転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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今回はシリアスなんてない回だよ。ほんとだよ。

お気に入り、評価、感想ありがとね!


あかいあくまの冒険

「暇で死にそう」

 

 一人ベッドで横になりながらぼやく俺。なんて悲しい絵面だろうか。言峰綺礼との戦いの後、気絶した俺をアイリスフィールと舞弥さんが魔術やら医術で手当てしてくれ、どうにか後遺症もなく生きている訳なんだけど。

 

『影辰、君は暫く休んでいてくれ。子供がボロボロになって運ばれてるのを何度も見れるほど、僕は人の心を無くしていない』

 

 まさかの切嗣に気遣われ、完全な休暇を送る事になったのだ。え?マジで?切嗣さん、何か変なの食べました?いつも食べてるハンバーガーじゃなくて泰山の麻婆豆腐食って味覚と一緒に外道さ破壊されたとかない?ここに来て気遣われるとは思ってなくて、驚いている間にあれよあれよとベッドに放り込まれました。

 

「まー……暫くは切嗣達に危険とかなかった様な気がするし。聖杯問答まで休んでるかー」

 

 ライダーが乗り込んでくれば流石に分かるし、あいつ喧しいからね。あー、でもライダーが来るって事は、アーチャーも来るしアサシンも来るのか。裁定の続きをするとか言ってたし、俺殺されない?背後からサクッとアサシンに殺されない?

 

「……平和だなぁ。少なくとも昼間は」

 

 窓から見える景色は至って平和なもの。アインツベルンの森は鬱蒼と広がる森林が特徴的で、朝や昼間にはここら辺を住処にしてる野生の鳥達が見える。穏やかに綺麗な鳴き声を俺の元まで届かせてくれる。こんなにゆっくり過ごしてるのはいつ振りだろうか。少なくとも、冬木に来てからは戦闘続きで気絶して、起きてまた気絶してを繰り返してたし、聖杯戦争に参加する為に昼間は寝てたりしてこんな光景は見てなかったっけ。

 

「よしっ。抜け出すか」

 

 外を見てたら唐突に出掛けたくなった。昼間なら聖杯戦争も行われないし、出掛けたって良いだろう。ベッドを抜け出し、着替える。いやぁ、自室が一応用意されてるってこういう時便利だよね。身体は少し痛いがその程度。今回はガッツリ治癒魔術を使ってくれた様だ。こっそり部屋を出て、周囲を見渡す……よし、誰も見張りとかはいない。

 

「冬木市探索行くぞー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……あかん。はしゃぎ過ぎた」

 

 辺り一体に夜の帳が下りた。俺は今、アインツベルンの森にすら到達していない。理由?はしゃぎ過ぎたんだよ!!だって、あのFateの世界だぜ。衛宮邸とかマウント深山とか、冬木大橋とか、吹き飛んじゃったホテルとかこの目で見たいじゃん!!……はい、ごめんなさい。リアル聖地巡りにテンション上がり過ぎました……

 

「ヤベェよ……子供一人でウロウロしてるとか雨生龍之介とかに見つかったら殺されちまう」

 

 というか既にそれらしい害意を感じている。感じる度にウロウロ動いてなんとか撒いているけど、どうしたものかな。定期的にやってくるパトカーに保護を求めても良いんだけど、記憶操作とか切嗣に頼むのもなぁ。抜け出してきた事で怒られる覚悟はあるけど、だからって自分から怒られる事増やしたくない。

 

「ん?」

 

 視界の端に赤いコートを着た小さな女の子を見つけた。あれは……遠坂凛?おいおい、よりによって今日があの日かよ。関わりたくない……あの、なんであの子こっちに来てんの??

