転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった 作:マゲルヌ
「くそッ、放せッ!」
その後の流れは、容易に想像できる通りだった。子どもの力では偽王妃の手から逃れることはできず、王は昏睡から目覚めたばかりで意識を保つので精一杯……。
パパスたちは下手に抵抗することもできぬまま、ゲマが傷を癒し、部下を復活させていく様をただ見ているしかなかった。
「へへへ、どうしたよ、ガキ? さっきまでの勢いはよおッ!」
「ぐっ!?」
ルミナは復活したジャミによって捕らえられ、そしていよいよ抵抗手段のなくなったパパスは、ゴンズの攻撃をひたすら受け続けることになったのだ。
「お前も抵抗するならしてもいいぜぇ? ガキどもがどうなってもいいんならなあ!」
「がはッ!」
獣の強力な蹴りでパパスの身体がくの字に折れ、差し出された頭を棍棒の一撃が殴打する。全ての抵抗を禁じられているため、パパスは防御することすらできていない。これではいかに屈強な父とはいえ、やられるのは時間の問題だった。
「父さん! ちくしょう、やめろッ!!」
「ぬッ!? こいつッ、大人しくしろ!」
「この、ウマ野郎がッ、てめえなんぞ――」
「おや、いいんですか? 大切な弟が死んでしまいますよ?」
「ぐッ!」
ジャミを跳ね除けようと暴れるルミナを嗤いながら、ゲマが隣へ向けて顎をしゃくる。
――ひひひ、やめておけ、小娘。この小僧どもくらい、わらわでも一瞬で殺せるぞ?
――~~ッ、お姉ちゃん! お父さんッ!
――くっそ! 偽物だったのかよ、お前!
「……ッ!」
偽王妃に抱えられたリュカとヘンリーを見せ付けられ、ルミナは砕けんばかりに奥歯を噛み締めた。
――『常人ならばあれで起き上がれるはずがない』
そう思って王妃を放置してしまった彼女の失策だった。魔物の一団と通じていたのなら、本人そのものが入れ替わっている可能性くらい想定しておくべきだったのに……。
こんな間抜けなミスで全員の命を危険に晒すなど、ルミナは数分前の自分を殴り飛ばしたくて堪らなかった。
「~~~~くそがッ!」
「ホホホ! まあ、そう自分を責めずとも良いでしょう。お父上がまだ殺されていないのも、あなたのおかげなんですからね」
「はぁッ? 何言ってやがる! 馬鹿にしてんのか!」
ただでさえムカっ腹が立っているところへ煽るような物言いを聞かされ、ルミナは身を捻ってゲマを睨み付けた。
しかし当人はどこ吹く風、微笑みながら問いを返す。
「いえいえ、別に馬鹿にしているわけではありませんよ? こうしてお父上を生かしているのも、あなたにいろいろと聞きたいことがあるからでして……。
――――ねえ、
「はぁッ? てん……? なんだ、そりゃ?」
「ホホホッ、その姿で惚ける方が無理があるでしょうッ。背中の翼が何よりの証ではありませんか!」
「翼がどうした! こんなモン、生えてる奴は普通に生えてるだろ! 何を訳のわからないことをッ!」
「…………ンン?」
………………。
どうにも会話が噛み合っていなかった。ゲマはしばらく顎に手を当てて考え込んでいたが、やがて『当人に聞くのが早い』と思ったのだろう。うつ伏せで倒れるルミナを見下ろしながら傲然と問いかけた。
「フム……娘よ、あなたの生い立ちについて、全て話しなさい。あなたが何者なのか? どこで生まれ、これまで何をしてきたのか? 全て包み隠さずに」
「はあッ? 今度は一体何の煽り――ガッ!!?」
「ルミナッ!?」
反抗しようとしたルミナの頬をゲマが蹴り飛ばし、口の端から血が弾け飛ぶ。
