「うーん、士郎。少し辛辣になるかもだけどいいか?」
「はぁ……はぁ……あぁ、言ってくれ」
兄貴から体術を習っていた時の事を思い出す。兄貴は素手で、俺は竹刀でもなんでもありで適性を測るとかなんとかで3時間ほどぶっ通しで行った模擬戦を。結果は、息の一つすら乱していない兄貴と立つのもやっとな俺という絵面になった。あの時はめちゃくちゃに悔しかったのを覚えている。
「お前に近接戦闘の才能はない。剣術が比較的マシなだけであとはその道の天才には確実に追いつけない」
「なっ……そんなに酷いのか俺は」
「あぁ。良く言えば器用貧乏。悪く言えば極めるのに向いてない、なまじ色んな事がそれなりに出来るせいで何か一つを極めようとするとそれ以外の動き方が邪魔をしているんだ。そうだな……」
兄貴は転がっている竹刀を拾い上げ、持っている右手とは逆の手をその横に並べる。
「見て分かる通り、竹刀と拳じゃ間合いが違う。竹刀で届く距離で戦っていたら拳では届かない。何を当たり前の事をと思うかもしれないが、これが重要だ。良いか、士郎。選択肢が多いのは戦いにおいて重要だが、拳の時に竹刀の間合いを取る必要はない。竹刀の時と変わらない身体の使い方をしていれば拳は軽くなる。大河、少し付き合ってくれ」
「え?良いけど何するの?」
俺たちの模擬戦を見てきた藤ねぇに竹刀を渡して、兄貴も同じく竹刀を手に取る。藤ねぇはそれだけで意図を理解したのか軽く頷いたあと、兄貴と向かい合う位置に移動する。
「今から見本を見せる。竹刀の時に拳の間合いをするのがどれだけ愚かな事か見ていると良い」
「影辰と試合するの久々だなぁ。私は本気で良いのー?」
「あぁ、その方がいい見本になるだろう」
「おっけー」
兄貴も藤ねぇも竹刀を構えて、一息吐くと同時に空気が切り替わる。思わず姿勢を正す緊張感が剣道場に流れる。この二人の本気ってこんなに怖いのか……
先に動き出したのは兄貴だ。竹刀を下段に構え藤ねぇとの距離を詰める。余りにも近い間合いから放たれる斬り上げを藤ねぇは軽々と弾き、兄貴の首元に突きを放つ。それを兄貴は逸らすことで避け藤ねぇから距離を取ろうとするがそれに対して藤ねぇが距離を詰めて、兄貴の頭目掛けて竹刀を振り下ろし、接触するギリギリで止めた。二人の張り詰めた空気が解かれていく。
「ふぅ……やっぱ、剣じゃお前には勝てないな大河」
「ふぅ……今回は士郎への見本でしょー?また今度、本気でやろうよー」
「気が向いたらな。で、士郎。見てて分かったか?」
「あぁ。兄貴は明らかに間合いが近すぎてあれじゃあ竹刀に力が全然乗らないし、下がるのも中途半端ですぐに藤ねぇの間合いに戻ってた」
俺がそう答えると兄貴も藤ねぇも正解と言わんばかりに笑顔を浮かべる。
「観察眼はやっぱり良いな。武器にはそれぞれ特有の間合いが存在している。それらを無意識下で理解できるかどうか、それがまず才能を問われる箇所だ。場数を踏めばそれなりに改善されるだろうが、その為には士郎が一戦一戦で何が不味かったか考えなきゃいけない」
「その余裕があるかは分からない。一度の敗北で死ぬかもしれないって事か」
「そうだ。だからとりあえずお前は今から耐える事を覚えろ、死ななきゃ次に繋がる。と言うわけで立て士郎」
「今からやるのか!?」
「早いに越した事はないだろう?」
あの時は兄貴が鬼に見えたよ。本気でやるからと拳で襲ってくる兄貴相手に疲労した状態で戦わなきゃいけなかったんだから。言葉で教えるより早いって思ったんだろうけど、スパルタが過ぎるよ兄貴。
でも、それに今は感謝している。だって、スパルタで鍛えてくれてなきゃもっと早く俺は死んでいたかもしれない。
「はっ、良く凌ぐな坊主」
「ッッ!!」
学校でも襲ってきた真紅の槍を持つ全身青タイツの不審者が突き出してきた槍を強化した壊れた窓枠の欠片で逸らす。それだけで痺れる腕から木片を手放さない様に力を込めて槍の間合いから距離を取る。既にこれを五回ほど繰り返している。
「はぁ……はぁ……」
「そろそろ限界か?惜しいな、もっと鍛錬を積めればそれなりの戦士になれたかもしれないが目撃者は消さなきゃならんのでね」
「なんなんだっ!お前は」
その問いに返事はなく、ただ槍が突き出される。先ほどより早いそれを逸らすなんて器用な事はできず、自身との間に木片を死ぬ気でねじ込む。直後、槍が木片に触れかけていた強化の魔術も虚しく完全に砕け散る。その衝撃で俺は大きく後ろに吹き飛ばされ、開いたままの土蔵へと吹き飛ばされる。
コツンと、両手に金属の感触が当たる。咄嗟にそれを取り、死の予感がする方へと振り上げる。火花を散らし、もう何度も見た槍が心臓ではなく肩を掠め斬り裂く。その痛みに耐えながら相手を睨みつける。
「この期に及んでも諦めていない目。つくづく勿体ねぇ、お前が七人目のマスターなら面白くなりそうだってのに」
どうする?両手に持つ工具はただでさえ、上手くできない強化を分けたせいでもうボロボロだ。土壇場で強化を成功させてももうこの男が放つ槍を受け止める事は出来ないだろう。死ぬのか俺は?こんな、あっさりと訳もわからずに。俺は何のために助けられた?何のためにあの地獄を見送られた?ふざけるな俺はまだ──、何も出来ていない!
