それは懐かしく、もう二度と戻って来ない日の記憶。窓を叩く、白く白く、真っ白な雪が降るある日の日常。年が近いと云う事で城の外に出ず、友達が居ないという子の遊び相手をしていた。外は吹雪だから、暖炉がある暖かい室内で一緒に子供向けの本を読んだり、大きなぬいぐるみでごっこ遊びをしたり、子供二人には十分すぎるほどの広さで二人だけの鬼ごっこをしたり。
「ねぇ■■■■!今度はなにするー?」
「元気だな……とは言え、そろそろネタ切れだぞ」
「え〜!!まだ遊び足りないよぉ」
思えば訓練ばかりしていたのに、どこで学んだか分からない遊びの提案を自分から良くしていた。しかし、物が少ない城でお転婆なお姫様を満足させるほどの遊びを思いつけない■は、せがむ彼女にどうしたものかと頭を悩ます。服の袖を引っ張り続ける彼女に揺らされていると、外から足音が聞こえ部屋の扉が開かれる。そこには、一人の男が立っていた。彼は、彼女を見ると厳しい顔から一転、優しい父親の顔となる。
「■■■■!」
「おっと……余り、■■を困らせてはいないかい?」
勢いよく走り出し、抱き着く彼女を彼は手を広げて受け止める。そのまま、綺麗な銀髪を掬う様にまるで壊れ物でも扱うが如く、優しい手つきで彼女の頭を撫でる。それに対して、満足そうな笑みを浮かべ彼女は額を彼の胸に埋める。
「うん!■■■、良い子にしてたよ。それにね、■■■■ってばすごいんだよ。私が知らない遊びを沢山、教えてくれるの!」
「そうか。それはよかったね」
「あら、もう戻って来てたのね」
いつの間にか戻って来ていた母が、父と娘の中に加わる。娘を中心に仲慎ましい様子の家族を見て、■は思わず笑みを浮かべた。あぁ……もし叶うのなら、永遠とこのままであって欲しい光景だ。普通の家族の様に、ただそこにある幸福を享受している。そんな当たり前が、どれほど遠く、幻想なのかを『俺』は知っている。
瞬きの間に全てが雪に包まれた。豪華絢爛な城は、見るも無惨に凍りつきとなり砕け落ちた。先ほど、夫と娘を見ていた母親は、跡形も無く消え去り、娘はそんな地獄の中、一人で歩いていた。そして、男は俺の前に立ち、俺を無言で見下ろしていた。
「……随分と都合の良い夢もあるもんだ」
俺の独り言を男は、黙って聞いている。返事が返ってくるとも思っていないが、俺は座った状態から立ち上がる。すると、さっきまで子供の姿だったと云うのに、大人の姿となる。大人になった俺は、男の身長を抜いておりほんの少しだが男を見下ろす形になった。
「……」
無言で男と視線を合わせた後、俺は男を追い抜く刹那──
頼んだよ
そう聞こえた気がした。思わず後ろを振り向けばそこにもう、男の姿はない。一つ、息を吐いて俺は凍りつく地獄の中、たった一人で歩く友達の方に歩き出す。俺が差し出した手は、二度拒絶された。けど、それがどうした。その程度で友達を諦める事が出来るのなら、俺はとうの昔に死んでいる。
「イリヤ」
たった一人で地獄を歩く友達の手を取る。直後、視界は光に飲み込まれる。
それは正しく神話の戦いであった。黄金の波紋から放たれる数多の宝具。それら全てが、大英雄の命を奪うに足る宝具であり、一切の余裕を大英雄から奪い去る。だが、それらを迎え撃つ大英雄は、その程度では簡単にやられない。不撓不屈、諦めると云う概念を捨て去った神話の大英雄は、飛来するそれらの宝具をたった一本の無骨な、飛んでくる宝具達とは比べ物にならないほど粗末な武器で弾き、叩き落とす。
「これで6。半分を使い切ったぞヘラクレス」
だが、無限とも呼べる宝具を持つこの王は、数を以ってその絶技を超える。飛び交う宝具の一つでもまともに擦れば死んでしまうか弱き、マスターを守りながら戦う大英雄はどうしても防ぎきれない隙が生じてしまう。そこを圧倒的な数で撃ち抜く事が可能なのだ。