 

「ちょっと貴方、危ないわよ!」

 

「はい??」

 

 驚く俺になんの説明もなく、手を引っ張り駆け出す遠坂凛。この時点でもう強引だなこの子!?魔術なんて扱えない俺をなんでわざわざ捕まえたのか微塵も分かんないが、抵抗して傷つける訳にもいかないので大人しく引っ張られる。

 

「ここまで来れば安心かしら……ねぇ、貴方家は?この辺は変な奴が彷徨いてるから危険よ」

 

 あぁ、心配してくれたのか。ほんと、魔術師の家系らしくないなこの子は。まだ幼いが既に、整った容姿と将来あかいあくまになる片鱗を見せている小学二年生の遠坂凛。その目は俺に対する心配がはっきりと浮かんでいた。

 

「ありがとう。実は、その変な奴から逃げてる最中でさ。君もそうなの?」

 

 年齢的には俺の方が上だけど、頑張っても小学六年生と二年生の絵面だ。某名探偵の様に子供っぽい口調を心がけよう。

 

「そう気付いてたの。私は、友達を探しに来たの……ってきゃあ!?」

 

 彼女が持っていた懐中時計……確か魔力に反応するものだったっけ。それが勢いよく反応する。どうやら俺を連れて走る間に目的の場所に着いてしまったらしい。針が指し示す先を緊張した顔で見つめる遠坂凛。子供達の様子が可笑しいのは、既に気が付いていた筈だ。つまり、ここまでの反応を起こす場所に犯人、若しくは探し人が居ると判断したのだろう。

 

「……私はこの奥に行くから貴方は逃げなさい。私の事は心配しなくて良いわ」

 

 恐怖を隠しながら俺を気遣う遠坂凛。彼女に言われるがまま、逃げても良いんだけど。はぁ、男として震えてる女の子を一人には出来ないよな。

 

「俺も行くよ。一人より二人の方が何かあった時、対処出来るでしょ?これでも鍛えてるから任せて」

 

 この先に居るのは快楽殺人鬼だ。でも、正直言峰綺礼より怖くない。だって、人間の範疇だし。魔術アイテムは怖いが。多分触れたらアウト系の類だった気がする。

 

「駄目よ!この先は危ないかもしれないのよ!」

 

「その言葉そのまま返すよ?それに、ここで悠長に話してて良いの?」

 

「うぐっ……ああもう、分かったわよ!」

 

 尚も気遣ってくる良い子を無理やり丸め込む俺。時間が無いのは事実だし、許して。遠坂凛……いちいち長いな。ロ凛で良いか。ロ凛と一緒に下へと降りていく。ちらっと隣を見ると、だいぶ緊張した顔をしている。まぁ、この時はただの女の子だしなぁ。仕方ない、人生の大先輩が緊張をほぐしてあげるとしますか。

 

「……」

 

 こんくらいの子ってどうすりや良いんだ!?なんとも情けないが、子供を相手にした経験値が圧倒的に足りてない。イリヤ?あれは、人を振り回すお転婆姫だからノーカン。こっちが何か言わなくても、どんどん意見言うし。んー、効果があるか分からんけどやってみるか。

 ロ凛の肩をトントンっと叩き、何よ?って感じで俺の方を向いた彼女の頬ににゅっと伸ばした指がぷにっと触れる。

 

「「………」」

 

 まさかのノーリアクション!!何故か、無言で見つめあう俺たち。やがてロ凛の顔がどんどんと緊張から呆れ顔になっていった。

 

「いや、その緊張を解そうと思って……」

 

 突き刺さる様な冷たい視線に耐えられず行動の理由を告げる。だが、相変わらずロ凛は俺を絶対零度の目で見てくる。そんな目をしなくても良いじゃないか……

 

「気を張るのは良い事だけど、何事もちょうどいいとこがある。少しは余裕を残しておかないとね?」

 

 必死に動揺する内心を隠しながらしゃべる。余裕と聞いた瞬間にロ凛は、はっ!とした様な顔になる。

 

「常に余裕を持って優雅たれ……私とした事が遠坂の家訓を忘れてたわ。……ありがとう、もう少し良い手段はあったんじゃないのとは思うけど、お陰で余裕が生まれたわ」

 