子どもだから……、少女だから……、そんな躊躇などまるでない。口調は丁寧なままでも、そこには生粋の魔族の冷酷さが滲み出ていた。
「質問しているのはこちらですよ? あなたはただ、聞かれたことにのみ正直に答えれば良い」
「ケホッ、エホッ……! く……そ……ッ」
「やめろ、貴様! 相手はまだ子どもなのだぞ!?」
「ふぅ。まったく、親子揃ってうるさいですね。――ゴンズ、少し強めに黙らせない」
「はッ! そらッ、大人しくしてな!」
「ガハッ!?」
憤る父の身体を無慈悲な暴力が襲う。先ほどまでのような打撃のみでなく、今度は斧による斬撃までが振るわれていた。パパスの強靭な肉体に刃が叩き込まれ、空中に多量の血が飛び散っていく。
「父さんッ! やめろッ!」
「ホホ。あなたが答えなければ、このままお父上の身体が壊れていくだけですよ? まあ、こちらとしては別に構いませんがね。まだ弟さんもいらっしゃることですし」
「ッ!?」
何でもないことのように告げられた事実が、逆にこれ以上なくルミナを冷静にさせた。
――この魔族はやる。たとえ子どもであろうと躊躇なく、家族の目の前で拷問にかけてみせる。
「さあ……、どうします?」
ならば時間稼ぎという意味でも、今は従うほかなかった。
「くそがッ……。話せばいいんだろうが……!」
「ホホホ、ご協力に感謝します」
こうしてルミナは、思い出したくない過去を――――家族にもほとんど話したことのない、今世での生い立ちを述べることになったのだ。
……自分の生まれと、力と、そして、神の僕を自称する狂信者たちのことを。
よみがえる苦い記憶に、強く拳を握りしめながら……。
――――
……。
…………。
………………。
「――――それで……、今に至るってわけだ。…………満足したかよ?」
短くない説明が終わり、リュカは苦々しげに吐き捨てた。あれから二年以上が過ぎてはいるが、やはりまだ心の整理はついていなかった。さすがに前世やあの子たちの最期など、一番話したくないことについては語らなかったものの、それで心の痛みが軽減されるわけでもない。
「……ルミナ」
「お姉……ちゃん」
「…………」
こんな形で家族に話すことになるとは思っていなかった。初めて聞かされたパパスやリュカが悲痛な表情を浮かべているのに対し、どういう顔をして良いのかも分からなかった。
ゆえに、誤魔化すようにゲマの顔を睨んでいたのだが……。
「――フハッ」
「は……?」
「クハハハ……、ハハハハハッ……、アッハッハッハッハッハ!!」
「お、おい……?」
予想外の反応に戸惑う。てっきりまた煽るような物言いをされると思いきや、返ってきたのは楽しげな笑みだった。エセ紳士染みた口調もかなぐり捨て、ゲマは再び腹を抱えて大声で笑っている。
その姿に部下までが戸惑い、私刑が中断しているのは喜ばしいことだったが、不気味な行動にルミナの焦燥感は止まらない。
……そして彼女の第六感はまたしても的中することになったのだ。
「ホホッ……いや、申し訳ない。意外過ぎる事実に少々驚いていまして。これも巡り合わせと言うんでしょうかねえ?」
「な、なんだよ。お前……何を言っている……?」
「いえいえ、大したことではありませんよ。……ただ、投資した分が回収できそうなことに、喜びが抑えられなくなっただけです、ホホホホ」
「……は?」
――投資? ――回収? ――巡り合わせ?
こいつは一体、何を言って……、
……。
…………。
………………。
「ッ!」
……いや、待て。ヤツはさっき、部下に対して何と言っていた?
確か――“教団”と“教祖”のために励めと……、そう言っていなかったか?