「■■■ーー!!」
「やれやれ、理性を奪われては大英雄と言えど、この程度か」
咆哮と同時に駆け出したヘラクレスの背中に沢山の宝具が突き刺さり、それらは強靭な肉の鎧を超え霊核を砕き、消える。直後にヘラクレスは再び傷が再生し動き出すが、今度はマスターの方へと駆け出し射出された宝具を弾き落としていく。たった一人、されど大きな差が両雄には存在していた。ギルガメッシュには守るべき存在がいない。己が持ち得る全てを目の前の敵へと放てる。だが、ヘラクレスはマスターであるイリヤを守らなければならない。既に共に戦っていたホムンクルスは敗れ去り、この場にいない。彼女らを頼れないとなると彼が、守らねばならないのだ。
もし、狂化していなければそれくらいの事成し遂げていたかもしれないが狂化によって、生前の技量に枷を付けられている現状、ヘラクレスにはどうする事もできない。
「これで残り4。どうだ、少しは荷物を捨てる気になったか?」
故に命を散らし守るしかない。そんなヘラクレスの覚悟などどうでもいいのか冷めた目で見るギルガメッシュ。切り札を見せていない現状でこの体たらくな現状。勝ちが決まっている戦いほどつまらない物もない。死の淵から蘇り、自分を睨み付ける大英雄なぞに興味が失せていく。ただ再生し向かってくるだけなどあの男でも出来る。同じ半神半人であれば楽しめると思ったが、これなら早々に小聖杯の器を壊しておけば良かったと落胆するギルガメッシュ。
「もう良い飽きたわ。疾く失せよ、大英雄」
ヘラクレスがどう足掻こうと、守ろうとしているマスター共々殺すために囲む様に、黄金の波紋を生成するギルガメッシュ。そこから宝具が顔を覗かせる。全てが必殺の一撃にして回避不可能な攻撃。
「バーサーカー……」
絶望的な光景にイリヤは、バーサーカーの名を呼ぶ。不安と恐怖心に満ち、震えた声で放たれたその声にバーサーカーが振り向き、再び前を見る。己を鼓舞するため、そして何より不安そうなマスターの為に吠える。
「■■■ーー!!!」
それを合図に宝具が放たれるその刹那、乱入者が現れた。
「バーサーカー!!こっちは任せろ!!」
白銅色の髪を靡かせながら神話の戦いに乱入する愚か者が一人。ヘラクレスから死角となっている場所に着地し、放たれる宝具をその動体視力によって見切り、前回のバーサーカーの様にギルガメッシュの宝具を掴み取りそれを使いながら、イリヤへと飛来する宝具の悉くを弾き落とし、手元に残った宝具をギルガメッシュに向けて投げる。攻撃を許可したのは王の矜持か。投げられた宝具を回収するのではなく、首を傾げる事で避けてみせるギルガメッシュの顔には笑みが浮かんでいた。
「……どう……して……」
今にも泣き出しそうな声でイリヤは自分を守ってくれた逞しい背中に問う。今度こそ、自分を諦めてくれると思っていた男は、振り向きながら見るものを安心させる笑みを浮かべながら答える。
「託されたからな。それに、困っているなら手を貸すのが友達ってもんだろ?イリヤ」
「……かげ……たつ……」
堪えていたイリヤの涙がポロポロと溢れ始める。狡いと思った。何度も、差し出された手を拒絶したのは自分なのに、それも一回は攻撃だってしたのに。それなのに、影辰は変わらず優しい顔で私に手を伸ばしてくれる。たった2年、一緒に過ごしただけの友人の為に死ぬ気で身体を張ってくれる。そんな事を何度も見せられたら、もう認めるしかない。嘘偽りの無い本心を。
「……私を……助けて」
「あぁ。任せろ」
白銅色の手甲を展開しながら影辰は、笑みを浮かべながら答えた。
「くくっ、ふはははは!態々、死にに戻って来るとは酔狂よな影辰!バーサーカーに投げ飛ばされ、頭でもぶつけたか?」
