転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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新年、一発目の投稿。まっったく、明るくない話です!
うん、まぁ、タイミング的に仕方ないんだ。許してほしい。

では、本年も宜しくお願いします


忘れ雪

「和やかにお茶会って雰囲気でもない様だけど、用件は何かなイリヤ?」

 

 イリヤの向かい側に座りながら出された紅茶を飲む。俺の背後には、ゴツい斧を持ったホムンクルスが俺の動きを見張っており、俺が不審な動きを見せれば即座に攻撃してくるだろう。当然、俺にイリヤを害する気はないのでこうして優雅に紅茶を嗜んでいる訳だが。やっぱ、流石はアインツベルンだな良い紅茶だ。

 

「あら、ゆっくり飲んでくれて良いのよ。硬い態度のまま、昔話なんてしても楽しくないでしょう?」

 

 同じ様に紅茶を飲むイリヤの背後には、微動だにしないバーサーカーが待機しており、もう一体の鋭い目つきのホムンクルスに至っては俺への敵意を隠せていない。……うん、これで和やかにお茶会しようって思える訳がないだろうに。

 

「昔話……俺の話しを聞いてくれるって訳か?一体、どういう風の吹き回しだ。いや、俺としては聞いてくれるなら嬉しいがイリヤの説得はあの日に失敗したものだと思っていたが」

 

「別に私がカゲタツの話しを聞いて、考えを変えるとは言ってないわ。ただ、聞いてみたくなったのよ。命を賭けてでも、私に聞かせたいキリツグの話しを。……キリツグは、狡くてなんだか頼りないけど優しくて私やお母様をちゃんと愛してくれてたと思うの。それをあの日、貴方に庇われて思い出したの。配下のホムンクルスの説得に時間がかかったけど、こうして話し合いの場を設けたのよ。分かってくれたかしら?」

 

 散々な言われ様だけど、間違ってないと思ってしまう……可哀想な切嗣。でも、彼の不器用な愛し方はしっかりと伝わっていた様だ。イリヤが俺への心象を良くする為に嘘を吐いてるって感じもない。

 

「……戻って来て泣いてたイリヤ」

 

「それは言わない約束でしょ!リズ!」

 

 顔を赤くしながら、リズと呼ばれたホムンクルスに指摘するイリヤに安心する。あぁ、あの城で過ごした時のままだ。

 

「ははっ、じゃあ何から話そうかイリヤ?」

 

「微笑ましいみたいな顔するなぁー!」

 

 紅茶が飲み終わるとすぐにホムンクルスが注いでくれる。ありがとうっと礼を言うと無言で頭を軽く下げて、イリヤの所へ戻っていく。新しく淹れてくれた紅茶を一口飲み、俺は第四次聖杯戦争後の切嗣に関して話し始めた。何もかも失った男が唯一、手元に残った幸福()の時間を。

 あの家に住む様になってからの話、士郎の料理が美味しくあの切嗣が笑みを浮かべた話、共に将棋を打った話し。思いつく限り、切嗣の日常を話し、それに対するイリヤの反応を見て、和んだのを見てから恐らく聞きたかったであろう切嗣がイリヤの為にしてきた事を話し出す。

 

「先ずはそうだな……イリヤ、この冬木市の霊脈を確認したか?」

 

「それはこの地を管理する遠坂の役目よ」

 

「そうなのか。まぁ、機会があったら調べると良い。本来の聖杯戦争の周期に合わせて発動する様、切嗣が組んだ罠があるんだが、まぁ、勿体ぶっても仕方ないか。大聖杯がこの地に現れない様に、霊脈をズタズタに破壊する仕掛けだ」

 

「……どうしてそんな仕掛けを?」

 

 イリヤが小首を傾げて俺に問う。彼女の背後にいるホムンクルスは気が付いたのか、小さくあっと言葉を溢していた。聖杯戦争中なら兎も角、全てが終わってからそんな仕掛けをするなんて理由は一つしかないだろう。いや、気づいてても俺の口から聞きたいのかイリヤは。