「……教団…………教祖………………、神?」
加えて、二年前に狂信者どもから聞かされた、忌々しいあの言葉。
忘れたくても忘れられない、おそらく一生ルミナの記憶から消えないであろう呪いの言葉。
――『我らは尊き方々の導きにより、素晴らしい知識を授かったのだ!』
――『いと高き御方も、必ずや我らの働きを称賛し、迎え入れてくださるだろう!』
妄想の類だとばかり思っていた。頭のおかしいマッドサイエンティスト崩れが、脳内設定を垂れ流しにしているだけだ――と。
しかしゲマのこの反応を見れば……。意外そうではありながらも、事実そのものには大して驚いていない様子を見れば、自ずとその結論も変わってくる。
「……お前…………か?」
「ンン? 何ですか?」
空惚ける悪魔に対し、ルミナは今日一番の怒声を張り上げる。
「――お前が奴らにッ!! あんな知識を与えたのかッ!!」
「ホホホホッ! 思いもよらぬ偶然でしたねえ!」
憎悪の声を上げるルミナに、ゲマは大きく手を打って応えた。
「――とはいえ、あまり私を恨まないでくださいね? 彼らは元々、独自でああいった実験を繰り返していたのですよ。どこぞの遺跡から発見した“神の御業だ”などと言っていましたか。私はその技術が魔族の役に立つかと思い、ほんの少し手助けしただけでして、クククッ」
「野、郎……ッ!」
「モシャスで人に化けて我々の力を見せ付ければ、懐柔など容易いことでした。一目見ただけで彼ら、『ついに神が使者を遣わしてくださった!』と感動に咽び泣きましてね。教団のことも併せて説明すれば『喜んで配下になる』と自ら申し出てくれましたよ。代わりにこちらは、人間が苦手とする魔法技術や、魔物の制御方法などを教えて差し上げたのです。……まあそこまで本気で期待はしていませんでしたし、事実、彼らとは数年前に音信不通になってしまったので、結局は失敗したと思っていたのですが……。ククッ、まさか最後にこんな興味深いものを生み出していたとは! 一体彼ら、どんな配合をしたんですかねえッ?」
ゲマは軽い調子で説明を続けているが、ルミナの頭には大して入って来ない。直接的ではないにしろ、この魔族が奴らの碌でもない研究に関わっていたことに変わりはない。
いや、詰まっていたところを解決してやったという言葉が正しいなら、最も重要な後押しをしたと言ってもいいだろう。
「我々魔族にとって不倶戴天の敵――天空人。ここ数百年は存在すら確認できず、我々も見えない敵相手にどう対処したものか頭を悩ませていたのですが……。フフッ、まさかこんな予期せぬ形でサンプルが手に入るとは! これも惜しまず協力してあげたおかげでしょうか? 訓練用の魔物を与えてあげたり、
「……おい、待て」
「――はい?」
聞き捨てならない言葉に口をはさむ。
まさかとは思いつつも、もうほとんど確信している事実を確認する。
「お前、今……何て言った?」
「んん……? 『教団が別口で攫った子どもを提供した』と言ったのですが、それが何か?」
「ッ!?」
――状況が悪かった。
――生まれが悪かった。
――運が悪かった。
苦痛や恐怖を紛らわせるため、せめてもの慰めに自分たちに言い聞かせていた言葉。それが間違いだったとようやく気付いた。
「それもッ…………それも全部、てめえらかッッ!!」
何のことはない。ルミナたちが味わった苦しみのほとんどは、この悪魔の気まぐれで齎された意図的な不幸だった。『神のため』という狂信者なりの信念に基づいたものですらなく、騙されたピエロが踊った結果起きた、出来の悪い
あまりの怒りにルミナは奥歯を嚙み砕いてしまい……、それでもなお、激情は全く静まってくれなかった。
「――さて、聞きたいことも聞けましたし、……もういいでしょう。ゴンズ、その男は殺してしまいなさい」
「はっ、ただちに! ――へへ、死ねえ!!」
「ぐあッ!?」
「ッ!? 何をッ!」
だが状況は少女の心など斟酌してくれない。再び開始された父への私刑にルミナは怒りも忘れて焦りの声を上げる。
