転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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18話 スタイリッシュ・スパイアクション

〈採用通知〉

 あなたをラインハット城のメイドとして正式に採用します。神聖なる帝国にお仕えする者の一員として、誇りをもって職務にあたってください。今後の活躍を期待します。

                             ラインハット城 人事担当課 印

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

○月×日

 

 皆さん、こんにちは。

 この度、栄えある王室メイドとして輝かしい職務に就くことになりました、美少女メイド・ルミナちゃん(16)です。

 いっしょに採用されたマリアさんとともに、清く、美しく、エレガントなメイドさんとして、これから精一杯頑張って参ります!

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 ちっくしょう、ヘンリーの野郎、本気で実行しやがった! てっきり兵士か下働きとして潜入すると思っていたのに、まさかのメイドさんだよ! シスター服に続いてまた女装だよ!

 そりゃ警備部門は身元確認が厳しめで避けた方が良いんだろうけどさあ! だからってこれは勘弁しろよ。リュカやマリアは『似合ってる』って褒めてくれたけど、中身男が喜べるわけないだろ……。しかも衣装自体は俺の好みで、『意外に悪くない』と思っちゃうのがまた厄介だ。なんで俺の好み知ってんだ、あのアホ王子。

 このままでは男としてのアイデンティティ崩壊の危機だ。自分を見失わないように、気を強く持たなければ……。

 

 

 唯一の救いは、マリアが相方としていっしょに来てくれたことか。

 敵地のド真ん中に友達を連れてくるのは正直気が引けたが、俺だけだと何かミスをしてしまいそうなのも確か……。マリアには表の仕事のフォローをお願いし、情報収集や中枢への侵入を俺が担当するという役割分担だ。(※もちろんマリアに危機が迫ったときは、全てを放り投げて脱出する所存である)

 

 

 作戦成功のためにも情報収集は不可欠な任務。それができるのは、女であり、且つ戦える俺たちだけだ。ここまで来ちゃったからにはもう腹を括って頑張るしかない。

 さあ、自分の胸に手を当てて唱えるんだ。今日から作戦決行日まで……

 

 

 俺は可憐な女。

 

 俺は可憐な女。

 

 俺は可憐な女性。

 

 私は可憐な女性。

 

 私は可憐で淑やかな女性。

 

 私は可憐で淑やかなうら若き乙女ッ……!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 ――ウフフ。さあ、ビアンカさんのリボンで、髪を綺麗にまとめましょう。

 

 あら? マリアさん、タイが曲がっていてよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月☆日

 

 仕事の傍ら、さりげなく城内の様子を探っているが、裏側を見るまでもなくこの城ヤバかった。軍備増強中なので荒っぽい連中がいることは予想していたけど、ちょくちょく魔物の姿まで見かけるのだ。

 しかもオラクルベリーみたいに擬態しているわけでもなく、魔物姿そのままだったりする。ガイコツ兵だったり、さまようよろいだったり、中庭の犬がドラゴンキッズだったり(コドランと違って可愛くない!)。

 

 そして城内の人間たちはそれを見ても何も騒がない。気にしていないというよりは、意識的に目を逸らして距離を取っている感じだ。異変には気付いているけど、下手に指摘して上の不興を買いたくないというところだろう。もしかしたら過去にそれで捕まった人でもいるのかもしれない。

 

 国として割と末期状態で気の毒だが、異変を見て見ぬふりしてくれるのはこちらとしてはありがたい。多少不自然な行動を取っても、上の方に知られる可能性は低いということだから。

 できるだけ早く偽女王を討伐してあげるから、それまでもう少し待っててね、同僚の皆さん。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

 

 正体を怪しまれることもなくメイド生活は順調に進んでいる。修道院で鍛えられたおかげでマナーとかも間違えずにやれているし(院長先生ありがとう!)、周囲からの評判も悪くない。

 

 ……ただ、この完璧な潜入作戦にも一つだけ弊害があった。

 自分で言うのもなんだが、俺の見た目は超絶可愛い銀髪美少女。それが華やかなメイド服に身を包み、さらには任務中ゆえかなり気を遣って外面を取り繕っている。今の俺はおそらく、最高レベルの清楚系メイドさんに擬態できていることだろう。

 

 

 Q、すると一体どうなるか?

 

 

 答えは簡単。

 

 

 A、初日からナンパが多発してメチャクチャ鬱陶しい!

