言峰綺礼に呼び出された。昨日の騒ぎで学校は休み、教会側の隠匿によりいつものガス事故という扱いになった。生徒や教師などあの時学校にいた人達も死者はおらず、早ければ三日以内には全員元通りの生活が送れる様になるらしい。士郎が、岸波さんの様子を見に行くとか言ってたな。事の顛末は、士郎達から聞いた。別段、俺が慎二くんに対して言う事も思う事もない。
「で、此処か。泰山」
中華飯店『泰山』あの言峰綺礼が気に入った麻婆豆腐を提供する店だ。此処が指定されたという事は既にアレを食っているのだろう。引き戸を開けて、俺も入店する。綺麗な店内には言峰綺礼一人が座っており、入ってきた俺を見ると少しばかり目を開く。どうやら未だ麻婆豆腐は運ばれて来てない様だ。
「思っていたより早いな」
「仕事が無くて暇なんでね」
正面に座り、コップに水を汲み一気に飲み干す。もう一度水を淹れていると特徴的な刺激臭が鼻をつく。どうやら麻婆豆腐が届く様だ。店長が持ってきた麻婆豆腐は二つ。俺と言峰綺礼の前に置かれる。
「……これを食うとは言ってないが」
「なに、私の奢りだ。気にするな」
レンゲを手に取り麻婆豆腐を掬う。さて、この泰山の麻婆豆腐は凄まじく辛い。明らかに万人が食える辛さを超えている。前に士郎に騙して食べさせたら、気絶した。それ以来、俺がお土産に持って行く食べ物は必ず警戒する様になってしまった。悲しい。
と、話は逸れたがこの泰山特製麻婆豆腐。辛いだけのマゾ料理では無い。地獄の様な辛さの先にしっかりとした旨味が存在しており、一度これにハマってしまうと他の麻婆豆腐では物足りなくなる。
「戴きます」
一口。たった、一口それを口に入れただけで、全身から汗が噴き出し麻婆豆腐という劇物に対して、全身が喚き立つ。凄まじい辛さに水を飲みたくなるが、それはBADEND直行コースだ。もう二度とこの麻婆豆腐を食おうとする手が動かなくなる。そしてその時が来る。幾千幾万の辛さという軍勢を超えていき、たどり着く極上の旨み。砂漠の中でオアシスを見つけた様な感覚。これを味わってしまってはもう手が止まらない。
「「……はふっ……あぐっ……」」
言峰はカソックを緩め、俺は着ていた上着を脱ぎ捨てる。圧倒的な香辛料という暴力が俺たちの体温を跳ね上げているので、厚着などしていられない。話をする為に集まったというのに俺と言峰の間に会話は一切ない。互いに、この麻婆豆腐に魅入られている為食い切るまで話すことはないだろう。真っ赤な餡に絡まる豆腐を、一気に口に運び出来立ての暑さが辛さと共に舌を蹂躙していくが、美味い。無言で男二人が汗を流しながら、麻婆豆腐をカッ食らうという異様な光景が少々続き、同時にレンゲを置く。
「「おかわり」」
「はーい!待ってるアルよ」
こいつら会話する気あるのか?とか思うが、流石に二回目は麻婆豆腐の魅了にも抗える。取り敢えず、新鮮な状態でこれから来る麻婆豆腐を食べる為に水を飲んでおく。
「で、話はなんだよ?」
「セイバーとライダーの戦闘。アレの隠蔽にかなりの人数が割かれている。理由は、両者の宝具が目立ち過ぎた。神秘の秘匿を破ったとして、ライダーのマスター及び、セイバーのマスターが処罰されてもおかしくはない」
聖堂教会からしたら日中の宝具は許されない行為だったか。そりゃそうだ、神秘の秘匿に過激派な連中の集まりなんだから怒り心頭でも不思議じゃないというか寧ろ、ここまで刺客が送り込まれてない事に驚く。
しかし、そんな事の為にわざわざ伝えには来ないだろう。送り込まれた刺客とかに戦ってる俺を眺めてニヤニヤするのがコイツだ。視線で続きを促せば言峰が言葉を続ける。
「お前は足りない人員を補って貰う。とは言え、魔術が使えない一応一般人に重役は任せん。日が落ちてから、明るくなるまで冬木市を見回りすれば良い。神秘の秘匿を疎かにする様な輩がいれば私に報告しろ」
「……それが見逃す条件って訳か。はぁ、なんでこうなるかなぁ」
「感謝しろ。私の方からこの程度で済む様に頼んだのだからな」
「お前が純粋に善行するとは思えないけどな。ま、助かったのは事実だありがとう」
俺が礼を言うと微妙に眉間に皺を寄せる。へっ、長い付き合いだからなお前がどんな事されれば嫌がるか理解してんだよこっちは。
「……取り敢えず、日が落ちたら教会に来ると良い。護衛を用意してある」
「魔術師か?」
「ふっ、会ってからのお楽しみだ」
詳しいことを問い詰めようとしたタイミングで、麻婆豆腐が運ばれてくる。互いに視線を麻婆豆腐に落とし、レンゲを手に取り口に運ぶ。誘惑を断ち切れるとはなんだったのか。結局、碌に会話をする事なく、麻婆豆腐を食し連絡事項は既に終わっている為に、そのまま解散となった。駄目だな、麻婆豆腐は。思考力を奪われる。
日が落ちるまで時間がある為、一旦家に戻る。仮眠の一つでも取ろうと思いながら、自室に向かっていると何やら居間が賑やかだ。そういや、玄関に靴が多かったな来客か?
