転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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サブタイがネタバレしてるってマ?
いやぁ、遅くなりました。聖杯問答のシーンを何度も見ながら書いてたら時間かかってしまいました。王道とか一般人作者には難しいよ……


願いは兎も角として、王としての在り方自体は間違ってないと思う

「なぁ、セイバー」

 

「はい。なんでしょうか。ずっと立ってて暇じゃないかという質問なら先程答えた通り、それが私の役目ですのでお気になさらず。それとも、また水を飲みたいのですか?それともトイレですか?無論、私がお供しますよ」

 

 スーツ着た美人にほぼ監禁されて数日。とても辛い。何するにしても、ずっとセイバーが後ろからついてくるし、少しでも伝えてない動きを見せると手を掴まれ、連行される。一回の脱走で警戒し過ぎじゃないですかセイバーさん?

 

「貴方は子供なのですから、平和な時間ぐらいはゆっくり過ごしてください」

 

「……聖杯戦争に参加してる以上、覚悟はしてるつもりだよセイバー」

 

「それでもです。本来、戦場に貴方のような子供が立つべきではないのですから」

 

 セイバーの様な王様からしたら子供は次代を担う宝物だから戦場には立たせたくないのだろう。実際、子供まで兵士にする様な国は長続きしない。仮に国が残っても、人不足で衰退していくのは必定だと思う。だが、それを切嗣の道具である俺に求めるかセイバー……

 反論をしようとセイバーを見れば彼女は視線をこの城の入り口の方へ向けていた。あぁ、来たのかライダー。

 

「影辰」

 

「俺の役目はアイリスフィールの護衛だ。それは邪魔しないでくれよ、セイバー」

 

 ベッドから降り、即座に着替える。腰にコルトパイソンをぶら下げ、念の為ギルガメッシュから貰った効果不明の霊薬を懐に入れる。アイリスフィールが軽く調べたけど、これなんの効果かも分かんなかったんだよなぁ。頼りたくねぇ……でも、飲んでないなら持ってないとあの王様キレそうだし。

 

「行こうセイバー」

 

「そうですね。行きましょう」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ほぅ?再びこの我の前にその顔を晒すか。雑種」

 

「……貴方とは会いたくないが、俺も役目があるからな」

 

 もうやだこの王様!!徒歩でアインツベルン城にやってきたこの王様、キョロキョロと辺りを見渡して俺を見つけたら、口角を上げながら宝具を撃つ準備するんだもん!!

 

「アーチャー!」

 

 セイバーがギルガメッシュに向かって吠える。横目でそれを見たギルガメッシュは武器を納める……なんて事はなく、鼻で笑い変わらず俺に武器を向けている。アイリスフィールの前に出ながら、真っ直ぐギルガメッシュを睨みつける。めちゃくちゃ怖いが、此処で引き下がる訳にもいかないんだこっちは。

 

「アーチャー、先ずは駆けつけ一杯どうだ?此度は英雄の格を競い合う問答。此処で武器を振るうという事は、自らそれを辞退したと余は判断するが?」

 

「……ふん。良いだろう、此度は引いてやる」

 

 イスカンダルが突き出した酒を受け取り、飲むギルガメッシュ。その背に宝具は浮いていない。どうやら、イスカンダルが煽ってくれたお陰で俺から注意を逸らした様だ。た、助かったぁ……ほっと一息入れて姿勢を整える。

 

「うーむ、やっぱり欲しいな。なぁ、セイバー彼奴をくれないか?」

 

「断る。影辰は私達の同志だ。征服王、貴様にやる訳にはいかない。この場で奪うというなら、問答などせずに武器を交える事になるぞ」

 

「折角アーチャーのやつを落ち着かせたのに、そうなっては困る」

 

「おい。我をなんだと思っている。それと、なんだこの酒は」

 

