転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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今回、今までとは少し違う書き方をしています。


愚直なまでに突き進む在り方

 先ずはセイバーとバーサーカーが駆けた。戦友と主を守る為、最大の脅威を弾く。バーサーカーはその身からも分かる通り、全身の筋肉を存分に使い、初速から最高速まで一瞬で加速しその手に持つ無骨な剣斧を自らの主人、イリヤしか見ていない影辰へと振り下ろす。が、そこに魔力放出により地面を滑る様に割り込み、バーサーカーの剣斧を受け止める。

 

「くっ……重い」

 

 本来のセイバーのステータスならバーサーカーの一撃を受け止めるぐらいはなんて事のない筈だが、魔術師として未熟な士郎はセイバーの魔力供給を十分に行えない。その結果、純粋な力比べにおいてバーサーカーには絶対に勝てない。

 

「……はぁぁ!」

 

 一瞬にして練り上げられた魔力がセイバーから溢れ出しバーサーカーを吹き飛ばす。単純な力比べで勝てないのなら、別の手段を用いれば良い。セイバーが行ったのは先ほどの加速同様、魔力放出だ。生前より所持している竜の因子により彼女は瞬間的に魔力を高め、その能力を数段跳ね上げる事が可能なのだ。

 

「今です影辰」

 

「おう」

 

 バーサーカーがイリヤまでの進路上から消えた事で影辰を邪魔する物は無くなった。イリヤへと駆け出そうとする影辰の動きを見て、彼女は白銀の綺麗な鳥の形をした使い魔が二体現れ、光線を放つ。

 

「死になさい」

 

「死なねぇって言っただろ」

 

 鳥型の使い魔から放たれた光線をその目で捉え切り、右方向に駆け出す事で避ける。陸上選手もびっくりな速度で走る影辰を追いかける鳥型の使い魔。次々と背後から放たれる光線を、発射源すら見ずにジグザグに走り避ける。驚く事にその速度は全く落ちていない。最高速度のまま駆け抜けているのだ。

 

「魔術を行使した気配はしてない……そんな身体能力があってなんで!」

 

 イリヤの使い魔の数が増える。二体が追加され、合計4体となり密度が増した光線が影辰へと降り注ぐ。それらの攻撃を躱しながら4体の攻撃が纏まったタイミングで勢いよく跳躍。さらにイリヤとの距離を詰める。

 

「来ないで!!今更、何様のつもり!!」

 

「友達だよお前の」

 

 その場で大きく脚を振り上げ、地面に叩きつける。渾身の震脚はアスファルトの地面を砕き、破片を空中に巻き上げる。巻き上がった破片を掴み取り、影辰は使い魔に向けてまるで散弾銃の如く投げつける。凄まじい速度で使い魔に向けて放たれる破片の幾つかは自律可動型の使い魔によって迎撃されるが、決して連射出来るタイプではなく、弾幕が足りず4体の内2体の使い魔が破片と衝突。コントロールを失い地に落ちた。

 

「確かに俺も切嗣も、イリヤを迎える事は出来なかったし、聖杯も勝ち取る事が出来なかった。だが、あの城で過ごした時間を忘れられるほど、薄情者でも無いつもりだ」

 

 残された使い魔は攻撃を再開しない。主人であるイリヤの困惑を感じ取っているからだろうか。それとも、衛宮影辰から欠片も殺意や害意が伝わってこないからだろうか。自分に向かってゆっくりと歩いてくる影辰を見て、イリヤは困惑を隠せない。自分は殺そうとしているのに彼は迎撃こそすれ、その拳を自分には向けてこない姿に。

 

「……すまなかったな。俺の力不足で、何もかも出来なかった。切嗣を勝利者にする事も、あの城からイリヤを助ける事も、こうして次の聖杯戦争を阻止する事も。何も、何一つ、俺は出来なかった」

 

 イリヤのすぐ近くまで来た影辰は両膝を地面につけ、その頭を下げる。所謂、土下座だ。この程度でイリヤが味わったであろう孤独感、絶望や苦痛に対して、謝罪が出来るとは影辰も思っていない。だが、今この時は土下座以外で彼女に向き合う術を見つけられなかった。震える身体、目から溢れる涙で地面を濡らしながら影辰は言葉を続ける。

 

「こんな何も出来なかった俺だが、これだけは信じて欲しい。どれだけボロボロになろうと、吹雪で凍死し掛けようとお前の父親は、衛宮切嗣という男は、抗える最後まであの城に……イリヤを迎えに行こうとしていた!!それは誓って本当だ!!お前はちゃんと愛されていたよ、あの不器用な父親から。世間知らずな母親から。そして、馬鹿な友達からも。イリヤ、君は決して孤独じゃない!」

 

 言える事言いたい事は言った。もしこれで駄目なら、今の影辰に出来る事はない。暫くの間、沈黙が流れた。セイバーとバーサーカーの戦いは、バーサーカー有利で進んでいるとはいえ、セイバーもよく耐え忍んでいる。両者共にイリヤと影辰の方を気にしており互いの戦いに集中していない。そんな中、イリヤが口を開く。

 

「カゲタツ」

 

 目の前で情けなく土下座をしている馬鹿な友人に声をかける。敵意の宿っていない声に影辰は思わず顔を上げてイリヤを見る──泣いていた。子供の様に泣きじゃくる訳でもなく、その気持ちをただ静かに涙として彼女は溢していた。影辰の言葉がイリヤの心に届かなかった訳ではない。無償の愛に飢えている彼女からすれば、思わず縋ってしまいたくなるくらいには魅力的な言葉だった。

