書き出しに沼ってました……ズブズブ沈むと中々戻ってこれない……
転生した俺は結局のところ、自分の生存と切嗣達原作キャラ達の幸福。それらを天秤に乗せて、自分の生存を選んだ男だ。切嗣の道具として自分を扱う事で、結末を知っている親しい人物達が地獄に落ちていく様をただ黙って見ることを選んだ卑怯者だ。それはどう足掻いても変わらない。ただ生きたいとなんの目的も持たず、漠然と生きているだけの俺がこの聖杯戦争に全てを懸けている衛宮切嗣や他の参加者達に比べて生きていて良いわけがない。だから、これはその罰なんだろう。親しいと思える人間すら見捨てた俺に対する罰だ。
「ぐっ……ァァァァァ……」
バーサーカーとセイバーの戦闘音が聞こえる。令呪一画を使って、セイバーと戦うようにバーサーカーには命じてある。令呪の魔力が無くなるまでは俺の魔力を吸い尽くす事はないだろう。脂汗をかきながら、なんの飾りもないただの冷たいコンクリートの壁を見上げる。令呪は残り二画。……なんで、俺はまだ生きようと足掻いているんだろうな?とっとと、自害でもすればセイバーは早々に聖杯に辿り着く。イスカンダルと戦ってるギルガメッシュはまだその場に居ないだろうし、聖杯の真実を切嗣が知るより前に気づけるかもしれない。そうすれば、あの清廉潔白な騎士は聖杯を、我欲に走る前に破壊して……なんて、希望論が過ぎるか。
令呪を早々に使い切ればマスター権を失って、この地獄からも解放されるかもしれない。けど……
「解放されて……どうしろってんだ?」
この最終決戦の場に居ては聖杯の泥から逃れる事は出来ない。仮に今から令呪を使い切ったとしても、泥の効果範囲から逃げ切れるとも思えない。なにせ、ただの子供の体だ。車並みに走れる訳じゃない。
「はぁ……はぁ……」
不味いな。呼吸がし辛くなってきた……生命力という名の魔力を吸われて、どんどんこの身体も死に近づいているらしい。このまま、魔力を吸い上げられて干からびて死ぬのだろうか?ハハッ、前世より最悪な死に方だな。
「……あぁ、いよいよ視界が霞んできやがった……くそっ、令呪の行使すら出来ないじゃないか。燃費の悪いサーヴァントだ……」
他者を見捨てて、他者を平気な顔で殺して。そんな悪者にうってつけの結末だな……
『切嗣はね、本当はとっても優しいのよ。貴方にはキツく当たる事もあると思うけど、あの人を誤解しないであげて欲しいわ』
一面の銀世界、珍しく晴れた外の景色を見ていたアイリスフィールが同じく、外を見ていた俺に突然そう話した。外ではイリヤと切嗣が遊んでいる。俺の前世からしたら当たり前な幸福な光景で、彼女からしたらとても残酷で優しい光景。慈しむように微笑む彼女は拾われただけの俺にも同じ笑みを浮かべていた。そんな彼女の言葉に分かっていると答えれば、嬉しそうにまた笑みを浮かべた。
『ほんと!なら、切嗣を支えて欲しい。あの人は色々と溜め込んでしまうから。誰よりも優しいのに誰よりもこの世界が残酷だって知っているから。ふふっ、貴方の様な子供に頼む事じゃないわよね。でも、きっと貴方なら切嗣を支えられると思うの』
何を根拠に言っているのだろうか?あの時も今も俺には彼女がどうして俺なんかに頼んだのかさっぱり分からない。吹雪が吹き荒れ、俺を飲み込む。吹雪が止んだ頃には景色が変わり、今度は舞弥さんが近くに立っていた。
『影辰。私達はあの人の道具です、それを忘れてはなりませんよ』
分かっている。俺は切嗣に道具として拾われ、その機能を期待された。だから、頑張ってきたつもりだし、貴女に切嗣の夢を手伝ってくれと頼まれたからやれるだけはやったよ。結局、こうしてバーサーカーのマスターとして邪魔をしてしまっているけど。どうせそれもすぐに終わる。
『ですが、貴方は本来大切に守られるべき子供です。戦うだけの機能を期待され仕上げられた私と違って、貴方はまだ人として扱われています。きっと、それは切嗣の弱みなのでしょうが……私はそれを好ましいと思っています。切嗣の夢が叶った世界、そこには奥様もそして私も居ない事でしょう。その時は、貴方が切嗣と一緒に居てあげてください。あの人は、寂しがりやですから』
なんで……なんで……俺なんかにそんな事を頼むんだ。確かに切嗣から理想を聖杯に託す願望を聞いた。けど、俺なんかが居て何になる?舞弥さん、貴女も居るべきだ。そんな悲しい顔をするくらいなら、自身の生存を諦めちゃダメだ。夢なのか現実なのか、それともこれが所謂走馬灯というやつのか?
