「音がすると思ったら、随分と朝が早いのですね影辰」
「……ん?あぁ、セイバーか。そういうお前も早いな」
いつもの様に剣道場で身体を動かしているとセイバーが現れる。ちらっと時計を見た限り、まだ朝の5時だ。夜遅くまで話し合っていたにしては起床時間として早すぎる。俺はもうこの時間になると勝手に身体が起きるから仕方ない。
「本来、サーヴァントに休息は必要ではありませんから。しかし、影辰。10年前とは見違えるほど鍛えましたね」
俺の上半身をまじまじと見つめるセイバー。彼女に言われ、視線を下に落とすと見慣れた筋肉がある。そういや、昨日出会ったフランチェスカとかバーサーカーとかを仮想の相手にして動いてたからテンション上がって上着脱ぎ捨ててたな。スッとセイバーの視線から身体を隠す様に丸める。キョトンと俺の行動を見ているセイバーに一言。
「……セイバーのえっち」
「影辰!?い、いえ、私はそういうつもりでは」
「ぷっ、あははははは!」
予想していた通りに慌て出すセイバー。本当に馬鹿真面目だ変わっていない。そもそも、男の上半身という暑苦しいもの見せてるのは俺なのだから文句を言われるべきは俺のはずだ。
「…むぅ。揶揄いましたね影辰」
「すまんすまん。暑苦しいものを見せたな。ちょっと昨日あった強者達を思い浮かべながら身体動かしてたら、テンション上がってな」
「なるほど」
スタスタと歩きながら近くにあった竹刀を手に取り、俺と向き合うセイバー。手に持つ竹刀を勢いよく俺に突き付ける。
「強者なら此処にも一人、いますが?」
「……ほぅ。付き合ってくれると?」
セイバーが竹刀を通し、俺に鋭い剣気を向けてくる。俺もそれに合わせ、闘気を向ける。恐らく俺のソレは、セイバーの様な鋭くも綺麗なものではなく、荒々しく禍々しいものだろう。互いに剣気と闘気をぶつけ合わせ、最高潮に達した時合図もなく同時に駆け出す。
「「いざ!!」」
振り下ろされる竹刀とメリケンサックを付けた俺の拳が派手にぶつかり合った。
遠坂と今後の方針を話し合い、ただでさえ色々あって疲れていた俺は沈む様に寝ていた。それこそ普段なら飯の準備のために起きている時間ですら完全に寝過ごしていた。そんな怠惰を極めていた朝だったが、突然の寒気で俺は飛び起きた。
「な、なんだ……」
耳を澄ませば、剣道場の方から何が派手にぶつかり合う様な音や砕ける音が聞こえてくる。こんな朝からサーヴァントの襲撃かと思ったがそれにしては、わざわざ剣道場に行く理由が分からないし、感じる気配は殺し合いと言うより手合わせみたいなそんな感じがする。取り敢えず、近くに置いておいた竹刀を手に取り剣道場へと向かう。距離が近くになるにつれどんどん音が大きくなる。
「む」
「ん?」
剣道場の入り口には遠坂のサーヴァント、アーチャーが立っていた。俺を見ると同時に呆れた様な表情を浮かべる。それにムッとしているとアーチャーが無言で剣道場の中を指し示す。アーチャーと向かい合う様に立ちながら、中を覗くと俺では捉えきれない光景が広がっていた。
「はぁぁ!!」
「ふん!」
セイバーが振り下ろした竹刀を片手で弾いた兄貴がカウンターで放った拳をセイバーが半身をズラして避ける。そして、いつの間にか引き戻していた竹刀で突きを放つが、それを兄貴は横から掴み取り喉元ギリギリで竹刀が止まる。伸びたセイバーの腕に拳を突き出そうとした兄貴がぐんっと上に飛び宙を舞う。兄貴がセイバーの竹刀を掴んだ為、セイバーがそれを使い圧倒的な膂力で兄貴を上に飛ばした様だ。
「空中では自由が効きませんよ。どうしますか?」
「はっ、舐めんな!」
空中で身を捻り、セイバーに向けて落下していく兄貴。それを迎え撃つ様に、竹刀を横に構えるセイバー。振り下ろされる拳と振り上げられた竹刀が激突し、兄貴とセイバーが交差する。
パキン!