 三人揃った王様達が何処となく楽しげに話し出した。多分、このままいけば……あ、ギルガメッシュが極上の酒を取り出した。金の杯に注がれるその酒の味に興味がない訳ではないが、今の俺は子供。我慢我慢。

 

 これより語られるは三人の王。それぞれが掲げる王道。

 

 アーチャー。英雄王ギルガメッシュ、孤高にして至高の王。全ての法を敷き、国を民を導く最古の王。

 

 ライダー。征服王イスカンダル、人々の憧憬を羨望をその身に背負い、人々の道標足らんとした絆の王。

 

 そして、セイバー。騎士王アルトリア、孤独にして理想の王。誰の理解を必要ともせず、清く正しくあろうとした騎士の王。

 

 誰が正しいとか間違っているとかはない。少なくとも俺はそう思う。何故なら、全員の生きた時代が、国が違うのだから。求められていた事が違うのだ。その時々に沿った王でなければ、国は育たず民は死に、歴史に名を残す事はできない。英霊として、反英雄でもなく名を残している彼らは皆、王として正しいのだと俺は思う。

 

「それで貴様は正しさの奴隷か?殉教などと言う生き方に誰が憧れる?」

 

 俺が思考の中に沈んでいる間に、話は随分と進んでいた様だ。確か、セイバーが聖杯に託す願い。ブリテンの滅びの回避を聞き、イスカンダルとギルガメッシュがそれを愚かだと否定する場面だったか。イスカンダルから浴びせられる言葉にセイバーは反論できず、どんどんその顔に悲痛を浮かべていく。願いは兎も角として──

 

「……セイバーの王道は別に間違ってないと思うけどな」

 

 三人の王の視線が俺を貫く。思わず、口に出してしまった言葉に反応した様だ。視線が訴えかけていた。続きを語れと。聖杯の所有権が誰にあるか語らうのが目的じゃなかったんですかね……仕方ない。ギルガメッシュに視線を合わせ、口を開く。

 

「発言をしても?」

 

「くくっ、誰に尋ねるべきかよく分かっている様だな。良い、許す」

 

「……俺は王ではなく、ただの平民だからセイバーの願いが間違ってるかどうかは分からない。だが、征服王の言う様にセイバーをただの小娘と思う事も出来ない。俺が平民として有難いと思うのはセイバーだから」

 

 セイバーが目を見開き俺を見つめてくる。俺の言葉に興味深そうに笑みを浮かべるギルガメッシュと、顔を顰めるイスカンダル。

 

「征服王。貴方は確かに多くの羨望を集めたのだと思う。けど、俺が貴方の時代にいれば貴方の様な王は余り好ましくない。俺は争いを望んでいない。ただ、生きていたいだけなんだ。貴方の様に戦争を起こしまくる王は俺みたいな人間には合わない。そして、アーチャー。貴方の様に貴方個人の面白さを優先されたら俺みたいな人間は振り回されて疲れてしまう。その点、セイバーは過保護だが俺の様にただ生きたい人間を守ってくれるだろうから俺としてはセイバーが有難いんだよ」

 

 長々と言葉にしたが、簡単に言えばこの三人の中で現代に適してるのはセイバーだったって話だ。まぁ、これも俺個人がそう思うってだけで正しいとは限らないが。

 

「ふははははは!!貴様、我の裁定を無視し、今なお慈悲にあやかっておきながらこの我に物申すか!しかも、その豪胆さを持ちながらただ生きていたいだと?根っからの道化か貴様!」

 

 楽しそうですねぇ英雄王。そんな変なこと言ったかなぁ?高笑いを続けるギルガメッシュを思わず怪訝な顔で見てしまう。だが、今の彼にはそれすらも笑いに変わるスパイスだった様で止まる事はない。

 

「むぅ……なぁ、貴様は救うだけで導くことをしない王でも良いと申すのか?」

 

 まだ顔を顰めているイスカンダルが俺に質問を投げる。ギルガメッシュからイスカンダルに視線を移し、俺は答える。

 