「士郎、お客かー?っと、凄いなこりゃ」
居間には何やら分厚い本が乱雑に広げられており、それを凛ちゃんと桜ちゃんと、慎二くんが目を通しており士郎とアーチャーが三人の様子を見ながら、お茶を淹れたり間食を用意したりと忙しなく動いている。
「小僧、焼き過ぎだ!それでは中まで熱が通り過ぎる。そんな事も分からないのか戯けめ!」
「ああもう!お前が横でごちゃごちゃ言うから気が散るんだろうが!」
「そこ煩いわよ!!仲良くしなさい」
「兄さん、此処は?」
「どれどれ……少し違うな。僕達が求めてるのとは」
「士郎、アーチャー。デザートはまだですか?」
……一人ただ、食ってるだけの奴居ないか?まぁ、これなら邪魔はしないでおくか。そっと部屋を出ながら、士郎とアーチャーを見る。ギャーギャー何かを言い合っているが二人とも楽しそうだ。束の間の幸福だろうと、それが救いになってくれるのなら嬉しい。
「良かったな士郎」
さぁて、俺は寝ますかね。あー……俺も混ざりてぇなぁ。でも、言峰に頼まれた事もあるから寝ないとしんどいし、仕方ない。青春とは程遠いおじさんは社畜になってるとしますか。背後から聞こえてくる楽しそうな声になんだか悲しくなりながら、自室に入り寝るのだった。
「よぉ、あんたがアイツの言ってた衛宮影辰かい?」
「……一応、聞くけど。サーヴァントだよな?」
「おうよ。ランサーのクラスで現界してるぜ。なんだ?この格好が変か?」
言峰に言われた通り、教会に来て先ず驚いた事は護衛って言ってた相手がサーヴァントであった事。付近にマスターの姿が見えないから、監督役であるアイツのサーヴァントなのだろう。おい、職務はどうしたエセ神父。いや、うん、100歩譲ってサーヴァントなのは良いとしよう。
「妙に似合ってるから困惑してんだよ……そのアロハシャツ」
「良いだろこれ!俺も気に入っててよぉ。っと、そうだほらよ」
ランサーが紙袋を投げてくる。中身はランサーの色違いのアロハシャツと、サングラスだった。
「着ろと?」
「変装らしいぜ。お前さん、結構ツラ割れてんだろ?」
「あぁ……なるほどね……」
なんかもう既に疲れた。考えることを放棄しながらその場で、アロハシャツに着替え上着を羽織る。流石に半袖のアロハシャツ一枚じゃ夜は少し肌寒い。サングラスはどういう仕様か全く視界を阻害していない。地味に魔術道具だったりするんだろうか。
「で、着替えてる間人の身体ジロジロとなんだ?そういう趣味かお前?」
「いやぁ?鍛え抜いた良い身体してんなと。どうよ、仕事が終わったら手合わせでも」
「……お前、それが狙いで言峰から引き受けたな?」
俺がそう言うとニヤッとした笑みを浮かべる。
「よく気がついたな兄ちゃん」
「戦いたいですーって感じの殺気ずっとぶつけられてたらそりゃな。はぁぁ、手加減してくれよ」
「なに、気さえ昂らなきゃ手ぇ抜いてやる。安心しろ」
「何一つ安心できない言葉だ」
どう考えてもランサーは、戦うのが大好きな奴だ。こういう奴の手を抜く発言ほど信用できない言葉はない。どれくらい信用できないかって言えば、行けたら行くと答えられたぐらいは信用できない。
「そろそろ行くか。しかし、あれだな」
俺とランサーの格好を交互に見て言う。ランサーが不思議そうに俺の顔を見て続きを促す。本当にどうでも良いことなんだが。
「ヤクザか何かに見えるな俺ら」
「はっ、一般人が寄り付かないって意味では良いんじゃねぇの?」
ガタイが良く、アロハシャツの下から筋肉が見えており、青い長髪とそれに比べれば短いが結ぶ事は出来る白銅色の髪にサングラス。序でに纏ってる雰囲気も一般人ではない。何処からどう見ても、ヤクザとかそういう連中に見える気がする。
この日は結局、街に不思議なところは何もなく無事に終わった。え?ランサーとの手合わせだって?……やっぱり信用できないよ!!死ぬほど疲れたわ。あー、もう暫くこれが続くと思うと憂鬱だ。
さてさて、士郎達は何をしてたんでしょうかね。お楽しみに。
ちなみにランサーとの手合わせは、見たいなーって人がいれば番外編みたいな形で書きます。今回の話に入れなかったのは、平和回にしたかったので。
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