転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった   作:マゲルヌ

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5話 春が来ないよ、妖精の国

○月×日

 

 最近村で奇妙な出来事が頻発している。

 台所のまな板がなくなったり、裁縫箱の位置が変わっていたり、ボブ爺さんちの鍋の中身がなくなったり、宿屋の帳簿にイタズラ書きされたり……。まるで目に見えない犯人がいるかのような謎現象に、村人たちは揃って首を傾げるばかり……。

 

 ――がしかし、俺が真に気になっているのはそれらの異常そのものではない。

 今俺が最も我慢ならない点。それは、

 

 

 

 ――説明した後の村人たちが全員、一瞬だけ俺を見ることだ!

 

 

 

 いや、別にガチで疑われているわけではないし、虐められているわけでもない。村人たちは皆良い人だし、人間関係だってすこぶる良好だ。

 だが皆が皆一回は、『もしかして君? ……いや、さすがに違うか。あはは』という感じに、こっちを見た後笑って首を振るのだ。

 この“一瞬だけ見る”という事実が重要である。要するに村人全員、『しょうもない悪戯ならルミナかな?』という共通認識が出来上がっちゃっているのだ。由々しき事態である。

 

 ……く、くそぅ。

 最初の頃はみんなして“美少女天使ルミナちゃん”という扱いだったのに、何がどうしてこうなっちまった!?

 

 えーい、こうなりゃ俺がその犯人を捕まえてやるぜ。

 そんでもって、俺が頼りになるナイスガイだということを知らしめ、モテ作戦を大きく前進させてやるのだ!

 そうと決まればさっそく、犯人探し頑張るぞッ。

 

 

 

 

 明日から!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月△日

 

 今日は朝から酒場のジェシカさんをナンパしに行った。

 

 ……いや、勘違いしないでほしい。これも犯人捜査の一環である。情報収集の基本はまず酒場であるからして。

 

 で、行ってみると酒場のカウンターに、なにやら見慣れない紫髪の女の子が座っていたのだ。

 最初は、『なんか変な奴がいるなぁ』という程度の認識だった。なんともファンシーな恰好してるし、グラスを適当に動かしたり、マスターの目の前で手を振ったりと、奇妙な行動を繰り返すし……。

 でもマスターもジェシカさんも何の反応も示さず、その子は大層がっかりしている様子だった。そして最終的にヤケクソになったのか……、彼女は二人の目の前で謎のダンスを踊り始めると、同時に叫んだのだ。

 

 

 

 ――『なんで気付いてくれないのよおお! 私妖精よ!? 可憐な美少女よ!? 誰か助けてくれても良いじゃないのおお!!』

 

 

 

 ………………。

 俺ははっきりと理解した。――こいつは関わってはイカン奴だ、と。

 確かに自己申告通り見た目は可愛いが、どう考えても頭の方がお花畑でいらっしゃる。マスターやジェシカさんが無反応なのも、おそらく自己防衛のために違いない。まだ春も遠い気候なのに困ったもんである。

 

 などと思っていたら、そいつとバッチリ目が合ってしまった。

『ヤバッ!?』と感じたときにはもう遅かった。アッパー系少女はこっちへ目掛けて文字通り飛んでくると、『やっと見つけたわ、私のことが見える人! お願い助けて!』と叫んで俺に縋り付いてきやがった。

 

 やばい……。本人そのものもやばいけど、これは絶対に面倒事の気配だとピンときた。波乱万丈人生を送ってきた俺は詳しいんだ。

 

 そんなわけで、絶対に関わるもんかと引き剥がそうとしたのだが、彼女は驚異的な力で張り付いて離れない。

 仕方なくマスターたちに助けを求めたのだが、なにやら二人とも怪訝度マックスの顔で俺を見ていた。『え、どうしたの?』と思って見返すと、女の子が思い出したように、

 

『あ、私妖精だから、大人には見えないよ? あなた今、一人で床に倒れて叫んでいる状態だから』

 

 と、遅すぎる忠告をほざきおった。

 

 ……つまり俺はこのとき、唐突に床に倒れて謎のブレイクダンスを踊っていたことになるわけだ。

 

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 

 ――ちくしょう、俺までヤベえ奴扱いされちまったじゃねえか!!

