転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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29話 跡を濁さぬように……

○月×日

 

 いやあ、焦った! てっきり結婚話は立ち消えになると思っていたのに、まさかフローラの方からOKしてくれるとは……。

 水のリング探しを応援されたときは意図が分からなかったが、あのときすでにリュカのことを好きになっていたのか。顔に出ないから全然気付かなかったわ。

 まあ予定とは違ったけど、難癖付けてルドマンさんに盾だけ強請るのはさすがに図々しいと思っていたし、円満に収まってよかったかな? リュカに優しいお嫁さんもできて俺としても大満足だ。

 

 結婚式はいつ頃になるんだろう?

 招待客のことも考えると今すぐって訳にはいかないから半年後くらいか?

 となると、俺たちの旅もそれまで中止しないとな。いくらなんでも花嫁予定の女の子をほったらかして旅を続けるわけにもいかない。式までに仲を深めておいた方が良いし、関係各所への挨拶回りも必要だ。

 一般家庭出身のリュカを快く思わない奴もいるかもしれないし、今の内に後ろ盾やコネを作っておくようしっかり言い含めておこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

 

 大富豪の娘であるフローラの結婚はかなりの大ニュース。いきなり発表すると混乱が生じる恐れがあるので、まだしばらくは伏せておくらしい。その間に近しい関係者へ根回しをしたり、リュカに必要な教育だか特訓だかを行うそうだ。

 なるほど、確かにそれが良いかも。リュカは良い男だし、父さんからキチンと教育も受けているけど、上流階級の作法とかはあまり知らないからな。

 商人の法律とか慣習とか、貴族社会との付き合い方とか、違う世界の常識をしっかり学ぶと良いだろう。

 

 

 

 ならその間に俺だけでも旅の続きに出よう――と思っていたら、なんか俺もいっしょに授業を受けてほしいと言われた。

 できれば父さんの捜索を続けたかったんだが……、先方に強く勧められては断るのも申し訳ない。花婿の姉が無教養だと思われては確かに外聞も良くないし……。

 仕方ない。ここは未来の義妹の顔を立てるとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▽日

 

 フローラとリュカと俺と、ついでにビアンカもいっしょに授業を受けている今日この頃。

 

 ……良いのかな、コレ?

 

 別に嫌じゃないし、むしろ幼馴染もいっしょなのは嬉しいんだけど、新婚さんの教育にプラスアルファで二人も加わるのはいかがなものか?

 教える先生も何も言わないし、俺から文句を言うのもなんか気が引けるから黙っているけども……。

 

 あと内容がテーブルマナーとか刺繍とか音楽とか、妙に花嫁側に偏っているのもなぜ? その辺りフローラはすでに完璧なはずだし、今はリュカの商人教育の方に力を入れるべきでは?

 どちらかというと俺もそっちの授業の方が興味あるんだが。

 

 まあ、修道院で教わったスキルを披露すると褒めてもらえるから楽しいっちゃ楽しいんだけど。

 ……最終的に俺が一番重点的に指導してもらっているのはどうなんだ?

 

 なぜにフローラさんはそんなに嬉しそうに指導なさっているの?

『良かった! ちゃんと女の子なんですね!』って、それ褒められてるんですか?

 

 

 そしてビアンカよ、『ルミナに……負けた!?』とはどういう意味だ、コラ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月☆日

 

 今日も今日とてみんなで授業。本日はダンスのレッスンなり。

 さすがにこれはやったことがないので俺もリュカも苦労した。

 ステップとか、リズムとか、相手との呼吸の合わせ方とか、今まで経験がないので探り探りである。

 

 ただ、リュカが花嫁(フローラ)とペアでレッスン――は良いんだけど、なんで俺まで女パート? 流れ的に俺とビアンカで組むと思っていたのに、リュカ一人で女三人相手の三連戦ですよ。

 まったくリュカめ、これから結婚しようという身で他の女の子まで侍らすとはなんて剛毅な!

 

 

 

 ま、お前と一番呼吸が合ってたのは俺だけどな!

 美女二人を差し置いて俺なんぞと相性が良かったことにガッカリするがいい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月§日

 

 今日はルドマンさんご夫妻といっしょに食事をした。

 こっちは弟の婿入り先に転がり込んでいる居候の身。御当主さまと顔を合わせるのはちょっと気まずかったのだが、本人たちは全く気にせずもてなしてくれた。

 特に奥さまからは過剰なほどに感謝をされた。

 

『あまり自分の意見を主張してこなかったフローラが、初めて私たちに本心を話してくれたわ。ありがとう』――と。(ルドマンさんは苦笑いというか、バツが悪そうだったけど)

 

 どうやらフローラとルドマンさんの話し合いはうまく行ったようだ。

 当初押し付けられた婿選びには辟易としていたみたいだが、お父さんとよくよく話し合い、その上でリュカとの結婚を決めたのならば何よりの結果だ。

 

 

 俺も心から   うれしく思う

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◇日

 

 なぜか小旅行に行くことになってしまった。

 ルドマンさんの家系では結婚が決まったとき、夫婦でとある場所に旅する習わしがあるそうで……。山奥の村の西に浮かぶ小島、その中ほどにある祠にお参り(?)するのが通例らしい。

 

 ・新たな当主としてやっていくだけの体力があるか?

 ・夫婦で協力して難題に挑めるか?