『士郎、俺はお前の夢が何であろうと否定しない。だが、これだけは教えてくれ。お前はどんな正義の味方になりたいんだ?』
切嗣から受け継いだ夢も、兄貴から問われた理想も俺はまだ何も出来ていない!こんなところで死ねない、二度も死ぬわけにはいかない!
「ふざけるな……俺はまだ何も成せていない。そんな状態で死んでたまるかぁぁぁぁ!!」
内側が熱く燃え滾る様な感覚と共に金髪の『彼女』は現れた。何もない空間に突如と現れた彼女は、その手に持つ不可視の何かで目の前の敵を吹き飛ばす。そして、雲が晴れ顔を覗かせた月の光が彼女を照らす。
「問おう、貴方が私のマスターか?」
この日、俺の運命は漸く動き出した。
「……ん?やべ、寝てた」
月を眺めているうちにどうやら俺は眠っていたらしい。全身を見ればあの火球で負った火傷は全て治っており、痛みもない。これなら動いても大丈夫だろう。身体を伸ばしていると握ったままの携帯が震える。開いてみればそこには言峰綺礼の文字。どうやら、起きる少し前に電話をしていた様だが、俺の反応がないからメールに切り替えたらしい。
『間桐の当主より話は聞いた。相対した感想を聞きたい、これを見たら冬木教会に来る様に』
電話で良くね???まぁ、来いと言うなら行きますか。どいつもこいつも人使いが荒いんだよまったく。こちとら殺し合いをした直後だってのに。それなりの時間をかけて冬木市外周から冬木教会へと移動する。必要最低限の灯りだけを灯す教会は夜になると神聖より、不気味なそれになる。まぁ、住んでる神父がアレだし空気が漏れてるんだろう。
「戻ったぞ言峰綺礼」
「漸く来たか。座りたまえ」
祈りを捧げた言峰綺礼のすぐ側にある椅子に座り、フランチェスカと名乗る不審者に関して説明をする。とは言え、殺し合いをしただけで余り会話をしていない為、容姿や使われた魔術など伝えるだけだ。ふと、反対側を見ると黒いライダースーツを着たギルガメッシュが居た。
「王様、子供は辞めたのですか?」
「漸く聖杯戦争も始まるのでな。子供の姿はお預けというものだ。ククッ、滑稽であったぞ始まらない戦争に警戒しまくる姿は」
「……つまり、七人目が決まったと?」
彼らにそう問いかけると教会の入り口から人の気配を感じ取る。瞬間、ギルガメッシュは柱の裏に隠れ来訪者からは見えない位置となる。受肉してるんだからサーヴァントだとバレないと思うけどまぁ良いか。扉が開き来訪者が入ってくる。このタイミングであれば、新しい決まった七人目のマスターだろう。わざわざ見る必要もないだろうし、正面を向いたままで良いか。
「あ、兄貴!?」
「その声……士郎!?」
聞き慣れた声に振り向けば何故か凛ちゃんと一緒にいる士郎が驚愕の色を浮かべた表情で俺を見ていた。oh、まさか七人目は士郎なのか……関わりたくねぇ……聖杯戦争なんて嫌なのになんで向こうから寄ってくるんだ……
次回は、雪の妖精と狂った戦士かな。
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