転生したらTSして翼生えてて、おまけに実験体だった 作:マゲルヌ
○月§日
妖精の国より帰還して数日、俺は今、この世の真理について深い思索に耽っていた。それすなわち――
――こんなに顔の造りが良くても、やはり男性ホルモンとチ○コがなくてはモテないのかッ!?
という至極高尚な命題である。
女子として最高峰とも言えるこの顔で一向にナンパが成功しないのだから、やはり性別の壁は分厚いと言わざるを得ない。
……あ、いやしかし……、リュカは昔から(といっても二年程度だけど)行く先々でお姉さんたちにモテモテだったし……、別に男くさい要素が不可欠というわけではないのか? どちらかと言うとあいつも可愛い系男子だし……。
うむ……ということはつまり……、大切なのは中身というわけだな?
薄っぺらい見てくれなんかよりも、清く優しい心と、邪念のない気遣いと、スマートで落ち着きのある紳士な振る舞い。これらの素敵要素が女の子を強く引き付けるわけだ。
結論! 誠実で立派な真人間になりさえすれば、女の子にモテる!
……。
…………。
………………。
――無理やなッ!
ちくしょう、世の中の“顔が良くて性格も良い男たち”が憎いッ。
こちとら努力したってそんな正統派美男子にはなれんというのに! 生まれつき性格の良い奴はこれだから腹が立つのだ、まったく!
お前のことだぞ、リュカ!
○月◇日
気分転換がてら村を散歩していると、なんか、教会前でリュカが旅人と話しているのを発見した。
マントとフードを深く被り、顔すら見えない怪しい人物。最近物騒な事件も多いらしいし、もしや人さらいではあるまいかと思った俺は、職質する警備兵のごとく二人に近付いていった。
「すいまっせ~ん! ちょ~っとお話よろしいですかぁ~?」
「ん?」
「あっ、お姉ちゃん、おはよう!」
リュカが笑顔で挨拶。可愛い。
どうやら、何か怖い目に遭わされているわけではなく、本当にただ話していただけの模様。
警戒度をやや下げる。
「おや、この子のお姉さんかい? こんにちは」
「…………こんちゃす」
深みのある落ち着いた声が俺の耳朶を揺らした。
こ、これは……イケメンボイスッ。
顔は見えないけれど間違いない。これはイケメンにしか許されないカッコいい声だ。その声音を聞くだけで数多の女子がメロメロになってしまうという、いわゆる
つまりはこの兄さん、俺の敵ということだ!
……警戒度を上げよう。
「ははは、そんなに怖い顔しなくても大丈夫だよ。ちょっとこの子に綺麗なオーブを見せてもらっていただけだから。ね、坊や?」
「うん!」
その言葉通り、二人はほのぼのした雰囲気を醸しながら会話を楽しんでいた。まるで、何年も前から親しい友人のごとく笑い合う男子二人。
むぅ、なんか一瞬で弟を取られたみたいで嫌な感じ!
………………。
――ってなるかと思いきや、意外なことに、なんだか微笑ましく感じてしまっていた。
おかしい。我ながら美男子には冷たい喪男(※嫉妬)だと思っていたのに、なぜだかこの人に対しては好意的になってしまう。一体なぜ……?
ハッ!? まさか……、ついにアッチ系の趣味に目覚めてしまったのではあるまいな!?
いやいや、イカンぞ! いくら身体が女になったとはいえ、心はバリバリの現役男子ッ。男に靡くなんてことは絶対にあってはならんのだ!
……そうだ。これはきっとただの同情心というか、親切心ってヤツだ!
リュカの頭を優しく撫でるあの人の仕草が、『お父さんとお姉さんを大切にね』と囁く声が、なんだかすごく切なそうに感じられて、つい仏心を発揮してしまっただけのこと。
何かを振り切るように踵を返した彼を追い掛けて、よく分からん元気付けをしちゃったことも……、きっと春の陽気に当てられた結果に違いないのだ!
うんうん、俺にも意外と真人間みたいな一面があった、ということだな。
そういうことにしておこう!
つーわけで、明日は家族でラインハットまで遠出するので、今日はさっさと寝ちゃいます!
次の日に疲れを残しても不味いし、変な悩みはこれで閉店ガラガラ!
