「よぉ、調子はどうだ大河?」
「めっちゃ元気!身体を動かしたくてしょうがないよぉ〜」
「明日には退院で、仕事にも復帰だろ?大人しくしとけって」
「えー、ひーまーだー」
キャスターとの戦いがあった次の日。俺は大河の見舞いに来ていた。こいつの事だから元気だとは思っていたが、案の定元気が有り余っている。まぁ、大人しくベッドで横になってる姿なんてカケラも想像してなかったが。近くにあった椅子を適当に引っ張り出し座る。
「ほらよ見舞いの果物だ。適当に食ってくれ」
「わーい、ありがとう」
「もう一度聞くが、特に身体に異常はないんだな?大河」
「ん?無いよ。心配性だなぁ影辰は」
「ん、なら良かった」
キャスターに拉致された時に何かされてたらと思ったが、とりあえず大丈夫そうで安心する。一応、大河が気絶してる間に言峰に確認はして貰ったが、あいつだからな。信じきれない。ふと、何やら生暖かい視線を貰ってる気がして大河の顔を見るとニヤニヤした笑顔を浮かべていた。いきなりどうしたこいつは気色悪いな。
「なんだ?」
「んー?そんなに私の心配してくれてたんだなぁって。気がついてる?すっごい優しい顔してたよ影辰」
「なっ!?」
そんな顔してたのか俺。なんだかとても恥ずかしくなってくる。
「いつもは眉間に皺寄せて、難しい顔してるのに。ふふっ、心配してくれてありがとうね影辰」
「……たくっ、人誑しめ。兎に角休んでろよ、俺はもう行くから」
なんだか全身がむず痒くなってきた俺は立ち上がり病室を出ようとする。すると、大河もベッドから出て立ち上がろうと何してんだこいつ!?休んどけって言ったの早速破る気か?
「下まで送るよー。なんだか、喉乾いちゃったから売店行きたいし」
「お前なぁ……はぁ、行くぞ」
元気が有り余ってる大河と一緒に病室を出る。取るに足らない雑談をしながら、病院の廊下を歩いていると聞き覚えのある声がとある病室から聞こえてきた。俺と大河は顔を合わせ、ニヤッと笑うとコソコソとその病室を覗き込む。
「見舞いに来たのだから、私を喜ばせてくれても良いだろう?士郎」
「いや……分かったよ。ほんと、その眼鏡好きの原動力は何処から来てるんだ岸……白野」
クラスで3番目ぐらいの美人さんと仲良さげに話してる士郎が居た。どうやら俺の知らない所で、何やら上手いことやっていたらしい。
「もう学校始まっちゃうのか。もう少し、こうやって休んでいたかったなあ」
「休み過ぎは良くないぞ」
「だって、毎日士郎と話が出来るし。学校だと柳洞がすぐ士郎連れて行っちゃうし」
「……分かったよ。学校でもちゃんと話すから」
「言質取った」
「あのなぁ……」
あの士郎が押されている。あの子、やるな。しかし、士郎からは仲の良い女の子がいるなんて話聞いてないけどなぁ。精々、家で関係があるから桜ちゃんぐらいかと思ってたけどこれは士郎の嫁候補が増えたかな?
頬を掻きながらタジタジになっている士郎とぐいぐい話しかけたりしている女の子。自己評価がとてつもなく低い士郎にはもってこいの子だ。
「乱入なんてさせないぞ大河」
二人のところに突撃しようとした大河の首根っこを掴む。折角、良い雰囲気だってのに何乱入しようとしてんだこの虎。そんなんだから、彼氏の一人も出来ないんだぞ。
「なんか失礼なこと思われてる気がする!」
「はいはい。いいから、下にとっとと行くぞ」
「あー!折角、面白そうなのにぃ〜!」
思春期の子供かっての。バタバタと暴れる大河を引き摺りながら士郎たちの病室から離れる。いい歳した子供を引き連れ、売店に到着。俺は、序でに缶コーヒーを買い、大河がコカ○コーラを買う。
「じゃ、安静に……いや、せめて大人しくしてろよ」
「私そこまで子供じゃないんですけどー!?」
「日頃の行いのせいだ」
心外と言わんばかりの表情の大河に呆れる。今こうして、俺の見送りをしてる時点で、大人しくしてない事の証明だというのに。まぁ、大河らしいか。手をブンブンっと振っている大河に手を振り返しながら病院を出る。
「任せたよ」
「任せたまえ」
すれ違う紅いコートを着た男に大河を託して帰路に着く。その途中で俺は予想していなかった人物と遭遇する。まるで、雪が人の形を成した様に白い真っ白な髪に、真紅の瞳。可愛らしい紫のコートを羽織る小さな友人。
「……イリヤ」
「私の城に招待するわカゲタツ」
「格付けはこれで十分だろう」
「くっ……宗一郎様だけでも……」
柳洞寺にて、手足を剣に貫かれ地面と縫い合わされているキャスター。その肌には浅い切り傷が幾つも刻まれており、戦闘があった事を物語っている。対して、下手人であるギルガメッシュには傷の一つもなく、砂埃すら付いていない。両者の実力差を分かりやすく表していると言えるだろう。また、ここからでは見えないが山門の方ではまともに刀を振る事すらなく、拘束された雅なアサシンがいる。
「……何が目的だ」
「ん?我に何度も同じ事を言わせるな」
「手駒になれか……これだけの力があれば我々の力など必要ないと思うが」
ギルガメッシュとの力量差を理解し、また彼にキャスターを殺す気がない事にも気が付き、早々に戦うのを辞めていた葛木の言葉に、睨みつけていた視線をまるで悪戯をする子供の様にニヤつかせながらギルガメッシュは口を開く。
「お前らも先日味わっただろう?影辰の力量を。アレは我が支配するに値する雑種だ。その雑種が再び、我が嫁をこの世に呼び出したらしい。であれば、然るべき褒美を与えるべきだろう?そこで、我が蔵にある聖杯をと思ったが空の器を与えてもアレに使い道はない。故に、中身を与えてやろうと思ってな。10年前のあの日の様に」
「それと私達が何の関係がある?」
「そこのキャスターであれば、受け皿を切り替えるぐらい出来るであろう?」
「私が……それを了承する理由がないわ……」
呻きながらキャスターが答える。興味のない視線をギルガメッシュがキャスターに飛ばすのと同時に、彼女の目の前に黄金の波紋が現れる。
「この場での生存、此度の勝利品に最も近くなる。これ以上の理由が必要か?影辰を殺せば、聖杯はお前らにくれてやろう」
聖杯の譲渡。とても分かりやすいメリットにキャスターが驚く。全てのサーヴァントを殺す必要もなく、ただの人間を殺せば聖杯が手に入る。聖杯を欲するサーヴァントには抗えない甘い、とても甘い提案であった。
「……分かったわ」
故にキャスターは了承する。もし、聖杯がこの場にあると他の参加者に知られれば、他の全ての陣営が一時的な共闘すら不可能な敵となる。その危険を覚悟の上で、キャスターは己の願いのため英雄王の誘いを受けた。
「では、あとは任せよう。我は行くべきところがある」
「何処に行く気だ?」
「決まっているだろう?本来の小聖杯を破壊する」
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