 

 

 ……え? 元からだろって?

 失礼なッ。精々“頭の中身が残念な幼女”ってくらいだ!

 酷い勘違いをするんじゃない!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月□日

 

 迷惑妖精ベラの導きにより、俺とリュカ&プックルは妖精の国へとやってきた。

 ……ホントはこんな面倒なスメル漂う案件など無視したかったのだが、ベラの奴め、今朝方強引に自宅まで押し掛けてきおったのだ。

 

 奴は俺の隣にいたリュカに目を付けると、突然『ヨヨヨ……』と泣き崩れ、自分が如何に困っているのかを情感たっぷりに語ってくれよった。俺に対しては『つべこべ言わずに早よ助けろや』って感じの態度だったくせにエライ違いである。

 結果、お人好しのリュカは当然のごとく『助けてあげよ?』という反応になってしまい……。こうなったリュカに俺が勝てるはずもなく、我々は渋々妖精界まで出向することと相成った。

 

 そうして導かれるまま妖精の村へ連れて行かれ、村の長ポワン様(超美人)と面会。そこで彼女から頼まれた案件というのが、“春風のフルート”の奪還だった。

 このフルート、なんと世界に春を呼ぶための超重要アイテムらしく……。それを何者かに奪われたせいで、彼女らは季節を変えることができずにとても困っているのだという。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………。

 

 ほぉら見ろ、やっぱり面倒な案件だったよ……

 冗談じゃなく世界の命運かかった最重要任務だったよ……。

 そんなもん八歳と六歳の子どもに任せないでほしいんだけど。

 

 

 

 

 

 ……あ、でもそんなに重要ってことは、首尾よく取り戻せれば多大な恩を売れるってことでは?

 

 顔もスタイルも極上の美人妖精に……、すんごく大きな貸し…………。

 

 

 ………………。

 

 よし、頑張ろう!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ○月▽日

 

 ・フルートを盗んだ犯人は、北にある“氷の館”へ逃げ込んだ。

 ・氷の館の入り口は、鍵で固く閉ざされている。

 ・西の洞窟にいるドワーフは昔“カギの技法”を編み出し、先代の長に追放された。

 ・プックルの正体が実はキラーパンサー。

 ・妖精族はみんな可愛い。

 

 

 村で情報収集した結果、以上のことが分かったので、とりあえず西の洞窟へ向かうことになった。噂のドワーフのおじさんに会って、カギの技法とやらを教えてもらおうという目的である。

 

 ――『でも無理矢理追い出されたって話だし、簡単にはいかないだろうなぁ……』

 

 と思いきや……、意外や意外、ドワーフのおじさんはかなりこちらに友好的で、あっさりと“カギの技法”を教えてくれた。ええ人や。

 まあ追い出したのは先代でポワン様関係ないしね。しかも彼はその先代様のことも、別に恨んではいないらしい。おじさん曰く、『秩序を維持するには仕方ないことだったんだよ』って……、ちょっとこの人良い人過ぎませんかね?

 

 

 ただ……良い人な分、子育てに関しては甘くなっちゃったみたい。なんとフルートを盗んだ犯人、この人の孫だった。

 名前はザイル。ポワン様がお祖父さんを無理やり追い出したと勘違いし、フルートを盗んで嫌がらせしてやろうと思い立ったらしい。

 

 いや、嫌がらせってレベルじゃないんですが……?

 世界終わっちまいそうなんですが……?

 そのせいで俺たちが面倒な仕事をするはめになったんですが……?

