「人影なしっと。鍵もしっかり施錠されてるな。真面目な生徒ばかりで何よりだ」
一日の業務が終わり、俺は今校内を歩きながら一つ一つ教室を確認していた。窓が開いたままになっていないか、誰か校内に残っている生徒はいないか、不審者が侵入していないか等、広い学園内を虱潰しに見ていくのは結構、時間がかかるがそれなりに気楽に出来るので俺は嫌いではない。まぁ、今が聖杯戦争の真っ只中でなければね。
「士郎と凛ちゃんに頼まれた刻印探し……ぶっちゃけ何一つも見つけられる気がしてない」
霊薬のお陰で霊的なものとかは発見できるよ?でも、魔術は無能なので隠されたりしてたらなーんにも分かんない。取り敢えず、二人が既に発見した所は見て行くか。そんな事を考えながら学園内を歩いて、一つ一つ見て行き図書室の近くになった時だった。
「……誰だ」
「鋭い勘ですね。いいえ、視えていると表現した方が正しいでしょうか」
紫色の長髪に両目を隠す眼帯を身に付け、長い鎖が付いた短剣を装備したサーヴァントが後方に現れる。彼女の方を向きながら、灰錠を起動させる。二日連続でサーヴァント戦とか勘弁してくれよ……
「マスターからは、貴方と戦うなと言われていますが折角、描いた要を消されるのも面倒ですし。何より、その魔力を逃す訳にはいきません」
「その口振り、お前はキャスターか?」
「さぁ、どうでしょう」
使い道のない俺の魔力が狙われるとは……いやまぁ、知ってたけど。どうせ、こういう厄介ごと引き寄せるんじゃないかって予想してたけどさ。あーもう、神様の顔をぶん殴りてぇ。
「ふっ」
短剣が投擲される。余りにも直線的で仕掛けもないただの投擲に疑問を覚えながらも、その場から動かずに避ける。うねる蛇の様に引き戻される短剣を見ながら相手の次の動きに備える。今度は、2本の短剣を構えたまま俺に向かってくる。10mもない距離だ。サーヴァントの脚力を持ってすれば一瞬で詰められる。常人には姿が掻き消え、いきなり目の前に現れた様に見えるだろう。だが、俺の目なら迫ってくるその姿がはっきりと捉えられる。
「見えてるぞ」
「えぇ。そうでしょうね」
突き出した拳がスルリと避けられ、彼女の長髪に触れるだけとなる。油断はしていなかったが、あっさりと背中を取られ俺は蹴り飛ばされる。空中で体勢を整え、床に手を置き跳躍する事で勢いを完全に殺し距離を詰めてきていた彼女と向き合う。
「完全に不意を突いたと思いましたが、当たる直前に自ら飛びましたか。頑丈さと言い本当に現代の人間ですか」
「人を化け物みたいに言うのはやめてくれ」
キャスターかと思ったが、こんなゴリゴリに肉弾戦してくるキャスターが居てたまるか。となると、他のクラス……ライダーか?アサシンなら俺が声をかけて乗ってくる訳がないし、鎖付きとは言え短剣でランサーでは無いだろう。征服王と比べるとライダー感ないなぁ。まぁ、良い。相手が肉弾戦をしてくれると言うなら俺の得意分野だ。短く息を吐き、意識を切り替える。
「漸くやる気になりましたか」
ライダーに向かって加速。廊下にゴムが焦げる臭いが漂うが、気にせず加速して行く。迎撃する様に放たれる短剣を弾きながら、距離を詰め拳を放つ。ライダーがそれを腕を交差し受け止めたのを確認し、深く身を沈める。下から彼女の顎をかち上げる。上体の上がった彼女を鉄山靠で吹き飛ばす。瞬間、俺の左肩に痛みが走る。そこを見ればいつの間にか短剣が刺さっており、抜こうとしたタイミングで引っ張られ吹き飛ばされたライダー同様に近くの壁に叩きつけられる。
「カハッ!?」
馬鹿みたいな力で叩きつけられ、体中の空気が抜ける。再び引っ張られる前に短剣を引き抜き、立ち上がる。向こうも俺と同じタイミングで体勢を整えたらしく、引き抜いた短剣がスルスルっと戻って行く。窓から差し込む月光が俺達の中間を照らし出す。互いの姿が薄らと暗闇に浮かび上がり、それと同時に突撃する。先ほどの焼き回しの様に俺の拳は避けられるが、今度は此方も背後を取ったライダーの蹴りを避ける。真正面から向き合った俺とライダー。同時に攻撃を開始し、短剣と灰錠が火花を散らす。ライダーが上から短剣を振り下ろせば、俺がそれを横から叩き弾き、俺が拳を突き出せばライダーが短剣で弾く。そんな応酬を数度行い、ライダーの蹴りが飛んでくる。好機と判断し、避けると同時に更に間合いを詰める。ライダーの短剣では戦いづらい拳の間合いだ。しかも、ライダーは蹴りによって対処が遅れている。
「ふぅぅ!」
完全に捉えた必殺のタイミング。振り絞った一撃を放とうとして、俺は放てなかった。自分でも理解が及ばず、何が起きたのか把握が出来ない。まるで、身体が石になったが如く動かなくなる。
「まさか、これを使わされる事になるとは……」
自由に動く目だけ動かしライダーを見る。彼女は目を覆っていた眼帯を外しており、その両眼から凄まじい圧力を放っている。蛇に睨まれた蛙の如く、動けないでいると原因が分かる。俺の体の一部が石化していた。要因は考えるまでもない、ライダーのあの眼だろう。石化の魔眼……だと。
