転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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ちょっとした説明会的なやつです。聖杯戦争自体は何も進んでません。


やっぱり、お前のこと嫌いだわ

 良い天気だと思った。なんの気兼ねなく睡眠を取ったのはいつぶりだろうか、少なくともこの聖杯戦争が始まるとギルガメッシュに言われてからは、常に気を張っていたから、3年振りの熟睡か。よくもまぁ、身体を壊さなかったな俺。立ち上がり、軽い柔軟をしてから敷いてある布団を片付け、換気のために小さく窓を開けて部屋を出る。庭が一望出来る廊下から、差し込む陽の光の暖かさがとても心地よい。

 

 あぁ、平和って良いな。そんな事を思いながら、今日も士郎が朝飯を用意してくれているであろう居間に通じる扉を開ける。

 

「おはよう、士」

 

「ちょっと!!桜の婿ってどういう事よ!?事と次第に寄っては、今ここで貴方をぶちのめすわよ!?」

 

「影辰!貴方にとっての理想の王は、私ではなかったのですか!!あの金ピカと親しいとは、裏切りですか?」

 

 スッと視線を士郎に向ける。無言で逸らされた。逸らされたので、色黒の士郎に視線を向ける。フッと笑みを浮かべたまま、霊体化されたので、桜ちゃんに視線を向けようとして、今それをすればややこしくなると無理やり、部屋の中央に置いてある机に項垂れているイリヤに視線を向ける。ニコッと大変愛らしい笑みを返された。

 

「……なんでさ」

 

 久しぶりの平穏は、バーサーカーの様に荒れ狂う凛ちゃんと、黒いオーラを放ち続けるセイバーを宥めるのに消えていくのであった。取り敢えず、間桐の御当主と、俺の事を見捨ててくれやがった士郎ズは許さんと固く心に誓った。この後、二人の説得にかなりの労力を費やしたのは言うまでもない。

 

「ん?士郎達、出かけるのか」

 

「あぁ。今日、藤ねぇが退院してくる日だろ?少しぐらい豪華な食事を用意しようと思ってな」

 

「なるほどね。セイバーが護衛で、凛ちゃんと桜ちゃんは手伝いかな。イリヤは行かないのか?」

 

 コートを着て出かける準備をしてる人らを見る。俺の言葉に全員が頷いていたので、予想は合っていたのだろう。そして、だらだらした姿勢から微動だにしないイリヤは、俺を一度見るために身体を起こして首振った後、また横になる。

 

「私はパス〜、だって外寒いもの〜」

 

「極寒育ちがなんか言うとるわ……まぁ、ダラダラしたいって気持ちはよく分かる。という訳で俺もゴロゴロしてるわ士郎」

 

 横になりながらテレビを点ける。よくあるニュース番組のネタコーナーがちょうどやっており、お笑い芸人やゲスト達が楽しげに笑いながら番組を盛り上げていた。それらに笑っている間に、士郎達は家を出て行く。特に俺とイリヤの間に会話はなく、いつの間にか俺と同じ様にテレビを見ていたイリヤと俺の笑い声が時折、重なるぐらいだ。

 

 そんなまったりとした時間に来客だ。家のインターホンが鳴り、居留守をする訳にもいかないので玄関へと向かうと、曇りガラスの先に影が見えた。とても身長が高い。なんとなく来客に予想を付けながら扉を開けると、そこには予想通り言峰綺礼が立っていた。

 

「……直接、来るなんて珍しいな」

 

「それだけの用事という訳だ。入っても良いかね?影辰」

 

「暴れたりするなよ言峰」

 

「私がそんな赤子に見えるかね」

 

 言峰綺礼を家に招き入れる。心配はあるが、こいつは突発的に此方に害を与える男ではない。やるなら、準備をして自分が最大限愉しめるところで行動する。それは恐らく、このタイミングではない。まぁ、ただの付き合いの長さから来る予測だから間違ってるかもしれんが。言峰綺礼の前を進みながら居間に戻ると、さっきまでダラダラしてたイリヤが毅然とした顔で座っていた。……来客が来たからって取り繕ってやがる。

 

「あら、誰が来たのかと思ったら監督役じゃない」

 

「失礼する、バーサーカーのマスターよ。いや、元か。教会の庇護に預かるかね?」

 

 俺はキッチンへ移動し、少し冷めてしまったヤカンを温め、お茶を淹れる。しかし、あの野郎、態と元って後から付けやがったな。淹れ終わったお茶を言峰綺礼とイリヤの前に置き、俺はイリヤの隣に座る。

 

「ありがとうカゲタツ。そうね、敗北したのだから本来ならそうするべきなのでしょう。でも、嫌よ。監督役、私の居場所は此処だから」

 

