転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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35話 追い詰め過ぎるとヤバイことになる

 

 

 ――神経回路へ魔力を注入。

 

 

 

 ――基底状態にある人格を励起します。

 

 

 

 ――魔力弁開放。圧力値120で注入を開始。

 

 

 

 ――同調率…………、8%。

 

 

 

 ――13。

 

 

 

 ――16。

 

 

 

 ――17。

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 ――エラー。

 

 

 ――同調率が上昇しません。

 

 

 ――起動に失敗しました。

 

 

 ――条件を変更した上での再試行を――

 

 

 

 …………。

 

 

 ………………。

 

 

 ……………………。

 

 

 

『ダメですね。指定人格が目覚める気配、依然としてありません』

 

『チッ、また失敗か……。もう何度目だよ?』

 

『仕方がありませんよ。なにぶん初めての試みですし』

 

『もっと強い刺激が必要なのではないかね? 魔力の純度を上げて、圧も強めてみるのはどうだろう?』

 

『それだと……おそらく肉体の方がもたないかと。今もかなり無茶していますし……』

 

『へッ、どうせ再生するんだから気にしなくてもいいだろ? それより、もっといろいろ条件変えてやってみようぜ』

 

『いや、しかし――』

 

『私も同感だ。さっさと成果を出さないと我らの方が先に粛清されかねん』

 

『…………そう、ですね。わかりました。では追加の魔導回路を準備してきます』

 

『おう、急ぎでな』

 

 

 

 ………………。

 

 

 

『クククッ、伝説の勇者様がモルモット扱いか。人間なんざどうなっても構わねえが、さすがにこれには同情しちまうぜ。――――なあ、■■■■ちゃんよ?』

 

 

 

 

 

 

 ……。

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月×日

 

 なにやら夢見が悪かったため、朝から日記を書いてリフレッシュに励んでいるTS系美少女、ルミナです。テルパドールで久しぶりに過去にまつわる話に触れた影響でしょうか? ここ数日間、ひたすら脳内で記憶があれこれリフレインしてもうストレスMaxです。

 

 いろいろな時期の映像がシャッフルされて分かりにくかったけど……たぶんあれは、幼少の研究所時代ではなくセントベレスのときの記憶かな? 昔の狂信者どもは第二人格については知らなかったはずだし、ほとんどの実験が戦闘訓練と投薬試験だったはずだから……。

 頭に電極繋いでいろいろ目覚めさせようとしやがったのは、大神殿のゲマの部下の魔族連中だ。身体に電気流されて『あばばばッ』している俺を見て、モルモットだの使い捨てだの無様だの散々見下してきやがって。

 

 ……なんか、思い出したらだんだん腹が立ってきた。待遇改善と引き替えでゲマの実験を了承したわけだが、クソ下級モンスターどもにまで見下されて嘲笑されるのを許容した覚えはない。

 よし、決めた。ゲマの野郎をコロコロした暁には、ぜひこいつらも八つ裂きにして肥料にしてやるとしよう。所詮はジャミ・ゴンズ以下の下級魔族、今の俺なら片手だけで余裕で縊り殺せる。

 実験成功体の記憶力を舐めるなよ? お前ら全員、細部まで顔を記憶しておいてやるからな、フフフフ。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

 

 イライラ気分を雄大な大海原の景色で沈めながら、本日新たな大陸に到着した。世界地図の南東に位置する自然豊かな大陸であり、中央を走る巨大な山脈の向こう側に目的のグランバニア王国が存在する。

 海岸に着いたばかりのここからでもくっきり見えるデカイ山々。よくもまあ、あんな山ばかりの場所に国なんか作ろうと思ったもんである。大陸の逆側の方では外海の荒れが酷くて船の運航も難儀するらしいし、物資の輸送なんかかなり大変そうだ。

 

 まさしくド辺境と呼ぶに相応しい過酷な立地条件。(失礼)

 閉鎖的な国土の影響で、文化や国民性まで変なことになっていないよう祈るばかりである。(超失礼)

 

 

 

 

 

 

 

 

○月☆日

 

 山越えの前に最後の旅の宿――ネッドの宿屋に宿泊。巨大な木をくり抜いて建物にしてしまった前衛的なお宿だ。さすがは中世ファンタジー世界。虫が湧いたり、根っこが腐ったり、木が寿命を迎えたりとか……、そんな現実的な悩みなんてまとめて放り投げるロックな経営形態である。

 ――などと失礼な言い方をしてしまったが、実際に泊まるとこれが中々に快適だった。部屋を包み込む大樹の温もりや、天窓から降ってくる木漏れ日の照明は幻想的な安らぎを齎し、夢見が悪くてささくれていた俺の心を優しく癒してくれた。食事の内容も接客サービスも中々に良く、山越えのための体力を存分に蓄えられる大変満足な逗留であったと言えよう。