「サーヴァントでもないただの人間に使うものでは無いのですが……あのままでは私が殺されていたでしょうから」
歩いて俺の背後に回り込み、つぅぅっと首筋を撫でるライダー。
「完全に石になる前に頂くとしましょう」
くそっ、身体が動かない。石化は再生力で解除されているところもあるが、解除された瞬間からまた石化して結局意味がない。ライダーが俺の首に顔を近づける。何をする気だと思っていると、彼女は思いっきり俺の首に噛み付いた。
「ガッ、アァァ!?」
血が吸われる感覚と共に末端から力が抜けて行く。このままでは不味い……身体が動かないのもあるが、何処かの伝承で読んだ吸血行為と云うのは対象が暴れない様に快楽を齎すと云う。今の感覚は正しくそれだ。不味いと思っているのに、身体はライダーに血が吸われるのを心地よく感じ始めている。これでは石化が解除されてもすぐに動けない。
「──全く、お前も不幸だな」
窓を割りながら紅い影が飛び込んでくる。ライダーはそれと同時に吸血を辞め、俺から距離を取り、ライダーとの距離が離れると同時に石化が解け、身体が動く様になる。それに安心しながら紅い影、アーチャーに声をかける。
「どうして此処に?」
「マスターからの命令でな。帰宅予定を過ぎてるお前の様子を見て来いと。セイバーでは霊体化が出来ないからな、私が来たというわけだ。まさか、敵のサーヴァントと仲良くやっているとは思ってもなかったよ」
「あれが仲良くに見えるか?俺が喰われかけただけな気がするぞ」
「ふっ、ふふっ」
アーチャーの嫌味に返しているとライダーが不気味に笑い出す。アーチャーと一緒に構えながら、ライダーの方も見ると、いつの間にか眼帯を装着しており、威圧感の感じる眼は隠れているが先ほどより明らかに存在感が増している。俺から魔力を吸ったからか?だとしても、たったあれだけで倍以上の存在感になるものなのか?
「どうやら貴方の血は私ととても相性が良い様です。化け物と言われた私によく馴染む澱んだ魔力。これで貴方が私好みの容姿なら申し分ないのですが、少々むさ苦しいですね」
「なぁ、なんで血を吸われて罵倒されなきゃいけないんだアーチャー」
「私に聞くな……なるほど、確かに反英霊であるお前なら、衛宮影辰の魔力は馴染むのだろう。だが、吸いすぎはお勧め出来ないな。その姿で呼ばれた一欠片の矜持すら失う事になるぞ」
「えぇ。ですので、アーチャー。貴方に妨害していただき感謝しているところです。あのままでは最期まで吸っていたでしょうから」
え?なんなの俺の魔力ってそんな合法ドラッグみたいな効果あんの??と云うか、なんで何もかも分かったみたいな顔で会話してんだこの色黒士郎。俺も会話に混ぜろ、何がなんだかさっぱり分からないぞ。
「では、私はこれにて失礼。そろそろ、命令を守らなかったマスターの機嫌を取らないといけませんから」
そう言い残し暗闇の中に消えて行く。チラリとアーチャーを見ると、追撃する気は無いらしい。白黒の剣を消し、俺の方を見る。何かを言いたそうにするが、結局顔を逸らしてしまった。
「帰るとしようか」
「そうだな……あ、でも帰りにちょっと教会に寄って良いか?」
「何故だ?」
アーチャーにそう言われ、割れた窓やライダーの短剣で穴が空いた壁、思いっきり俺の靴の跡が残っている廊下を見る。
「言峰綺礼に隠匿を頼もうかと」
「……分かった。入り口までは護衛しよう」
この後、無事に言峰綺礼に隠匿を頼む事は出来た。しかし、誰もいない学校で暴徒が現れたってのは些か雑すぎないか?
「ライダー……あの人は辞めとけと言っておいただろう。魔眼まで使用しやがって……真名がバレたらどうする気なんだ?」
「すみませんシンジ。ですが、リスクはありましたが収穫は大きいですよ。あの者が校内にいる時に、宝具を起動すれば桜に呼ばれた時と同様かそれ以上に戦える様になります」
「そうか……アーチャーは確か遠坂のサーヴァント。それがあの人を助けに来るって事は、士郎と同盟関係か?ライダー、二騎のサーヴァント相手に戦えるか?」
「もう一騎次第ではありますが、恐らく可能かと。それに宝具を切れば霊体化で連れてきてない限り、侵入は難しい筈です」
「分かった。なら、明日。仕掛けるぞ」
ライダー陣営との激突の日は近い。兄として妹を守るため、少年は憧れの人であろうと利用する。
正解は、ライダー襲来でした。
そして、影辰の魔力は泥の影響で澱んでいる様ですね。絶対、気付いてて言わなかったなあの神父。反英霊には親和性の高い魔力ですが、純正の英霊にはちょっと悪くなってしまう可能性がある魔力です。
何やら不穏な気配がしますね……さてさて、ライダー陣営はどうなるのでしょうか。待て、次回!
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