転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった 作:マゲルヌ
「なあいいだろ? 今晩食事に付き合ってくれよ」
「悪いわね、その時間も仕事なの。他を当たってちょうだい」
ガヤガヤと賑やかな酒場の隅で、女性店員がしつこく口説かれていた。
客入りも落ち着いてきたお昼過ぎ。手隙になった彼女を目敏く見つけ、客の一人が粉をかけ始めたのだ。
「おいおい、嘘はいけないな。その時間に君がフリーだってことは分かってるんだぜ?」
「……なんでアンタがそんなこと知ってるのよ」
「はっはっは、マスターから聞いたんだ」
「ちょっとマスターッ、なんで話しちゃうわけッ?」
カウンター奥に向かって非難がましく問うと、しれっとした顔で答えが返って来る。
「ふふ、いいじゃないか、こんなに情熱的に口説いてくれてるんだ。一度くらい付き合ってやったらどうだい?」
「お断りよ。私にそんな趣味ないわ」
彼女の反応はにべもない。
「そんな! 俺のどこがダメだって言うんだ!」
「いや、どこって……ねえ?」
本気で悲しそうな顔を見せられてしまい、彼女の気勢がやや削がれる。
そりゃあ彼女だって、魅力的だと言われて悪い気はしなかった。このお客に対しても、別段悪感情を抱いているわけではないのだ。
顔立ちは文句なく整っているし、金払いや態度もきちんとしている。忙しいときは無理に絡んで来ないし、彼女が本当に嫌がるような誘い方もしてこない。
世間一般の常識に照らし合わせてみれば、なかなかの優良物件と言えるのだろう。ときおり見せる艶のある仕草には、悔しいがドキッとさせられたこともあった。
だがそれでも――いや、だからこそ――この誘いを受けるわけにはいかなかった。いろいろ世間体が悪そうな気がするし、なんなら自分の方が道を踏み外してしまいかねない。それはもうアウトだ、間違いなく大問題。
よってここは、断固として突き放さなければならないのだ。
「頼む、教えてくれ! 悪いところがあれば直すから! 俺はやるときはやる男なんだぜ!」
だが目の前の必死なお客は、どうにも諦めてくれそうにない様子。
ゆえに――
「ふぅ……。じゃあ言わせてもらうけどね?」
「あ、ああ!」
「私がアンタの誘いに乗らない理由。それは――」
「そ、それは!?」
眼前に詰め寄ってきた相手に対し、彼女はその答えを言い放ったのである。
――アンタが『八歳の子ども』で……、しかも『女の子』だからよ、ルミナお嬢ちゃん。……ほら、片付けの邪魔しないで。
「……ですよねーー」
これ以上ない正論を叩き付けられ、銀髪ナンパ美少女(8)はカウンターに突っ伏した。右手に持ったミルク入りグラスが、なんともアンバランスな哀愁を誘っていた。
その哀れかつ可愛らしい姿に、見守っていた酔客たちから笑い声が巻き起こる。
「ぶはははは! またフラれたな、ルミナ! これで何度目だ!」
「先週もやってたから四回目だな。毎度毎度よく飽きないもんだ」
「あのへこたれない根性だけは俺らも見習わないとなあ」
「いや、実はあの娘、冷たく袖にされるのが癖になってるって噂も……」
「おいおいホントかよ。将来有望過ぎるだろ」
「なら何度フラれても美味しいな! おーいルミナー、明日からも頑張って玉砕しろよーー!」
「「だははははは!」」
「うるせえええ! 美味しいわけあるかッ、この酔っ払いどもがああ!!」
「お、生き返った」
「今回は早かったな」
笑い声と野次により復活したルミナが、テーブル席目掛けて突っ込んでいく。その鋭い視線は、己を散々煽ってくれたオヤジどもへ向けられていた。
「傷心の子どもをからかって酒の肴にするとは許すまじ! 今こそ裁きの鉄槌を受けるがいいッ!」
可愛らしい叫びとともに憎しみの正拳突きが放たれる。子どもとは思えない鋭さを秘めた必殺の拳。それは一直線に男たちへ迫り、
「うおっと! だははは、まだまだ元気じゃねえか!」
あっさり避けられ、そのままヒョイと抱え上げられた。父の喧嘩友達は伊達ではなかった。
「うがあああ!! 離せこの筋肉ダルマあああ!!」
「がっはっは。この肉体の美しさが分からないようじゃ、まだまだモテ男にゃ程遠いな」
「むきいいい!! 自分は嫁さんいるからって余裕かましやがってええ! 羨ましいんじゃボケえええ!!」
襟首を掴まれてジタバタするルミナを見て、再び笑声が弾ける。
女好き幼女が酒場の美女に言い寄り、軽くあしらわれては落ち込み、最後は客へ飛び掛かる様を見て皆で笑い合う。
ここ、サンタローズ村で今や定番となっている、微笑ましい日常の一コマであった。
◇◇◇
○月×日
えらい久しぶりになるが、今日からまたチマチマ日記を書いていこうと思う。
あの出会いからおよそ二年が経った。俺はなんやかんやでリュカたちと同行することになり、このサンタローズ村で彼らと暮らし始めていた。故郷(?)の森を出て、わざわざ二人に着いてきた理由は――――これと言って特にない。
強いて言うなら“強く勧められたからなんとなく”だろうか?