「あぁ。窮地を救ってくれればそれで良いよ。セイバーの近くにいた騎士達がどう思ったかは知らないけど、俺は導く事がなくても良い。ちゃんと生きられる様な治世をしてくれればそれで」

 

 かの円卓の騎士達がセイバーにどの様な感情を抱いていたかは知っている。近くでこんなにも綺麗な王様を見ていれば恐怖等を抱いても仕方ないだろう。けどそれは、近くにいたからこそだ。ただ仰ぎ見るだけの俺みたいな平民からしたら上等じゃないか。綺麗な王様なんて。

 

「影辰……有難うございます」

 

「おう。でも、聖杯に託す願いまで肯定した訳じゃないか…アイリスフィール!!」

 

 殺気に反応して振り向けば、アサシンがアイリスフィールに向けてナイフを振るおうとしていた。そのアサシンを殴り飛ばし、アイリスフィールを庇う。

 うん。分裂してるとただの一般人の俺でも反応できるし、殴り飛ばせる。しかし、本来なら包囲してくる筈のこいつらが一人とは言え、アイリスフィールを狙ってくるとは。何を考えている?言峰綺礼。

 イスカンダルが酒を掲げ、対話を問うがアサシンはそれを拒絶。イスカンダルが立ち上がり、セイバーとアーチャーに問う。

 

「ふむちょうど良い。アーチャー、セイバーそしてセイバーの従者よ。見るが良い、これが余の王道だ」

 

 イスカンダルを中心に風が吹き荒れる。同時に、イスカンダルの存在感が増した気がした。宝具発動の兆し。この王様は言葉ではなく、その生涯を通して自らの王道を俺たちに示すつもりの様だ。俺がセイバーを庇った事で、スイッチが入ってしまったか。

 一際大きく風が吹き抜けると共に、見慣れた景色は一変する。青空とどこまでも広がる砂漠の大地。征服王イスカンダルが駆け抜けた風景、それが固有結界として再現された。

 背後からイスカンダルの軍勢が姿を現す。一騎一騎がサーヴァントの軍勢、分裂して数がある程度いるとは言え、分裂しただけ性能が劣化するアサシンには辛い戦いだろう。というか、戦いにすらならない。

 

「彼らとの絆こそ我が至宝、我が王道!イスカンダルたる余が誇る最強宝具『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!」

 

 圧巻の光景。イスカンダルに注がれる熱狂が肌を貫く。知ってはいたが、実際に見て触れると呑まれる。これが、イスカンダルの宝具。そして、これこそが歴史に名を残した王の生き様。なるほど、確かにこれはあの背に夢を見るのも分かる気がする。

 

「王とはッ──誰よりも鮮烈に生き、諸人を魅せる姿を指す言葉!」

 

『然り!然り!然り!』

 

「全ての勇者の羨望を束ね、その道標として立つ者こそが王。故に──!王とは孤高にあらず。その偉志は全ての臣民の志の総算たるが故に!」

 

『然り!然り!然りぃ!』

 

 イスカンダルの言葉に全ての軍勢が応える。乱れることのないその応答は、彼らに一切の迷いがない証明。イスカンダルの妄言というわけではなく、彼らが心の底からイスカンダルに従っている証左。

 バラバラに広がっていた筈のアサシンは固有結界が展開された事で軍勢の真正面に纏められている。隠れることすら出来ないこの場所で真っ向からの戦いにアサシンが勝てる道理はない。イスカンダルの号令と共に向かってくる軍勢にアサシンは、諦める者、逃げ出そうとする者、僅かな抵抗を示す者と分かれようとしていた。だが、突然諦めていた者達が武器を構え始めた。その姿に疑問を覚えていると彼らの叫びが聞こえてくる。

 

「馬鹿な!?この状況で抗えと!?!?楽な死すら与えられぬのか我々には!!!!!」

 

