またしても書きたいことを詰め込んだ回です!
先ず、攻め立てるのはライダーだ。学園の屋上という開けた土地を存分に使い、その機動力を活かしセイバーを攻める。慎二が代理のマスターとなり、低下していた能力は衛宮影辰より吸収した魔力と今尚、汲み上げている学園の人達の魔力によりほぼ本来の彼女の能力に戻っていた。
「くっ……速い」
それに対して半端なマスターにより能力が低下しておりライダーが展開している宝具、鮮血神殿によって魔力を吸われ続けている状態では強気に攻めることが出来ない。縦横無尽に走り回り、攻撃してくるライダーの迎撃に手一杯であった。令呪での転移直後迫るライダーを吹き飛ばした以降、まともに攻撃が出来ていない。しかし、ライダー有利が絶対かと言われるとそうではない。
「(流石は最優のクラスだけはありますね)……守りばかりでは勝てませんよセイバー」
鮮血神殿を起動し、校内の人間から魔力を吸い続けるライダー。もし彼女が本当に極悪非道で、他者などどう成り果てても構わないというマスターに召喚されていれば今の有利は維持されていただろう。だが、此度のマスター慎二はライダーに誰にも死なすなと命じている。その為、吸い上げられる魔力には限度があり戦闘が長続きすれば今の優位など一瞬で瓦解する。仮のマスターである慎二の命令を守る義務は、ライダーにない。令呪を用いて命じられている訳でもないのだから。だが、それでもライダーは誰も死なすなという甘いマスターの命令を守る。
「優しくは殺しません。そんな余裕こちらにありませんから」
ライダーがその身を深く鎮め、最高速度でセイバーに突っ込む。今までの翻弄する形からの急な正面戦闘。虚を突かれる形になったが、セイバーの身体は理性より早く、迎撃を選択した。幾ら速くても真正面から来るのなら対処は簡単だ。不可視の剣をバットの様に傾けライダーに向けて放つ。このまま斬り伏せられるかと思われたライダーだが、不可視の剣の前で更に体勢を沈め、地面スレスレとなりセイバーとの距離を詰める。
「見様見真似ですが」
距離を詰めた事で鎖が付いている短剣では扱いづらいほど肉薄し、蹴りによる攻撃は沈めた体勢を支える為に行えない。であるなら、拳かと予測したセイバーが自身の霊核を守る為に籠手を心臓に移動させる。が、ライダーが選んだ手段は拳ではない。ライダーがセイバーに近づく為に加速した速度は未だ生きている。所謂、運動エネルギーというやつだ。セイバーの目の前でライダーはその独特の態勢を取る。あの夜見た、あの男の体勢を。
「体当たり!?くっ!」
鉄山靠。影辰がライダーを吹き飛ばして見せた様に、ただの人間が出せる速度でもサーヴァントを吹き飛ばし壁に叩きつける事が出来るほどの破壊力を有する。もし、それをサーヴァントが影辰以上の速度を持って実行したらどうなるか?