さあリュカ、『ロトの勇者物語』読んであげるから、こっちへ来て布団にお入り~。
◇◇◇
「ふぅ……」
握っていた羽ペンを脇に置き、パパスは大きく肩を回して息を吐いた。部屋の空気が微かに揺れ、蝋燭に灯された炎がフワリと波打つ。それに釣られて視線を窓辺にやれば、外がもうすっかり暗くなっていたことに気付く。受け皿の蝋もかなりの量が溜まっており、ずいぶん長い間手紙の文言に集中していたことが分かる。
便箋三枚ほどに書き連ねられたその手紙は、古い友人に宛てた近況報告、兼、先触れの知らせだ。相手はラインハットの現国王――パパスが若い頃に一緒に冒険し、互いに切磋琢磨し合ってきた気の置けない友人だ。
ゆえに、今更そこまで形式に拘る必要もないのだが……、最低限の礼儀は弁えようという辺りに、彼の几帳面な性格がうかがえた。
「…………前妻の子と、……継母……か」
折りたたんだ便箋を封筒へ入れながら、パパスは今回の訪問理由を改めて思い返した。定期的に連絡を取り合っていた旧友から、『相談に乗ってほしい』と手紙が送られてきたのがつい先日のこと。
それによると、前妻の息子ヘンリーと現王妃の折り合いがあまり良くなく、彼は今、相当頭を悩ませているらしい。
この手の継承問題の例に漏れず、王妃は自分の息子デールを溺愛しており、ヘンリーのことを露骨に毛嫌いしている。
一方でヘンリーの方も、亡くなった実母を想うあまり現王妃のことは良く想ってないようで、忙しい父に構ってもらえない寂しさも相まって、ずいぶんと荒れているとのことだ。常日頃から横柄な態度や行き過ぎたイタズラを繰り返し、城の者たちからの評判もあまり良くないという。
さらには最近、王妃の側近がガラの悪い連中と接触していたという情報まで届き、何か悪いことが起こるのではないかと、王は心配ばかりが募っているらしい。
そこで、ヘンリーの『子守』兼『護衛』兼『教育係』として白羽の矢が立ったのが、王の古くからの友人・パパスだった。
身元と人格がしっかりしており、かつ実力と教養も申し分なく、加えて同年代の子を持つ父親でもある。息子の護衛を任せる者としてこれ以上の人材はいなかった。
『有事の際にはヘンリーの身を守り、……そしてできることならば、息子の頑なな態度を解きほぐしてやってくれないか?』
それが、困り果てた友からの頼みであった。
妻を探すため、子どもたちを家に残して忙しく駆け回る毎日。正直、目的以外の事に関わっている暇はないというのがパパスの偽らざる気持ちだったが……、長年の友人からの切実な訴えを無視することはやはり忍びなく。
何より……息子についての悩みを他人事と切って捨てることはしたくなかった。子どものことで頭を抱え、些細なことでも右往左往してしまう気持ちは、パパスにも良く分かるから……。
そんなわけで、今回は息子たちの顔合わせという意味も持たせつつ、パパスは友の頼みを快諾したのであった。
「……うにゅら~~……」
「むっ?」
手紙を引き出しにしまうと同時、気の抜けるような幼子の声が響いた。パパスは僅かに焦りを見せながら、壁一枚隔てた隣室へと視線をやる。
もしや独り言が大き過ぎて起こしてしまったか? そう思い耳をすませていると……、
「むぅぅ~。……賢さの、種よりもぉ……、……命の、木の実をぉ……むにゃむにゃ」
「………………、クスッ」
どうやら愉快な子どもが、また妙ちくりんな夢を見ているだけだったようだ。笑いとともに漏れた吐息で蝋燭を吹き消すと、パパスは音を立てないよう静かに扉を開け、隣室をそっと覗き込んだ。
「フフ。……二人とも、よく寝ておる」
月明りのみに照らされた暗い室内。窓際のベッドの上では、少年と少女が重なり合うようにして寝息を立てていた。
眠る前に読み聞かせでもしてあげたのだろうか。うつ伏せで眠る少女の左手には、分厚い本が握られたままになっていた。その隣では同じく横になった少年が、幸せそうな笑みを浮かべてピタリと寄り添っている。……まるでここが、世界で一番安心する場所であるかのように。
あどけない表情で眠る子どもたちに毛布を被せてやりながら、パパスもまた自然と穏やかな笑みを浮かべる。
「リュカ……、ルミナ……」
血が繋がっているか否かなど関係なく、どちらも等しく愛しい、パパス自慢の子どもたちだ。
――控えめで大人しいけれど、優しく芯の強い息子・リュカと。
「んん……、お姉……ちゃん……」
「むにゃむにゃ……、リュカぁ……」
――二年前のあの日、新たに自分たちの家族となってくれた義娘・ルミナ。
当初はこちらを警戒して心を開いてくれなかった彼女も、今ではずいぶんと打ち解け歩み寄ってくれるようになった。パパスが忙しいときには積極的にリュカの世話をし、さらには修行や勉強の面倒まで見てくれている。
以前は寂しそうな顔をすることが多かったリュカも、彼女と出会ってからは笑うことが多くなったように思う。不甲斐ない父親としては、この子にはいくら感謝してもしきれなかった。
「う、ぅぅん……ッ」
「ッ…………、ルミナ」
だからこそパパスは、今もこの子が心に抱える闇をなんとかしてやりたいと思っていた。
この二年の間にずいぶん明るくはなったが、今でも時おり悪夢にうなされて飛び起きることがあるのを知っている。立ち直ったように見えても、辛い思い出は今も少女の心に巣食い、その身を責め苛んでいるのだろう。
それを克服させてやるためにも、これを機に少し腰を据えて、ともに穏やかな日々を過ごすのも良いのではないか?
