本当は戦いの後も書こうかなって思ったけど、ちょうど良い感じの文字数なので投稿。コイツらの戦い書くの楽しい。
私は何をしている。間桐雁夜にトドメを刺さず、助けるなど明らかに時臣師への裏切り行為だ。ちょうど良く衛宮影辰も来たのだから、守らず殺させればそれで良いはずだ。それが、この聖杯戦争で時臣師に聖杯を取らせる為に参加した正しい私の姿のはずだ。
だというのに、何故私は殺しに来た衛宮影辰にここまで心惹かれている?こんな子供が人を殺す事になんの躊躇いもなく現れた事に楽しみを見出している?
「……それも貴様に問えば分かるのか?」
「はい?あの、俺に過度の期待をしてるならやめて頂けると嬉しいんですが」
思わず漏れた独り言に目の前の男は謙遜した態度で返答する。そういえば、あの時ただ生きたいというのが目的だと語っていたな。これほどの歪さを抱えてそれが叶うとこいつは思っているのか?それとも、私の様に苦悩して導き出した答えだと言うのか?ならば、その過程を私は知りたい。ただ生きたいなどと言う理想が腑抜けだと感じたから、思わずアサシンを嗾けたが、あの時死ななくて良かった。
問いを投げるより前に先ずは、隙あれば逃げようとしている衛宮影辰を死なない程度に痛めつけなければな。
「ッッ!やる気かよ」
僅かに漏らした殺気に素早く反応するその姿に思わず笑みを浮かべる。相変わらず、魔術の加護など何もないナイフを構える衛宮影辰。魔術の才能などカケラもない子供。生かして捕え、聖堂教会に連行すれば喜んで育て上げるであろう器。答えを得たあと、それをしてみるのも良いかもしれない。衛宮影辰の理想とは程遠い生活を送る事になるだろうが。
「悪人面も大概にしろよ……神父だろ、あんた」
「……なに?」
「無自覚かよ。はぁ、ほんとにタチが悪いな」
「タチが悪い……そうだな、そうなのかもしれない。故に、私は答えを欲している。先ほど、お前は何故助けるか問うたな。それに答えよう。この男に興味がある、自らの寿命を削り叶うことの無い理想にその身を捧げたこの男の結末がな」
周囲はビルに囲まれ、一直線の道以外に道は存在しない。今、私がこの男から離れる事が出来る距離は精々、200m程度。サーヴァントは、未だ未遠川周辺。すぐに駆けつける事はないだろう。戦闘をする予定が無かった為、黒鍵の残数は先ほど投擲を差し引き8本。衛宮影辰が逃げ切るには、全力で私に反転するかここに来た時同様に、ビルを足場に飛び越えるか。彼の性格を考えれば──
俺が持つ今の武器は、言峰綺礼に向けているナイフ一本と、ほぼゼロ距離まで近づかない限り当たることの無いコルトパイソンが一丁。こいつから視線を少しでもズラせば殺されるから、無線での救援を呼ぶのは不可能。セイバーは多分、まだ戦闘中か俺の捜索中。都合よく来てくれる事を望むのは無謀。俺と奴との距離は50mぐらい。全力で反転したところで、縮地でもなんでも使われて、一瞬で追いつかれてアゾられるのが関の山。となれば、俺が賭ける行動は一つ。
「それなら、ここで死ぬのも結末じゃないんですかね!」
考えが纏まるまでの間していた会話を打ち切り、壁に向かって全力で走り蹴り飛ばす。これしかない。奴の上を通り、間桐雁夜にナイフを投擲する。ちゃんと急所を狙わなければ奴は無視する。だから──チッ、読まれたか!
眼下では俺が投げたナイフを指先で掴んでいる言峰綺礼の姿があった。これでは時間稼ぎにすらならない。目的の殺害を諦め、完全に逃げようとするが目の前に同じように跳躍してきた言峰綺礼が現れる。
「ああくそっ!素直に逃げさしてくれませんかね!?」
「断る」
空中で放たれた蹴りを身を捻り避け、壁を蹴り地面へと向かう。着地をしたら、後ろを振り向かずに真正面に向かって全力で走り出す。背後でアスファルトが砕ける音を聞きながら全力疾走だ。人の目が多いところに逃げる事が出来れば俺の勝ちだ。誰がどう見ても神父服の不審者に襲われる子供の絵面だからね!
「殺気!」
咄嗟に跳躍すれば脚があったところを黒鍵が通過していく。危ねぇ……まず脚を潰すとかやっぱり戦い慣れてる奴は嫌だね!
