あと、1話か2話でzero編が終わるかな。可笑しいね、当初は10話ぐらいで終わると思ってたよ。
思えば、彼を拾ったのはずば抜けた身体能力を見せたのもあるが、イリヤと重ねてしまったからだったか。魔術師殺しと言われていた頃に戻れずに、アインツベルンから突然の依頼を受け殺しに行った魔術師の家系。詳しい理由に興味はなかったが、なぜ殺せと言われたのだろうか?まぁ良い、兎に角僕はそこで舞弥と同じ質の良い道具を手に入れた。
「……その彼からも連絡はない……舞弥は予断を許さない状況。また、一人になったな」
彼が今更間桐雁夜如きに遅れを取るとは思えない。僕が無理やり命じたのなら可能性はあるが、あの時彼は確信を持ってバーサーカーのマスターを殺すと言った。なら、何かしらの自信があったのだろう。ともすれば、余計な邪魔が入ったか。
「言峰綺礼……奴を初めに殺しておけば……」
「あれから市内を探していますが、アイリスフィールと影辰は見つかりません。これから捜索に戻りますが、何かあれば令呪で召喚してください」
セイバーが報告をして再び背を向ける。アレを数には入れてなかったが、事が起きてすぐに令呪で転移させてもアイリを見失い、宝具を使ったというのにライダーを仕留める事もせず、時間だけ浪費し影辰すら見つけられない。そんな役立たずを数に入れるほど僕は優しくない。
「最優のセイバーか……ふっ、笑わせてくれるな」
「……此処は……何処だ?」
「漸く目を覚ましたか道化」
目を開け、真っ先に飛び込んだのは輝かしいまでの黄金──もとい、ギルガメッシュだった。黄金の鎧を着てなくても黄金なのかこの王様は。って、そんな事はどうでも良い。なんで、ギルガメッシュと1対1になってるんだ俺は?
「状況が飲み込めていないようだな。良いだろう、この我が説明してやる。貴様は、バーサーカーのマスター殺害後、綺礼によって気絶させられ、この場に連れて来られた。あぁ、安心すると良い今、綺礼は別の場所にいる」
そうだ。思い出した、間桐雁夜を殺しに行って俺は背後から言峰綺礼に襲われたんだ。……なら、なんで生きている?俺に人質としての価値はない。その程度で切嗣が聖杯を諦める訳がない。そんな事、あの男からしたら分かるはず。
「なんで俺は生きている?」
「問いを許した覚えはないぞ道化。まぁ、良い。我が与えた霊薬を肌身離さず持っていたその礼儀を以て赦してやる。綺礼は貴様に執心でな、彼奴の内側が目覚めるのならこうして生かしてやるのも悪くない訳だ」
いやいや、なんか妙に好感度高いな?とは思ってたけど、俺あいつに粘着されてんの??愉悦に対する答えなんて持ってないぞ?全くもって理由が分からん。切嗣だけが狙いじゃなかったのか?
「……なんで俺なんかに?」
俺がそう言うとギルガメッシュは、これまた愉しそうな笑みを浮かべソファに深く座り込む。今、気が付いたけど此処下水道じゃないんだな。何処かのホテルか?いや、サーヴァントがホテル借りるなよ……あ、通販する英霊もいたか。
「道化、貴様は己の歪さに気づいているか?」
「歪さ?」
「そうだ。僅かに神の残り香を漂わせる道化よ、貴様と神の間にどの様な盟約があったかは知らん。だが、生を望んでおきながら、死地に飛び込むその矛盾はなんだ?死を恐れる癖に、死地には怯えない。はっ、随分と愉快な精神よな」
死を恐れる癖に死地には怯えない……?何を言っている。俺は常に死にたくないと思って……
「よもや貴様、自分は真っ当に恐れていたとでも思っていたか?我の宝剣、魂そのものに呪いを齎す宝剣を見た時のみはっきりと怯えを見せた。つまりだ、それ以前に起きていた戦いそして狂犬の背にいた時、貴様は怯えていなかった。理由を聞かせてみせろ、貴様は何故生きようとしている?その為にこの場を用意したのだからな」
ギルガメッシュが何を言っているか分からない。俺は生きたいと望んで……望んで?なら、俺は死に怯えていたか?死にたくないと言いながら何度も何度も俺は戦いに赴いた。本当に死にたくないなら、全てを投げ出す覚悟でこの冬木から逃げ出せば良かった筈だ。切嗣の道具だからと言い聞かせ、すぐ隣に死がある戦場に赴き今こうして、切嗣の為にマスターを減らそうとして捕まっている。
「お、俺は……生きたいから……」
「生きたいから生きるそんなものは獣以下だ。その先に何を望む?」
ギルガメッシュの言葉に答える事が出来ない。この第四次聖杯戦争そして、起きるであろう第五次聖杯戦争を生き延びたとして俺は何を望んでいる?