 

 

 

 とりあえず、お祖父さんからお仕置きの許可は頂いたので、本人に会ったら一発引っ叩いておくことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月☆日

 

 洞窟から一旦村まで戻り、今は氷の館へ移動中。特に書くような出来事もなかったので、ちょっと気になる点について述べようと思う……。ベラに最初会ったとき言われた、『妖精は子どもにしか見えない』って話について。

 

 …………結局のところ俺って、“子ども”って分類でいいのだろうか? ほら、精神年齢で言うと、多分もう二十歳は超えてるわけじゃん?

 そこんとこ気になって、ちょっと誤魔化しながらベラに聞いてみた。『大人は誰も見えないの? 身体だけ幼児化した人とかはどんな扱いなん?』って。

 そしたらあいつ、

 

 

『確か、“綺麗な心の持ち主”だけが見えるって話――――……いえ、それだとあなたが見えるのはおかしいわね。どうしてかしら?』

 

 

 ……ちょっとブッ飛ばしそうになったが堪えた。俺は事実を冷静に見極められる男だから。

 それに意見自体には同意だ。綺麗な心によって見えるのなら、父さんがベラを見れないのは確かにおかしい。あんなに心が清廉な人は他に見たことがないし……。

 

 

『あ、そうだわ! きっと幼稚な人なら見ることができるのよ! もしくは、賢さが一定値より低い人! それならあなたが見えてもおかしくないわ!』

 

 

 ………………。

 ……この失言妖精、羽根を毟り取ってやろうか?

 俺が自分の中の破壊神と戦いながらプルプルしていると、珍しいことにプックルが優しい鳴き声を上げ、俺に何かを差し出してきた。どうやら慰めてくれているらしい。

 

『うう……、ありがと、プックル。やっぱりお前は優しい奴なんだな』

『…………ガウ』

 

 

 

 

 “賢さの種”だった。

 

 

 

 ……この駄猫、(たてがみ)を毟り取ってやろうか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◇日

 

 結論から言うと、ザイルの誤解はあっさり解けた。

 

 フルート返せや。

 → ポワンに頼まれたんだな、やっつけてやる!

 → ボコる(説明する)

 → サーセン。

 

 という、とても分かり易い流れである。

 そんで、首尾よくザイルを説得できたところで現れたのが、“雪の女王”と名乗る今回の黒幕。会話から察するに、こいつがザイルに嘘を吹き込んで、いいように利用しようとしたらしい。しかも目的が叶った後は切り捨てようとしていたのだとか……。

 

 よし、なら手心は要らんな。

 俺たちはザイルとフルートを担いでさっさと氷の館を脱出した。

 一瞬ポカンとした女王様(笑)は慌てて追いかけてきたが、こっちは正々堂々戦う気なんぞさらさらない。入口をイオラで破壊して瓦礫で塞ぎ、ギャーギャー騒ぐ女王を無視して隙間から右手を突っ込む。

 そして――

 

「ベギラマ!」

「~~Δ♯×%&●♪$!?」

 

 相手はバリバリの氷属性なので、とりあえず蒸し焼きにすることにした。

 ……遠慮するな、おかわりもあるぞ?

 

「ベギラマ、ベギラマ、ベギラマ、ベギラマあああ×20!」

 

 景気良く閃熱呪文を連発してやると、最初はうるさかった悲鳴もやがて聞こえなくなり、最終的に氷の館も融けて崩落・全壊してしまった……。

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

 ……やべぇ、ちょっとやり過ぎたか?

 

 

 

 ま、まあ、今回みたく悪人の根城になっても困るし……。

 真っ当な誰かが使っていたわけでもないんだし、別に良いよね?

 ――と、軽くドン引き状態の三人と一匹にアピールしてみるも、残念ながら芳しい反応は得られない。

 

 

 ……いや、ちゃうねん。

 昔の経験のせいか、子どもをいいように使い捨てようとする大人を見ると、どうにも心の制御が外れて……。別に弱い者虐めして嬲ろうとか、破壊行為を楽しもうとか、そういう悪趣味なアレではないんよッ?