『僕が聖杯に託す願いは、恒久的な平和だ。もう二度と人類が血を流すことのない世界を聖杯に願う』
最後に切嗣が現れ、最大の信頼として聞かされた願いを言われる。この時俺は自分の中で葛藤していて、よく切嗣を見ていなかった。あぁ、こんなにも不安げなのを隠そうともせず願いを口にする男がいるのか。俺の記憶が正しければこの後、切嗣に心配され、会話を終わらせた筈だ。けど、どうやらあの時、俺が聞けなかった言葉があるらしい。
『僕が言うのも変なことだけど、恒久的な平和が実現したら、その世界で君は自由に生きて欲しい。僕の道具とかこれから手を染めるであろう血に縛られる事なく、ただの子供としてただの衛宮 影辰として』
……なんて、傲慢な願いなんだろうか。俺を道具として仕立て上げた男の言葉とは思えない。けど、あぁ……なんで俺はこんなにもスッキリとした気分でいるんだ。俺はこの世界で繋がりなんて作れないと思っていた。この世界にとっての異物であり、本来の在り方を歪める存在が俺なのだから。だから、親しいと感じた人達を見捨てて可能な限り原作のまま進行させようとした。ちょっとばかり、自分に有利になる様には立ち回ったつもりだけど。だけど、そんなの関係なしに彼らは俺に手を伸ばしてくれていた。
『影辰。貴方は子供なのですから、平和な時ぐらいゆっくりしていて下さい』
セイバーの子供扱いだってズレてはいたけど、確かに俺を気遣ってのものだった。なんだ、俺はこんなにも沢山の人に手を伸ばされていたんじゃないか。それを取ろうともせず、何をやってんだ俺は……
閉じていた目がゆっくりと開いていく。力なんて入らなかった身体が動き出す。身体より先に心が負けていた。走馬灯ってやつに感謝しなきゃな。もたれかかっていた壁から離れ、緩慢な動作で立ち上がる。まだやれる。まだ動ける。活力が戻ってきた身体が、一歩動くごとに激痛を知らせる。
「……こいつの飲み時か」
懐からギルガメッシュに貰った謎の霊薬を取り出す。これの効果なんて知らない。もしかしたら飲むだけで死に至る猛毒かもしれない。そんなものあの王様からすれば、溢れるほど持っているものだろう。だが、あの慢心の塊とも言える王様が自身の知らないところで俺が死ぬのを是認するとは考えられない。裁定を下すと言ったのだから、俺を直接見て判断できる状態で殺す筈。
「ただの希望論……あの慢心王のプライドを信じるだけの行為。さっきまでの俺からしたら考えられない判断だな」
けど、あの王様とも繋がりが出来たと言えば出来たと言える。俺を道化として面白がるつもりなら、この霊薬は毒じゃない。俺を更なる地獄へ導くものかもしれないが今だって地獄だ。そんなもんもう関係ねぇ!
勢いよく、蓋を開けガッと霊薬を飲み干す。瞬間、全身に力が漲る。死にかけていた俺の魂が輝きを取り戻していくのを感じる。ハハッ!これなら全然動ける!戦いで歪んだ扉を渾身の力で蹴り飛ばし、セイバーとバーサーカーの戦いの場に乱入する。
「影辰!?此処にいたのですか!?!?」
死んだ魚の様な目をしていたセイバーの顔が驚愕に染まる。そんなセイバーを見て、笑いながら令呪をバーサーカー……ランスロットに向ける。既に兜が壊され、狂気に支配された生前の美貌など一切感じられないその顔が俺を見ていた。俺は、Fate作品を見てて常々思っていた事がある。そう、円卓の騎士のコミュニケーション能力の無さだ!もっと話せよお前ら!何のための円卓だよ!!
