転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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19話 見た目で舐めてたら怪我するぞ

『――これより、我らが偉大なる女王陛下よりお言葉を賜る! 謹んで拝聴せよ!』

 

 

 ――ワァア……アア……アアア……ッ!

 

 ――パチ……パチ……パチ……。

 

 

『ホッホッホ、親愛なるラインハットの民たちよ、今日はよくぞ集まってくれた。皆と直接会えるこのときを、わらわはとても楽しみにしておったぞ!』

 

 

 ――じょ、女王さまあああ……!

 

 ――ラ、ラインハット帝国……万歳!

 

 

『愛しい我が夫と、義息子ヘンリーが亡くなったあの日から、二人のことを想わぬ日は一日とてなかった。……しかし、わらわに悲しみに暮れる暇など与えられなんだ。傾きかけたこの国を立て直せるのは、わらわを置いて他にいなかったからじゃ。王妃に過ぎぬこの身が王権を担うことに躊躇いはあった。……しかし、夫が愛した国のためならば、自身の内心の葛藤などは些末なこと。批判を受けることも覚悟の上、あの日からわらわは、このラインハットという宝を守るために全てを捧げて――――』

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

「どの口が言ってんだっつーの!」

 

 ――ザシュ!

 

「ギィイッ!?」

 

 遠く屋外から聞こえる、虫唾の走る演説内容とヤラセ丸分かりの歓声。

 空々しさに悪態を吐きながら、ルミナは風のように廊下を駆けていた。すれ違いざま流れるように魔物を切り捨て、倒れた死体を魔法で焼き払う。開会のタイミングと同時に動き出し、彼女がこれまでに倒した魔物の数はすでに100を超えている。

 今頃はヘンリーたちが地下道から侵入し、囚われのデールたちを救出している頃だろう。彼らがマリアに案内されてここに上がって来るまでに、一帯の安全を確保しておかねばならない。

 

「ハアッ!」

「キキーッ!?」

 

 有象無象の魔物は残らず間引き。

 

「フンッ!」

「ぐげッ!?」

 

 事情を知らない兵士たちは優しく気絶させ。

 そして――

 

「失礼します!」

「きゃ!?」

 

 王室メイドにあるまじき振る舞いで、ルミナは使用人部屋の扉を荒々しく蹴破った。室外の戦闘音に動揺していたメイドたちが、何事かとギョッと目を見開く。

 

「えっ? ル、ルミナさん?」

「剣なんて持って何を……!」

「ごめんね、みんな! ラリホー!」

「ぁ……」

 

 同僚の奇行に驚いていたメイドたちが、ラリホーの煙を受けて一斉に崩れ落ちていく。カクンと意識を失った目の前の女性を抱き止めると、ルミナは彼女らを優しくベッドに横たわらせた。これで事が終わるまで皆の安全は確保されただろう。

 

「よし。これで終わりかな? あとは――」

「ルミナさん!」

「お、良いタイミング!」

 

 そこへ折よく、槍を背負ったマリアが息を切らせながら駆け付けた。予定通り侵入組を案内してきてくれたようで、後ろにはキッチリと作戦の中心人物たちを引き連れている。

 先頭にいる二人が軽く手を上げてルミナへ歩み寄った。

 

「よっ、ご苦労さん、ルミナ」

「ごめんね、姉さん。魔物の制圧を全部任せちゃって」

「大丈夫、大丈夫、この辺雑魚しかいなかったから。そっちも問題なかった?」

 

 言いながらルミナは彼らの背後に目をやる。数日ぶりに見る顔ぶれがそこにあることを確認して、彼女は一つ頷いた。

 

「――よっす。久しぶり、デール君」

「はい。お久しぶりです、ルミナさん」

 

 意図的に一人の顔を無視したのはまあ仕方がない。元凶に無心で接することができるほど、まだいろいろと呑み込めてはいないのだ。

 デールもそこは理解しているのだろう。顔に出すこともなく、深々と頭を下げた。

 