「ふっ、そうか。では、本題だ。何故か、前回で受肉を果たしたギルガメッシュが裏で暗躍してるのは知っているな?」

 

「白々しいなお前……」

 

 前回の生存者でもあり、あんたらが仲良くしてる所を目撃した俺を前にしてよく言えたなお前。呆れながら睨みつけてやると、大袈裟に肩を竦めて惚けてみせた。あぁ、はい。もうそういう感じで行くのね。

 

「知ってるわ。それが何?」

 

「聖杯戦争のルールを破るものは、等しく教会にとって敵だ。故に手伝いをしに来た」

 

 そう言って言峰綺礼は懐から地図を取り出す。とある場所、柳洞寺に印が付けられている。

 

「そこが今、ギルガメッシュと奴に協力するキャスターの居城だ。偵察を軽く行ったが、キャスターの陣地作成により、もはや要塞と言っていい程の防御力を有している。ああなってしまえば、現代の魔術師が解除する事も出来ないだろう」

 

 キャスターと聞いて、脳裏に葛木さんの姿が過ぎる。もし、言峰が言う様な防御力を有した拠点だとしたらそこにあのキャスターによって強化された暗殺拳が加わり、サーヴァントですら対処のキツい敵となる事だろう。

 

「更に、独特な守りによりサーヴァントが侵入出来るルートは、裏門のみ。そこをキャスターが例外的な手段を用いて召喚したアサシンが守護している」

 

「アサシン?って言うと、ハサンか?」

 

 聖杯戦争において召喚されるアサシンは、その語源ともなったハサンだ。前回の時はイスカンダルによって、あっさりと殺されていた。そもそも、マスター殺しが専門のアサシンが門番とは運用方法を間違ってないか?キャスターのやつ。だが、言峰の返答は俺の予想を覆すものだった。

 

「例外だと言った筈だ。あそこを守護しているのは、ハサンではない。長い日本刀を携えた英霊だ、確か真名は佐々木小次郎と言っていたか」

 

「ササキコジロウ?」  

 

「物干し竿って呼ばれる長い日本刀を使ったとされる剣客だ。宮本武蔵との巌流島での決闘が有名だな」

 

「ふーん」

 

 知らなそうなイリヤに説明するが、本人は興味なさそうだ。まぁ、俺も詳しく知ってる訳じゃないが、アサシンで呼ばれる様な伝承持ってたか?セイバー以外に適性があるとは思えないが。

 

「かなり技量の高いサーヴァントだ。枷を付けてはいたが、神代のランサー相手に一歩も引かずに打ち合うとはな」

 

「やっぱり、偵察ってランサーだったのか……それで、お前が手伝うってのはこの情報だけか?」

 

 相手の情報をゼロから調べずに済む分有難いが、こいつが態々出てくるまで教会にケツを叩かれた割にはしょぼい。そう思って、言葉を促す。

 

「私は別件で手伝えないが、ランサーを貸し出す。存分に扱き使ってやると良い」

 

「あいつに同情するよ俺は」

 

 ニヤリとした笑みで言い切った言峰。歴戦の英雄だってのに扱いは完全に小間使いのランサーに、同じく目の前の男に雑務をやらされてた俺は同情を禁じえない。漸くお茶に手を付けたかと思うと、一息で飲み干し立ち上がる言峰。どうやら話は終わりの様だ。

 

「聖杯の器に問題が無いのも確認したし、私は帰るとしよう。あぁ、見送りは必要ない。残り少ない時間を共に過ごすと良い」

 

「貴方に言われる必要はないわ。用が済んだのならとっとと帰りなさいしっしっ」

 

 言峰を雑に扱うイリヤ、良いぞもっとやれ。内心でイリヤにエールを送っていると、言峰が部屋の入り口で止まり、思い出した様に口を開いた。

 

「衛宮影辰。教会の門はいつでも開いているぞ?」

 

 ……あぁ、そういう事。はっ、やっぱりいけ好かない奴だ。

 

「ラッパが鳴る頃に行ってやるよ、言峰綺礼」

 

「ふっ。愉しみにしていよう」

 

 笑みを浮かべると今度こそ、あいつは家を出て行った。あー、いけ好かない……マジであの野郎。あいつの手の上で転がされてる感じがしてとても腹立つが、変に拒絶しようものならあいつが何をやらかすか想像も出来ない。俺と言峰のやり取りを聞いて、不思議そうな顔で俺を見るイリヤ。

 

「……もしかして仲良いの二人?」

 

「な訳あるか。あいつと仲良くなるぐらいなら、その辺の肥溜めに浸かる方がまだマシだわ」

 

 取り敢えず、士郎達が帰ってきたら言峰から聞いた情報で作戦会議だな。




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