転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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2話目ですわよ。
お気に入り、評価、感想ありがとうございます。


死にたくないから訓練する。魔術師やサーヴァントに通用するレベルになるのか分かんないけど

「うん。やっぱり、君に魔術の適性はないよ影辰」

 

「そっかぁ……」

 

 切嗣に拾われて三日後。俺は、魔術の適性を調べて貰ったがどうやら適正はないらしい。魔術回路が全くないと言う。なんで、Fate世界に転生されたのに魔術回路がないんですか神様??普通こういう時って、魔術回路が馬鹿みたいにあるとかそういう展開じゃないの?

 

「……まさか、こんなにも一気に廃れる魔術師の家系があるとはね。魔術が使えないなら、君にはその目を活かして貰って体術を仕込む。と言っても、僕はそんなに得意ではないからある程度使える状態になったら自分で上がって貰うが」

 

 切嗣にとって俺は道具だ。当然、道具のスペックは知りたがる。だから、動体視力が良いことは伝えたしテストも行った。結果は、0.1秒で表示された数字を10桁まで正確に見切った。流石の切嗣もこれにはかなり驚いていた。煙草を口からポロッと落とす姿なんて中々見れない。

 

「銃でも良かったが……これではね」

 

 50mほど離れた的から更に横に10mほどズレた場所に着弾している銃痕。はい、俺が撃った銃弾です。なんでか全く分からないほどに銃の才能がない。銃器のプロである切嗣が匙を投げるほどなのだから、筋金入りのセンスの無さだろう。人外魔境の魔術師が溢れ返る世界に俺は、動体視力を活かして体術で潜り抜ける必要がある様です。ふざけんなよぉ!

 

「まぁ、選択肢は多い方が良いだろうからこれを渡しておく。コルトパイソン.357、至近距離から放てば耐えられる奴は居ないだろう」

 

 ゴトっと黒で統一された厳ついリボルバー銃が目の前に置かれる。わーお、確かに至近距離で放てば耐えられる奴は居ないだろうね、撃った瞬間に恐らく子供である俺の腕が保たないけどな!けどまぁ、必殺の一撃をくれるというのは有難い。

 

「子供に渡す銃じゃないよな……」

 

「それを問題なく撃てる様になるのが、君の目指すべき最低限の状態だ。とりあえずは、身体を作って貰うよ」

 

「了解。なるべく早くあんたの道具になれる様に努力するよ」

 

「あぁ。使えないものを置くほど僕は蒐集家じゃないからね」

 

 そう言って切嗣が部屋から出て行く。彼が出て行った後、改めて部屋を見渡す。冬木の聖杯戦争において、始まりの御三家として名を連ねるアインツベルンだけあって金がある。ありとあらゆる訓練機器に、射撃場、更に恐らく魔術的な修行をする場。それらが纏まって存在してるとは。切嗣が此処に俺を置いて行ったってことは、早速訓練をしろと言うことだろう。

 

「……第四次聖杯戦争、そして第五次聖杯戦争。召喚されるサーヴァントは悉くやばい連中だし、マスターもやばい。そんな場所に俺は生身で行って、戦わなきゃいけない……人を殺す手伝いをしなくてはならない」

 

 平和な日本にいた時には考えもしなかった事だ。自分が人殺しの片棒を担う事になるなんて。だが、やらなきゃ出来なきゃ俺が死ぬ。もう二度と死んでたまるか。死に対する強い忌避感が今の俺にはある。転生をしてしまったから、思い出してしまうのだ。車に吹き飛ばされ、激痛に襲われていた事、血が流れ体温が下がり意識を保てなくなっていく感覚。そして、転生した直後に見たこの世界の両親の死体。俺はああなりたくない。今度こそ、生きて生き残って、俺という命を護りたい。それが俺の願い。

 

「……とりあえず、鍛えるか」

 

 まずは筋肉をつけよう。ただの筋トレだけど、それが将来の自分を救うかもしれない。そう思えば、只管に自分を追い詰めて行くのも苦ではなかった。

 

 極々普通の筋トレを行なってから、約半年。食事と睡眠以外の時間は、筋トレに使った為、それなりの筋力が手に入った。全くと言って良いほど鍛えていない大人と腕相撲をすればまぁ、勝てるだろうって感じの。この半年間で変化があった事と言えば、訓練室が半ば俺の自室になった事と、切嗣より体術が出来る舞弥さんから体術を教わる様になった事、そしてイリヤスフィールに存在がバレた事。

 接触する気なんてなかった。後々を考えれば、イリヤスフィールなんて分かり易い地雷原に誰が行くと思う?そんな子とまさか、トイレ後の廊下でばったり会うなんて思わないじゃないか!しかも、その時の俺ときたら……

 

「うおっ!?イリヤスフィール!?!?」

 

「んー?誰ぇ?どうして、私の名前知ってるのー?」

 

「あっ…」

 

 そう思いっきり自己紹介もしてないのに、彼女の名前を呼んでしまった。咄嗟に、切嗣から聞いたと答えようと思って、切嗣がイリヤスフィールの話を避けてたのを思い出す。これくらいの子は話したがり。もし、切嗣の耳に入ったら……間違いなく尋問に合う。むしろ、尋問で済めば良いレベルだ。やべぇ……どうしよう。

 

「……じゃあね!」

 

「あっ!まちなさーい!!」

 

 三十六計逃げるが勝ち。うん、馬鹿なのかなこいつ。全力で逃げる俺を鬼ごっこか何かと勘違いしてるのか待てーっと楽しげに追いかけてくるイリヤスフィール。ねぇ、あの子スタミナお化けなの?なんでついてこれるの??さて、ここで問題です。時間は夜。城内を走る子供二名。片方は、元気に声をあげながら走っている。この後、待ち受ける結末は?