心底楽しそうに笑うギルガメッシュ。もし、自分の言葉に従い聖杯の器を差し出す様な事があれば即刻、首を刎ねて殺すつもりであったし、ヘラクレスとの決着がついてからこの場に現れていればやはり、首を刎ねて殺すつもりだったが、見事舞い戻り反撃した影辰に興奮が隠せない。
「頭はぶつけたけど、別に狂っちゃいないさ。言っただろう?イリヤを狙うなら、あんたは俺の敵だって」
「ふっ、そうであったな。ならば、その手癖の悪さをもって何処まで凌げるか試してみると良い!」
「どっかで聞いたなそんなセリフ!!」
ヘラクレスを殺す為なら最上級の武具が必要だが、たかが人間の影辰を殺すのにそんな大層なものは必要ない。格の低い宝具であろうと、宝具であるのなら全てが影辰を殺し得る。無論、ヘラクレスへの対処も忘れてはいない。先程までと同様にヘラクレスを殺せる宝具達が、展開される。それらを見ながら、影辰はイリヤを抱き抱えヘラクレスに声をかける。彼に残された枷を外す為に。
「バーサーカー、イリヤは俺が死ぬ気で守る!だからお前は、存分に暴れてやれ!!」
その言葉に、本来理性がなく応じる事が出来ないはずのバーサーカーが笑った様に見えた。
「■■■■ーーー!!!!!!」
今までとは比べ物にならないほど力に満ちた咆哮が響き渡る。今、この瞬間をもって大英雄は己の主をただの人間に託す事を決めたのだ。一度武を交わし合い、二度想いの丈を聞いた。それだけで、ヘラクレスには十分すぎるほど衛宮影辰という男の覚悟が伝わっていたのだ。故に己の役目は盾として、主を守護する事ではない。暴れ狂う天災の矛として、主とその友の敵を穿つと定めたのだ。
狂気に浸されどなお、衰える事を知らない武芸。それを何の憂いもなく引き出せるのなら、ヘラクレスは正しく最強だ。
「■■■ーー!!」
ただの人間に出来て大英雄に出来ない道理はない。今まで身体で受けていたギルガメッシュの攻撃、その悉くを叩き落とす。繊細な技量を発揮するには余りにも向いていないその無骨な斧剣で。自分の身を守るだけなら、たかが四方八方から飛来するだけで芸のない剣戟など一呼吸で叩き落とせるのがヘラクレスという英霊だ。
「捕まってろよイリヤ!」
「ふぇ!?」
片手にしがみ付くイリヤを庇いながら、100近く降り注ぐ宝具の雨を駆け抜ける影辰。時に壁を垂直に駆け上がりながら、時に空中にその身を翻しながら、時に片手で宝具を叩き落としながら駆け抜ける。瓦礫を蹴り上げ盾にもしながら迫り来る死を先送りにしていく。
「フハハハハハ!死に物狂いで足掻いてみせよ!」
「■■■ー!!!!!!」
宝具の雨を越え、ヘラクレスがギルガメッシュへと迫る。先程までヘラクレスを見ていなかった真紅の瞳がギロリとヘラクレスに向けられると同時に、ヘラクレスとギルガメッシュの間に、幾つもの盾が現れ砕かれながらも勢いを削ぎ、その間にギルガメッシュはヘラクレスから距離を取ってみせた。また、着地と同時に影辰が投擲した剣を今度はいつの間にか纏っていた黄金の鎧で防ぐ。
「見えておるわ戯けめ」
「全く、引き出しが多くて羨ましいな!」
バーサーカーとして召喚されたヘラクレスと影辰にはギルガメッシュの様な手数の多さは全くと言って良いほど無い。どちらも鍛え抜いたその身体が武器だ。故にギルガメッシュに勝利するには彼の手数を超えるほど、圧倒的な力を示す他ない。
「■■ー!!」
駆け出したヘラクレスが凄まじい勢いで後ろに飛ぶ。何が起きたかと周りを見れば、黄金の鎖がヘラクレスに向けて放たれていた。狂気に支配されたヘラクレスにはソレがなんだか分からないが、本能が触れるなと告げていた。それもその筈だ。今にもヘラクレスを拘束せんとする鎖は、ギルガメッシュがエアと同様に信頼する宝具『天の鎖』その効果は、神を律するというもの。
