え?この内容で第五次聖杯戦争って言うのかって?予想以上に伸びたんだ。許して
碌な気配をしない奴はその通り碌でもないから信用するな!!
「しっかし、いつ来ても薄気味悪いな此処は」
本日、菓子折りを手に訪れたのは間桐家だ。手入れされてるのかよく分からない鬱蒼とした外見とこの辺の空気だけ澱んでいる様な雰囲気のおどろおどろしい雰囲気の屋敷。聖杯戦争における御三家の一つであり、前回のバーサーカーのマスター間桐雁夜の生家だ。彼を殺した身としては訪れたい場所ではないのだが、少し前から娘さんである桜ちゃんが定期的に家に来て料理を作ってくれたり洗濯物をしたりしてくれるのでそのお礼でこうして菓子折りを手にやって来た。俺はそういう気遣いが出来るからね。
「……事前に伝えておいたんだけどな」
屋敷内に入った瞬間、ピリッとした痛みが全身に走る。人払いの結界か何かが展開されていたか。悪いが、思考誘導や催眠の類の魔術は俺に通り辛いぞ間桐のご当主。聖杯の泥、正確にはこの世全ての悪を浴びその身に宿している都合上、それ以上の呪いでなければ精神に働きかける呪いの類はまず効かないし、それに近しい属性も同じく効きづらいのだ。
「クカカ、抵抗する素振りすら見せずに突破するか。ようこそ、雁夜を殺した男よ。何用か?」
蟲が集まり間桐臓硯が姿を現す。少しは魔術師である事を隠したらどうですかね。まぁ、前回参加者の一人である俺相手にその必要なんてないか。と言うか、俺が間桐雁夜を殺したのを知ってたのか。
「電話で連絡したと思うんですけど、桜ちゃんには世話になってるのでお礼の菓子折りを届けに来ただけですよ。そう警戒されても困ります。別に貴方と戦おうとかそんなつもりはありませんから」
「つまり、ただのお礼の為に素性も知っているこの家に単身でやって来たと?」
「そうですよ。それに──」
後頭部目掛けてから飛来して来た蟲を裏拳で叩き潰す。大きな蟲を潰すというのはかなり気色悪いが命には変えられない。
「蟲如き、大した障害ではないので」
「ハッ、言うではないか小僧……ふむ、茶の一つぐらい出そう。来ると良い」
臓硯がクルリと背を向け歩き出す。めちゃくちゃ帰りたいが、断って魔術を行使されるのは嫌だ。仕方ない、着いていくか。彼の後を追いながら屋敷の中に入ると外見からは想像つかない豪華な内装が目に飛び込んできた。もうちょっと、家の外見に気を使えば良いのに。案内され暫く椅子に座ってぼーっと待つ。あのお爺さんにお茶を淹れるスキルがあるとは思えないが、本人が淹れに行くと行ったのだから客人としては大人しくしているしかない。
「げっ、なんでいるの影辰さん……」
「お、学園外で会うのは中々久しぶりじゃないか慎二くん」
窺う様な気配は感じていたけど慎二くんだったか。あの士郎とも友人関係を構築してくれている奇特な子なのだが、最近は家に遊びにくる事も無かったから直接話すのは久しぶりだ。まぁ、ただの学生と警備員の間柄としてなら話しているけど。
「あぁ、まぁそうだね。で、なんで居るわけ?……いや、なんとなく分かったよ。桜でしょ?」
部屋に決して入る事はなく、廊下から声をかけてくる慎二くん。机の上にあった俺の菓子折りを見て要件を理解した様だ。え?頭良すぎじゃない?別に俺が臓硯さんに用事があったかもしれないじゃん。あの爺さんに頼る時とかどんな時だよと自分でも思うけど。
「桜ちゃんには世話になってるからね。一度くらいはお礼を伝えないと。あの子にも直接は伝えるけど、ほら自己評価の低い子だからさ。外堀から埋めた方が良いかなって」
「……あいつはそれをした所でまともに感謝を受け取るとは思えないけどね」
「あー、かもねぇ。あ、ちょっと待って慎二くん」
菓子折りから一つお菓子を取り出して、慎二くんに投げる。それを難なく受け止める慎二くん。
「え?なにいきなり」
「士郎から聞いたよ。弓道部の副部長になったんだって?凄いじゃないか。それはお祝い代わりにお兄さんからのプレゼント」
俺がそう言うと一瞬キョトンとした後に照れ臭そうに顔を背ける。桜ちゃんもそうだけど、この家の子って褒められる事に弱すぎる。誰かに認められる、必要とされる経験が少ないのかね。
「……はっ!数ある菓子折りの中から一つだけをお祝いって貧乏くさいな!じゃあね!僕はやる事があるから!!……ありがとう」
怒涛の勢いで言葉を並べた後消え入る様にお礼を残し、慎二くんが去る。それと入れ替わる様に臓硯さんが部屋に入ってくる。美味しそうな紅茶の香りを漂わせ、俺の対面に彼は座る。