 

「……何をしているのかな?イリヤ、影辰?」

 

 正解は絶対零度の保護者(衛宮切嗣)の登場です。この後、イリヤスフィールは軽く怒られ、切嗣と共に自室へ。俺は、切嗣から正座と言われ、朝日を迎えるまでその場に放置されました。この扱いの差は酷くない??

 まぁ、こんな感じでイリヤスフィールとの接点が出来てしまいました。切嗣達が恐らく聖杯戦争に向けての準備で忙しいので彼女の相手をするのが新しい日課になったよ。……第五次聖杯戦争が怖いなぁ。

 

「遠慮はいらない。今の貴方如きにやられる私ではありませんので」

 

「そりゃ、そうだが……」

 

 そして今、俺は模擬戦闘を行なっていた。舞弥さんの手には刃の潰されたナイフ。俺の手には刃が健在のナイフが握られている。他人に対して、躊躇いを無くさせる為と言っていたが……万が一があったらどうするんだ?

 

「もし、今甘い事を考えているのなら、今日1日は立てなくなるぐらいに痛めつけるとしましょう」

 

「うっ……分かったよ!怪我しても恨まないでくれよ!」

 

「そんな事は起きないので安心してください」

 

 一度深呼吸して、舞弥さんへと走り出す。子供と大人の体格差は、考えるまでもなく大きい。俺が攻撃を加えるには、可能な限り舞弥さんへと肉薄しなきゃならない。一応、腰にゴム弾を入れた拳銃があるけど正直、当たる気がしない。そして、当然、舞弥さんも拳銃を持っている。子供の俺が全力で走ったとしても、三十秒はかかる距離。彼女がまず拳銃を手段に選ぶのは、当たり前だった。構えられる拳銃。だが、俺の目にはしっかりと彼女がトリガーを引く瞬間が見える。引く瞬間に、ジグザグに動きゴム弾を避ける。

 

「切嗣が言ってた通りですね。よく見える目だ」

 

 距離を詰めて跳躍。舞弥さんに向けてナイフを振るうが、受け流される様にナイフで受け止められ避けられる。着地し、即座にその場を転がる様に避ける。着地点だった場所に舞弥さんの脚が通過していった。

 

「着地の勢いを利用して転がるのは正解です。ですが、相手を見てないのは愚策ですよ」

 

「がっ…!」

 

 右肩に痛みが走る。拳銃を俺に向けている舞弥さん。そして、地面を転がるゴム弾が状況を教えてくれた。くそっ、単純な受け身じゃ駄目か。俺が使えるのはこの目だけだ。もっとそれを意識しろ。相手をずっと捉え続けろ。

 

「もう一度、お願いします!」

 

「えぇ。どうぞ」

 

 この日、結局俺はかすり傷の一つすら舞弥さんに与える事は出来なかった。俺の全身は筋肉を酷使し過ぎた代償に筋肉痛に苛まれ、そこに舞弥さんが放ったゴム弾を受けた事による打撲の痛みが追加される事となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舞弥、影辰はどうだった?」

 

 影辰が筋肉痛で苦しんでいる頃、切嗣と舞弥は二人きりで話していた。話題は、切嗣が拾ってきた影辰に関してだ。半年が経ち、彼が腹の底では自分達に害を為そうとしているのではないか?という疑いが消え、単純に戦力として運用する為に育ててきた。その進捗が気になる様だ。

 

「はい。今日の訓練で彼は初めて、私の髪を少し斬る事が出来ました」

 

「ほぅ。君相手に懐に入ったのか彼は」

 

 舞弥の短く切り揃えれた髪をよく見れば、一部僅かに不揃いな部分がある。彼女をよく知る人物でなければ分からない程度の変化だが、それが意味するのは、戦場で兵士として生きてきた人間相手にナイフの間合いまで近づけたという事だ。ただの半年、戦闘訓練を積んだだけの子供がだ。

 

「真っ向から放ったゴム弾は一発も彼に当たりませんでした。問題なく、戦いの最中でも使えるものです。そして、それを踏まえ彼は格闘戦闘に関して天賦の才があるかもしれません」

 

「なるほど……分かった。一年経って、彼を武装させたホムンクルス達と戦わせる。それに勝てれば、彼も戦力として聖杯戦争に連れて行こう。舞弥、そういう方向で調整を頼めるかい?」

 

「分かりました」

 

 こうして、影辰の知らないところで死にかねない戦いが組まれる。もし、一言彼に言うのなら、そう。頑張り過ぎた、これに限る。切嗣は体術を仕込むとは言ったが、聖杯戦争に連れて行くとは彼に言っていない。そもそも、魔術師殺しとして名を馳せている衛宮切嗣という男がそう簡単に誰かを信じる訳がなかったのだ。だが、こうまで優れた道具としてアピールしてしまえば悲願が待っているこの男がそれを使わない訳がない。戦力は一つでも多い方が良いのだから。

 

「僕は良い拾い物をしたものだ」

 

 切嗣にしては珍しく熱が感じられる声だった。

 




某赤い彗星「貴様らの頑張り過ぎだ!」

ちなみにサボって無能してたら、アインツベルン城に置いてかれるけど、その場合アハト翁に処理される可能性が高いので、これが生存ルート。

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