 

 ……唯一の懸念として、夕食時に旅のシスターさんがブッ込んできた『グランバニアで嫌な気配を感じた』という嫌過ぎる情報があるのだが……。邪悪な気配に敏感な聖職者が、国の中心で“嫌な気配”を感じるとか、なんかもう完全にフラグの予感しかしなかった。

 いざとなったらすぐに逃げられるように、心構えだけはしておこうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月▽日

 

 ついに始まった、山向こうのグランバニアを目指してのウキウキ登山道中である。何気に俺、本格的な山登りは今世で初めてかもしれない。なにせセントベレスではずっと山頂で実験生活漬けだったし、死の火山とかのダンジョンも翼でひとっ飛びだったから。自分の足で直にというのはたぶん人生初だ。

 

 ……で、このグランバニア山地だが、これが結構な難所である。まず単純に、標高がすんごい高い。ルラフェンからサラボナ辺りの小規模な山々に比べるとまさに“The 山脈”って感じ。見上げると首が痛くなるような高さで、天辺が霞んで見えるほどだった。

 そして何より傾斜が酷い。一般的には10°くらいの坂で十分急勾配と言えるが、この山の場合はその比ではない。だいたいが傾斜角30°、酷いところだと45°を超えそうなところもある。気を抜くと馬車が横転――どころか縦に引っくり返りそうなヤバイ地獄坂である。

 

 そんなわけで、あまりに傾斜が酷いところでは、仕方なくパトリシアから馬車を外して俺が担いで登った。

 ……ちょいと絵面が酷いけどね。(※馬車担いだ女の後ろから馬が申し訳なさそうについて来る図)

 普通の馬よりは戦闘用実験体の方がパワーあるからね……。

 仕方ないね……。

 

 

『まさに馬車馬のごとき活躍だね!』ってフォローにもならんフォローを投げてきた弟にはチョークスリーパーをかけてやった。

 通りすがりで化け物を見るような顔した爺さんにはメンチを切っておいた。

 もう素直に階段作るか、別ルート開拓しろよ――と思った一日だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月Λ日

 

 山肌部分を登り切り、今日から中腹の洞窟エリアへと突入した。

 

 ――わけなのだが、ちょっとした問題が発生した。

 

 洞窟内に出る魔物たちがエラい強かったのだ。ドラゴンマッドやオーク、死神兵やパオームなど、単純にステータスの高い敵が多い。

 もちろんセントベレスでブイブイ言わせていた俺ならば問題ないが、他の皆――特にピエールとコドランがやや辛そうにしていた。この子ら(※スライムナイト&ドラゴンキッズ)は元々強い部類の種族ではない上、これまで後方支援や遊撃を主に任せていたので、ガチの近接戦闘経験が不足しているのかもしれない。

 

 というわけで、ちょっと洞窟内で修行することにした。これまでいっしょに冒険してきた大事な仲間だし、このまま戦力が足りずに二軍落ちなんて可哀想な事態を許容するつもりはない。最後までいっしょに旅を終えられるように、俺が手取り足取り懇切丁寧に鍛え上げてやるぜ!

 

 ――と宣言したら、蒼い顔でご主人様(リュカ)の後ろに隠れてしまった。

 プックルの奴はいつものアホを見る目をしていた。

 人の親切心が分からんとは、嘆かわしい奴らである。

 

 

 

 

 

 

 

 

○月§日

 

 コドランたちに課した修行は実にシンプルなものだ。

 

 ――魔物の群れを二人に嗾け、ひたすら逃げさせて足腰を鍛える。

 ――疲れたところで群れと戦わせて、ギリギリの状態での戦闘経験を積ませる。

 

 シンプルにこの二つを倒れるまで続けさせた。肉体と精神を限界まで追い詰めることにより、最大パワーとスタミナが効率良く鍛えられるという、昔から俺がやってきた実績十分の修行法なのだ。

 これって一人でやろうとすると、生存本能を押さえつけて自分で自分を追い込まないといけないのだが、今回は俺という指導役がいるため二人とも強制的に命の危機を体感できている。おかげで素晴らしい速度で成長できており、ピエールもコドランも涙を流して喜んでくれていた。

 

 そして俺は俺で暇だったので、偶然遭遇したレアモンスター『はぐれメタル』を追いかけ回していた。ブオーン戦以降格上と戦う機会がなかったので、動きだけとはいえ自分以上の存在と出会えたのはありがたい。限界以上の速度で追い回すことで素早さがガンガン上がっているのを感じている。

 これはもはや『はぐれメタル先生』とお呼びするべきかもしれぬ。己を高みに導いてくれる師に感謝の気持ちを捧げつつ、最終日まで誠意を持って追い回そうと心に誓った。

 