「慎二のやつが何か無礼を働いたか?」
「いいえ。待ってる間の話し相手をしてくれただけですよ。良いお孫さんですね、学業は優秀ですしスポーツも出来るなんて」
「カカッ、確か奴が筋トレを始めたのはお前さんが原因だったか」
紅茶とケーキを並べながら慎二くんので場を保たせる。慎二くんとは士郎を通して、交流はあったものの友達の兄貴という立場上そこまで仲良くはなかった。少なくともさっきみたいなやり取りは出来ない。関係が変わったのは、確か中学三年の時の運動会の時だっただろうか。その日はやたらと強風でお弁当を食べていた士郎と慎二くんの近くにある旗が風の勢いに耐えられず、二人目掛けて倒れてきてしまったのだ。そこに割って入り、鉄製のそれを片手で受け止めて助けた辺りから慎二くんの態度が変わった気がする。
「あわや大惨事って所でしたけどね。老朽化で古くなってたらしいですが」
「よくあれに間に合ったものよな。ただの身体能力で強化を施した魔術師に迫るというのだから末恐ろしいわい。だが、それが彼奴にとっては憧れに映った様でな。まさか、学業に必要なものではなく筋肉トレーニングの道具をせがまれるとは思わなんだ」
「通りで体幹がしっかりしている訳です」
紅茶を一口飲む。……とりあえず身体に違和感はない。目の前の彼も同じように紅茶を飲む。
「さて、話は変わるがお主、桜の種になる気はないか?」
「ブッ──ゴホッゴホッ!」
何を言い出すんだこのジジィは!?!?いきなり下世話にも程があるだろう。思いっきり噎せている俺をニタニタした顔で見ながら臓硯さんは続ける。
「魔術師にとって、血を残し魔術の研鑽を積むというのは命題だ。じゃが、雁夜を最後に間桐の血は死んでしまった。慎二には魔術回路が無い。儂としてはこのまま間桐の魔術が失われるのは避けたい」
「で、それがなんで俺と桜ちゃんに繋がるんですか?桜ちゃんに継がせれば良いじゃないですか」
「とりあえず聞け。桜は魔力、魔術回路共に優秀だ。番となる相手も魔術師であれば良いが、下手に質の悪いものを入れられ、腐り落ちては困る。そこでお主じゃ。魔術回路はないが、魔力は馬鹿げておるお主であれば数を産めば良質な子が生まれるやもしれん」
本気で言ってんのかこの老人。常人からすれば狂ってるとしか思えない価値観の話だが、これがきっと魔術師という生き物なのだろう。何故そう判断できるのか。それは、臓硯さんの声も雰囲気も何もかもがさっきから変わってきないからだ。嘘や誤魔化しの類ではないし、多少は俺を弄る目的もあるのだろうが、言峰綺礼に比べればそういう気配も薄い。ただ単純に桜ちゃんに俺を充てがう事が間桐という家に有用だと判断しただけだ。
「お主が雁夜を殺さなければまだマシであったかもしれぬ」
「……よく言う。蟲で寿命も何もかも擦り減らしていただろうに」
「はてなんの事だか。それでどうじゃ?種となる気はあるか?」
「ない。悪いが、桜ちゃんは趣味じゃないしそれに」
目を閉じ、うちで楽しそうに士郎と料理をしている桜ちゃんを思い浮かべる。士郎や、大河と関わって能面みたいな顔をしてた子が士郎の前だけとは言え、漸く笑える様になったんだ。彼女から良くない気配を感じる時はあるがそれでもあの光景は幸せそうだった。
「──俺は、あの幸福を捨てたくない」
「カ、カカッ!そうか、幸福を捨てたくないか。クカカッ!必要であれば他者を容赦なく殺すお主にそれを言える権利があるとでも?まぁ、良い。断られるとは思っておったわい」
ほんと悪趣味な爺さんだ。とは言え、間違った事は言っていない。確かに誰かの幸福を壊す俺が幸福を捨てたくないと言うのはおかしいな事だ。けど、人間の手は誰も彼も救えるほど大きくはない。道具の俺も今の俺も、俺自身のエゴの為に他者を殺す事に変わりはない。
「そんなお主に一つ教えてやろう。この聖杯戦争に邪魔が入るかもしれん。儂が対策を講じてはあるが突破される可能性がある。今日か、明日の夜、冬木市の外を巡回してくれるか?」
「……その邪魔が入れば士郎達に良くない事が起きると?」
「あぁ。彼奴はそういう類の存在だからな」
俺が間桐臓硯の依頼を引き受けるのはわざわざ説明する事もないだろう。どうやら仕事に関しては臓硯の方から口を聞いてくれるらしい。間桐家を去って一時間後に、休みの電話が入った時は流石に驚いた。
依頼を引き受けたその当日の夜。冬木市の外周を歩く。臓硯は、対策を講じてあると言っていたから仮に出会えなくても良いと言っていた。そもそも、来るかも不明だと。だが、少しでも可能性があるのなら策を打っておきたいという話だ。