「令呪を持って命じる。一時的で良い、狂気を取り払え!重ねて令呪を持って命ずる。バーサーカー、ランスロット!!自身の想いを騎士王に素直に告げろ!!」
「影辰!?」
「Arrrr!?!?!?」
セイバーとランスロットの顔が揃って驚愕に染まる。ほらそこ、Arrrrじゃないでしょ!令呪が無くなってマスター権の無くなった俺から魔力を搾り取る事が出来ないんだからさっさと話をする!即座に俺を殺さない時点で令呪が有効に働いてるのは分かってるんだから。
「早く話すんだよランスロット。俺はちゃんとした魔術師じゃないんだから、令呪無しに貴方に魔力を渡す事は出来ないんだから。令呪の効果が切れたら消えるよ?」
「……私には狂気に堕ちる事すら……赦されないのか……私はただ、王に罰して貰えればそれで良かったのだ。騎士としても男としても半端であった私を……王よ、我らが騎士王よ。どうか……私に罰を……仮初のマスターの命が残っている間に」
燃え盛る戦場の中、狂気を取り払われた不忠の騎士は膝を突き、王に罰を乞う。頭を下げるその姿は正しく、王に傅く騎士そのものであった。そんな騎士に対し、王は震えたまま言葉を紡がない。
「セイバー。想いは黙っていては伝わらないぞ、なにせ言葉にしても気づかなかった馬鹿が此処にいるぐらいだからな」
本当は黙って見守るつもりだったけど、令呪の効果がいつまで続くのか分からない。此処でバーサーカーに暴れられたら俺が死ぬ。だからちょっとばかしセイバーを急かす。一度、俺を見たセイバーは覚悟を決めた顔になり口を開いた。
「我が騎士、ランスロットよ。私は、貴方こそ忠節の騎士であるという想いは変わらない」
ビクッとランスロットが動く。
「……しかし、貴方が罰を求めていると言うのなら罰を与えるのが王としての役目なのでしょう。私は救うばかりで導く事をしてこなかった。その結末はよく知っている。我が騎士、ランスロットよ。今更だが貴方に罰を与える」
聖剣が姿を現す。漸く裁かれる時がきたとランスロットは傅いたまま動かない。
「……ご苦労様ですランスロット。不甲斐ない王で申し訳ありませんでした」
霊核をバッサリと斬り裂く聖剣。首を飛ばすのではなく、霊核を斬り裂く事を選んだのは例え仮初の身体であろうと、ランスロットの首が地面を転がるのを嫌ったのか。それはセイバーにしか分からない。崩れ倒れるランスロット。
「……やはり王は王ですね……あぁ、あの円卓に集った誰もが貴女を不甲斐ないなどと思った事はありませんよ……敬愛すべき我らが尊き王よ……私は、貴女の元で戦えて……」
幸せでしたと消えいる様に残しランスロットは消滅していった。暫く、消えていったランスロットを見て涙か火災の煙に反応したスプリンクラーの水かどちらか分からないもので顔を濡らしたセイバーは、俺の元へゆっくりと歩いてきた。
「……その、なぜ貴方がマスターをしていたのかは分かりませんが、ありがとうございます。きっと、貴方がいなければランスロットの本心を知ることも理解する事も出来なかったでしょう」
「良いよ別に。余計な手間をかけさせたお詫びみたいなものだ。それより早く奥に行こう。多分、切嗣がそこに居て、聖杯もそこにある」
お礼を言ってくるセイバーに背を向けて歩き出そうとする。直後、視界がぐにゃりと歪み耳鳴りも酷くなる。高揚感はあるのに身体はどうやらボロボロらしい。まともに歩く事すら出来ず、体勢を崩す。
「影辰!?」
倒れそうになったところをセイバーに抱えられ、どうにか派手に地面へと激突する事は避けられた様だ。なんだ……この感覚……これ、前世で酒を飲みすぎた時に味わった感覚に似てる気がする……くっそ、霊薬の副作用か?まだやる事があるってのに……これは……不味いな。
「影辰、大丈夫ですか!?くっ……とりあえず此処は火の手が危ない。此方に」
セイバーに抱えられたまま、何処かの部屋に案内された。そこにあったソファに降ろされると、流石に立てなくなる。
「影辰、私は……」
「良いよ……気にしないで……落ち着いたら俺も行くから……」
「はい。わかりました、影辰を信じましょう。大丈夫です、貴方がくる頃にはきっと聖杯を手に入れていますから」
セイバーがそう言って立ち上がる。遠ざかっていくセイバーの背中を見ながら、気力を振り絞って口を開く。これだけは伝えておかないと。
「セイバー……俺を気遣ってくれてありがとう……楽しかったよ」
「……はい。私も散々貴方に振り回されましたが、楽しかったです」
笑みを浮かべて今度こそ去っていくセイバー。きっともう、彼女を見ることはないだろう。目を閉じてソファの上で寛ぐ。正真正銘、もう俺に出来る事は何もない。あとはもう全て運命に任せよう。セイバー、切嗣、頑張ってくれ。
抗う事も億劫になるレベルの睡魔に身を任せ、俺は目を閉じた。
霊薬がどんなものか分かる人はいるのかな?一応、オリジナルではなく存在してるものです。
身体より先に精神が折れかけていた影辰。彼の死に辛さ、Gの様な生命力にはちゃんと理由があります。と言っても、独自解釈もありますし、作中で明らかになるのは結構先の予定。
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