転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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21話 男子、三日会わざれば

 

『……姉さん、最近いろいろと無茶しすぎじゃない?』

『え? 無茶って何が?』

『何が、じゃないよ。一人で敵の群れに突撃するわ、怪我の回復より攻撃を優先するわ……。見てて心臓に悪いからもう少し自重してよ』

『えー、別に大丈夫だろ? 最低限の安全マージンは確保してるぞ?』

『…………この前も腕を噛みちぎられそうになって、どの辺が安全を確保できているって?』

『うぐッ。あ、あれはその、ちょっと目測を誤ったというか……やる気が空回ったというか……。で、でも大抵はベホマで治るんだし、そこまで心配しなくても……』

 

『…………』

 

『…………う』

 

『………………』

 

『ッ……わ、わかった、わかったよ! 今度からなるべく気を付けるようにするから! だからその顔やめて……ね? ね?』

 

 

 

『…………約束したからね? じゃないと、僕――』

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

「ッ――!? リュカッ!!」

 

 気絶していたのはほんの十数秒のことだっただろう。しかしルミナにとってその束の間は永遠にも等しい時間に感じられた。

 

「リュカッ……どこだ!?」

 

 今も色濃く残る熱気と、所々で激しく立ち昇る炎。揺れる視界の中、ルミナは身体の痛みなど無視して立ち上がった。気絶する間際に覚えているのは、生まれて初めて見る、苦痛に歪んだ弟の顔。彼女は焦燥とともに辺りを見回し、走り回り……そして発見した。

 

 

 ――急げ! 早…………を……!

 ――回……魔……全員で……!

 ――……薬を……ありったけ……!

 

 

「……ぁ」

 

 ルミナが造り上げた氷壁の傍ら。

 おそらくリュカが切り裂いたであろう通り穴の近く。

 大勢の兵士が集まり何事かを叫んでいた。彼らは切迫した様子で慌ただしく駆け回っており、何か非常事態が起きていることは明白だった。

 

「おい、ルミナ! お前の方は平気なのか!? どこか怪我はッ?」

「神官! 念のため彼女にも回復を!」

「………………」

 

 イオナズンの激しい熱線と衝撃を浴びながら、彼女自身はこうして、さほどダメージを負っていなかった。

 ……その理由も明白だ。

 あの瞬間リュカが、最上級魔法から身一つでルミナを庇ったから。防御魔法をかける暇すら惜しみ、その全身を使ってルミナの身体を覆ったからだ。

 ゆえに――その身代わりとなった彼の身体が、無事で済むはずがなかった。

 

「クエーッ! クエーッ!」

「大丈夫だ、お前の主人は助けてやるから!」

「ローテーションで回復魔法をかけ続けろ! 魔力が切れた者は下がって魔法の聖水を!」

「俺たちはいくらブッ倒れてもいい! なんとしてもこの人を救うんだ!」

 

 

 

「ッ……!」

 

 横たわるリュカの容態は酷いものだった。

 背中は火傷どころか皮膚全てが炭化し、ときおり身体が震える衝撃だけでボロボロと崩れ落ちていく。瞳が閉じられた顔は透けるほど青白く、頭部からは激しい流血、呼吸は今にも止まりそうなほどに弱弱しい。

 

「ぁ……ぁぁ……」

 

 比喩表現でもなんでもない死にかけの状態。

 初めて見る弟の無惨な姿。

 その光景が7年前の父の姿と重なり、ルミナの意識は千々に乱れ……薄く、遠くなっていく。

 

「……ナさんッ! …………かり…………丈夫です……!」

「……い! …………るか!? ……が…………から……!」

「…………て! すぐ…………、……せて……ろに……!」

 

 仲間たちの声は耳を素通りし、彼女の意識は深く己の内に沈んでいく。

 心の底から湧き上がる自己嫌悪に塗れ、深く深く溺れていく。

 

 

 

 

 

 

 

(…………守れなかった)

 

 

 

 ――また自分のせいで、家族が死にかけた。

 

 

 ――また自分のせいで、弟が傷付いた。

 

 

 

(……俺が……弱かったから)

 

 

 

 ――自分が間抜けにも、敵に捕まったから。

 

 

 ――自我を浸食されるのを恐れて、“覚醒”を使うのを躊躇ったから。

 

 

 ――大切な人の命よりも、自分の身を優先したから。

 

 

 ――そのせいでまた、家族が死にそうになった。

 

 