「来るかどうかも分からない存在に怯えるほど、厄介なのか相手は。まぁ、そうそう簡単に……」
いたわ。冬木市の方向を見ながら、背伸びしてる怪しいのが。おかっぱ頭に切り揃えられた髪の美少年が一人。明らかに纏っているオーラが常人のそれではない。見ているだけで気持ち悪くなる様な悪辣さを孕んだその存在感。臓硯が言っていた存在はこいつだろう。違うと言われても信じられない。
「あれれ?いきなり現れたと思ったら僕にそんな強烈な殺意をぶつけてどうしたんだい?」
くそっ、余りの存在感に警戒する余り殺気が漏れたか。だがまぁ、それならもう様子を窺う必要はない。このまま一気に殺して──
「はい、終わり」
目の前の景色が一瞬で切り替わり、それと同時に形容し難い吐き気に襲われる。地面から生えるは無数の手。それら全てから甘く蕩ける様な香りを漂わせ、俺を俺という存在を溶かそうとしてくる。前後左右、全身の力、俺自身それら全てが一瞬で訳が分からなくなりおれはじめんへとたおれ──
「──は?」
一歩踏み出した脚で、手を、それが生えている地面を砕きながら殺すべき外敵へと60mほど離れた距離を詰める。限界まで引き絞った腕を何が起きたのか分かっていない顔の敵の無防備な鳩尾へと叩き込む。何か膜を砕く感覚と臓物が破裂する手応えを感じながら敵を吹き飛ばす。
危なかった。まさか、聖杯の泥を超えて俺を汚染しようとする呪いがこの世にあるとは。もっと本気で呪われていればどうなっていたか。
「アハ、アッハハハハハハ!!アハハハハハハ!!」
「……あれでまだ生きてんのかよ」
くの字に曲がった高笑いを上げる。直後、全身に重りを付けられた様に重くなる。唇から血が出るほど力を振り絞ってもこの拘束から抜け出せない。どうやら、俺にではなく空間そのものに負荷をかける魔術を行使された様だ。楽しそうに狂った様に笑い続けるソレは更に続けて魔術を行使する。現れるは巨大な火球。火を発するだけの魔術なんて魔術が使えれば簡単らしい。簡単が故に術者の力量によって結果が大きく左右される。
「ぐ、がぁぁぁ!!」
火球が俺を飲み込み爆発する。地面を転がりながら火を消すが、ほぼ全身に広がる火傷のせいで動けない。チラリと見れば、グジュグジュと再生しているがもう少し時間がかかるだろう。ただ先ほどの外敵はパタリと倒れ動かなくなっている。とりあえずは安心できる。
「チクッと〜」
「ッッ!?何処から……」
いつの間にか真横に注射器を持っている長髪の女性が座っていた。雑に刺された注射器は俺の血を吸い上げ、その空の器を満たしていく。採血が終わりその注射器を懐に仕舞いながらその女は寒気が走る笑みを浮かべた。
「いやー、まさか新参のそれも魔術師ですらない人間に私が殺されるとは思ってなかったよ〜!アハ、念のため予備を直ぐ近くに用意しておいて良かった良かった。そ れ に し て も、そんな呪いを身に浴びてよく正気を保ってるね。それ、あの泥でしょー?君を拉致して納得いくまで解剖したいけど、蟲が五月蝿いから血で我慢しておくよ。じゃ、また会おうね〜」
手を振りながらその女は何処かへ消えていった。悪辣なあの独特な存在感を感じなくなる。もう警戒しなくていいだろう。しかし、なんだったんだ?あの美少年とさっきの女は同一の存在なのか?そうじゃないならあんな存在感の奴が複数いる事になる。……想像しただけで嫌だわ。
ぶー、ぶー
「……よく無事だったな携帯」
近くに転がっていた携帯に手を伸ばし、開く。そこには一通のメールが届いており、中身は電話番号が書かれただけのものだった。その宛名は『フランチェスカ』と記されていた。もしかしなくてもさっきの女の名前か?
「あぁ……月が綺麗だなぁ」
溢れる面倒ごとの気配に俺は考えることを放棄して、月を見上げた。この時、俺は全く知らなかった。士郎が大変な事になっているとは。
この世界線のワカメは少しマッシブです。
はい、というわけで今回登場後、出番は相当先であろうゲスト『フランチェスカ』さんでした。お気に入りの身体より前の体を影辰くんに砕かれて貰いました。でも、別に力関係が影辰>フランチェスカという訳ではなく、慢心してたのでそこを影辰が突いただけです。近接戦なら影辰に軍配が上がるかもですが、これ以降戦う場合、そもそも間合いに入る前に魔術で殺されるでしょう。可哀想だね。
次回は衛宮邸での戦闘かしら。予定は未定。
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