「サーヴァント相手に真正面から突っ込むって馬鹿なの!?」
「ぐぉぉ……鼓膜が破れるぅ」
セイバーに運ばれたまま帰宅した俺を待っていたのは、凛ちゃんによる説教タイムでした。いやまぁ、凛ちゃんの言い分は凄く分かる。実行した俺だって馬鹿だと思うもん。けど、あの時イリヤと会話をする為にはああするしかなかった。仕込んだ士郎なら兎も角、覚悟が不十分の凛ちゃんがいる状況で戦う訳にもいかない。そもそも、イリヤと会話をしたいのは俺のエゴだ。巻き込んで良い道理はない。
「前回も参加してたのなら、私以上にサーヴァントってものを知っているでしょ!?何をどう考えたらあんな行動になる訳!?ずっと、敵マスターの近くにいるからアーチャーで援護する事も出来ないし!!」
けど、この子は心の底から俺を心配してくれている。余計な心配をかけてしまったのは、俺の責任だ。凛ちゃんの目を真っ直ぐ見た後に勢いよく頭を下げる。
「ごめん!余計な心配をかけた。相談する暇とか無かったとは言え、確かにあれは無茶な行動だった」
「わ、分かれば良いのよ」
「けど、ごめん。もし、またイリヤと話をする機会があれば多分、同じ様な事をすると思う。こればっかりは何を言われても譲れない」
火に油を注ぐ言葉だとは分かっている。だが、俺はイリヤを殺す事は出来ないし、彼女に士郎を殺させたくない。だって、残酷じゃないか。何一つ果たす事が出来なかった切嗣の希望と夢が本当に、無くなってしまうのは。
「……はぁぁ、分かったわよ。あの子と訳ありなんでしょ。だったら、私に無理やり辞めさせる権利なんてないし。その代わり、一つ良いかしら?」
「俺に出来る事なら」
「前回の聖杯戦争に関して、知ってる事教えなさい」
真剣な顔をして凛ちゃんが言う。前回の聖杯戦争に関して、何か知りたい事でもあるのだろうか?
「分かった。士郎にも話そう。セイバー、構わないか?」
黙って会話を聞いていたセイバーに確認を取る。彼女も前回の参加者ではあるし、話したくない事があれば事前に教えて貰う必要がある。綺麗な正座をしていたセイバーは、少し考える素振りをした後、頷いた。
お茶を淹れて戻ってきた士郎を座らせ、俺は10年前の聖杯戦争に関して、二人に話をする。既に士郎には話した内容もあるが改めて聖杯戦争がどんなものか確認する為に話す。先ずは、いきなりライダーが真名をバラした港での戦いを話し、意外とセイバーがポンコツな所を教え、次に快楽殺人を行なっていたキャスターに関して話し、士郎が握り拳を作り、凛ちゃんが思い出す様な顔をした。その次に、切嗣の手法でランサーを殺した事、俺の手が既に血で汚れている事、そして俺が文字通り命を削りながらバーサーカーのマスターを務めセイバーと戦った事を俺から話した。
「そこで俺は一回、気絶してる。その先は俺も知らない。セイバー、頼めるか?」
「分かりました。影辰と別れた後、私はアイリスいえ、聖杯の元に辿り着きました。そこにはアーチャーが既におり、影辰の助力があったとは言え疲弊していた私は彼に勝てませんでした。幸い、求婚がどうとか愛がどうとか錯乱していたので殺されはしませんでしたが」
王様さぁ……殺されはしなかったって事は攻撃はされたんでしょ?何処の世界に攻撃しながら求婚する馬鹿がいるのさ。あー、でもセイバーが何言っても我の決定だとか言ってる姿が目に浮かぶわ。さて、俺が気になるのは此処から。どうして、切嗣が願いを叶えられなかったのか教えて貰おう。
「そして……詳しい事は彼と殆ど会話をしなかった私には分かりませんが、切嗣は残っていた二画の令呪を用い私に宝具を使わせ、聖杯を破壊させました。何が起きたかは貴方方の方が詳しいかと」