空間が破裂する様な音を立てて、セイバーが勢いよく吹き飛ぶ。殴り合いの泥臭い戦いをしている士郎と慎二の間を通り抜け、屋上のフェンスへ勢いよく衝突し、当然ただのフェンスがそんな破壊力に耐えられる訳がなく金属が折れる音を出しセイバーは、空中へと放り出された。
「セイバー!!」
士郎の叫びにも似た声が響き渡る。思わず、落下していくセイバーの方に駆け寄ろうとする士郎だがそこに慎二が立ち塞がる。
「余所見とは良い度胸だね、士郎」
「慎二、ぐっ!」
ガラ空きの士郎の腹部に慎二の蹴りが突き刺さり、士郎を蹴り飛ばす。その方向にはライダーがおりセイバーが居ない今、士郎の命運は決まった様なものだ。正面からは慎二が歩きながら距離を詰め、後方ではライダーが短剣を構える。絶体絶命の状況だが、士郎の目に諦めは無い。思わず駆け寄ろうとしてしまったが、セイバーは自分より強い。兄貴との戦いを見たのだからよく分かる。だからこそ、彼女はまだ負けていない。地面に叩きつけられていないという確信が士郎の中にはあった。
風が吹き荒れる。
校庭の砂を巻き上げ、砂嵐となった風はライダー陣営の動きを止めて見せた。巻き上がった風のその先、眩しい限りの太陽を背に彼女は戦場に舞い戻る。その手に輝く黄金の剣を手にしながら。
「はぁぁぁぁぁ!!」
「……」
慎二に向けて振り下ろされる剣を、ライダーが無言で慎二を抱え避ける。再び、マスターとサーヴァントが並び合う形になった両陣営。セイバーが戻ってきた事に安堵している士郎と、変わらず警戒した顔でライダー達を見ているセイバー。そして、バイザーで眼こそ見えないが恐らく、隣に立っている慎二同様落ち着いているライダー陣営。
「私が戻って来ることも折り込み済みでしたか」
「あの程度でサーヴァントが殺せるなんて思っていないさ。戻って来るのにもう少し時間はかかると思っていたけどね。ライダー」
「まだいけます。アーチャーが様子見に徹している以上、此処は落としてしまいたい。シンジこそ、大丈夫ですか?顔、腫れていますよ」
ライダーの言う通り慎二の顔は腫れている。士郎と殴り合いをしていたのだから、当然ダメージはある。が、その程度で慎二の闘志は衰えない。
「馬鹿にするなよライダー。この程度何とも無い」
「そうですか。では、早々にマスターを気絶させてくれると嬉しいですね」
「……士郎、その右手」
「ん?あぁ、折れてる。慎二に折られた」
士郎は慎二に比べて腫れてるなどといった外傷はないが、右手が明らかに曲がってはいけない方向に曲がっていた。ライダーとセイバーが戦っている時、同様にマスター同士も戦っていたのだが、慎二は開幕士郎の右腕を折っていた。士郎は影辰から肉弾戦の手解きを受けている為、慎二との殴り合いになった時にある程度の自信は有していた。だが、その自信を腕ごと慎二は叩き折った。
慎二と士郎の戦いは泥臭いの一言に尽きる戦いではあったが、二人ともただの喧嘩するには戦闘スキルが高すぎた。影辰に憧れ身体を鍛えた慎二。その過程で一つの体術を彼は身につけていた。独学で身に付けたものである為、本来のソレとは違うかもしれないが彼が身に付けた格闘術の名前は『パンクラチオン』であった。
「普通、折れた直後に逆の手で顔面殴って来る奴はそう居ないぜ、士郎?」
「その後、怯むことすらしないで蹴ってきたのはどこの誰だったか慎二」
「魔術師相手に、悠長な事は出来ないからね。触れたら壊すに限るんだよ」
慎二がパンクラチオンに目を付けた理由がこれだ。他の武術ではどうしてもルールに縛られるし、型と呼ばれる構えを見せてしまう。だが、ルール無用のなんでもありなパンクラチオンであれば、魔術師に魔術を行使させる事なく倒せるかもしれない。そう考えた。直接、手解きを受けていないのに考える事が憧れの人物と同じであった。ただ、一つ違いがあるのなら影辰の武術は相手を殺すのに重きを置いているが、慎二は相手の無力化に重きを置いている。非情になりきれない慎二の甘さが滲みでていた。
「ライダー、場合によっては宝具の使用も許可する」
「分かりました」
「士郎」
「あぁ、分かってる。もしもの時は俺から遠慮なく持っていってくれ」
暫しの沈黙の後、再び両者は激突する。今度は、サーヴァントより先にマスター同士がぶつかり合う。折れた右腕を庇いながら、士郎が左手で戦うが単純に減った手数では慎二を倒せない。右腕を庇っている事で、重心がズレ力の入らない左手はあっさりと受け流され慎二の拳を鳩尾に受ける。