「囚われの身から助けていただき、皆さんには感謝の言葉もありません。このご恩はいつか必ずお返しします」

 

 平民相手に抵抗なく頭を下げるあたり、見た目は逞しくなっても根の素直さは変わっていないようだ。最近生意気になりつつある年下二人にも、ぜひ見習ってほしいところである。

 

「いやいや気にしないで、この後は君にも協力してもらうんだし。作戦内容はもう聞いた?」

「はい。微力ですが、精一杯務めさせていただきます。皆さんの足を引っ張らないように頑張りますので、よろしくお願いします!」

「ヤダもう……この子超素直なんだけど。ねえデール君、良かったらウチの弟になってみない?」

 

 半分くらい本気で誘ってみた。最近の彼女はちょっと年下の尊敬に飢えているのだ。

 

「ちょっと姉さん、何を――」

「ふふ、義弟ということでしたら喜んで」

「お、いいこと言うな、デール」

 

 ルミナの妄言にリュカが呆れ、デールが微笑みながら同意し、ヘンリーがニヤリと笑う。

 

「じゃあ善は急げだ。早速親父に頼んで、ルミナをウチの家系に――」

「はいはい、みんな馬鹿なこと言ってないで早く行くよ! 姉さんも、本番はこれからなんだから、ほら、急ぐ急ぐ!」

「お、おぉう? わ、分かったから押すなって。スカートが脚に絡んでッ……」

「……くくッ」

 

 なにやらムクレ顔のリュカに背中を押されながら、一行は再び動き始めた。

 確かに、最も重要かつ難しいのはこの後だ。偽女王が演説しているバルコニーまで行くには、王族エリアを――すなわち、屈強な魔族たちが守護する三階を抜けて行かなければならないのだ。若者らしくラブでコメってる暇なんぞないのである。

 

「ていうか姉さん、なんで今日もメイド服なのさ。戦闘があるんだからいつもの恰好で良かったでしょ?」

「ん? そりゃ作戦前に怪しまれちゃいけないし……。心配しなくても中にレギンス履いてるから、激しく動いても平気だぞ? ――ほら」

「た、たくし上げなくていいから! 少しは慎みを持って!」

「そうですよ、ルミナさん! それに私としては、スカートの下はガーターの方がより映えると……いえ、もちろん今のお姿も萌えますがッ」

「あぁ……妹の言動がまたおかしく」

「ッ……くくくくっ」

 

 

 

 

「だ、大丈夫ッスかね……この人たち」

 

 これから魔族と戦おうという精鋭たちは、緊張感のなさすぎる会話で部下を呆れさせるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リュカは左を! ヨシュアとマリアは右を足止め!」

「わかった!」

「了解! ハァッ!」

「ぐおおッ!?」

 

「ピエールは魔法! コドランはブレスで全体を牽制しろ!」

「(承知! イオッ!)」

「キキーッ!」

「グゥッ!? う、裏切者の雑魚どもが!」

 

「今だ、ルミナ突っ込め!」

「任せろ! せりゃあああーーッ!」

「ゴアッ!? こ、この、人間風情があッ」

「人間舐めんなッ、そらもう一発ッ!」

「ぐおアアアッ!?」

 

 

 

「お、おぉ……、すごいッス!」

 

 部下たちの心配は杞憂に終わった。

 魔族たちの領域に入り、周囲が目に見えて重苦しい空気に変わった瞬間、ルミナたちの雰囲気もまた一瞬で切り替わっていた。先ほどまでの緩い会話が嘘だったかのように、それぞれが戦闘における自分の役割を十全に全うしている。

 中核を担うルミナとリュカが至近で魔族と対峙し、その後ろからヨシュアとマリアが二人を援護。最後尾からはヘンリーが指揮を取り、コドランとピエールが牽制&遊撃として臨機応変に対応している。

 神の塔への旅で鍛えられたチームワークは盤石であり、圧倒的強者であるはずの魔族たちが、まるでスライムか何かのように一蹴されていく。

 

 ――これまでの俺たちの足踏みは一体何だったんだ……。

 

 自分たちでは敵わなかった敵を軽々屠る若者たちを見て、兵士たちは己の不甲斐なさに項垂れた。

 

「全員下がれ! ――ルミナ!」

「オーケー! メラゾーマッ!」

 

 ――轟ッッ!!