 

 

 

 

 

 

△月○日

 

 洞窟に籠り始めて早二週間、ピエールたちの実力は飛躍的に向上していた。コドランは『激しい炎』を吐けるようになったし、炎を凝縮して放つ特技『ひばしら』も修得した。またピエールは上級回復呪文『ベホマ』を覚え、さらに『イオラ』『メラミ』『ベギラマ』『ヒャダルコ』などの中級攻撃呪文も一通り修得した。これで攻撃能力に関しては盤石と言えるだろう。

 何より、本能のままに身体が動くようになったのが素晴らしい! 試しにあいつらの攻撃範囲に足を踏み入れてみたら、何かのスイッチが入ったかのように光の消えた目で襲い掛かってきた。考える前に反射で動けるようになった証拠だ。

 これなら格上からの強襲にも冷静に対処できるだろう。大事な仲間が生き残る可能性が上がってくれて我が事のように喜ばしい。想定以上の最高の結果に満足し、本日をもって修行の完了を宣言した。

 

 

 

 

 

 そして今はテントの中で、久しぶりに弟から正座を命じられて日記を書いているところだ。

 

 ……分からない。

 二人のことを思いやって手厚く指導してあげたのに、何がいけなかったのだろう? 最近はちょっと甘くなってくれたと思っていたのに、やはりウチの弟はお姉ちゃんに手厳しい。

 

 あと、俺とずっと戯れていたはずのはぐれメタル先生がリュカにだけ懐いているのが納得いかねぇ。これが噂のネトラレという感覚なのか……。きたないな、さすが魔物使い、きたない。

 名前もリュカが付けた『はぐりん』になってしまったし。『スタスタ』の何があかんのや。

 

 

 

 

 

 

 

△月□日

 

 長い長い山脈の洞窟を抜け、山頂の村チゾットに到着。長期間野宿が続いていたため、久しぶりの屋根の下が天国のように感じられる。風呂に入って食事をしてゆったり寛いで、みんな完全にリフレッシュできたみたいだ。やはり人は文明の火の中で生きるべきだなぁと再確認する。

 

 とはいえ、魔物であるプックル、ピエール、コドランは基本スペックからして人間とは違うし、俺とリュカは世界最頂のセントベレスで長年奴隷仕事に勤しんできたブラック労働者(選ばれし戦士)だ。今さらこの程度の標高で体調を崩すことなどありえない。

 最後まで追い込んでやったピエールとコドランも良い感じに仕上がったし、リュカとプックルもそれぞれ自主練で力を付けた。そして『はぐりん』という強力な新メンバーも加わった。(※防御力がマジで半端ない)

 これならどんな敵が来ようが苦戦などあろうはずがない。

 

 宿の窓から遠く見えるグランバニアのお城――ちょっと前までは嫌な予感のせいで不気味なダンジョンにしか感じられなかったが、今では楽しいテーマパークのお城に見えてきたぜ。

 

 さあ、まだ見ぬ強敵どもよ、矢でも鉄砲でもイオナズンでも持って来い。

 俺の鍛え上げた仲間たちが、そのことごとくを跳ね返してくれよう!

 玉座にて震えて待つがいい、邪悪なモンスターどもめ、わははははは!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……ってことで弟よ、そろそろ足を崩してもいいかな?

 板張りの床で正座2時間はちょいとキツイっていうか……。

 ピエールたちをレ○プ目にしちゃった件については十分反省しましたんで、どうかお慈悲の方を……。

 

 ダメ?

 まったく反省してないからあと3時間追加?

 

 あ、はい……スンマセンした……。

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――

 

 

 

 

 

 

 

 ――おのれっ、おのれっ、おのれッ……! ふざけるな……ッ!

 

 ――あんな青二才ごときにこの玉座を明け渡せだと……!?

 

 ――ふざけたことを抜かすな!!

 

 ――ここはわしの城だ!

 

 ――わしの手腕でここまで勢力を拡大してきた……わしの王国なのだ!

 

 ――それを今さら、あんな小僧や小娘のせいで失ってたまるか!

 

 

 

 

 ――……おのれ、見ておれよ。

 

 ――強力な手駒も大量に手に入ったのだ。

 

 ――わしの邪魔をしようという思い上がった連中は、一匹残らず地獄へ叩き落としてくれるわ!

 

 ――せいぜい首を洗って待っておれよ、愚か者どもめ!

 

 

 

 

 ――くははははは……!

 

 

 ――はははははは……!

 

 

 ――あーっはっはっはっはっはッ!!

 

 

 

 

 蝋燭のか細い炎に照らされた小部屋の中で、妄執に憑りつかれた愚者が狂ったように嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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