 

 だ、だからそんな怯えた目しないで!

 リュカにそんな顔されたら立ち直れなくなっちゃうから!

 

 お姉ちゃん謝るからッ、お願い!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○月◎日

 

 取り返した春風のフルートをポワン様に渡し、春を呼び込んでもらった。

 

 ………………。

 

 ……まー驚いた。

 妖精の力舐めてた。

 

『春を呼ぶ』っていうのはあくまで例えで、季節変化の切っ掛けを作るってくらいの意味だと思ってたんだけど……、ポワン様が春風のフルートを吹いた瞬間、桜の花びらがあちこちでポンポンポン! 一気に春がやってきた。

 冗談ではなく、本当に天変地異並みのすごい力だったよ。

 これで女王とかじゃなくて一村長だっていうんだから、妖精族ってヤバイわ。

 

 

 花びらが舞い散る様をみんなでホワーって見ていると、ポワン様は礼の言葉を口にしながら頭を下げてきた。『何か困ったときはこの村を訪ねてくださいね。力になりますから』と言って優しく微笑む。

 

 ……え、じゃあ今いやらしいことを頼んだらイケるかな?

 と一瞬邪な企みが頭を過ったけれど、なんとか自重しておいた。六歳児がいるのにR指定はマズイからね。また父さんにお仕置きされてしまうぜ。

 

 

 だが、ふと顔を上げると、ポワン様の方から俺に熱い視線を送っていることに気付いた。彼女はなんだか物言いたげな瞳でジーッとこちらを見つめていたのだ。

 ……あれ、もしかしてこれ、あっちの方が気がある? ワンチャンある?

 

「どうかなさいましたか、ポワン様?(イケボ)」

「………………、あの……あなたは……」

「はい! なんでしょうか!」

 

 ……。

 …………。

 ………………。

 

「……いえ、やめておきましょう。皆さん、どうか気を付けてお帰りくださいね?」

「え?」

 

 我が期待はあっさり裏切られ、ポワン様は静かに微笑んで首を振った。

 

「あ、あの……今、何を仰ろうとしたんですか?(もしかして色気のあるお誘いかッ?)」

「いえ、いいのです。……私が言うことではないでしょうから。……ルミナ、リュカ、プックル、この恩は忘れません。いつかまたお会いしましょう、どうかお元気で」

「え? や、ちょっ」

 

 ポワン様、すでに〆の準備に入ってらっしゃる!?

 なんか身体が浮き上がってゆっくり移動し始めてるんだけど!

 

「あ、あの、ではせめてッ! 最後に膝枕を、いや、せめて一回デートだけでもッ!」

「ふふ、あなたがもっと大きくなったらね?」

「そんな殺生なぁ!」

 

 幼子の願いはサクっと流され、俺たちの身体は徐々に高く浮いていく。

 

「ありがとうね、リュカ! あなたたちのこと絶対忘れないから!」

「うん、元気でね、ベラ!」

「ガウ!」

 

 隣では少年と美少女との麗しい別れの最中だというのに!

 ……やはり顔か? 顔なのかッ? それとも性別かッ?

 いくら顔が整っていても、やっぱり女の子はイケメンじゃないとダメなのか!?

 そこんとこどうなんですか、ポワン様ぁ!

 

「ふふふ、ノーコメントです」

「その笑顔が答えじゃないっスかああッ!?」

 

 

 

 

 そんな――春の訪れよりも重大な世界の真理に悩みながら、俺たちの妖精界での冒険は終わりを迎えたのだった。

 

 

 くそう! 世界の危機よりも、俺の恋路の方をなんとかしてよおおお!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……………………。

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――――過酷な運命を背負った幼子たちに、どうか祝福が訪れますよう……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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