 

「グギャアアアーーッ!?」

 

 銀髪の少女が繰り出す大火球が、盾持ちの大型種を灰に変え……。

 

「からの! ――ベギラゴンッ!!」

「ば、バカな!? 人間ごときッガアアァァァーーー……ァァァ……ッ」

 

 続けて放たれた熱線が、防御役を失った群れを残らず焼き尽くしていく。無尽蔵の魔力から連発される上級魔法の前では、いかに頑丈な魔族の身体といえども一たまりもない。

 

「はっはー!! 次に死にたい奴はどいつだああ!!」

「ッ! 姉さん、一人で出過ぎないで! もっと横と連携を――ッ」

「大丈夫、大丈夫! おりゃあッ!!」

「ぐああアアッ!?」

 

 弱小種である人間が、屈強な魔族を雑魚のように一掃する不条理な光景。そんなものを何度も見せ付けられた部下たちは、やがて後ろ向きの思考を切り替えていく。

『うん……アレと比べちゃいけないな。やれることを精一杯頑張ろう』――と。

 そんな、コントのような思考ができるくらい、現状は順調に推移していたのだ。

 

「よし、ここはだいたい片付いたな。トム! 全員怪我はないか!」

「はいっス! みんな無事っス!」

「さすがに普通の魔物より強いですけど、なんとかやれるものですね」

「だが、やはり常よりは消耗が大きい。俺たちは援護するだけだから良いが、ルミナとリュカは大丈夫なのか?」

「ヌハハハ、余裕、余裕! この調子で一気に本丸を攻め落とすぞ!」

「…………」

 

 かつて苦杯を舐めさせられたこのラインハットで、今は逆に魔族たちを蹂躙できている。雪辱を果たせつつある現状に、ルミナは上機嫌で拳を握った。

 ……ただ、若干行き過ぎのきらいもあり、弟だけはやや不安そうに姉を見ていたが。

 

「……姉さん、ちょっと落ち着いて。ペースを落としても十分間に合うから、もっと慎重に行こう。戦い方が雑になってきてるよ?」

「だーいじょうぶだって、油断さえしなきゃ問題ない! ヘンリー、この後はもっと俺の方にガンガン敵回していいぜ! つーか一人でも余裕だし、俺がもっと前に出るよッ」

「姉さん! その発言がもう油断なんだってばッ」

 

 リュカの心配はもっともではあるが、実際、かなり余裕があるのも事実だった。パパスとルミナだけで戦っていた7年前と違い、今は魔族と戦える戦闘要員が5人+2匹もいる。護衛対象を守ってくれる後方部隊もいるし、疲労したときの回復アイテムも潤沢に揃っている。

 さらにルミナの力は実験生活で大幅に向上しており、素の状態であっても彼女に勝てる者など滅多にいない。事前の偵察でゲマ級の敵がいなかった時点で、“勝ちの決まった戦い”というのもあながち間違いではないのだ。

 

「もー。心配症だなあ、リュカは」

「…………、心配もするってば」

 

 しかし、弟の不安は全く消えてくれない。

 ――どころか、ここに来てますます深くなっていた。

 

「あのさ、姉さん……。昨日からちょっと、入れ込み過ぎじゃない?」

「ん? どういうこと?」

「ほら、自覚もない……。姉さん昨日から……というより、報告書の文面のときからなんか変だよ? 何をそんなに焦っているの?」

「え……? いや、別に焦ってなんてないけど……」

「ううん、いつもよりだいぶ浮足立っているよ。ねえ、どうしたの? 何か気になることがあるんだったら、今の内に話して――」

 