 

 

 働き始めたその日から、廊下を歩けば右から左から男どもがワラワラワラ。

 荷物持ちを申し出たり、道案内を買って出たりと、一見親切に声をかけているように見えるが、中身男の俺には一発で分かる。どいつもこいつもイヤらしい行為をすることしか考えていない! だいたい目線が顔と胸の辺りを行き来してるんだもん。

 ……そりゃ、男として気持ちは分かるけどさあ。

 自分が受ける立場になってしまうと、さすがにちょっと思うところがあるぞ。お前らもう少し欲望隠せ、と。

 

 

 ただ厄介と言うべきか、ありがたいと言うべきか……、俺と話していると彼らの口はメチャクチャ軽くなる。どこぞで軍事演習があったとか、誰それを反乱分子として捕らえたとか、城へ侵入できる抜け道があるとか、割と重要な話をポンポン放り投げてくる。

 特に警備関係の証言なんかはありがたい。こっちが聞いてもいないのにスケジュールとか人員配置とかをペラペラ喋ってくれる。ちょっと機密っぽい話でも軽く微笑んであげると即フルスロットルだ。

 数週間はかかると思っていた情報収集が、なんとたったの数日で終わってしまった。げに恐ろしきは男の(さが)よ……。

 

 

 ……なんだか、ハニトラ要員にでもなった気分だ。

 予定ではもっとこう、ハードボイルドスパイみたいにカッコよく情報を抜いていくつもりだったのに……。うぅ、自尊心がガリガリ削れていく音がするよぅ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 でもね、マリア? 別に犯罪行為をされたわけではないし、殴り込みなんてしなくていいんだよ?

『余分な選択肢は削っておかなければッ……』ってどういうことなん?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月§日

 

 口の軽い兵士さんのおかげで警備の巡回パターンは完璧に把握できた。なので今日はデールたちを探すため、いよいよ城の深い部分に潜入することにした。

 新人メイドが立ち入りを許されているのは城の一階部分と二階部分。ゆえに彼らがいるとしたら三階以降の王族エリアか、または地下のどちらかだ。地下への入り口はまだ見つからないため、まずは三階から探索する。

 貴人の居住区だけあってさすがに警備は厳重だが、一般兵士ごときに見つかるような俺ではない。極限まで気配を薄めて、気付かれないように全速ダッシュ! 残像すら捉えさせない速度で、一気に本丸へ侵入した。

 飛行能力も駆使して天井や柱の裏に張り付き、いざ情報収集開始!

 

 

 そしたらまあ……いるわ、いるわ。

 犬型だったり熊型だったり鳥型だったり、その辺の魔物とは一線を画す上位魔族たちがワラワラワラ。ラインハットはいつの間に魔王城になっていたのか……。

 ただまあ、このくらいならば何も問題ない。ヘンリーの見立て通り全員ジャミくらいの力量だったし、今の俺なら余裕で殲滅できる。

 

 偽女王と偽デールも無事発見できた。王の居室で二体揃って、我が物顔でふんぞり返ってやがった。今すぐ首を捩じ切ってやりたいところだが、そこはグッと堪えて情報収集。奴らは自室ということで気を抜いており、いろいろ参考になることを喋ってくれた。

 

 ・本物のデールと王妃はやはり生きていること。

 ・モシャスで定期的に姿を写し取っていること。

 ・二人を地下の隠し牢に幽閉していること。

 ・入り口は中庭の一画に隠してあること。

 ・国民集会の詳しいスケジュールや人員配置。――等々。

 

 あまりに有用な情報ばかりで、逆に罠なんじゃないかと疑ってしまったぐらいだ。……まあ、あの間抜けぶりは演技ではないと思うので、内容は信じていいだろう。

 

 

 あと気になったのは、偽女王のそばに控える二体の魔族か。

 従者のように控えるそいつらは、なんとジャミとゴンズの同型モンスターだった(兄弟かな?)。色合いは奴らの2Pカラーといったところで、どっちの身体も真っ黒、たてがみと頭部には銀メッシュなんて入れてやがる。オシャレか。

 

 魔族の家族事情とファッション事情について、ちょっと気になってしまった夜だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▽日

 

 昨日の情報を元に中庭を探ってみると、地面の一画に妙に柔らかい箇所があった。掘り返してみたら案の定、砂の下には地下へ続く階段と、その先に広大な地下牢エリアが広がっていた。

 人の出入りがほとんど無さそうな、埃の降り積もった暗い通路。その両脇に並ぶ牢屋には、無実の罪で捕まった人や、上に逆らって見せしめに投獄された人などがたくさん入れられていた。当然扱いなど酷いもので、みんな酷く衰弱している。

『当日までは誰にも作戦は秘密』と例外なく取り決めているので、今すぐ彼らを助けることはできない。なのでせめてものお詫びとして、密かにホイミとキアリーをかけて回った。罪悪感を薄めるための気休めに過ぎないが、これで少しでも命が繋がってくれればと思う……。

 

 

 

 そして慎重な探索を続けた末、ついに地下の奥深くで目的の人物を発見した。

 通路の奥にポツンと存在する牢屋、その鉄格子の向こうにデール王子がいた。以前会ったときは内気で控えめな少年だったが、この7年でずいぶんと精悍な若者となっていた。地下牢に幽閉されているというのに弱気な表情も見せず、体力維持のためか黙々とトレーニングを積んでいた。

 母親相手(※偽だけど)に苦言を呈していたみたいだし、彼も彼で大きく成長したのだろう。これなら当日ぶっつけでも冷静に行動してくれるはずだ。

 