「で、追いついてるでしょ!?」
着地するより前に後ろに振り向き、放たれていた拳を受け流す。それだけで手が痺れる。人間が出して良い破壊力じゃないんだよなぁ……この目のお陰で捉える事が出来てるけど、マジで一対一とかやりたくない相手ナンバーワンだよこの人。
「でもまぁこの距離なら!!」
コルトパイソンを引き抜き、顔面に発砲する。サプレッサーなんて付けてないから喧しい発射音と共に銃弾が放たれる。
「って、嘘だろおい!?」
「……お前が銃を扱うのは前回、見させて貰ったからな」
確かに前回戦った時に俺がコルトパイソンを使うところは見せた。けど、その一回で顔に銃を向けられた瞬間から回避を開始するか!?俺は動体視力が馬鹿みたいにあるから、急に目の前に突きつけられたって避けてみせるさ。けど、普通、突き出されてからほぼノータイムでの発砲を避けるかよ。ほんとに同じ人間だと思っちゃダメだなこの男。
「ぐっ…!」
苦肉の策で奴を蹴り、後ろに飛ぶ。怯んだりぐらいはしてくれると思ったんだがな。距離を詰めてくる様子の見えない言峰綺礼に細心の注意を向けながらチラリとこの路地の出口を見る。人の姿はちらほら見えるが、銃声に気づいた素振りはない。くそっ、やっぱり魔術で人祓いされてるか。便利だなぁほんと!使えたらなぁ!!
「……さてとどうする。ナイフはもう無い。あるのはコイツだけ」
命中率に問題しかないコルトパイソンのみであの化け物を相手しなきゃいけない……ん?なんで言峰綺礼の奴、距離を詰めて来ないんだ?俺が今、実質丸腰なのを分かっているはず……待てよ?俺は前回、致命的な射撃の腕を見せたか?頬に傷を付けたのを射撃の腕の問題だと思っていたけど、さっきみたいに避けた結果だとしたら、言峰綺礼は俺がまともに銃を扱えると勘違いしてる可能性がある!しかも、前回もさっきも我ながら変な体勢で撃った。距離を詰めた時に俺に撃たれる可能性を考慮して今、ああしているのだとしたら、よしっ。言峰綺礼は俺の射撃の腕を勘違いしてる。もうこの可能性に賭けるしかない。
「何か策がある。そう言いたげな顔だな」
「へっ、まぁね。ところで、言峰綺礼良いのか?」
「何がだ?」
俺に興味あるからって会話してくれてありがとう。最大限のブラフを張るとしよう。コルトパイソンを間桐雁夜に向ける。その動きに言峰綺礼が僅かに目を見開く。随分と俺を追ってくれたもんな、少しばかり護衛対象から離れすぎだぜ。
「まさか……」
「そのまさかさ。あんたの身体が少し邪魔だが、動かない間桐雁夜を射抜くのには何の問題もない。一発じゃ無理でも、まだコイツには残弾がある。数発纏めて撃てばいくらあんたでも守りきれないんじゃないか?」
道は一直線だが、それなりに幅がある。狙って誘導した訳じゃないが、狙おうと思えば間桐雁夜を狙う事は出来る。そう、俺ほど致命的な腕じゃなければね!魔術のセンスと一緒に落としてきた射撃センスを恨むが無いもの強請りをしても仕方ない。
言い切ると同時にコルトパイソンに込めてある弾全てを撃つ。一応、全部狙う場所は変えた。目標の間桐雁夜を撃ち抜く事は無いだろうけどね。結果は見届けない。そんな余裕なんて無い!言峰綺礼が俺の銃弾に意識を割いてくれる一瞬の時間が命を繋ぐのだから、着弾結果なんて見る気なし。逃げるが勝ちってね!!
「そのまさかさ。あんたの身体が少し邪魔だが、動かない間桐雁夜を射抜くのには何の問題もない。一発じゃ無理でも、まだコイツには残弾がある。数発纏めて撃てばいくらあんたでも守りきれないんじゃないか?」
衛宮影辰の言葉と同時に銃声が何回も轟き、銃弾が放たれる。その瞬間、奴が背を向けて走り出すのが見えたが、追いかける訳にはいかない。黒鍵を取り出し銃弾を弾かなければならない。後ろの間桐雁夜に当てる訳には……?
「弾が飛んでこない?」
放たれた弾丸の一発すらまともに此方に飛んでくる事は無かった。一番惜しくて私の近くの水道管に当たり、水を放出しているくらいだ。出鱈目に撃ったのか?いや、奴の殺気と銃口は確かに間桐雁夜に向けられていた。
「……銃の扱いが下手なのか?」
だとしたら私は見事に出し抜かれた。衛宮影辰は持ち得る全ての手段を使って、私に当たる事のない銃弾を当たると思い込ませた。完全に待ち受ける形になっていたこの状況では走ったあの男を追いかけた所で追いつけないし、間桐雁夜から離れすぎる。
「此処で捕らえ、衛宮切嗣や奴自身の事を問うつもりだったが……私の負けか」
瀕死の間桐雁夜を担ぐ。コレが生きているから、負けではなく引き分けかもしれないな。そんな事を考えながら、衛宮影辰とは真逆の方向へ歩き出す。次は互いに余計な物がない時に戦いたいものだ。
次回はどこかな。ランサー敗退かな?
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