 澱のように積み重なった罪悪感はやがて、一つの結論を導き出す。

 

 

「……殺さ、なくちゃ。……あいつらを……今すぐに」

 

 後ろを振り返る。

 光を失った瞳のまま、茫洋とした視界の中に奴らの姿を捉える。

 崩れかけの身体で床に這いつくばりながら……、しかし今も変わらぬ戦意を湛える二体の魔族を、感情の映らぬ瞳で凝視する。

 

『『GRUUUUU……ッ!』』

「……あいつらを、殺さないと……また、誰かが死ぬ。……大切なものが、奪われる」

 

 ……ならばあの力を使って、今度こそあいつらを殺す。

 次に何かを奪われる前に、圧倒的な力で全て滅ぼす。

 その影響で身体がどうなろうが……、心をナニカに浸食されようが……、後のことなどもう知ったことか!

 

「……殺す。……何に代えても、……一刻も早く……貴様らを!」

 

 ――両腕を失い、今にも身体が燃え崩れそうなゴンズ擬き。

 ――全身がひび割れ、至る所から滝のように血を噴き出すジャミ擬き。

 奴らが待ち受ける場所へ、一歩一歩近付いていく。

 身体中の力全てを、胸の一点に集中する。

 少女の全身から光が溢れ……やがて脳内に響いてくるのは、あの声。

 

 

『――感情値が規定の値を超えました。――起動準備完了。――操作権限を移行してもよろしいですか?』

 

 

「…………、ああ」

 

 数年ぶりに聞くその無機質な声に、ルミナは躊躇なく自らの身を投げうった。

 

「残さず持っていけ! ――奴らを殺すために、私の全てをッ!!」

「!? ルミナさん、何を!?」

「やめろルミナ! それを使ったらお前の身体がッ!!」

「知ったことかッ!!!」

 

 

『提言受諾。全リミッターを解除。――操作権限を移行します』

 

 

 ――3。

 

 

 ――2。

 

 

 ――1。

 

 

『エリミネートシステム、起動。――――これより、敵を殲滅します』

 

 

「ルミナッ!!」

「ルミナさん!!」

「ッ!!」

 

 

 そして白銀の少女は、再び忌まわしい力に全てを委ね、敵の殲滅を開始――

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――スパアアアアーーーーンッ!!!

 

 

「い゛、っだああああーーーッ!!?」

 

 ――開始することなく、後頭部を思いきりド突かれて跳び上がっていた!

 

「だ……誰だ!? 何すんグぇエええッ!?」

 

 振り返ったところで両こめかみを掴まれ、今度は額にガツンと衝撃! 前と後ろから強力な一撃をもらったルミナは、涙目になりながら目を凝らし、そして見開く。

 

 

 

 

 

 

 

「――何やってんのさッ!! この馬鹿姉ッッ!!!」

 

 

 

 

 

 

 

「ぇ…………リュ……カ……?」

 

 至近距離で目が合ったその顔は誰あろう、今しがた倒れていたはずのリュカであった。激しい痛みに表情を歪め、脂汗を浮かべながらも、彼ははっきりと意識を保ったまま立ち上がり、ルミナの元まで駆け寄ってきていたのだ。

 

「リュ、リュカ!? 無事だったんだな、良かグふぇッ!?」

 

 ――が、喜びも束の間。リュカはもう一度姉の頭に手を添えると、再度その額に頭突きを叩き込む。負傷とは違う理由ですわった目を細め、涙目のルミナの顔をジロリと覗き込む。

 

「ひぅッ!」

「このアホ姉さん……。前に僕が言ったこと、もう忘れたの?」

「え……え……? ……な、何……が?」

「ッ~~!」

 

 何のことか分からず目を白黒させるルミナに、リュカがくわっと目を見開く。

 

「このポンコツ姉ッッ!! あの“力”はもう金輪際使用禁止だって言ったでしょッ!! 追い込まれて仕方なくならまだしも、今は全然そんな状況じゃなかったでしょッ!? しかも約束破ってまた一人で突撃して怪我してるし! なんでこんな無茶ばっかりするのッッ!!」

「え……ぁ……ぅ……、ぁぅぅ……」

 

 ルミナは忙しなく視線を彷徨わせながら、意味を為さない呻きを漏らす。

 

 ……怒っていた。

 いつも穏やかで優しいリュカが、溢れんばかりの怒気を発していた。初めて見る弟のガチギレに、姉は焦りまくりのしどろもどろ。集中していた力もシリアスな空気も、説教の声とともに全て吹き飛んでいた。