……決して何かに絆されたとか、家族が欲しかったからとか、ましてや単純に寂しかったとかそういう軟弱な理由ではないので、そこんところ誤解のないように。
まあ実際、この村での暮らしは悪くない。
見た目そのまんまに長閑なところで、住民たちの気質もとても大らかだ。余所者の俺に対しても優しいし、何より、この翼を見ても特に騒がれないのがありがたい。
何か言われるとしても精々、『夏の夜とか暑くない?』と心配される程度だし。『……いや、もうちょっと何かあるだろ』と逆にこっちが困惑するぐらいだ。
結論として、今の生活には概ね満足しているということである。
……。
…………。
………………。
――だがしかぁし!
現状で唯一、俺が看過できない問題がある。今後の人生すら左右しかねない、俺の根幹にも関わってくる重大で深刻な問題だ。
それは何かってーと……
――皆が皆! 『俺を女の子扱いしてくる』ということだ!
父さんからは“娘扱い”、リュカからは“姉扱い”、そして村人からはなぜか、“頭が残念なアホの娘扱い”だ! 今日みたいにナンパしようとしても、マセた子どもの戯れとして軽く流される始末だし……。
このままでは、俺が新たに定めた人生の目標――『グータラ生活を送るため、養ってくれる女の子を探そう作戦!』もあえなく頓挫しかねない。なんとも由々しき事態である。
ええい、こんなことで俺は屈しないぞ! 実りある人生を送るためにも、何としても素敵な彼女をゲットしてやるのだ!
差し当たっては明日、話に聞いていた『ビアンカちゃん』がウチに来るらしいので、早速アプローチをかけてみようと思う。父さんやサンチョさんの話では“すごく可愛い女の子”とのことなので、今からとても楽しみだ。
ククク、見てろよ、父さん……。
貴方がどんなに女の子扱いしようが、俺は絶対に男の矜持を捨てねえからなッ!
○月△日
悲報:ビアンカちゃんが八歳の幼女だった件。
………………。
……うん、そりゃそうだ。
リュカの幼馴染って話だったし、そりゃ当然同じくらいの年代だわ。
さすがの俺も、幼女相手にナンパするほど節操なしではない。恋愛対象は普通に十代後半以上だしね。
というわけでここは十年後に期待して、『まずはお友達から始めましょう』というところなんだけど……。
『……あなたが、リュカのお姉さん?』
『お、おう。そう……だけど?』
『ふーーーーん?(ジロジロジロジロ)』
『え、えっと……?』
『――フン、何よッ! がさつでうるさくて変な喋り方で、その上膝に石乗せて正座してるおかしな人じゃないの! 全然“良いお姉さん”じゃないわねッ!』
『お、おおぅ?』
『ほら、リュカ! こんな人は放っておいて、あっちで私と遊びましょう!』
――初対面のビアンカちゃんになぜか嫌われており、出会い頭に罵られてしまった。
さらにその後も……。
彼女は二階でリュカと遊んでいたと思ったら急に駆け下りて来て、石抱き中の俺の膝(※酒場で暴れたのがバレてお仕置き中)を踏ん付けると、そのまま家を飛び出して行ってしまった。……地味に痛い。
『い、一体何ゆえ……?』と、床に転がったままリュカに事情を聞いてみれば、理由はすぐに判明した。
なんとリュカのヤツめ、ビアンカちゃんと二年ぶりの再会だったのに、俺の話ばっかりしていたらしい。『お姉ちゃんはすごいんだよ~』とか、『優しいんだよ~』とか……。
……いやまあ、そこまで慕ってくれるのは正直嬉しいんだけどさ。
さすがにそれじゃ彼女が不機嫌になるのも無理ないぞ。久しぶりに会った幼馴染が他の奴の話ばかりしてたらな……。
察するにビアンカちゃんは、ポッと出の俺が姉ポジションにいたのが面白くなかったのだろう。加えて、リュカがずっと俺の話ばかりするもんだから、とうとう我慢の限界を超えて出て行ってしまった……と。
まあ六歳の男子に、女の子の繊細な気持ちを理解しろというのも無理な話か……。仕方ない、ここは一つ経験豊富な俺が間を取り持ってあげようじゃないか。
とりあえず明日は雑貨屋へ行って、女子が喜びそうな品を何か見繕ってやろう。
女なんてのは基本、プレゼントさえ貰っとけば喜ぶ生き物だからな。特別な贈り物を渡しながら、ちょこっと神妙な顔で謝っとけば、幼女なんてイチコロよッ!