つまり、半神であるヘラクレスにとっては天敵の様な宝具だ。もし一度でも捕まれば、その神性の高さ故に逃れる事は出来ないだろう。故に全力で天の鎖から逃れようと足掻く。だが、その程度で逃げ切れるのなら天の鎖は、ギルガメッシュに信頼などされていない。着地した僅かな硬直の瞬間に鎖が両手足、首に巻き付きヘラクレスを縛り上げる。
「■■■ー!?!?」
彼がどれだけ足掻いてもその拘束からは逃れられない。脱出の手助けを影辰はしたくても変わらず降り注ぐ宝具が邪魔をしヘラクレスの元に辿り着けない。影辰が来たことで生まれた優位性など、ギルガメッシュが少し本気を出せばこの通り。あっという間に無くなってしまう。
「バーサーカー、戻って!」
影辰に運ばれるイリヤが令呪で帰還を命ずるがヘラクレスは戻らない、いや戻れない。天の鎖による拘束は令呪による転移すら許さない。
「終わりだなヘラクレス」
拘束され身動きの取れないヘラクレスに凄まじい勢いで宝具が突き刺さっていく。ヘラクレスをまるで不死の如く、蘇らせているのは彼の伝承が宝具となった『十二の試練』によるものだ。つまり、彼は11回の復活が可能だ。だが、既に残り4にまで減らされ、あの様に拘束されたまま宝具で針の筵にされてしまえば、復活した直後にまた死んでしまう。その状態の4回分の命など誤差でしかない。
「バーサーカー!バーサーカー……バーサーカー!」
イリヤがどれだけ悲痛な声をあげても現実は変わらない。宝具が彼の額を貫くと同時に暴れていたヘラクレスは、膝を着き動かなくなる。爛々と光っていた赤い瞳も色を失ってしまった。誰がどう見てもヘラクレスという大英雄はここで終わりを迎えた。
「……イリヤ、少し痛いかもしれないけど許してくれ」
「カゲタツ?待って、待ってカゲタツ!!」
嫌な予感がしたイリヤは必死に影辰に声をかける。だが、影辰は笑みを浮かべるばかりでイリヤの目を見ようとしない。そして彼は、降り注ぐ剣をわざと大きく避けギリギリ戦場ではないところにイリヤを投げる。可能な限り優しく、そして瓦礫などが無い場所に投げたつもりだが、それでも擦り傷は付いてしまうだろう。もし、生きてまた会えたら傷の事を謝ろう。
心臓の音が煩い。自身の身体の限界を感じる影辰。彼がここまでイリヤを抱えながら、数多の宝具を避け続けられたのには理由がある。優れた動体視力のお陰もあるが、今の彼は意図的に人間が無意識でかけている脳のリミッターを外しているのだ。故に余裕そうに見えて、彼の身体は再生と破壊を繰り返し、その痛みとリミッターを外した負荷で脳は焼き切れようとしていた。
だが、そんなのは関係ない。一度、守ると誓ったのだ。ならばそれを破る訳にはいかない。
「いくぞ……ギルガメッシュ!!」
「さぁ、何を見せてくれる?衛宮影辰」
身を沈めギルガメッシュに向けて跳躍。今までのどの時より速く、彼はギルガメッシュへと迫る。振りかぶる拳を見ながら、ギルガメッシュはその交戦可能距離の短さに哀れみを覚える。確かに速い。何処で学んだのかあの槍兵が如き、速度だ。だが、拳しか攻撃手段を持たない影辰は相手に接近するしかない。その為、いくら速くても攻撃する場所など分かりきっている。黄金の波紋を自らの近くに出しながら、ギルガメッシュはその程度か?と落胆する。それが分かったのか影辰はギルガメッシュを見ながら笑みを浮かべた。
「バーサーカー!!」
「なにっ!?」
「■■■ーー!!!」
イリヤを守ると誓った者は一人だけじゃない。あの大英雄もそうなのだ。影辰はヘラクレスの不屈の闘志に己の全てを賭けた。彼なら、理屈を超えて再びこの場に舞い戻ると。そして、その祈りは届いた。
復活したヘラクレスは、天の鎖をその筋力で引きちぎり、足元に転がっていた無骨な斧剣を影辰目掛けて投げる。空気を切り裂きながら飛んでくるそれを影辰は、空中で掴み取る。これで、ギルガメッシュに隣接しなくても攻撃が届く!
