転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった 作:マゲルヌ
○月□日
ビスタ港から出る船に乗り込み、いざ西大陸へ出発! 父さんに連れられて世界を回っていたとき以来、実に10年ぶりの船旅だ。
といっても別に目新しいものはなく、一通り大海原を楽しんだ後は手持ち無沙汰となったので、久々に姉弟でのんびり過ごそうと思っていた。
………………のだが! 緊急事態である!
ラインハットを発った辺りから、何やらリュカの態度が余所余所しい。
偶然目が合ってもササッと逸らしてしまうし、俺が近付くと挙動不審になってどこかへ行ってしまう。『あっ、ボクヨウジがアッタンだー』って、もう少し演技頑張れよ、弟。
……これはアレかな? 10歳辺りで一度発症した『姉ちゃん鬱陶しい期間』がまた来たのかな? 現在15歳=中学生男子だと考えると、反抗期と中二的なアレがいっしょに来ちゃった感じだろうか。あの年頃は家族がちょっと煩わしく感じてしまう時期だし、あんまり姉とベタベタしたくないのかもしれない。
反面、当人の気質は優しい子のままなので、直接文句を言ったりはできず、結果として今みたいに距離を取ってしまうってことなんだろう。
……仕方がない。あまり構い過ぎて悪化してもアレだし、ここは一つ、大人の対応としてソッとしておいてあげよう。
まあ、寝るときは部屋いっしょなんであまり意味ないんだけどね!
今もめっちゃ気まずそうに壁側向いて寝てるw
○月△日
リュカが構ってくれなくて寂しいので、前々からやろうと思っていた修行を行うことにした。
俺の中にいる勇者(仮)がもたらす破壊衝動――すなわち、半覚醒状態での魔物への殺意をコントロールする訓練だ。この第二人格さん……たとえ僅かでも表に出てくるとどうにも抑えが効かず、魔物を過剰攻撃してしまうことが多々あった。このまま放置しておくと、ある日急に仲間モンスターに襲い掛かるなんてことにもなりかねない。
――というわけで、最近距離が縮まってきた(気がする)ピエールとコドランに協力してもらい、『半覚醒状態でも殺意抱かないトレーニング』を開始!
・レベル1:
部屋で寛ぎながら二人と戯れる。 → 余裕。
・レベル2:
戦闘訓練(自主トレ)をしながら二人にそばにいてもらう。 → ちょっとピクっと来たけど、まだ余裕。
・レベル3:
魔物との戦いをイメトレしながらそばにいてもらう。 → ……何か衝動が湧きそうになったけど、なんとか大丈夫。
・レベル4:
これまで忌避していた天空の剣を装備。
→ 『天上の意思』的なものが湧きそうになったけど、根性で吹き飛ばして耐えた! セーフ!
・そしていよいよレベル5(最終段階):二人に相手してもらいながら実際に模擬戦を行う!
コドラン:ブレスを手刀で切り裂いて接近し、顔ギリギリで拳を止める。
ピエール:剣を蹴り飛ばしてそのまま上段回し蹴り、首ギリギリで足を止める。
→ 成功! 二人の顔面はちょっと蒼白だったけど、一応成功! 殺意もほとんど湧かなかったし、ついに俺は感情をコントロールしたぜ! Fuuuuuu!!
(追記)
リュカにバレてめちゃくちゃ怒られた。
『武器を使わなくても万一があるでしょ! メタルドラゴンを素手でブチ抜けるスーパーゴリラなんだからもっと自重して!』って。
言ってることはもっともだけど酷えw
○月×日
すごいことを発見してしまった!
本日のお昼過ぎ、船を襲ってきた巨大タコ型モンスターを半覚醒状態で倒したのだが……、そのとき偶々リュカにくっ付いたまま迎撃したところ、なんとほとんど心が乱れなかったのだ。
――そう、第二人格を使用しても、リュカに触れていれば殺意の波動がかなり抑えられたのだ!
これは朗報だ。仮に暴走しそうになっても、即座にリュカに引っ付けば最悪の事態は防げるということなのだから。(※リュカのモンスターマスターとしての能力が影響しているのだろうか?)