「切嗣があの大火災を引き起こしたって言うのか……?」
セイバーから告げられた真実に士郎の顔色が真っ青になる。憧れ目指したいと思う姿をしていた人が大勢の人を死なせた災害の引き金を引いた事実に士郎は動揺を隠せていない。俺も同じくその事実に驚いているが、俺の身体を常識から外したと思われる聖杯の泥が出てくるような結末を切嗣が望んでいたとは到底思えない。だとするなら、異常があるのは聖杯側か。
「士郎、切嗣は切嗣なりに出来る事をした結果が大火災だったんじゃないか?」
「どういう事だ兄貴」
「俺の身体に起きている異常にも関わる事だが……そうだな、一つ一つ説明しよう」
そう言って俺は立ち上がり、台所に向かう。そこから士郎が普段使っている方ではなく、予備として取ってある包丁を片手に戻ってくる。その場にいる全員が包丁片手に戻ってきた俺を不思議そうに眺める。
「とりあえずこれを見てくれ」
そう言って俺はなんの躊躇いもなく、左手の掌を包丁で勢いよく斬り裂く。ちゃんと包丁に血が付いているのを確認し、みんなの方に左手の掌を向ける。そこには既に血は出血しておらず、傷口も塞がり始めていた。
「セイバーはさっき見ただろうし、士郎は俺が怪我をする所も見てただろう。そして、今見せた通り俺は傷の治りが異常に早い。昔から頑丈ではあったが、受けた傷が即座に治る様なものではなかった。俺がこうなったのは、大火災の時に聖杯から零れ落ちた泥をその身に浴びたからだ。最も、さっき説明した通り意識を失っている間の出来事だったがな」
「……確かに異常だけど、すぐに傷が治るのなら便利なものじゃない。それと火災が繋がるとは思えないのだけど」
「凛ちゃんの疑問は尤もだ。だが、この泥は本来、人間には猛毒なんだ。その存在を歪ませてしまうほどにな。俺以外にもこの泥を浴びたものはいるが、ただの人間は死ぬか、まるでゾンビの様な生命体に成り果てた。そして、人間ではないもの……セイバーもよく知る前回のアーチャー、ギルガメッシュは泥を浴びた結果、受肉し今もなお現世にいる」
「なっ!?」
「そして、俺の自論に繋がる訳だが、これだけ数多くの不条理を引き起こすものがとても万能の願望器には思えない。何処でそれを知ったのかは分からないが、切嗣はそれを理解し被害が出る前に破壊しようとした。切嗣の性格的にこれが最も合ってる気がする」
心の底から愛したアイリスフィールを、人生の全てを賭けて挑んだ願いを切嗣がなんの理由もなく、破壊するとは思えない。もし、破壊しなければならないと判断したのならそれは、あの聖杯と切嗣の正義が合わなかった。盲目的過ぎるかもしれない。だけど、俺には切嗣がなんの理由もなく、多くの人間が死ぬ様な結末を祈るとは思えない。
「……かもな。兄貴の言う通りだ。切嗣があんな地獄を願うとは思えない」
「あぁ」
切嗣に救われた者同士、切嗣を信じたいという思いが勝る。この中で一番無関係な凛ちゃんはどう思ったのかと疑問に思い、視線を向けると何やら考えていたらしく俺が視線を向けた同時に弾けた様に顔をあげる。
「衛宮くん、私と共闘関係を結びましょう。もし、今の話が合ってるのだとしたら聖杯を顕現させる訳にはいかないわ。聖杯を起動させるには、サーヴァントの魂が必要。それなら、サーヴァントを死なせなければ良い。やむ終えず殺すとしても最小限に。その為の選択肢と戦力は多いに越した事はないわ。私は遠坂の当主として、この地を守る義務がある。あんな大災害をもう一度起こさせて堪るもんですか」
「……分かった。一緒に戦おう遠坂」
士郎と凛ちゃんが握手をして共闘関係を結ぶ。笑みを浮かべながらそれを見ていると凛ちゃんの視線が俺に向く。なんだ、何か用か?