 全てのアサシンが一塊となり、王の軍勢に突撃していく。イスカンダルもその姿に疑問を感じた様だが、次々とアサシンを屠っていく。だが、アサシン達はそのイスカンダルすら見ていない。

 

「衛宮……影辰!!!!!」

 

「ちょ……なんで俺!?」

 

 確固たる殺意を持って俺に向かって突撃してくるアサシン。次々と屠られてはいるが、数を減らしながらも俺へと迫る。王の軍勢が弱い訳ではない。だが、軍勢であるが故に同士討ちを避け、それによる隙間を駆けてくるアサシン。最後の一人が俺の眼前へと迫る。拳を構え、迎撃を試みるがその必要はなかった。

 

「……傀儡の暗殺者とはこうも愚かか」

 

 ブケファラスに乗ったイスカンダルが俺の眼前へと迫っていた女性のアサシンを討ち取ってくれた。

 

「た、助かった。征服王」

 

「なに、これは余の戦場。関係のない貴様らが傷つくのは道理が通らんさ。それより、アーチャー、随分な差金だな?」

 

「ふん。時臣め、いらん事を。我のマスターでありながら、器の小さい男よ」

 

 どんどんギルガメッシュの中で時臣さんの評価が落ちていってる気がする。アサシンを討ち取ったことでイスカンダルが勝鬨を上げ、それに呼応し軍勢も勝鬨を上げる。最初の脱落者を演出したアサシンが本当に最初の脱落者になった瞬間だった。

 固有結界が解除され、見慣れた景色に戻る。イスカンダルが樽から酒を酌み、飲み立ち上がる。俺たちに背を向けるのではなく、正面から見据える。

 

「興醒めではあったが、今宵の語らいはこれで終いとしよう。アーチャーとセイバーよ。互いの王道を譲れぬと言うのなら、次は武を持って語らうとしようか。そして、セイバーの従者よ。余がセイバーを打ち倒した暁には余に付き従え。共に駆け抜ければ見える景色もまた変わるだろう。貴様の豪胆さは余の元でこそ生きる」

 

 返事は聞かずに飛び去っていくイスカンダル。本来、彼はセイバーを王と認める事はなかった。だが、少なくとも俺が彼女を肯定した事でそういう王道もあると思ったのだろうか。器の小さい王ではないから、その辺は柔軟なのだろう。

 

「さて、では我も帰るとしよう。道化、貴様は運がいい。今の我は貴様の裁定より優先すべき事柄がある。故に、宴が終わったが見逃してやろう。それにセイバー、人の身に余る王道を背負い込み苦しみに足掻くその苦悩、その葛藤。慰み物としては十分だ。精々、その道化と共に我を楽しませろ。さすれば、更なる寵愛に値するかもしれんぞ?フハハハハ!」

 

 ギルガメッシュが高笑いと共に消えていく。ふぅぅ、どうにか今回も殺されずに済んだな。

 

「まぁ、殺されなかっただけで更に面倒になりそうな気がするけど……」

 

「えぇ……同意します影辰。アーチャーは関わってはいけない類だ」

 

 これから待ち受ける未来を考えてセイバーと共に溜息を溢す。嫌だなぁ……あの王様。どの世界線でもあの王様は厄介事とセットだからほんとタチが悪いよ。

 

「……ねぇ、セイバー、影辰。あれ、どうすれば良いと思う?」

 

 アイリスフィールが指差した先には置き去りになった酒入りの樽。蓋が割られているから、早くしないとどんどん劣化していくだろう。飲みきれなかったからって置いていくんじゃねぇよ征服王!!この後、俺とセイバーとアイリスフィールで樽の中の酒を瓶に詰めて、一応保存する準備をする事となった。ちゃんと、持ち込んで消費しきれなかった物は持ち帰ろうね。俺との約束だよ(ヤケ)

 




アサシンは言峰によって『影辰に狙いを絞れ』と令呪二画を重ねて命じられてました。逃げたいのに逃げれなかったアサシンさん可哀想。

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