 

 

 

 

 さらに、その奥の突き当たり。一番大きい牢屋の中に…………、あの女がいた。

 

 あれから7年も経っているし、きっと大丈夫だ――と思っていた。

 

 ………………。

 

 思っていたんだけど…………ダメだ。

 ヤツの顔を見た瞬間、血まみれの父さんの姿と、この7年間のいろいろな思い出が一気に溢れ出してきた。

 

 落ち着け――と強く自分に言い聞かせる。

 あの女が直接やったことは最初の誘拐依頼まで……。偶然ゲマに目を付けられて大事になったが、やったこと自体はそれだけなんだ。……落ち着け、落ち着け。

 何度も心に言い聞かせて、壁に頭を叩き付けて、ようやくブン殴りに行きたい衝動を抑えることができた。

 

 

 

 ……イカンなあ、コレはちょっと反省だ。

 あんなに簡単に心を乱していては、当日どんなミスをするか分かったモンじゃない。何事にも動じない鉄の心を維持しておかねば……。

 

 

 ……まあ幸い、頭突きした拍子に壁が崩れて外への抜け道が見つかったので、今回は結果オーライということにしておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月Λ日

 

 俺の友達はなかなかに心配性のようだ。『あんなに顔色が悪かったんですから、今日は“お仕事”なしです! 日光浴でもしてきてください!』って部屋を追い出されてしまった。

 う~ん? 別に心配するようなことはないんだけどなあ。スパイ仕事続きで疲れでも出ていたかな?

 

 友人の親切心を裏切るわけにもいかず、仕方なく裏庭でゴロリと横になった。風に吹かれるまま、陽の光を浴びてぐうたらぐうすか……。

 

 そしたら天の恵みが降ってきた。

 閉じた視界に影が差したので目を開けてみると、上空から俺目掛けてドラゴンキッズが急降下!

『え、襲撃ッ!? 正体バレた!?』と一瞬焦ったが、なんとこのドラゴンキッズ、ウチのコドランだった。手紙を咥えているのを見るに、どうやらこの子が外部との連絡係のようだ。

 なるほど、城の中にはモンスターがたくさんいるし、この子なら見られても問題ない。手紙が見られそうになってもブレスで焼いてしまえば証拠も残らないというわけだ。さすがはリュカ、モンスターマスターの面目躍如である。

 

 手紙には情報交換する場所の指示と、リュカからの心配の言葉が書かれていた。疲れていたところに弟の励ましが届き、不覚にもちょっとホロリときた。

 そして帰り際、コドランがちょっと心配そうに顔を舐めてくれて、こちらも不覚にもキュンとした。今まで素っ気なかったくせに急に慰めてくれるとか、危うくクラっといってしまうところだった。

 なんだよもうッ、イケドラかよ///

 

 ――元気が出たので休憩終了。

 この勢いで午後は式典当日の情報をバッチリ集めてきた。これで当日の作戦も成功確実だぜ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(追記)

 部屋に戻ったら満面の笑みのマリアがいた。『仕事……しましたね?』と優しく尋ねられた。

 ……笑顔が怖いということを初めて知った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月○日

 

 明日はいよいよ式典当日。

 受け取った手紙の指示に従い、城の外でリュカたちと合流した。集めた情報は全てコドランに届けてもらっていたが、最後に口頭で入念な打ち合わせを行った。

 

 だいたいの流れは、潜入前の会議で決めた通り。

 国民集会が始まって城の警備が緩んだら、地下の抜け道から少人数で侵入し、まずはデールたちを救出する。

 続いて側近の魔族たちを速やかに各個撃破。奴らはモシャスの呪文を使えないため、人目がある会場には出ていかない。城の中の目立たない場所で、気付かれないように処理できるだろう。

 そして安全が確保できたら、デールと王妃を会場につれていき、ラーの鏡を使って偽者の正体を暴き出す。後は、残った雑魚モンスターをみんなで掃討すれば、晴れてこの国から敵はいなくなり――めでたし、めでたしのハッピーエンドだ。

 

 

 ――実際のところどれほどうまく行くかは未知数だが、ここまで来て尻込みしても仕方ない。明日は何が起きても迷うことなく忠実に任務を遂行すること!

 姉の心配をしすぎる弟にも、部下のために前線まで来ちゃう王子様にも、その旨をキチンと言い聞かせておいた。

『お前ら、ちゃんと落ち着いて行動するんだぞ? パニックになってやらかしちゃダメだぞ?』――と。

 

 

 

 

 

 

 奴らは真顔で言いやがった。

 

『え……? 一番やらかしそうな人が何言ってるの?』

『まったくだぜ。リュカ、ちゃんとこのアホ姉ちゃんを監督しておいてくれよ?』

『うん、全力で頑張るよ』

 

 

 ……姉の威厳の危機だったので、男を手玉に取って情報を集めた俺の手腕について大いに語ってやった。

 

 

 

 

 

 

 ……さらに怒られた。なぜだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

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