転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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2話 また、陽の当たる場所へ

(左ページの続き)

 

 ……間違えた。

『パパです』じゃなくて、『パパス』だった。

 なるほど、お名前だったのね。律儀に自己紹介してくれたのに、変な勘違いしてすみませんでした。

 

 

 曰く――彼は近くの町(徒歩で数時間)からここまで調査のためやってきた、旅の戦士らしい。ここ数年、森の中で多数の戦闘跡が発見され、町民の間でも度々話題に上がっていたのだという。

 で、そこに来て、ちょっと前に起きたアレ……。

 炎や光が何度も空に撃ち上がり、何やらおぞましい叫び声まで聞こえ、『こいつはいよいよもってただ事ではないぞ』と判断され……、結果、凄腕剣士パパスさんが調査のため派遣されてきた――と、そういう経緯であった。

 

 

 

 ………………。

 

 ……うん、明らかに俺のせいだったね。

 そりゃ、あれだけ撃ったり斬ったり撒き散らしたりしたら騒ぎにもなるわ。冷静さを失ってその辺り全く配慮してなかった。今度からは気を付けよう。

 

 ――というわけなのでパパスさん。

 二度とああいう事態は起こさないから、安心して町へお帰りくださいな~。

 

 

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ――って言ったのにこの人、全然帰ってくれないんだけど……。

 しかもなんか、すんごくもの問いたげにこっち見てくるし。

 

 ……え、……まさか、本当に幼女趣味じゃないよね?

 

 などと警戒していたら、単に研究所の中を見たいだけだったみたい。

 なるほど、純粋に調査の仕事をしたかったのね。誰に許可を取って良いか分からないから困っていた、と。

 

 ああ、いいよいいよ。好きにやっちゃってください。責任者はもういないし、自由に見ても誰も文句は言わないよ。

 俺はこっちで自堕落生活してるんで、ごゆっくりどうぞ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月×日

 

 ……びっくりした。

 一晩経ってもまだパパスさんいた。

 しかも突然怖い顔で迫ってきて、『いっしょにここを出よう!』なんて勧誘して来るし。

 

 あまりに勢いよく迫られたもんだから、つい驚いて魔法でブッ飛ばしちゃったよ。訓練中に偶然覚えた古代呪文・バシルーラ。まさか初披露がこんな用途になるとは……。

 

 

 いやでも、あれはパパスさんも悪いでしょ? あんな鬼気迫る表情でグイグイ来られたら、誰でも身の危険を感じちゃうって。

 まあ、パパスさんくらい強い人なら多分怪我もしてないだろうし、ここは痛み分けってことで収めてもらいたい。

 

 ……一晩経って調査も終わっただろうし、もう会うこともないだろうけどね。

 これでやっとまた、静かな生活に戻れるぜ~。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月○日

 

 このおっちゃんまた来おった……。

 ま、まさかのお礼参りか!?

 

 ――と、思ったらどうやら違う模様。

 それどころか昨日のことを丁寧に謝られてしまった。『怖い思いをさせて申し訳ない』と。

 ……要するに彼は昨日、この研究所で行われていたことを知ってとても憤っていたらしい。それで俺をこのままにはしておけないと思い、『一緒に来ないか?』と声をかけてくれた、と。

 

 

 ……あ、あーー、そういうアレね……?

 確かにパパスさん、人が好さそうだもんね。あの実験内容を知れば自然とそうなるか。

 この世界に来てからまともな大人に会ってなくてつい忘れていたが、幼女があんな目に遭って今も森に一人だったら、そりゃ心配するのが普通だわ。

 

 

 

 ……とはいえ、それも一般の子どもだったらの話よ。

 本当のことは説明できんけど、こちとら中身は大人の身。このくらいで参るほどヤワではないし、自分のケツくらい自分で拭けます。

 と、いうわけでパパス氏、俺のことは放っておいて、安心してお帰りくださいな~。

 

 

 

 

 

 

 

 ――って言ったのに、またこの人帰ってくれないし……。なんかデジャヴ感。

『いや、ホントそういうの良いんで……。放っといてくれて全然構わないんで』って、いくら婉曲的に断っても気にせずグイグイ来るし。

 親切心で言ってくれているのが分かる分、強く断わり辛いんだよなぁ……。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 …………仕方がないので、結局またバシルーラした(お引き取りいただいた)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月×日

 

 ――また来た。同上。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月★日

 

 ――同じく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月△日

 

 ――略。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

□月▽日~~◎日まで

 

 ああもう、メンドクサイので一まとめ!