もちろんそれは、幼いリュカについても同様だ。
パパスにとって、妻の救出は命をかけてでも成し遂げたい目標だが、そのために他のものを犠牲にすることがあってはならない。今目の前にある“守るべき宝”を蔑ろにしては、それこそ妻に申し訳が立たなくなってしまう。
そういう意味では今回の手紙は、子どもたちについて考える良いきっかけになったと言えるだろう。
「……思えばこれまで、忙しくてあまり構ってやる時間もなかったな。その分これからは、思う存分可愛がってやるか」
パパスは子どもたちとの幸せな未来を想い、一人穏やかな笑みを浮かべるのだった。
……。
…………。
………………。
ただ……、それはそれとして……。
先ほどとは別件で、一つだけ気がかりなことが……。
「……ぬ、ぬへへへへ……、ポワン様~」
「…………」
「今度二人でお食事でもぉ……。え? ……いやぁ、ホテルはまだ気が早いんじゃ……。でもぉ、どうしてもとおっしゃるなら~~……」
……。
…………。
………………。
「…………八歳の娘が女性の尻ばかり追いかけ回すというのは、……さすがにどうなのだ?」
先ほどまでのシリアス空気は、アホな寝言とともに吹き飛んでいった。頼りになる自慢の娘の唯一といっていい難点――“無類の女好き”という困った性癖を思い出し、父は渋い表情で下唇を噛む。
一年ほど前のとある日、ルミナは突然、『俺は百合ハーレムを作る!』などと意味不明なことを言い出し、次の日から積極的に女性に声をかけるチャラ男と化してしまったのだ。あのときはさすがのパパスも動転し、『ついに心が壊れてしまったのか!?』と本気でその身を案じたものだ。
……まあ幸い(?)、本人が心から望んでの発言だったため、とりあえずあのときは背中を押して話を終えたのだが……、今さらながら『ちょっと早まったかもしれない』と後悔が浮かんでいる。
……いやだって、修道院の女の子とかが一時期傾倒してしまうという、所謂“そういう関係”じゃなくて……、なんだかガチっぽい感じなんだもの。
エロ親父がお店のお姉ちゃんに迫っていくような、なんだかヤバげな本気を感じるんだもの。……こう、なんていうか、その内エロスで身を滅ぼしてしまいそうなヤバめな空気? まだ八歳の少女だというのに……放っておいて良いのだろうか、これは?
「ふ、ふへへへ……」
「……この子の将来、一体どうなってしまうのだろう……」
パパスは娘の先行きに、一抹どころではない不安を覚えるのであった。
……。
…………。
………………。
「……ハッ!? イヤ、いかん、いかん! 父親が娘のことを信じなくてなんとするッ!」
慌てて頭を振り、パパスは不吉な未来予想図を振り払った。
いろいろとキツい経験をしてきたせいで、今は少しばかりユニークな方向へフラついているだけであろう。このまま穏やかに日々を過ごしていけば、いずれはささくれた心も落ち着き、自分の妻のような真面目で貞淑な女性として健やかに成長してくれるはず……。
そうしていつの日か、優しい夫と出会い、可愛い子どもたちを授かり、幸せで温かな家庭を築いてくれることだろう。
「………………」
……くれると、良いなぁ?
…………築いて、くれるかなぁ?
「うぇひひひひ……。ポワン様~、お膝がとっても柔らかいですなあ」
……。
…………。
………………。
他所の息子さんを更生させる前に、まずはコッチを先に何とかした方が良いんじゃないか……?
割とガチでパパスは思った。
「……い、いやしかし、下手なことをして逆に男好きになられても困るし……。と、というか、昼間にあの若者を抱きしめていたアレは、一体どういうわけなのだ?」
さらにパパスは、昼間に見てしまった衝撃的な光景――娘が大人の男性を抱きしめていた姿を思い返す。
パパスに対し『ラインハットへは行かない方がいい』と忠告してきた、妻に似た雰囲気を持つ謎の青年。その唐突な言動に戸惑いはしたが、彼の辛そうな顔を見れば、本心からパパスの身を案じていることは容易に理解できた。
そんな心優しい青年が、女児に対して自分から強引に抱き着くなどということはまずあるまい。つまりあれは――“ルミナの意志によって、彼女の側から起こされた行動”だということになる。
女好きを公言するがさつな娘が、慈愛の表情で年上の男を抱きしめていたという、寝耳に水の大事件。父が精神に受けた衝撃は、まさしく筆舌に尽くし難いものがあった。
「――ハッ!? ま、まさかこの子は、噂に聞く“両刀”というヤツなのか? 男も女も、どっちもイケてしまうタイプなのかッ? 父親としてはそれも応援してやるべきなのかッ? ――い、一体どっちなんだ。どうするべきなんだ、私はッ! た、頼む! 教えてくれ、マーサああッ!!」
真面目な父の悩みは、夜とともに深まっていくのだった。
(原作との違い)
オリ主と出会ったことで、リュカたちは原作より早めにサンタローズへ戻ってきました。パパスは今、子どもたちを家に残した状態で、調べ物をしたり短期の旅に出かけたりしています。
『でも、今後はそれも少し控えようかな……』というのが今回のお話でした。
……死亡フラグとか言ってはダメです。