 

 だが、それは出来ない、赦されない。

 

 アインツベルンの悲願をそして、イリヤスフィール・フォン・アインツベルンという最高傑作を生み出す為に犠牲になった数々のホムンクルス達の命を無駄にする選択を彼女は取れない。だから、何もかも投げ捨てて影辰に伸ばしたくなる手を、感情を押し殺しそれでも殺しきれないものが涙として彼女の頬を伝ったのだ。

 

「……イリヤ」

 

「残念だけど……もう遅いの。私はこの聖杯戦争を勝たなくちゃいけないの。だから、邪魔する敵は殺さなくちゃ」

 

「イリヤ!!」

 

 残された使い魔が形状を剣に変化させる。殺気よりも悲しみの勝るそれに反応が遅れ、迎撃の体勢を取るのが遅れる影辰。だが、それでもただ飛来するだけの攻撃など彼が最も迎撃しやすい攻撃だ。例え、遅れようが何の問題もなく弾く事が出来るだろう。

 

「ッッ!?」

 

 立ち上がった彼の右手にイリヤが抱きついていなければだが。イリヤという弱々しい命を投げ捨てれば影辰は飛来する剣を弾ける。そもそも、自分を拘束するには余りにも軽い彼女をそのまま盾にすれば良いだけなのだから。だが、彼の手はピクリとも動かない。イリヤを助けたいのに串刺しにしては意味がないのだ。余りにも軽く、そしてどんなものよりも枷となる重みを今、彼は右手につけられてしまった。それなら、左手で迎撃すれば良いのではないか?飛来する剣が一本なら、或いは同じ方向からくる攻撃ならそれで良かった。だが、剣は2本あり左右から飛んでくる。とても左手一本で且つ、イリヤを庇いながらでは迎撃出来ない。

 無論、イリヤもタダでは済まない可能性がある。だが、魔術が使えない影辰より魔術の使えるイリヤの方が致命傷を受けようともどうにか出来る可能性が高い。……イリヤはこれから来るであろう痛みと恐怖からギュッと目を閉じた。

 

 そして、彼女は自分が抱きしめられる感覚と肉が裂け血が溢れる音を聞くのだった。

 

「……え?」

 

「……ああ全く、流石は切嗣の娘か……とんでもなく有効な手を打ってきやがって……」

 

 白銀の綺麗な剣が、鮮血に染まる。急所こそ貫いていないが右肩と背中に突き刺さる2本の剣は明らかに致命傷だ。そして、抱きしめられているイリヤには一切の傷がない。これが指し示す事は、影辰が自分ではなく、イリヤを優先し攻撃を受けたという事。

 

「鍛えといて良かった……貫通はしてないか……イリヤ、怪我してないか?」

 

 どうしてこの男は自分を気遣ってくるのか?そんな状態になってしまったのは自分の所為なのに。

 

「どうしてって顔だな。お前は俺を敵だと言ったが、俺はお前を友達だと思ってる。友達が傷付くのを黙って見てられる訳がないだろ?」

 

 ゆっくりとイリヤを抱きしめていた手が解かれる。触れていた暖かな熱が離れ、イリヤは後ろへと下がっていく。

 

「影辰!!」

 

 バーサーカーと戦っていたセイバーが、影辰を抱き抱える。同時に、バーサーカーもイリヤの元に戻り主人を見る。もうイリヤの心情はぐちゃぐちゃになっている。様々な感情がイリヤの中で入り乱れるが、既にそこには殺意や復讐心という感情は消えていた。けど、残っていた繋がりを自分の手で切ってしまったと思っている彼女はこういう時にどうすれば良いのか分からない。この聖杯戦争が始まるまでは、ずっと閉じた世界で生きてきたのだから。故に彼女はこの場で最も簡単な方法を取ってしまった。

 

「……バーサーカー、戻ろう」

 

 主人にそう言われれば従う以外の選択肢はない。バーサーカーはイリヤを抱え、その場を離れる。セイバーはこの瞬間に襲われなかった事に安堵しながら影辰に声をかける。

 

「無事ですか!影辰!!すぐに凛のところに」

 

「いや……刺さってるこれを抜いてくれ」

 

 通常、刺し傷に対して刺さっている物を抜くのは悪手と言われる。理由は、溢れ出る血を刺さってるものが止めているからだ。故に抜く場合は止血を済ました上で行うのが一般的だ。セイバーも戦場で戦った英霊なのでそういった知識がある。勿論、影辰に反論するが大丈夫だからと押し切られ、白銀の剣を引き抜く。

 

「ッッ……いてぇ」

 

「急ぎ……え?」

 

 そこでセイバーは驚く物を見る。ゆっくりとではあるが影辰の傷が塞がっていくのを。

 

「説明して貰いますからね」

 

「せめて、休ませてくれませんかねセイバーさんや……」

 

 家に戻るための体力すら使い尽くした影辰を、お姫様抱っこの形で運ぶセイバー。少しばかりの気恥ずかしさを感じながら影辰はイリヤが去っていた方向を見つめる。

 

「想いを伝えるのって難しいなセイバー」

 

「そうですね……とても難しいです」

 




今回はここまで。
次回は、衛宮家で諸々の会話かな?予定は未定です。

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