば、それは何かな」

 

「……テセウスの船」

 

「増殖した」

 

 

 壁時計を見ながら、笑顔で話す。楽しそうで何よりだ。鈴子はそう思う。突き詰めると、彼女は益体もない話が好きなのだ。ひどく抽象的な話の中に、話したい内容を詰め込む。聞いてる側からすると、迷惑なものだ。

 

 

「結局、お姉ちゃんはなにが言いたいの」

 

「……自我の不安定さ?」

 

「話が突然飛ぶね」

 

 

 人間の身体は日々、細胞が入れ替わっているという話だろうか。彼の船の話と少し似通っている。

 

 

「それで、その自我を保つ為には、どうすればいいの?」

 

 

 彼女は又もや、考え込んだ。人差し指を顎につけて、典型的な考え込む人のポーズを取る。そして、少しして言葉が見つかったのか口を開く。

 

 

「答えは愛だよ」

 

「もしかして、巫山戯てる?」

 

「本気だよ。ちょっと、気恥かしいくらいには」

 

 

 髪を弄くり、彼女は照れ臭そうにした。しかし、本気で照れているようには見えない。

 

 

「何か、信じられるものを用意する」

 

「信じられるもの?」

 

「何でもいい。ゲームにアニメ、好きな人なんかでも。自分の身を委ねられるものを用意するんだよ」

 

 

 身を委ねられるもの。よく分からない概念だ。

 

 

「一番分かり易いのだと、宗教かな。信仰心は何物にも変えられない」

 

 

 確かに、彼女は少し宗教的だ。恐らく、宗教のことも詳しいのだろう。偶にそういう本を読んでいるのを見たことがある。しかし、その反面とても現実的である。

 

 

「本当に何でも良いよ。何か、自分が信じられるものを見つけるんだよ」

 

 

 遠い昔の会話。今から凡そ七年ほど前の会話。高校二年生になった今でも、鈴子は、信じられるものを見つけられていなかった。

 

 

 

◇◇

 

 

──しっかりと話せている。

 

 

 それが鈴子が最初に思ったことだった。

 食事をしている最中なので、マスクは当然外している。それなのに、自然と会話が出来ているのだ。

 昨日の時点で分かっていた。しかし、それでも幸福な気持が収まらなかった。

 

 鈴子は少年の居る方向を覗き見る。チラリと一瞥するように、そっと盗み見た。すると、目が一瞬だけ合ったので鈴子はすぐさま視線を元に戻した。何度試してみても、同じ結果になるのだ。それは、彼が此方を何度も見ていることを表す。

 鈴子には、それが堪らなく不思議に思えた。

 

 

──拒絶を感じさせない、視線。

 

 

 鈴子は彼の目から、嫌悪感が発せられるのを感じ取れなかった。

 どんなに取り繕っていても、鈴子を見ることはない。まるで、花畑の(かはひらこ)を見るように嫌悪する。

 

 だから、こんなことは初めてだ。もどかしい感情が抑え切れず、自身の両手を触れ合わせた。右手の人差指で、左手の甲をなぞる。触れた部分が少しだけ、こそばゆく感じる。しかし、この名前の分からない感情は消えてなくならない。

 

 ドキリと、温かい気持になる。

 

 

──又だ。この感覚は。

 

 

 衝動に身を任せたくなる、この気持。それは、不安と執着、そして少しの愛慾を混ぜたような、ゆかしいようなものだった。

 

 自分を認識している。そう思うだけで、身体が搖れてしまう。自分の存在を肯定してくれているような感じがして、とても心地が良い。

 

 そして、同時に見ないで欲しいとも思った。

 自分の醜い部分を晒したくないのだ。気になっている相手に、自分の嫌っている部位を見られているというのが、堪らなく悔しい。

 異なる感情がぶつかり合いで、訳が分からなくなる。鈴子は少しだけ、身を縮めた。

 

 

「……どうしたの」

 

「な、何でもない……です」

 

 

 少年の言葉に対し、必死に誤魔化しの言葉を入れる。

 妙に蒸し暑い。喉も(いたづら)に渇ので、何度か水筒を手に取っては口に含む。しかし、幾ら飲もうと渇きは癒えない。

 

 

「……」

 

 

 平静を裝えど、頰の紅潮が収まらない。顔が紅く染まっていく。鈴子は俯いて、口もモゴモゴと動かした。

 しかし、それもどうにも不自然に思えて、鈴子はカムフラージュにと、おかずもなしにご飯を一口頰張る。当然、味は余りしない。

 

 

「ねえ、雨笠さん。ちょっといい?」

 

 

 隣から声が聞こえた。少年の声だ。

 鈴子は何度も嚙んで、気持悪くなってきた米を嚥下すると少年の方へと振り向いた。

 

 

「……へ?」

 

 

 思ったよりも、彼の顔が近くにあり驚いた声が出る。実際を言うとそこまで近くはない。身を乗り出したぐらいの近さ。しかし、それでも彼女には十分な近さだった。

 

 

「雨笠さんって、普段スマホは使ってる?」

 

「……ゲームぐらいに、しか」

 

 

 何を聞きたいのだろうか。ゲームの話ならば、先程言ったばかりだ。鈴子は、基本スマホはゲームしかしていない。検索エンジンも不慣れであるし、動画サイトなどとゲーム攻略のものぐらいしか見ない。

 音楽を聞くのは音楽プレイヤーを用いているので、本当にゲーム専用だ。

 だから、携帯電話の本質を忘れていた。

 

 

「チャットアプリとかやってる」

 

「……やって、ないです」

 

 

 彼の言葉に、鈴子は正直に言葉を返した。

 




連絡先交換しないの?って感想で聞かれたので、書いた。正直、連絡先とか考えてなかったです。

乾井くんも、チャットアプリ入れてなかったので、水曜家に帰ってすぐ入れたんだと思います。

多分、こんな感じ。


け お せ



                               既読 
文章、送れてる?




送れてるけど、なにこれ?




既読 
……チャットの送り方の実験?




疑問符なのが、果てしなく怖いん
だけど




いや、ホント何で俺のスマホにい
きなり、メッセージアプリ入れた
の??






既読 
気にしなくても大丈夫だよ




そんな、どうでもいいことみたい
に……。俺のスマホの容量そこま
でないんだけど






既読 
メッセージアプリ入れただけで、
容量やばくなるって結構問題じゃ
ない?            






え、そうなの。……今度、携帯シ
ョップ行った方が良い?






れ ろ
│                  


特殊タグの練習。機能してます?


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