 

 

『滅茶苦茶バシルーラした!』

 

 

 

 

 ……頼むからホント、そろそろ諦めてくれんかなぁ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月☆日

 

 不覚を取った。

 最近ずーっとルーティン作業だったから油断していた……。

 全く靡かない俺に業を煮やしたのか……、なんと彼奴め、ついに自分の息子を使って篭絡にかかりおったのだ。

 今日も今日とて日課のバシルーラを準備していると、半裸男の後ろからひょっこり小さな子どもが顔を出した。

 

 ガチムチ親父とは似ても似つかない、柔和な顔立ちのターバン姿の少年。

 名を“リュカ”といい、なんとパパスさんの一人息子(四歳)らしい。小さな指を四本立てて微笑むその姿は、『本当にお前の息子か?』と問いたくなるほどに愛らしい。

 きっとママの遺伝子が頑張ったんだね。良かったな、少年。

 

 

 ……いや、そんなことはどっちでもいいんだった。

 あんにゃろうめ、息子を使って俺を取り込もうとはなんたる非道。確かに子どもがいては危険なので、お引き取り(バシルーラ)作戦は使えない。

 そうしてなし崩し的に息子と俺を絡ませ、話している内に情を移し、やがて子どもの無邪気さに絆されて態度が軟化する――と。そういう狙いなのだろう、このヒゲめ!

 

 

 フン、そんなベタな手俺には通用せんぞ。

 

 そもそも俺、子ども苦手だしな!

 たとえ目の前にいようと平気で無視してやるし、仮に無理でも、最終的に逃げてしまえば問題ない。

 

 ――というわけで、早速定番の“シカト”をしてやった。

 初めて会う同年代が珍しいのか、リュカはいろいろと質問してくるが全部スルー。好きなものとか年齢とか趣味とか聞かれてもまるっとガン無視。

 純真な子どもにこれは相当キツいはず。さあ、早く諦めるが良い!

 

 

 

 ――って思ってたのに、こいつ全く気にせずグイグイ来よる!

 

 

 な、なぜだ……?

 膝の上に乗られたとき、落ちないようについ支えてしまったのが失着だったか? それとも、最初に名前だけは答えてやったのがいけなかったのか?

 いやでも、名乗られたら名乗り返すのは最低限の礼儀だし……。

 

 

 

 

 ええい、クソ! 明日だ、明日。次こそは突き放してみせる!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月□日

 

 嫌味を言ってやった。

 

 ……言葉の意味を聞かれた。

 しょうがないので辞書を引いてやった。

 

 有意義な勉強時間を過ごしてしまった……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月△日

 

 思い切って怒鳴り付けてやった。

 

 ……首を傾げられた。

 滑舌が悪くて聞こえなかったらしい。

 

 

 ……仕方ないじゃん、慣れてないんだからさ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月?日

 

 もうどうにもならんので走って逃げた。

 さすがに身体能力差は埋められないし、これで諦めるだろう、という作戦。

 

 

 

 

 

 

 → 全く通じず、楽しそうに追ってきた。

 → いつの間にか鬼ごっこになっていた。

 → 転んでしまったので、仕方なくホイミしてやった。

 → さらに懐かれたorz

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 つ、次や、次! 次こそやったるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇月○日 

 

 ……いや、ちゃうねん。

 別に絆されたとかやないねん……。

 

 ただこの子、どんだけ邪険にしても全然諦めてくれんのよ……。

 無視もしたし、嫌味も言った。遊びの誘いも断わったし、置いてけぼりにしたりもした。

 

 ――なのに全っ然へこたれない!

 

 

 ……もう何なん、この子?

 まだ四歳でしょ? 普通こんな塩対応されたら泣くか、嫌になって離れるかするでしょ?

 なのになんで、『面白い……ッ』って感じに目を輝かせて追って来るの? 戦闘民族なの? 終いにゃ危険な森の中まで追っかけて来ようとするし、そりゃ俺だって慌てて止めるよ。

 ていうかまずアンタが止めろよ、父! 笑って見てんじゃねえ!