 

「いや、分かってる……」

「え?」

「どうせ姉さん、地下牢で王妃の顔を見て昔のこと思い出したんでしょ!! 父さんが刺される光景がフラッシュバックして、『また大切な人が傷付くかも』って怖がって不安になってたんだ! 最近ずっと浮足立っていた理由がようやくはっきりしたよ!」

「んなッ!? ち、違――ッ!」

 

 ギクリと身体を強張らせ、ルミナは慌てて取り繕おうと身を乗り出す。

 その行動がもう答えのようなものだが、当人としては素直に認めるわけにはいかない。そんな悲劇のヒロインみたいな(恥ずかしい)ことを考えていたなんて身内に知られてしまえば、羞恥心でもう生きていけないからだ。

 

「ななッ、何を言ってるのかな、リュカ!? 俺みたいな不真面目マンがそんなセンチなこと考えるわけが――ッ」

「ダウトッ! 姉さんがちゃらんぽらんに見えて実はメンタルよわよわの()()()()だってことは分かってるんだからねッ! 『自分が弱かったから父さんが傷付いたんだ!』とか、『今度はみんなを守らないと!』とか、『一人で戦って死んだ方がずっとマシだ!』とか、そんな痛いヒーロー気取りなこと考えてたんでしょ!!」

「はぅあッ!?」

「僕には散々『気にするな』とか『元気出せ』とか言っておいて、自分だけは勝手な罪悪感でウジウジ気に病んで! 似合わないからやめなっての! 姉さんの役柄は悲劇のヒロインなんかじゃなくて、笑い担当のオチ要員でしょうが!」

「ひぐぅッ……!」

 

 言いたい放題に罵倒されて涙目になり、次いでルミナは震えながら唇を噛んだ。正直8割くらいは的を射た指摘だったが、いくら真実でも言って良いことと悪いことがあるのだ。

 ヒトがせっかく無意識に見ないふりしていたモノを、無遠慮に暴いてくれやがって!

 

「うぅう、うるさい! 俺だっていろいろ悩んで頑張ったんだ! 克服しようと努力もしたんだ! ――仕方ないだろう、トラウマになっちゃったんだから! 父さんのあんな姿思い出したら、みんなを危険な目に遭わせたくないって思っちゃうのもしょうがないだろッ! なら一人で戦うしかないじゃな――」

 

 

「うるさいバギクロスーーーッ!!!」

『『GUAAAAAーーッ!?』』

「うぇええーーッ!?」

 

 久々の姉弟喧嘩が始まろうとした矢先、リュカが右拳を突き出した。狙いは当然ルミナ――――ではなくその後ろ。少女の背後に忍び寄っていたジャミ擬きたちが、上級魔法の暴風に巻き上げられて天井を突き破っていく。

 敵の接近に気付かなかったルミナが驚く間に、二体の魔族は上空でズタズタに切り刻まれ、やがて城の中庭へと落下した。

 

「バギ!」

『『GUGYAッ!?』』

「ヒェッ!?」

 

 追加とばかりに放たれた風魔法。圧縮された空気の刃は、魔族の頑丈な首をいとも容易く斬り飛ばした。一瞬の痙攣の後に両手足が地面に落ち、恐ろしい生体兵器はついに完全に沈黙した。二体がすでに消耗していたことを差し引いても見事な手際、鮮やか過ぎる秒殺劇だった。

 

「う、そ……。お、お前……いつの間に、バギクロスなんて……」

「使えるようになったのはつい最近だよ。……奴隷時代に習得できていれば、姉さんにももっと信頼してもらえたんだろうけどね」

「へ……?」

 

 戦果を挙げたにもかかわらず、なんとも悔しそうな顔の弟。

 姉はポカンと間抜け面を晒した。

 

「『へ……?』じゃないよ。小さい頃の僕が、何のために死にそうになりながら訓練したと思ってるのさ?」

「な、何のためって、そりゃ…………あ、あれだろ? 男なら誰より強くなりたいとか、そういう若者特有の――

 

 

 

「違うってばッ!!」

「ッ!?」

 

 ビクリと肩を跳ねさせた姉の両手を取り、リュカは必死の表情で訴える。

 

「姉さんといっしょに戦うために決まってるでしょ!! 後ろからサポートするとかじゃなくて、横に立っていっしょに戦いたかったんだッ! あのときみたいに姉さんに全て押し付けて大怪我させるなんて、もう絶対に嫌だったから!!」