「ホホ、当然ではありませんか。素直に話していただくためにここまで生かしておいたのですよ? ならば、聞き終わったら処分するのが自然な流れでしょう」
「ぐッ……くっそぉ!!」
押さえつけるジャミを跳ね除けようと、今度こそ全力でルミナは抵抗した。全身の筋力をフルに使って身体を引き起こし、ジャミの蹄を捩じ切らんばかりに握り締める。
「ぬぐぁあ!? な、なんて力だッ、このガキ……!」
「退き……やがれ、このクソ魔族がッ!」
「――やれやれ、またですか?」
焦る部下に対し、しかし親玉の態度は変わらない。煩わしそうに一息吐くと、ゲマは再び彼女の傍に跪き、
「大人しくしていなさいッ!」
「がッ!?」
「お姉ちゃん!!」
「また飛んで逃げられても厄介ですからね。――多少、念入りにッ!」
「グッ……! がッは!?」
拘束されたままのルミナの身体を、ゲマの拳が何度も激しく打ち据えた。内臓が損傷し、脳が左右に揺さぶられ、横になっているにもかかわらず視界が歪んでいく。
「ふう……。あなたは貴重なサンプルなのですから、あまり傷付けさせないでくださいよ?」
「ゲ……ホッ。……と、父さん……、リュ、カ……ッ」
「ゲゲゲッ! 無抵抗の奴をいたぶるのは楽しいなあ! ほれ、もっと良い声で鳴けよ、人間!」
「ぐッ……がぁ……ッ!」
「ひょほほ、いいぞぇ! そのまま嬲り殺してしまえ、ゴンズ殿!」
(なんとか……! なんとかしないとッ。……最悪、偽王妃だけでも道連れにできれば……!)
ルミナは今さら自身の心配などしていなかった。他者の命を散々糧にして生き延びてきたこの身だ。今になって死が怖いなどと言うつもりもない。出来損ないの命と引き替えで家族が助かるのなら、彼女は喜んでそれを差し出すつもりだった。
「く……そ……。……動けッ……動けよ……身体……ッ!」
だが意気に反して身体は動いてくれない。いくら彼女が才能に溢れた少女といっても、今はまだ発展途上の子どもに過ぎない。格上の相手にメッタ打ちにされてしまえば、とても抵抗できる力など残ってはいなかった。
「がはッ……!」
「! 父さんッ!」
「お父さん!!」
長かった私刑もついに終わりを迎える。
ボロボロになったパパスは、ゴンズに首を掴んで持ち上げられ、壁に開いた大穴から空中へ突き出された。遥か眼下には切り立った崖が、その下には川の濁流が激しく水飛沫を上げている。落ちればどうなるかなど考えるまでもない。
「う……ぐぅ……ッ」
「ゲマ様! こやつもう虫の息です! ご命令いただければいつでもトドメを刺せますよ!」
「ほっほ、ご苦労様です。――では最後の慈悲として、親子の語らいの時間くらいは差し上げましょうか? 重要な話を聞き出す役に立ってもらったのですから、そのせめてもの礼です。フフフ」
ゲマが嗤いながらパパスに近付いていく。その道すがら、魔族は床に落ちていた大振りの剣を拾い上げた。それは見間違えようもない……、いつもルミナの横で頼もしくその身を守ってくれた、父自慢の剣であった。
「お、おい……? 待てよ……お前……ッ。何する気だッ!!」
「ホッホ、だからお礼と言ったでしょう? ……まあ、“斬られた分のお礼”という意味も含まれていますがね、ホホホホ!」
蒼白になる少女の言葉を軽く流し、ゲマは満身創痍の男の前に立った。苦痛に歪む顔を覗き込み、口調だけは慈悲深く問いかける。
「あなたの勇戦ぶりに敬意を表し、最期の言葉を聞いてあげましょう。お子さんたちに何か言い残すことはありますか?」
「ぅ……く……ッ……! ……お、お前……たち……ッ」
「父さんッ!」
「お父さん!!」
敵に嘲られる屈辱はあっただろう。しかしすでに己の運命を悟っていたパパスは、ゲマに噛み付く時間すら惜しいとばかりに、必死に言葉を紡いだ。
「はぁ、はぁ……リュ、リュカ。……最期に一つだけ……お前に伝えておかねばならない、ことがある……」
「え……?」
「……お、お前の母さんは……生きている!」
「ッ!?」
思いもよらぬ父の告白。リュカは驚きに目を見開く。