 

「君を守る為だ。余り詳しくないが、大聖杯は何処にでも現れる訳じゃないんだろ?遠坂が提供したっていうこの土地だから、大聖杯は降臨するに値する。その土地を壊してしまえば、聖杯戦争そのものを中止若しくは、破壊でき小聖杯の器としてイリヤが冬木に来ることもない」

 

 ボロボロの身体で切嗣は愛娘であるイリヤの為に残せるだけの策を残してきた。もし、大聖杯が完全に破壊されていれば、もし、魔力が残されていなければ今ここにイリヤは居ない。

 

「そんな面倒な事をしなくても……」

 

「自分を迎えに来れば良いか?それが叶うなら、切嗣もそれが一番良かっただろうな」

 

 俯くイリヤに言葉を続ける。戦っていない今だから、言葉を尽くして俺は想いを伝える。

 

「第四次聖杯戦争、その聖杯から零れ落ちた泥は、その呪いによって切嗣の身体を蝕んだ。結果、切嗣はもう魔術の行使が不可能になったんだ。アインツベルンの城、その守りはイリヤも知っているだろう。吹き荒れる吹雪の結界を、切嗣は踏破出来なかった。それでも、凍死する寸前まで何度も、何度も切嗣はあの城に向かった。けど、イリヤを救う事も出来ずただでさえ、ボロボロな身体を更にボロボロにするだけだった」

 

 動けているのが不思議なぐらいボロボロな人間が、意志だけで身体を動かしあの極寒の城に訪れる。それがどれだけ大変な事か、馬鹿でもわかる。それでも、手を伸ばし歩みを止めなかった。

 

「愛する人を失い、長年の理想にも裏切られ、救いたいと願った数多の命は失われ、それでも切嗣は愛する娘を片時も忘れなかった。忘れてしまえば、楽に生きられるのに。俺や士郎と過ごす毎日の中で、あの人はずっと影のある笑顔しか浮かべなかった」

 

 今でも思い出せる切嗣の姿。士郎に爺さんと揶揄されるほど、気力がなく草臥れており生きていると言うよりは、ただそこに居るだけど表現する方が正しいと思えた。それが、誰よりも争いという物を嫌い戦いによって流れる血が無くなって欲しいと願った正義の味方の末路だった。

 無意識に紅茶を持つ手に力が加わり、僅かにヒビが入る。

 

「だから、俺はあの人の道具としてあの人が最期まで守ろうとしたイリヤを戦わせたくない。聖杯戦争の方も、士郎や凛ちゃんが大聖杯を顕現させない様に頑張ろうとしてくれている。……我儘な願いなのは分かってる。けど、頼む。もう戦いから手を引いてくれないか?」

 

 血に濡れた道を歩いた者は幸せになってはならない。なんて、事は一切思っていない。自分の快楽の為に行ったのなら兎も角、切嗣の様に顔も知らない誰かの為にその手を血に濡らした者が、幸福にならない。そんな結末は余りにも報われないと俺は思う。当時、何の力も無かった俺に切嗣を助ける事は出来なかった。なら、今はせめて彼が残した幸福(イリヤと士郎)のためにやれる事はしたい。

 

「……カゲタツ、私は──ッッ!?」

 

 イリヤが返答しようとしたタイミングで、この場所全体を飲み込んでしまう様な圧倒的な重圧感が場を支配した。イリヤの背後にいたバーサーカーも臨戦体制となっており、この城の中庭がある場所に視線を向けていた。この重圧感……凄く既視感がある。具体的に言うのなら、あの慢心が服を着て歩いてる様な黄金の王様。あの人が放つ存在感だ。

 

「イリヤ!!」

 