「貴方も協力してくれるかしら?」
「魔術も使えない脳筋に何か出来るとは思えないけど、まぁ良いよ。本当は聖杯戦争に関わりたくないんだけど、関わる理由が多過ぎるからね。この後は二人で話でもしててくれ。俺はちょっと外に行ってくる」
携帯片手に家を出る。さっきから屋根上にいる気配が気になっていた。多分凛ちゃんのサーヴァントだとは思うけど。跳躍して屋根の一部に手をかけてそのまま攀じ登る。霊体化している様で目に見える姿はない。けど、いる場所は分かる。その場所を見ながら俺は声をかける。
「少し話をしないか?」
「……やれやれ、霊体化すら意味を成さないとはな」
赤い外套を纏った色黒で白髪の男が姿を現す。その姿を見て、俺は思わず言葉を失う。胸に飛来する感情は、喜びと悲しみだった。見慣れた姿とは違うけれど、強い既視感を覚える男の姿。
「し、──」
思わず出かけた言葉を止める。英霊にとって真名は隠さなければならないもの。それをバラしてしまえば、この場で俺が襲われる可能性を考慮して我慢した。途中で言葉を止めた俺を怪訝そうに見るその姿はより一層、俺に一人の男を連想させた。
「それでわざわざ何か用かね?共闘関係の話なら、私のマスターから聞いている。全く、あんな未熟者と協力するなど愚かだと止めたのだがな」
「……あぁ、確かに士郎はまだまだ未熟だからなぁ。えっと、用かそうだな」
ずっと霊体化してるからどんな相手かと気になっただけだった。でも、今は違う。聞きたい事が山ほどある。だけど、なんて言えば良いのか分からない。余りにも急で準備が出来ていなかった。口をパクパクさせるだけの俺に呆れたのか溜息を吐く男。
「貴方の方から来てその態度は可笑しいと思うがね。まぁ良い、私も聞きたい事があったのだ。貴方はあの未熟者の夢を知っているか?」
「あ、あぁ。知っているとも。正義の味方になりたいという夢だ」
「それに関してどの様に考えている?」
士郎の夢に関してか……俺は士郎が正義の味方を目指すと言うのなら止める気はない。ただ、どの様な形であれ誰かを傷付ける事にはなるだろうからその時、士郎は士郎でいられるのかが少し心配だ。
「目指すと言うのなら好きにすれば良いと思っているよ。どんな正義の味方になるかは分からないし、俺が関わる事じゃない。ただ、正義ってのは人それぞれで、正解は無いだろうから異なる正義とぶつかった時彼奴は大丈夫なのかって心配はあるよ」
「……もし、その果てに何も得るものが無かったとしても、ただの殺戮者に成り果てたとしてもお前は気にしないと?」
目の前の男が殺気混じりに告げてくる。それと同時に確信する。目の前の男を見た時に感じた想いは何も間違っていなかった。今問われている言葉は、間違いなく俺の大切な弟、士郎が辿る結末なのだろう。何故なら、他ならぬ士郎がそう言っているのだから。
「得るものが無いって事はないだろう。なんであれ、士郎が正義の味方になったのであれば救われた人間は必ずいる。もし、それが誰も救わない何も救わないただの殺戮だとするなら、その時は俺が士郎を止める。まぁ、そんな事はないと思うけど」
「何故だ?何故、そう言い切れる。借り物の理想を掲げるだけの男に何かが出来るとでも?」
「お前がどんな景色を見てきたかは知らない。けど、例え借り物であろうとそれを貫き通したのであればそれは本物だと思うし、そもそも誰かを救いたいって想いが間違いなはずが無い。それでも間違いだと言うのなら、俺が肯定する。誰よりも士郎を見てきた俺が、その理想に間違いはないと」
士郎、お前がどれだけ絶望したのかは分からない。あんなに憧れていた理想をそんな吐き捨てる様に言えてしまう様な事があったのだろう。なら、お前が裏切られた数だけ俺が肯定しよう。士郎は正義の味方であると。人を救った英雄だと。
「ッッ!……まぁ良い。分かった。少し、一人にしてくれ」
「あぁ。もし辛ければお兄ちゃんが話を聞いてやるからな」
「ふん。お前に話す事など──おい、待て!今なんと言った!?」
そう言って俺は屋根上から飛び降りる。少し散歩をしよう、電話もしたいし。そう考えて俺は家から離れて歩き出す。だいぶ落ちてきた綺麗な月を見ながら、俺は電話をする。暫くして電話を取った相手に俺は声をかける。
「よう、ウェイバー。今、良いか?また、聖杯戦争が始まったぞ」
もし、士郎が鉄心ルートを選びイリヤを殺そうとした場合、最大の敵として影辰が立ち塞がります。まぁ、士郎を殺す事はできないので負けます。
ウェイバーくんとは、あの老夫婦のとこにいる間に知り合い仲良くなってます。事件簿にも関わったかもしれないですね。なお、胃痛枠はウェイバー。
感想・批判お待ちしています。最近は皆さんのここ好きを眺めるのが楽しみの一つです。