 

 そういった資質を確かめるための試練であり、なぜかその旅に俺もついてくるよう頼まれたのだ。

 

 

 ………………。

 

 いや、それって二人で行くものなんじゃないの?

 なぜに俺もビアンカも加わって和気藹々とピクニックみたいに準備をしているの?

 そう尋ねたら、『みんなで行く方が楽しいから』って、……やっぱいろいろズレてんな、この子たち。

 

 ……仕方ない。断わっても聞きそうにないし、リュカたちが夫婦として絆を深める良い機会だと捉えよう。

 俺とビアンカがいろいろお膳立てして、愛のキューピッドになってやろうじゃないか。

 

 

 

 ……なんで微妙な顔をするのだ、マイ幼馴染。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◎日

 

 ちゃんと旅ができるかを確かめる試験なので、ルーラは使わず船で出発した。

 途中までは水のリング探しで一度通った航路。特に危険もないため、初心者のフローラも安心して旅に慣れることができるだろう。

 

 なので、ここらでリュカとフローラを接近させて距離を縮めさせたいところ。

 魔物との戦いでリュカの頼りがいを感じてもらったり、夫婦(※予定)で同じ部屋で過ごしてドキドキを味わってもらったり……。

 旅先のフワフワテンションを利用して、若い二人の仲を一気に進めていこうじゃないか。

 

 

 

 ――って思ったのに、うまくいかなーーい!

 魔物との戦いでは俺とリュカがいつものツーマンセル。

 モンスター組には遊撃として動いてもらい、フローラはビアンカにフォローされながら、後ろから支援魔法や攻撃魔法で的確に援護。

 これ以上ないほどフォーメーションは安定した――けど、そうじゃない。

 

 夫婦になる二人のための試練なのに、なんでいつものコンビ(俺とリュカ)がメインで戦っているのか。

 

『一番安全な作戦を取るのは当然じゃない?』って言われればそうだけど!

『リュカさんは本当に頼りになる殿方ですね!』ってその通りだけど!

 

 それを一番近くで見てほしいのは君なのよ、フローラ!

 

 

 

 

 

 

 

(追記、夜)

 

 で! 船室も俺とリュカがいっしょだし!

 

 違うでしょッ? そうじゃないでしょッ?

 ここはご夫婦でいっしょの部屋に泊まって、嬉し恥ずかしドキドキイベント発生するところでしょ!?

 

『厳密にはまだ未婚だから男女二人きりになってはいけないのよ。ほら、お嬢様的に』とビアンカ。

 そりゃそう言われればそうだけどさぁ……。

 

 

 

 なんかみんな……、妙に俺とリュカを二人きりにさせてないか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

 

 あれから船旅は続いているがキューピッド作戦はやっぱりうまくいかない。注意してよく見ていると、フローラもビアンカもさり気なく距離を取ってリュカと俺をいっしょに居させようしている。

 一体どういうことなんだ?

 と、その理由をずっと考えていたが、今日ようやくそれに思い至った。

 

 

 ――そう。あの子たちはみんな、俺に対して気を遣ってくれていたのだ。

 これ以降の父親探しの旅を、俺が一人でやらなければならないことに対して。

 

 

 リュカがルドマンさんの跡継ぎになるということは、大商人の仕事を引き継ぐということ。その下にはたくさんの部下とその家族がいて、傘下にはさらに大小様々な商会とその従業員たちがいる。

 多くの人の生活がかかっている重い立場。それを放って個人の旅に行く暇なんてあるだろうか?

 

 ――答えは否だ。これから半年の準備期間だけじゃなく、結婚式が終わってからも二度と旅に出る暇なんてあるわけがない。当然、プックル、ピエール、コドランも主であるリュカの元に残るだろう。

 

 つまり……俺とリュカは、もういっしょに旅なんてできないってことだ。

 

 みんなはそのことに気付いて俺を気の毒に思い、こうやって授業や旅行の名目で引き止めてくれたのだ。優しいあの子たちらしい気遣いで、それ自体はとても嬉しく感じている。

 

 

 

 ……けれど、それは良くないことだ。

 リュカが幸せになってくれるのが俺の一番の望みなのに、自分がその足を引っ張っていては本末転倒だ。

 姉弟とは成長していけばいずれ離れていくもの。ならばこれをいい機会と捉えて、ここらでスパッと距離を取るのが最善だろう。

 

 しばらくは寂しい想いもするだろうけど、優しいお嫁さんもいるし、気心の知れた友達も近くにいる。頼りになるモンスター(仲間)たちもずっとそばについている。

 ……だからきっと、リュカは大丈夫だ。

 

 

 

 俺もそろそろ弟離れの時期ってことなんだろう。

 なに、問題はない。故郷の森では元々一人で過ごしていたんだ、きっとすぐに慣れてくれるさ。

 だから俺の事なんか気にせずに、リュカには自分の幸せだけを考えてほしい。

 

 

 いっしょの旅はこれが最後。

 明日こそちゃんとそう伝えて、スパッと切り替えてまた次の旅に出よう。

 

 

 大丈夫……。

 

 

 

        俺は一人でも

 

 

 

                  また頑張れる

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 ●月×日

 

 …………あーー、もう。

 

 なんでこうなるかなぁ?

 

 精神年齢は俺の方がずっと高いはずなのに、こういうときに全然うまくやれない。

 

 

 

 

 最後がまた喧嘩別れって、さすがに凹むなぁ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ああでも、一応目的のものだけは記録しておかないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――壺の中身 : 濃い赤色。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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