――ということを、リュカに懇切丁寧に説明してやってたら、なぜか父さんに溜め息を吐かれた。
……あの残念なモノを見る目は、一体何だったのだろうか?
○月□日
……疲れた。
……とても疲れた。
今日はもう体力使い果たしてボロボロである。
今朝方早く、俺とリュカは昨日考えた作戦を実行するため雑貨屋を訪れていた。しかしそこで店員の兄ちゃんから、『親方が洞窟へ行ったまま帰って来ない』という話を聞かされたのだ。
道具作りのできる親方がいなければ、せっかくの“プレゼント作戦”も断念するほかない。
――というわけで仕方なく、俺たちは洞窟アタックを敢行する運びとなった。
首尾よく親方を助けられれば、『タダで品を貰えるかも』という狙いもあったし、何より彼は、ビアンカパパの薬作りも請け負っているらしいのだ。これを我々が助けたとなれば、彼女からの好感度もグーッと上がること間違いなし。まさに一石二鳥の作戦であった。
ルミナ:はがねのつるぎ リュカ:かしのつえ
みかわしのふく うろこのよろい
てつのたて かわのたて
けがわのフード けがわのフード(お揃い)
我々は装備を整え、いざ、洞窟内へ!
この程度のダンジョンに今さら苦戦するわけもなく、探索は順調に進み、やがて地下二階層で親方を見つけ出すことに成功した。
――が、ここで緊急事態が発生!
なんと俺たちの後ろをビアンカちゃんがコッソリ尾けてきており、見つかった途端、慌てて逃げてしまったのだ。どう見ても普段着のままで……、大人が付いている様子もなく、たった一人で洞窟の奥へ……。
その走りっぷりは意外と速く、俺たちがポカンとしている内に、彼女はあっという間に暗闇の中へ消えてしまった。
……いや、もうね? 本気で焦りましたとも。
いくらサンタローズの魔物が弱いとはいえ、それはいろんな場所で戦ってきた我々にとっての話。普通の女の子が闇雲に走って魔物に遭遇してしまえば、確実に命を落としてしまう。
俺は急いでリュカを背負ってその場を飛び出すと、洞窟内を文字通り飛ぶように探し回った。翼を広げて暗い坑道を東奔西走……。
そして数分後、ようやくビアンカちゃんを見つけたとき、彼女は魔物の群れに囲まれ、あわや大惨事という寸前だった。
………………。
……もう焦った。……死ぬほど焦った。――軽くトラウマ蘇りかけた。
慌てて魔物どもを蹴散らして、一も二もなくビアンカちゃんを奪還。……腕の中で泣いている彼女を見て罪悪感が溢れ出し、そのまま抱き締めて全力で謝り倒した。
……そうだよね。喧嘩した後に俺らだけで出かけていたら、仲間外れにされたと思って不安になるよね、ホントごめんよ……。
幸いビアンカちゃんに大きな怪我はなく、彼女自身も仲直りがしたくて追いかけてきたようだったので、空中で皆で『ゴメンナサイ』し合って、今回の騒動は無事一件落着となったのである。
……まあその後は、子どもだけで洞窟に行ったことがバレて、三人仲良く拳骨&正座を食らったんだけど……。
痺れた足をつつき合いながら、改めてビアンカちゃんと仲良くなれたので、結果オーライということにしておこう。
……しかしビアンカちゃん、いつの間にか俺のことを『お姉様』って呼んでたんだけど、あれはどういう意味なんだろう?
あの子、自分が『お姉さんポジション』になりたかったわけではないの?
でも、リュカのことは変わらず弟扱いしてるみたいだし……。
『お義姉ちゃんって呼んでも良いのよ、リュカ。……あっ、ちゃんと“義”は付けてね?』――って。
……“
やっぱ女の子って謎だわ。
ヒキニートからヒモ狙いへ転職。
順調にダメ人間化が進んでいる主人公です。
……このまま幸せになってくれるといいなぁ。