「がっ…!」
下がった頭を手に取り、慎二は勢いよく顔面に膝を叩きつけようとするが士郎の左手が間に割り込み、不発に終わると慎二は士郎の顎を殴り飛ばす。だが、それと同時に慎二の腹部に士郎の蹴りが突き刺さる。顎を殴られ、平衡感覚が狂っているというのに士郎は、気合だけでそれに耐え、慎二を蹴り飛ばした様だ。
「(ああくそっ、馬鹿みたいな精神力しやがって。気合いで耐えるかよ普通)」
「負けて……たまるか。慎二ぃぃ!」
フラつく身体を両脚でしっかりと支え、士郎は慎二に向けて走る。腹部を蹴られ、乱れた呼吸を整え慎二は士郎を迎え撃つ。右腕一本折っても、平衡感覚を狂わせても止まらないと云うのなら、もう一本の腕か脚でも貰っていく。そう覚悟した慎二は次の瞬間、その顔を驚愕に染める。士郎は、拳も蹴りも使わなかった。使ったのは頭、頭突きだ。士郎は慎二が命を奪う事に抵抗があるのを知っている。だから、骨を折るなどすれば死に繋がる頭を攻撃手段に用いた。完全に虚を突かれた慎二は士郎の頭突きを顔面に喰らう。
「がぁ!!」
鼻っ面に放たれた一撃。骨でも折れたか慎二の鼻から鮮血が舞う。そして、慎二のこの戦いが始まってから一度も止まる事のなかった思考が、呼吸を損なう事によって完全に停止した。
「しまっ……」
慎二は戦う者では無い。だからこそ、絶えず思考を回していた。隙を見逃さない様に、勝ちを確実にするために少し先の未来を読む為に。だが、その思考が今、この瞬間に完全に停止した。不味いと判断するが、慎二は隙だらけの体勢を立て直せない。
「はぁぁぁぁ!!」
そこを一気にたたみかける士郎。折れていない左手で慎二を殴り飛ばす。そこから左手一本で士郎は連撃の様に慎二を殴っていく。
「お前にどんな理由があるかは知らない!けど、こんなに大勢を巻き込むやり方は間違っている!!」
間違っている。その言葉を聞いて、慎二の目に力が戻る。
「そんな事は分かってんだよ!!」
連撃の隙間を縫う様に慎二の拳が士郎の顔面を殴る。
「けどな、これ以上最良の手段が僕には思いつかなかった!!例え、間違ってようが僕はこうするしかないんだよ!!」
「なら、なんで俺に相談しなかった!!」
返す士郎の拳が慎二の拳とすれ違う様に互いの顔面を殴る。
「お前に出来る訳がないだろ!!お前に相談すればそれがトドメになる。ギリギリのところで耐えてるあいつの精神が限界を迎える!」
「じゃあ、俺じゃなくても良い!兄貴でも良い!全部一人で背負おうとするんじゃねぇ!!」
「それをお前が言うかよ、馬鹿士郎!!」
「馬鹿はそっちだ、馬鹿慎二!!」
再び互いの拳が互いの顔に入る。二人揃って、よろけながら距離を取る。叫びながら戦っていたのもあるが、二人とも息を切らしており肩を大きく上下させていた。慎二の右目は大きく腫れ、既にほとんど見えていない。対して士郎は左目が腫れているが見えない程ではない。だが、右腕が折れており耐え難い痛みが襲っていた。ボロボロな男二人、だがそのどちらも諦めていなかった。
「……ライダー」
このまま、殴り合いで決着をつけるのか。見ている遠坂すらそう思っていた時、慎二がライダーの名を呼ぶ。
「宝具を使用しろ、セイバーを倒せ」
その言葉と共にライダーがセイバーから距離を取る。瞬間、溢れて出す魔力。慎二の指示通り、ライダーが宝具を放つ体勢になる。これは聖杯戦争。マスターだけで、雌雄を決するものではない。
「士郎!」
「あぁ、分かって……」
「士郎!?」
セイバーの近くが最も安全である為、そちらに行こうとした士郎が膝から崩れ落ちる。執拗に顎を狙われたダメージが今となって士郎に襲いかかっていた。視界は歪み、身体は震えて力が入らない。そして、そんなマスターを見てしまったセイバーは、迎撃の為の宝具発動が遅れてしまう。
既に天には純白の天馬とそれに跨るライダーが現れていた。我に帰った遠坂によるアーチャーの呼び出しももう間に合わない。これ以上なく、最高に仕上がったタイミングでの宝具だ。
「
純白の流星が地に放たれる。
さてと、決着は次回です!
聖杯戦争じゃなきゃ、屋上で殴り合う男共なんて青春の一コマ。
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