 

 

 

 

 ………………。

 

 まあ、そんな感じでね? 好奇心旺盛な幼児にはどうにも勝てず……。

 とりあえず今度、二人が滞在する町まで遊b――じゃなかった、買い出しに行くことになったので、それまでは御機嫌取りを続けてやることにした。

 

 ……あくまでこれは物資確保という目的のため。

 他に伝手もないし、仕方なく、嫌々だけど付き合ってやる、それだけの話だから。変な勘違いとかはしないように。

 

 

 

 

 あとリュカ、いい加減『お姉ちゃん』って呼ぶのやめなさい。変な気分になるでしょうが!

 こちとら中身はバリバリの男子なんだからな、まったく!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パパスがその噂を聞いたのは偶然だった。

 魔物にさらわれた妻を探す旅の途中、情報収集のため立ち寄った町の酒場で偶々その会話を漏れ聞いたのだ。

 

 曰く――近くの森に数年前から怪しい連中が住み着いており、その中に“翼の生えた少女”がいるのだという。

 

 背に翼を持つ人間……。それを聞いてパパスの頭に浮かんだものは一つ。伝承にのみ伝わる、この世界を見守っていると言われる幻の種族――“天空人”だ。勇者の伝説にも深く関わる種族であり、パパスにとって決して無視できない存在である。

 もしその少女が本当に天空の民ならば、勇者について何か知っている可能性は十分にある。パパスは早速町の役人たちに面会すると、『自分が様子を見て来る』と話を付け、少女を探すため森へ出発した。

 

 旅に出てから早数年、勇者について何の情報も得られず、正直、おとぎ話の類ではないかと疑い始めていたのだが、ここに来て初の有益な手がかりだ。

 

(もしかするとこれを機に一気に状況が進展するかもしれんッ)

 

 そんな、久方ぶりの高揚感とともに、パパスは意気揚々と森の奥の施設へと辿り着いたのだった。

 

 そして――

 

 

 

 

 

「……誰……ですか?」

 

「ッ!?」

 

 その少女を見たとき、彼の浮ついた気持ちは一瞬で消え去っていた。建物の傍――墓地らしき場所で静かに佇む銀髪の少女の目には……、一切の光がなかった。

 

「……役人? ……それとも…………盗賊……? ……まあ、どっちでもいいけど」

「い、いや……、私は……」

「研究者も魔物も……全員殺しちゃったから、もう誰もいないよ……? それでもいいんだったら、好きに見てって……」

「ッ!?」

 

 

 

 ――噂話には続きがあった。森の連中は、方々から身寄りのない子どもを攫ってきては、夜な夜な危険な実験に利用しているのだ――と。

 

 尾ひれが付いた噂だと思っていた。子どもの姿があったのも、きっと関係者の家族でも一緒に住んでいるのだろうと、深く考えてはいなかった。

 ……しかし、振り返った少女と目が合ったとき。光のない絶望した瞳と、そして、人を殺したことを淡々と語るその姿を見たとき、パパスは噂が噂ではなかったことを理解した。

 

 その後研究所の中を調べるに連れ、さらに驚くべき事実が明らかとなっていく。無残に破壊された建物の中、散乱し赤黒く汚れた報告書を読みながら、パパスは怒りと遣る瀬無さに身を震わせた。

 そこに書かれていたのは、ルミナという少女の出生の秘密と、そして、この場で彼女が強制されてきた全てだった。そのどれもが、パパスの想像を遥かに上回る残酷な仕打ち。いたいけな少女がああなってしまったことも納得できる、まさしく悪魔の所業と言うべき行いだった。

 

(……ダメだ。……あの子をこのまま、放ってはおけないッ)

 

 この時点ですでに、パパスの頭から勇者に関する目的は消えていた。代わりに思うことは、この不憫な少女をなんとか助けてやりたいという純粋な想いだけ。

 このままではあの子は世を儚んで自らを殺すか、あるいは逆に、全てを憎んでその力を破壊へ使ってしまうかもしれない。人として……、否、一人の子を持つ親として、幼子のそんな未来を放っておくことなどできなかった。