セイバーの持つ竹刀、兄貴が着けていた右手のメリケンサックが砕け散った。その時に見えた兄貴は犬歯を剥き出しにして、楽しそうな顔をしていた。兄貴が懐から何かを取り出し、手に走らせると白銅色の手甲が両手を覆い、振り返りながら立ち上がりセイバーに拳を振り抜くと同時にセイバーは不可視の剣を兄貴へ突き出そうとする。
「待っ」
「そこまでだ」
いつの間にかアーチャーの奴が二人の間に割り込み、黒い方の剣を兄貴の喉元に、白い方の剣でセイバーの剣を受け止めていた。ほんの少しだけ時間が経ち、兄貴とセイバーの雰囲気が普段通りに戻っていく。その様子を見ながら二人に近づいていく。
「強くなりましたね影辰。まさか、竹刀が4本も折られるとは思いませんでした」
「鍛えてるからな。しかし、やっぱりサーヴァント相手は無理だな。セイバーが殺す気なら幾らでも死んでたぞ」
「どうでしょうか。影辰の方から誘っていた数の方が多い気がしますが?」
「人間相手と思ってくれれば、チャンスはあったんだけどなぁ……ん?士郎、起きてたのか」
俺には到底追いつけない理解の外側の話をしている二人。俺はそんな凄い二人に一言。
「正座」
剣道場で暴れすぎだ。木製の床が砕けてる所もあるし、竹刀を4本折った?修理費も購入費も馬鹿にならないんだぞ。
「「あ、はい」」
「怒ると怖いよなぁ士郎」
士郎達より早く学園に到着し、いつもの様に入り口に立つ。生徒達が登校してくるのを待ちながら、セイバーとの戦いを思い出す。徐々にお互いのテンションが上がり戦闘が派手になったが、結局セイバーの本気を引き出すには足りなかった。打ち込んだ拳の悉くが竹刀で弾かれるか天性の勘で避けられた。完全に死角から放った筈の一撃を避けられるとは思わなかったな。
「けど、良い経験になった」
10年前から知ってるセイバーと手合わせをして改めて、サーヴァントと人間の差は大きいと理解できた。言峰綺礼に師事してから血反吐を吐く様な鍛錬を積んできたがそれでも届かない。全く、人類史に名を残した英雄と云うのは本当規格外だな。あれが昔は生きていたとは考えられない。
「考え事ですか。衛宮さん」
いつの間にか目の前に葛木先生が立っていた。纏う雰囲気が明らかに一般人じゃないから、初めて顔を合わせた時は大変だった。お互いに構える事はなかったが、出方を伺いまくって凄く疲れた。結局、葛木先生は教師としての、俺は警備員としての生徒に対する考え方を素直に話し、雰囲気は兎も角立派な人だと認めた。
「えぇ、少しばかり。この世界はまだまだ学ぶ事ばかりだなと思った次第です」
「……良い相手を見つけたのは何よりですが、無意識に漏れてるものが。生徒が怯えるので注意してください」
「あ、マジですか」
「はい」
周りを見れば武道系の部活に所属してる子らが俺を遠巻きに見てる気がする。しまったな、命を賭けてない戦いを初めて楽しんだから管理が甘くなってる。俺もまだまだ未熟だな。深呼吸を一つ入れ、自分を落ち着かせる。聖杯戦争が始まる夜なら兎も角、今は魔術師とは縁遠い時間。大人しくしていよう。
「では、本日も頼みます」
「はい。葛木先生も、お仕事頑張ってください」
葛木先生とすれ違う。その瞬間、変な違和感を覚えたが、余りにも一瞬過ぎてなんだか分からない。遠ざかっていく葛木先生の背中を見るが、特に不審な気配はせず気の所為かとまた正面を向く。この時の違和感をもっと追求していれば、俺は大河を危険な目に合わさずに済んだのかもしれない。
前話の綺麗なワカメが、想定よりかなり好評で嬉しい限りの作者です。彼の見せ場と出番はしっかり用意してあるのでお楽しみ下さい。
それと、恐らくですが第五次聖杯戦争編ですが、視点主が変化する場面が多いかもしれません。苦手な人とかいましたらご容赦下さい。
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