 中庭から放たれた殺気に身体を動かす。豪勢なテーブルに土足のまま乗り、イリヤを抱き抱える。直後、部屋の壁を沢山の宝剣が破壊しながら現れ、俺たちの元に飛来する全てをバーサーカーが弾き落とす。他のホムンクルス達も運良く無事だった様でこの攻撃による被害者はいない。だが、これはあくまで王が邪魔な壁を破壊する為に行った行為、攻撃ではない。

 

「此処に居たか。聖杯の器、ん?そこにいるのは影辰か。悉く、運のない奴よな」

 

「なんでこんな所にいるんですか?王様」

 

「なに、少しばかり聖杯の器に用があってな」

 

 碌な用事じゃないのだけは分かる。加虐的な笑みを浮かべている王様は、大抵俺にとって有益な事はしない。まぁ、そもそもあの人が有益だった事なんてほぼないけど!けど、なんで今、イリヤを気にかける?聖杯の器が欲しければ始まった当初から、仕掛ければ良かったのに。言峰の所にいるから、何処にどの参加者がいるかなんて簡単に分かる事だろう。何か、今ではなければならない理由が生じたのか?

 

「影辰よ、今すぐソレを差し出せばお前の命は見逃してやろう。死なぬ事がお前の望みであろう?」

 

 ギルガメッシュが俺に向けて手を差し出す。未だ俺の腕の中にはイリヤが居るため、差し出そうと思えば簡単に差し出せるだろう。俺を見るイリヤの頭を撫でてから彼女を下ろし、俺は一歩前に出てバーサーカーと肩を並べる。

 

「断る。イリヤを狙うと言うのなら、ギルガメッシュ。あんたは俺の敵だ」

 

 そう宣言するとギルガメッシュは加虐的な笑みを更に色濃く浮かべ、俺を見る。あぁ、この視線を俺は知っている。裁定者として俺を値踏みし、気に食わなければ容赦なく殺すつもりの視線だ。久しぶりに向けられたその視線に冷たいものが走る。

 

「バーサーカー」

 

「ちょっ!?待て!!イリヤ、なにをするつもりだ!?!?」

 

 バーサーカーが俺の首根っこを掴み上げる。突然の行動にさっきまで流れていた冷たいものは消えるが、嫌な予感に包まれる。

 

「これは私が始めた戦い、その責任は私が取るわ……ありがとう、影辰。私を愛してくれて」

 

 バーサーカーの圧倒的な膂力で後方へと投げ飛ばされ、勢いよく窓を突き破り俺は外に放り出される。突然の事で全く理解が追いついていない。小さく遠ざかっていく背に俺は届かない手を伸ばし、声をかける事しか出来ない。

 

「イリヤ!!!!」

 

 直後、背中に強い衝撃を感じて俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぜ、影辰を放り出した?アレはお前を守ろうとしていただろうに」

 

 目の前のサーヴァントが不思議そうに私を見ていた。それもそうだろう、自分から戦力を減らしたのだから。目を閉じれば私を気遣ってくれる影辰の姿がたくさん、思い浮かぶ。あのまま、差し出された優しい手を握っていても良かっただろう。けど、それをしたら影辰は私を守ろうとして目の前のサーヴァントに殺される。

 

「余計なお世話よ。そもそも、サーヴァント同士の戦いに魔術も使えない人間が役に立つ訳ないでしょ」

 

 抱き締められた身体から、彼の熱が消えていく。これで彼の提案を拒絶したのは二度目。もうきっと、彼が私の為に無理をする事も無いはずだ。これだけ拒絶すればきっと諦めてくれる。

 

「そうか。では、死ね」

 

「死なないわ。だって、バーサーカーは世界で一番強いんだから!!」

 

「■■■ーーー!!!」

 

 影辰、私の愛しい友人。どうか私を忘れて生きて欲しい、こんなあと一年も生きられるか分からない私の為に貴方が命を費やす必要はない。私が生きる事の出来ない時間を生きて、その優しさをいつか出来る血を分けた家族に向けてあげて。

 

「……幸せに生きて欲しい」




次回、「晴雪」
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