 

 

 ……しかしそんな想いが先走り過ぎたのか、この日は勢いよく距離を詰め過ぎ、彼女を酷く怯えさせてしまった。パパスが肩に手を置いた瞬間、ルミナは今までの淡々とした態度が嘘だったかのように取り乱し、全身を震わせたのだ。

 パパスがそれに気付き慌てて離れようとしたときには、彼の身体はすでに宙を舞っていた。

 吹き飛ばされた森の入り口でなんとか着地しながら、パパスは己の迂闊な行動を悔いる。

 

(……そうだ。あんな目に遭わされた子どもが、大人を怖がらぬわけがないッ)

 

 そんな当たり前のことにも思い至らず、パパスは一人自己嫌悪に暮れた。

 

 

 

 ……だが一方で、彼は希望を見出してもいた。

 報告書の内容が正しいのなら、ルミナには他に強力な攻撃手段がいくつもあったはずだ。にもかかわらず、恐怖に震えるあの状況で、彼女はパパスを攻撃するのではなく吹き飛ばすだけに留めた。

 これは紛れもなく彼女の善性の証だった。あのような目に遭わされて、それでもなお力に溺れることなく、他者を慮れているという証だった。

 

 その予感は、ルミナがパパスの息子・リュカと関わっていく内に、より確かなものとなっていく。

 冷たく突き放しているように見えて、その実、幼子への思いやりと慈しみに満ちた優しい言動。ひょっとすると、報告書にあったあの子どもたちと重ね合わせているのだろうか? 戸惑い怯えながらも、恐る恐る言葉を返そうとするその姿は、年相応の優しい少女のものに他ならなかった。

 

 

 

 

 ――ならば、彼女はまだ引き返せる。

 血と破壊に塗れたこの冷たい場所から、陽の当たる優しい世界へ戻って来られる。

 

 きっとこの先、この子は何度も心の傷に苦しむだろう。もしかすると何かのはずみで、道を踏み外してしまうこともあるかもしれない。

 けれどそのときは必ず、大人として、家族として、自分が元の道に引き戻してやろう。人生の楽しさ、家族の温かさ。彼女がまだ知らないことをたくさん教え、いつか必ず満面の笑みを浮かべさせてやろう。

 

 それがきっと、今ここであの子と出会った、自分の役割なのだと思うから……。

 

 

(……お前もきっと……そう思うだろう、マーサ?)

 

 

 視線の先で、リュカに“お姉ちゃん”と呼ばれて戸惑う少女を見ながら、パパスは己が心に強く、そう誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして、それから二年余りの月日が流れ――――

 

 舞台は辺境の村・サンタローズへ。

 穏やかな時の流れは、傷付いた少女の心を優しく癒していき、

 

 やがて――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うぃ~~、ヒック! サボりながら飲むジュースうめ~~! おーい、リュカ~、おかわりある~?」

「うん、あるよ~!」

「おお、愛い奴じゃの~。お前もいっしょに飲むか~?」

「飲む~~!」

「……あ、あの、お嬢様? 坊ちゃんも……そろそろお勉強の時間で……」

「うははは、固いことは言いっこなしよ、サンチョさん。子どもは勉強より遊びよ~」

「遊びよ~!」

 

 

 ――少女はものの見事に、クズニートになって(道を踏み外して)いたのだった!

 

 

「~~~~こ……この、アホ娘は……ッ」

「ぅん? ああ、父さんおかえり~。一緒に飲む~?」

 

 

 だらしなく寝転がる義娘を見下ろしながら、父は額に見事な青筋を浮かべ――

 

 

 

「誰がここまで楽しめと言ったかああーーッッ!!!」

「ホギャあああーーッ!!?」

 

 

 

 愛を込めて、拳骨を落として(元の道へ引き戻して)やったのである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 たった1話でオリ主の心を救う、原作主人公の鑑。
 まあダラダラと鬱展開を続けても誰得ですしね。

 というわけで、次回からしばらくシリアスが薄まります。




(補足)
 ゲームでは、故郷に帰れなくなった天空人がグランバニアで暮らしている描写がありますが、本作ではそれはない設定にしています。パパスは今回初めて天空人(らしき存在)を見た、ということでお願いします。


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