「魔物にさらわれたマーサを、探し出すため……、私はこれまでお前を連れて……世界中を、旅してきたのだ……。今まで言えなくて……すまなかった。……万一叶わなかったとき……お前を傷付けてしまうのが怖くて、言えなかったのだ。……不甲斐ないこの父を……許してくれ」
「わ、わかった! 僕が必ず、お母さんを見つけるから……だ、だから――」
――だからもう喋らないで。
そう続けようとしたリュカの言葉を遮り、パパスはフッと穏やかな笑みを浮かべる。
「そうか。……ありがとう、リュカ。お前は私の、自慢の息子だ。……これでもう、何も心配することはない」
「お……父さん……」
パパスは次に義娘と視線を合わせた。
「ルミナよ……、聞いてくれ」
「と、父さん……?」
「私は妻を取り戻すため……『勇者』という存在を探し求めていた。……それと同時に、勇者について知っているであろう……『天空人』という種族のことも探していたのだ」
「ッ! ……そ、それ、って――「だがッ!」ッ!?」
何かを察したかのように硬直した義娘に対し、父は安心させるように笑いかけた。
「お前をあの森から連れ出した理由は、その目的とは関係ない。……最初は『助けてやりたい』という同情の気持ちが大きかった。……しかし、いつしかお前のことをリュカ同様……本当の家族のように、大切に想うようになっていった」
「ッ! ……お、おい……やめろよ……」
「お前には本当に……感謝している。……お前がいてくれたおかげで、……私の人生は、たくさんの笑顔で満たされた。……悲しみに俯く暇もないくらい……幸福で暖かな毎日に、変わっていった」
「……そ、そんなセリフッ……まるでッ」
「どうか……どうか生き延びて、幸せになってくれ。……私の大切な……愛しい、娘――――ぐあッ!?」
「ッ!?」
親子の会話は無情にも遮られた。
「ホッホッ、子を想う親の気持ちはいつ見てもいいものですが――――残念、時間切れです」
「ゲゲゲッ、最期のおしゃべりは楽しかったかあ?」
ゴンズが嬉々としてパパスの喉を鷲掴み、再び部屋の端から空中へと突き出した。踏み締めるものがなくなった両脚が風に煽られ、頼りなく左右に揺れる。
「もうお別れは充分でしょう? 時間もありませんし、続きはあの世からでお願いしますよ?」
「……ッ、……ル、ルミ……、リュ……ッ」
「ッ! 待っ――!!」
――ズンッ!!
「……ぁ」
少女の制止が形を成すより早く、パパスの身体に深く――深く刃が突き立てられた。それは意趣返しのつもりか、身体の中心に差し込まれた刺突は夥しい流血を引き起こし、パパスから最期の言葉を奪った。
「ゴ……プ……ッ!」
剣が引き抜かれ、口元から大量の血が溢れ出す。
もう子どもたちと言葉を交わすことも、断末魔の声を上げることさえも叶わない。
何度もルミナを勇気付けてくれた力強い輝きが、その瞳から失われていく。
「ぁ……、ぁ…………ぁぁ……」
「ホホホ。では――ごきげんよう」
そのまま尖塔の上からゴミのように放り捨てられ、血濡れの父は崖下へと落ちていく。
「……あ…………あぁあ゛、……ああ゛ああ……!」
這いつくばったままの少女が父に向かって必死で手を伸ばす。しかし彼我の距離は絶望的なまでに遠かった。
「…………、リュ…………ル…………ミ……」
視線の遥か先、父が最後の力を振り絞って浮かべたその笑みが――
冷たくなったあの子たちの笑みと――――重なった。
「――――あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ!!!!!」
「ッ! お、お姉ちゃんッ!?」
「お、俺があッ! 俺があ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッ――――
悲哀。
憤怒。
自責。
絶望。
後悔。
直後、少女の中で何かが弾け――
『――規定値を超える情動を検知しました。現時刻をもって、全ての条件を満たしました。――――システムを起動します』
ナニカが…………目覚めた。