『グルルルルッ!』

「「ッ!?」」

 

 二人の会話を遮るように、廊下の先から新たな敵が二体現れた。それぞれ大型の戦斧と大槌を携え、今にも襲い掛かろうと戦意を漲らせている。

 

「リュカ、ほら今は……な? 早くあいつらを片付けないと」

「…………後でちゃんと話をするからね?」

 

 ルミナは鋼の剣を握りしめ、新たな敵へ向き直った。自分でもよく分からないが、このままだとなにやら困った流れになりそうだったので、敵が来てくれて“これ幸い”といったところだ。

 現れた敵は何の巡り合わせか、先日の偵察でルミナが見つけた妙な二体――ジャミ(もど)きとゴンズ(もど)きであった。改めて至近で力を探ってみると、見た目が違うだけでやはりジャミたちと同程度の力量だ。これなら時間をかけずに片付けられるだろう。

 そしてさっさと偽女王のところまで行けば、きっとこの話も有耶無耶で流れてくれるはずだ!

 

「グヲオオオオ!!」

「全員散開! 俺が前に出るッ!」

「ッ、またそうやって一人で!」

「心配すんな! すぐに終わらせるッ!」

 

 ルミナが駆け出し、それに呼応するようにジャミ擬きが武器を振りかぶった。

 

「ハアアアアッ!」

「グオオオオオオッ!」

 

 ――ドゴオオオオーーーンッ!!

 

 馬の巨体と少女の痩身が交差し、廊下全体を震わせるほどの衝撃が駆け抜けた。普通の人間どころか熟練の戦士であっても、正面から受ければ為す術なく潰されるほどの一撃だ。

 

「~~ッグ!? グルァァア……ッ!?」

「へっ、どうしたよ、ジャミ擬き。その程度か?」

 

 しかしさすがは人間兵器(ルミナ)。振りかぶられた戦斧の一撃を、彼女は武器さえ使わず素手で受け止めていた。

 確かに油断はある。しかし、両者の間にはその程度では埋まらない実力差があった。多少気を抜いていても、特別なことなどしなくても……、普通に戦えばルミナが負ける要素などどこにもなかったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――本当に敵の力量が、あのときと同じであったならば……。

 

 

 

 

 

 

 

「さーて。お前らもサクっと倒しちゃって、さっさと偽女王のところに――

 

 

 

 

『――警告。敵の脅威度を上方修正。特殊調整個体“ジャミ-L型”、システムを起動します』

 

 

 

 

「…………え?」

 

 聞き馴染みの有り過ぎるその声に、ルミナの全身が一瞬硬直する。そしてそれはこの場において大きな隙となった。

 

「――姉さん! 避けてッ!!」

「ッ!? しまっ――ガぁッ!?」

 

 いつの間にか忍び寄ったゴンズ擬きが、ルミナの横から大金槌を振り抜いていた。呆けていた少女は防御もできずにその一撃を食らい、凄まじい勢いで壁へと叩き付けられる。

 

「かっ……は」

 

 肺から残らず空気が抜け、打ち付けた背中と後頭部が激しく痛む。呼吸とともに脇腹が軋み、もしかすると骨の一本でも折れたのかもしれない。

 

「……ゲホッ……ケホッ。……お、前ら……それは……ッ!」

 

 ……だが今は、今だけは……痛みも苦しさも意識の外だった。目の前にいる二体によって、忘れかけていた過去の光景が、彼女の脳裏にありありと蘇っていた。

 

 

『敵性体7。

 脅威度:中――5、

 脅威度:大――1、

 脅威度:極大――1。

 背後の個体群は脅威度:小と判断。前面の7体を優先排除の後、残敵の掃討を行います』

 

『提言受諾。内部魔力弁開放。神経接続異常なし。――全システム、正常に起動しました』

 

 

 

 

 

 

 

 

『『――これより、敵を殲滅します』』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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