 そういやそんな家訓でしたね。すっかり忘れてたよ。でも、これで元々の快活さは戻った様で降る足取りも軽い。そんな様子に一先ず安心しながら、俺もついて行く。下に降りるとどうやら地下を拠点とする飲み屋があったらしく中はごちゃごちゃとしている。壁に手を当てながら歩くロ凛の後ろをついて行きながら、周囲を警戒する。やがて、彼女が誰かを見つけた様で声をあげる。

 

「コトネ!?」

 

 どうやら目的の人物を見つけたらしい。だが、龍之介によって意識が無く声をかけても反応はない。周囲には同じ様な子供達が何人もいる。そして、その最奥に殺人鬼はいた。

 

「ちょうど良いや。今から俺たちパーティするんだ。君達も手伝ってくれない?」

 

 ゆらりと歩き近づいてくる龍之介。ブレスレットがついた手がロ凛に触れると同時に驚いた様に弾かれる。多分、無意識に洗脳をレジストしたんだろう。良いなぁ、魔術が使えるってのは。

 ロ凛が龍之介から逃げながら、ブレスレットを握る。あの一回だけで原因が分かる辺り、流石は遠坂の次期当主ってところか。さて、俺の出番はこの後だから準備しときますかね。

 

「壊さなきゃ!!」

 

 膨大な魔力がブレスレットに注がれる。子供なのに凄い魔力量だな。やがて、大量の魔力に耐えられなかったブレスレットが壊れ、次々と意識を失ってた子供達が目を覚ます。そうなれば、当然怒り出す龍之介。

 

「このっ!」

 

「今度は俺の見せ場ってね!」

 

 勢いよく走り出し、その辺の机などを足場に跳躍する。

 

「は?」

 

 突然の行動に驚いてる龍之介。やっぱり、ただの殺人鬼。言峰綺礼とは比べるまでもない。空中でサマーソルトを放ち、龍之介の顎を蹴り抜く。顎は、骨で直接頭蓋骨と繋がっている。ここが揺れると簡単に軽い脳震盪を起こす。何が起こったのかよくわからないまま龍之介は意識を手放し、倒れ伏す。

 

「よしっ。逃げるぞ凛ちゃん!」

 

「え、えぇ!ほら、みんな逃げるわよ!」

 

 コトネを含む子供達と共に階段を駆け上がっていくロ凛。それを見ながら、俺を自分の気配を断ち集団からこっそりと抜けた。もう俺が付き合う理由はない。これ以上居ると、遠坂の娘達大好き雁夜おじさんと出逢っちゃうかもしれないし。しかし、遠坂凛は遠坂凛だったなぁ。

 

「見つけました影辰。切嗣が待ってますよ」

 

「ハイ」

 

 逃げた先で俺を探しに来たセイバーとばったり出会い、運ばれる。え?この後だって?勝手に抜け出した罰で、切嗣、アイリスフィール、舞弥さんにこってり怒られ、見張りにセイバーが付けられたよ。あぁ……俺の楽しい聖地巡礼はもう二度と来ないのね……

 

「あ、名前聞き忘れた!」

 

「急にどうしたの凛?」

 

「えっと……ちょっと世話になった男の子が居たんだけど、名前を聞くの忘れちゃったの」

 

「あらあら、それは残念ね」

 

「うん……でも、あの子私の名前知ってたのよね。不思議」

 

「もしかしてクラスの子じゃないの?」

 

 あかいあくまのうっかりが伝染してた事に俺は全く気がついていなかった。そして、魔術師として半端な雁夜ですらあの時の凛を見つけ出す事が出来たのだ。元々監視の目を冬木全体に放っているこの男が気が付いていない訳がなかった。

 

「……遠坂凛の事すら調べていたか。ますます、その素性が気になるな影辰」

 

 神父服を来た男は愉しげに暗闇の中笑みを浮かべた。本人は自分が笑っているなど、気付きもしなかったが。




次回は聖杯問答かな。
聖杯問答→キャスター脱落→ランサー脱落→第四次聖杯戦争終結。みたいな流れを想定してます。予定なのでこの通りに行かない事もあるかもですが、もう少しFate Zero編にお付き合い下さいませ。

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