「うぉぉぉぉぉ!!」
「ぐっ!?!?」
全力で振るわれた斧剣は黄金の鎧に阻まれるが、ギルガメッシュをまるで野球のボールが如く、吹き飛ばした。直後、ギルガメッシュが予め開いていた黄金の波紋から宝具が射出され、影辰の腹部を貫く。崩れ落ちる彼をヘラクレスが支える。
「……ふっ、ふはははははははははははははははははははは!!!」
「まぁ……死んでないよな」
土埃の中から高笑いが響き渡る。やがて、煙の中から、現れるギルガメッシュ。影辰の一撃を受け、僅かに凹んだ黄金の鎧、受肉しているが故に即座に止まらないのか額から僅かに血を流している。だが、その圧は王気は今までで一番大きく、重い。ギルガメッシュがそこに居るだけだと云うのに、呼吸が乱れ意識が飛びそうになる。
「よもや、死に損ない共にここまでしてやられるとはな。くくっ、死後己の神話を乗り越える英雄に、あの泥を耐えてみせた人間の諦めの悪さを甘く見ていたか。良いだろう、ここまで我を楽しませた褒美だ」
鍵の様な何かが現れ、空中でギルガメッシュはそれを捻る。すると、何かの回路の様なものが現れ、それを辿る様に一つの光がギルガメッシュの手元へと落ちていく。隙だらけの光景だが、俺もヘラクレスも身動き一つ取れない。そして、ソレは現れた。
持ち手があり、それだけを見ればまるで剣の様だが、本来剣があるべき場所は螺旋状となっており剣として機能するとは到底思えない。また、ソレが現れると同時に感じている重圧感が跳ね上がる。存在するだけで威圧されるもの。そんなものがこの世界に存在しているのか。
「起きよエア。お前の威光を知らしめる時だ」
エアと呼ばれた武器がまるで機械の如く、唸りを上げる。嫌な予感と共に、死の恐怖が訪れる。アレに抗う術も俺達は持っていない。ギルガメッシュがアレを解放すれば俺達はゴミの様に消えるだろう。そんな直感と共に影辰は動かない身体を無理やり動かし、イリヤの元へと走る。だが、遅い。とうに限界など超えていた身体は鉛の様に重く、影辰の意志に応える力はない。
「さぁ、消えると良い」
ギルガメッシュのその言葉と共に、エアは解き放たれ辺りを悉く吹き飛ばした。
瓦礫が崩れ落ちる。そこには、影辰とイリヤを瓦礫の山から庇ったヘラクレスが佇んでいた。エアの風圧を受けて、その辺の枯れ木の如く吹き飛んだ影辰を掴み、イリヤを抱えたヘラクレス。そのまま身を丸め、崩れる城から見事二人を守ってみせた。だが、限界を超えて活動したヘラクレスは退去が始まっていた。今なお、この場にいるのはただの意地でしかない。
「……ほぅ、守りきったか大英雄」
バーサーカーは英雄王の言葉に応じない。否、もう応じるだけの力すら残っていない。ここでギルガメッシュが二人を殺そうとすれば、ヘラクレスは黙って見ている事しかできない。
「そう睨むな。此度の戦いは中々のものだった。故にその力を認め、この場は我が下がってやろう。光栄に思えよヘラクレス」
満足そうなギルガメッシュはそう言い残し、何もかも吹き飛んだアインツベルンの森を後にする。この規模の隠蔽にどれだけの労力がかかるのか……監督役の胃にはご愁傷様という言葉を送っておこう。
「……ん……生きてる……のか?」
「……何が起きたの??」
ギルガメッシュが去ってからすぐ気絶していた二人が目を覚ます。痛む身体を押さえ、立ち上がり周りを見て二人とも絶句する。城が跡形もなく崩れているのは兎も角、周囲の森すら抉られた様に荒れ果てているのだから。
「……あっ、バーサーカー!身体が」
イリヤが退去しかけているヘラクレスに気がつく。涙を浮かべながら駆け寄る主にヘラクレスは、狂気が取り払われた優しい目で見つめ軽く、本当に軽く頭を撫で、影辰を見る。
「……お前が守れ」
そう言い残し余力を全て使い切ったヘラクレスは消えていった。
「あぁ、任せろバーサーカー」
影辰はそう答え、泣きじゃくるイリヤを抱きしめる。何もかも消えた場所で、抱き合う二人を優しく晴天が照らし、光の粒子となった魔力が二人の周りに降り注ぐ。まるで、雪の様に。