「……ふむ。貴様も愉悦が何たるかを知らない様だな。さて、どうしたものか。導いてやるのも吝かではないが、貴様は流れのままに任せておいた方が面白い事になる気がするな」
ガチャリと後ろのドアが開く音がした。振り返ってみればそこには言峰綺礼が居た。俺の顔を見て笑みを浮かべた後、近くにやってくる。彼から血の匂いがした。あぁ……アイリスフィールは死んだのか。
「随分と憔悴した顔だな。ギルガメッシュ、何かしたのか?」
「なに、少しばかり問いをな。喜べ、綺礼。此奴も貴様と方向性は違うが空虚な人間だ」
「ほぅ。既に答えを得たものだと思っていたが、今ならそれはそれで楽しめそうだ」
言峰綺礼に片腕を掴まれ、持ち上げられる。何を考えているかは分からないが、随分と愉しそうな顔をしている。ただ、その手を振り払う気力も今はない。ギルガメッシュに問われた事が今もなお、脳裏から離れない。
「腑抜けになられては困るな」
腕を掴んでいる右手が光輝き、しばらくして雑に離される。自由落下でソファに叩きつけれ、左手を見てみたら片翼の様な形をした令呪が宿っていた。……は?
「監督権限で今からお前をマスターと認めよう」
「ッッ、俺に魔術回路はないし、聖杯に託す願いもない!そもそも、サーヴァントがいない筈だ!」
俺がそう言うと同時に言峰綺礼は笑みを深めながら口を開く。
「バーサーカー」
その言葉と共に彼の横にバーサーカーが現れる。倒した訳でも、自然消滅を待った訳もなく再契約したのか?そんな魔力何処に……令呪か。言峰綺礼の腕には過去の聖杯戦争で使われなかった令呪が宿っている。それを魔力源とすれば戦闘もしないバーサーカーの維持は簡単だろう。ははっ……結局、何も……何も出来てねぇじゃねぇか……
「この通りバーサーカーの枠が余っていてな。私が契約を続けても良いが、既にギルガメッシュがいる以上、長くは維持できない。そこで、哀れにも我々に捕まったお前に白羽の矢が立った訳だ。無論、断る権利はあるがそれをすれば死ぬだけだ。首に触れてみると良い」
ゆっくり首に手を伸ばせば、何かが触れる。首輪か?
「それはギルガメッシュから借り受けたものだ。お前が、バーサーカーとの契約を拒否したり、令呪で自害させたりすれば即座にその首を絞め上げるというものだ」
この野郎……選択肢なんてないじゃないか。バーサーカーと契約をせずに死ぬか、バーサーカーと契約して命尽きるまで搾り取られるかの二択。どちらを選んでも俺に待っている結末は死。
下唇を血が出るほど噛みながら、令呪をバーサーカーに向ける。
「……俺に従え。バーサーカー」
令呪が光輝き、バーサーカーと俺との間にパスが繋がる。その瞬間、全身の血が沸騰したかの様な痛みに襲われる。碌な魔術回路を持たないものがサーヴァントと契約した場合、現界を維持する為に使われるのは自身の生命力。
「がっ……あぁァァァァァァァァァ!!!!!」
痛い……痛い……痛い!ただ息をしているだけで、全身が裂けそうになる。無様にソファから転げ落ち、命そのものが削られる激痛に蹲る。バーサーカーの奴、現界ギリギリだったな。ああくそっ、一発で再契約が成立する時点で気づくべきだった。言峰綺礼の奴、バーサーカーと再契約なんてしてない。どうやったかは知らないが、霊体化させて魔力消費を極端に抑えてただけだ。
「ふっ、バーサーカーが消えるまでに起きなければ無理矢理にでも再契約させるつもりだったが、こうして苦しむ様を見ることは出来なかったな」
「は……はぁ……バーサーカー……霊体化してろ……」
バーサーカーが俺の言葉に従い霊体化する。すると、違和感こそあるが徐々に痛みが引いていく。ぼたぼたと汗を落としながら言峰綺礼を睨みつける。
「いつまでその目が出来るか見ものだな。さて、そろそろ行くぞギルガメッシュ」
「此奴はどうする?此処に置いていくのか?」
「無論連れていくとも。ただ待つだけでは暇だからな」
「しかし、つくづく可笑しな奴よ。魔力を持たぬその身でバーサーカーを現界させ、未だ魂が潰えぬとはな」
ギルガメッシュの言葉を聞きながら意識を失う。この先に待ち受ける運命に絶望しながら。
感想欄でも予想している方がいましたが、はい。最終決戦にはバーサーカーのマスターで参戦です。
バーサーカーを自害させたら一緒に死にます。アロンダイトなんて出されたらにはヤベェです。雁夜叔父さん以上に保ちません。
先の展開へのフラグとか、伏線とか撒きつつ今回は此処まで。次回は早めに更新して一気にzeroを駆け抜けたい所存(予定は未定)
感想・批判お待ちしています。