「え……あ……。そ……そう、なの……?」

 

 ある日突然、『強くなりたい』と特訓を頼み込んできた弟。

 てっきり思春期男子にありがちな中二的願望かと思いきや、その実、かなり真面目な理由だったようだ。

 ――大切な姉の助けになりたい。

 そのストレート過ぎる想いを素直にぶつけられ、ルミナはむず痒い気持ちで視線を彷徨わせた。

 

「あ、あー……? そ、それはなんというか、感心、だね? ……で、でも、そこまでマジに考えなくても良いっていうか、こっちが好きでやっていたことなんだし別に気にしなくても「気にするよッ!!」――フニャ!?」

 

 リュカはルミナの両頬に手を添え、逃がすものかと再び自分の方へ引き寄せた。

 両の手にグッと力を込めて、『もうちゃんと伝わらないのはゴメンだ』と、触れるほどの距離から姉の顔を覗き込む。

 

「姉さん、どうか覚えておいて……。姉さんが手こずるような相手でも、今の僕ならちゃんと戦えるってことを。そして何より、姉さんを犠牲に助かったところで、僕は全然嬉しくないってことを、ちゃんと心に刻んでおいて!」

「えっ、や、でもッ、弟を守るのは姉の義務で――」

「絶ッ対ダメ! 次にこんなことがあっても絶対に一人じゃ行かせないから!自分を庇って家族が傷付いたらどんな気持ちになるか、姉さんもさっきので分かったでしょッ?」

「う……。そ、それは確かに、申し訳なかったと思うけど……」

「…………。どうしても聞き入れないって言うなら、今度からは僕が前に出て姉さんを庇うからね? それで今回みたいに無茶したら、僕が姉さんより先に死んじゃうから」

「ッ!? な、何をバカなこと言って――ッ」

「『バカなッ』はこっちのセリフだよ! 姉さんはいつも僕にあんな想いさせてるんだよ!? さっきの特攻で僕がどれだけ心配したと思ってるのッ!」

「うぐッ……」

「この際だからはっきり言っとくけど、姉さんがいなくなったら僕、その場で後追いする自信があるからね!? 僕がどれだけ姉さんのこと好きか分かってる!?」

「えっ……い、いや……あの……」

「姉さんが想像してる5倍は好きだからッ!! ていうか姉さんがいなくなったら、僕自殺するより前に精神が崩壊するよ! それくらい大事に想ってるんだからッ!」

「ちょ……待っ……落ち着――」

「姉さん無しの人生なんて僕には考えられないんだよ! ずっとずっといっしょにいたいんだ! これから先、一生かけてでも僕が姉さんのことを守るからねッ!! 分かった!?」

「ッ……わ、わかった! わかったから! 一旦落ち着いて! 近いってばぁ!!」

 

 慣れない状況に頭が茹ってきた姉は、とりあえず心を落ち着けるため弟の顔を押し返したのだった。

 

 

 

 ……どうにも力が入らなかったため、大した距離は稼げなかったけれど。

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なあ、あいつらあれでただの姉弟のつもりなの? 距離感おかしくない?」

「……たぶん、ルミナさんの方はまだ家族愛なんだと思います。リュカさんの方は…………どうでしょう? ちょっと芽生えかけている段階、でしょうか」

「芽生えかけ? アレで? かなり進んでいるように感じるんだが」

「困ったことに……お二人にとってはあれぐらい普通の感覚なんですよ。神殿でも修道院でも旅の途中でも、もうずっとあんな感じでイチャコラと……」

「お、おぅ、そうなのか……。苦労してきたんだな、お前」

「ええ、本当に……」

 

 

 ――オマエカナリハズカシイコトイッテルノワカッテル!?

 ――アネヲシンパイスルコトノナニガハズカシイノサ! ホラ、カイフクスルカラコッチキテ! モットクッツイテ!!

 ――ダカラソウイウトコ!!

 

 

「…………」

「…………」

「……なんか、だんだん俺もイライラしてきたんだが」

「…………ね?」

 

 

 ――その後、突入部隊の任務は滞りなく完遂され、偽女王は民衆たちの前で見事討伐。ラインハットの王権は人間たちの手に取り戻された。

 なお、この歴史的勝利の立役者がとある姉弟だということは有名な話だが……。残りの敵を全て倒したのが、鬼神のごとき力を発揮した一組の男女だという事実はあまり知られていない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ラブ「……出番か?」
コメ「いや、まだ早い」

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