「もういっそのこと、覚醒時は常におんぶしてもらえば良いのでは……?」
そう思って試しにリュカの背中に覆い被さってみた――が、残念ながらこれは本人のクレームにより却下された。
リュカ曰く、『……これじゃ動こうにも動けない』らしい。
あいつの今の筋力なら余裕だと思ったのだが……まあ、無理強いはするまい。しばらく中腰で動けなくなっていたし、腰とか膝を痛めてないことを祈ろう。
○月Λ日
数日間の船旅を終え、明日にはポートセルミに到着する。
ここまでの旅でいろいろ情緒不安定だったリュカも、なんとか普通レベルまで持ち直してくれていた。
曰く――「現実から目を背けてはならぬ。生理現象なんだから仕方ない」――らしい。
なんのこっちゃか謎だったが、悩みが一段落ついたのなら喜ばしいことだ。難しい年頃ゆえ内容について深くは聞くまいが、まあ、次に何か悩んだときにはぜひ相談してくれたらと思う。
……「逆効果になりそうだからいい」ってどういうことだ、コラ。
□月▽日
ポートセルミに到着!
昔から栄えている港町だけあって、多くの人や船が頻繁に行き来していた。これならきっといろんな情報が手に入るだろう。俺たちは新たな手がかりに期待し、父さんや天空の勇者についての話を聞いて回った。
――が、結果は空振り。目ぼしい情報はほとんど見当たらない。
夜の酒場で『勇者様に会ったことがある!』と言ってた爺さんには一瞬期待したのだが……。
『あれは10年以上昔、天空の剣を探す逞しい男に会ったことがあるんじゃ。身なりはボロボロじゃったが国王のような高貴な顔立ち。あの男こそが勇者――パパス様じゃ!』
――って、父さんじゃねえか!!
しかも10年以上前の話なので何の参考にもならないというぬか喜び。さらには喧嘩騒ぎにまで巻き込まれてしまい、もう踏んだり蹴ったりだ。
――『俺たちが退治してやるから、金を寄越しな!』
――『この金は村のみんなから預かった大事な金! あんたらは信用できん!』
もう面倒事の匂いしかしねえよ。
案の定、助けに入ったリュカが農夫のおじさんからモンスター退治を懇願されてしまった。前金で1500ゴールドを強引に手渡されてしまったので、受けるにしても断るにしても一度『カボチ村』とやらには行かなければならん。
ぬあああ、なんて面倒な! これじゃあ、おつかいRPGじゃないか!
□月×日
カボチ村に到着。農夫のオッチャンを見つけて詳しい話を聞いた。
つーか依頼時に詳細くらい教えといてよ、オッチャン。初対面の相手にポンと大金渡して帰ってしまうところといい、どうにも抜けてる感が否めない人だ。
話を聞くと、やっぱり面倒事だった。
ここ数年、村周辺にとにかくモンスターがいっぱい出現するらしい。森に入った村人が襲われそうになったり、畑の作物を何度も荒らされたり、森で出合い頭に追い立てられたり……。
おまけにただモンスターが多いだけでなく、どうもそれを統率するボスまでいるという話だ。そいつがいる限り下っ端をいくら追っ払ってもキリがないそうで、俺たちにはそのボスをやっつけてほしいのだと。
……仕方がない。
思ったより深刻そうな話だったし(※口減らしの話まで出てた)、今回は引き受けてあげるとしよう。
元々リュカが乗り気だった時点で俺には拒否権ないしな!
まったく、頼れるお姉ちゃんは辛いぜ。
……それにしても、そんなたくさんの魔物に襲われてよく今まで死者が出てないな、この村。
前に本で読んだ“ライフなんとか”の村人といい、辺境の人間ってのは軒並み強いのだろうか?
さすがにボストロールを鍬で倒すシーンはフィクションだろうけども……。
□月○日
森の中に入って調査&魔物討伐を開始。
襲ってくるモンスターを片っ端から倒していけば、いずれボスに辿り着けると思いズンズン森の奥へ分け入ったのだが……。
ま~あ、これが多い!
さんぞくウルフ、メタルライダー、ビックアイ、モーザ、ビッグスロースなど、この地方特有のモンスターがひっきりなしに襲い掛かってくる。
いくら山奥だからってこれは多過ぎる。こんなに広大な森なら、普通は縄張り争いが起きないようにもっと広範囲に分かれて生息するはずだ。野生動物ってその辺は案外うまいことやるもんだし。
そんな疑問は森の奥に進んでいく内に解消してきた。
最初はバラエティーに富んだラインナップだったのに、奥に行くにつれて獣型の魔物のみに変わっていったのだ。それも、四足歩行かつ牙と爪の鋭いモフモフ系――すなわち、虎とか豹みたいなヤツばかり。
こいつらは村周辺で戦った魔物たちより数段強かった。おそらくこの獣たちの影響で他の魔物は森の浅い部分に追いやられたのだろう。問題解決のためにはこいつらを群れごと追っ払う必要がある。
やはりボスとの戦いは不可避のようだ。
□月☆日
今日は森の東側を捜索。
村に近いためか、通常のモンスターたちの出現が多かった。
多分敵の拠点はこの辺りではないだろう。残念ながらハズレだ。
代わりに、コドランたちに単独で経験を積ませられたのは良かった。
ピエールがベホイミを覚えてくれて戦闘の安定感が増した。
そして火炎の息が超強い。本格的にドラゴンっぽくなれてコドランもご満悦である。可愛い。
□月△日
森の北側を捜索。
獣系モンスターは多かったが大物はおらず。
どうやら今日もハズレの模様。
……ただ、なんとなくどこかから見られているような感覚があった。
気のせいならば良いのだが、知覚範囲でこちらを上回る相手だとすると、ちょっと危険かもしれない。
□月◎日
森の西側を捜索。今までで一番魔物たちが強く、かつ種類も獣型オンリーだった。確実に本丸へ近付きつつある。
それに伴い謎の視線も強くなってきた。俺だけでなくリュカも、感覚の鋭いコドランやピエールまで感じているため気のせいではないだろう。敵の群れが組織的にこちらを監視しているのか、それともボス自ら出張ってきているのか……。
さらに一部の獣はこちらを発見すると、攻撃もせずに斥候のようにさっさと逃げていく。野生動物が冷静さまで持ち合わせているとすれば相当な脅威だ。
とにかく油断せずに、虱潰しに探していくしかない。
□月Λ日
ここまでの調査で連中の分布範囲はだいたい分かってきた。
おそらく本拠地は森の西側、山間部に近いどこかだ。たぶん明日にはボスの居場所までたどり着けるだろう。
ここまで来ればもう一息。
決戦は明日、しっかり休んで万全の態勢でボスに挑もう。
……うん、きっと大丈夫。何も心配いらない。
だから、明日も落ち着いていこうな、リュカ?
………………。
……………………。
●月○日
……嫌な予感はしていた。
・出現する魔物が虎や豹タイプばかりという点。
・そのどれもが通常モンスターより強く、おそらくボスはさらに隔絶した強さを持っているという予測。
・ときおり感じる視線はこちらを観察するばかりで一切手を出して来ない。
・なおかつその視線に敵意や殺意は感じられず、むしろ戸惑いが伝わってくるという不可解さ。
これらを総合して考えると、つまりは――要するにそういうことなんだろう。
俺はリュカとともに覚悟を決め、森の奥の洞窟へと乗り込んだ。本拠地に入ってますます苛烈に攻め立ててくる獣軍団たち。しかし生憎、こちらには真面目に応対してやれる余裕はなかった……。
殴り飛ばし、蹴り飛ばし、おざなりにブッ飛ばしつつ足早に進んでいく。
曲がり角を過ぎる度、階段を降りる都度、どんどん不吉な匂いが濃くなっていく。
いやな予感が強くなる。
――もうここで引き返した方が良いんじゃないか?
――探したけど見つからなかったで良いんじゃないか?
何度も思う心とは裏腹に、俺たちの歩調はどんどんと速くなっていった。
そして……もっとも匂いが色濃くなる洞窟の最奥。最後の階段を降りたその先の空間に“そいつ”はいた。
人肉など容易く切り裂く牙と爪。
刃物すら弾き返してしまう黄金の体毛。
見る者を威圧する堂々たる体躯。
血に飢えていると一目で分かる獰猛な目つき。
激しく威嚇する唸り声とともに、そいつは乾草の絨毯から立ち上がった。
そう、そこには……、
――体長10メートルを超える、ライオン型
……。
…………。
………………。
「いや、プックルじゃないんかいッ!!」
丁寧なお膳立てからの見事な逆張りに、俺は全力でツッコんだ。