「えー、それじゃあ藤ねぇの退院を祝って、乾杯ー!」
「「「「「「「乾杯ー!」」」」」」」
「かんぱーい!えへへ、みんなありがとう!」
退院した大河を祝うべく、普段のメンツに加えてなんと、士郎といい感じに話していた女の子も来ていた。名前は岸波白野、軽く挨拶をしたが何というか独特な子だった。良い子なのは分かるが、距離感の詰め方が独特で俺も眼鏡をどう?と提案されるとは思っていなかった。
机の上には、士郎とアーチャーが腕に寄りをかけ作った豪勢でお洒落な料理の数々が並んでおり、とても美味しそうだ。作った本人であるアーチャーは今この場に居ないから後でみんな喜んでいたと教えよう。
「うわぁ……貴方、本当にそれが食べれるのね」
「ん?そんなに変か。これでも本物に比べればまだまだなんだけどな」
「兄貴好みの麻婆豆腐なんて再現できるか!」
俺の目の前にしかない麻婆豆腐を食べていると凛ちゃんが引き攣った顔で聞いてきたので、答えると士郎が文句を言ってきた。うーん、泰山の麻婆豆腐に比べれば半分にも満たない辛さなんだけどなぁ。
「お義兄さん、それ私も食べて良い?」
「辛いの好きか?」
「うん」
なんだか発音に違和感を感じたが、食べたいと言うなら食べさせてあげよう。士郎が慌てているが、無視して一応用意されてた小皿に取り分ける。どの程度が良いか分からないから、少量で良いか。泰山に慣れてなければ、常人には辛い辛さだろう。
「ほい。無理はしない方が良いからな」
「大丈夫。辛いもの好きだから」
レンゲを流れる様に麻婆豆腐に入れ、掬い上げる。軽く眺めた後、彼女はそれを口に運ぶ。俺と凛ちゃん、士郎の間に謎の緊張が走り、士郎はいつでも水をあげられる様に待機していた。彼女が咀嚼し終わり、ごくりと飲み込む。
「──うん、美味しい」
「「なっ!?」」
「そうか!なら、もっと食べると良い!」
「ありがとう。お義兄さん、いただく」
食べる速度の上がった彼女にどんどん麻婆豆腐を追加していく。その手が止まらない事から、言葉に一切の嘘がないことが分かる。そして、俺もそれに影響され、麻婆豆腐を食していく。黙々と二人で麻婆豆腐を食していき、机の上にあるどの料理より早く空っぽになる。
「とても美味しかった。流石は、士郎が作る料理。とても美味」
「お、おう。それは良かったけど……辛くなかったのか?」
士郎がそう聞くと満足そうに口を拭いていた彼女がキョトンとした顔で首を傾げる。
「士郎の料理ならなんでも美味しいけど、もっと辛くても私は大丈夫」
「今度、俺が気に入ってる麻婆豆腐を提供する店があるんだが、白野ちゃん行くかい?これ以上に辛いよ」
「ふむ……それは大変魅力的な提案だな。ん、良ければご同伴をお願いしたい」
ペコリと頷きながら同意してくれる彼女にとても嬉しくなる。何せ、あの麻婆豆腐は慣れもあるがとても美味しいというのに、言峰以外と食す事が出来ず、感想や気楽に話しながらとは無縁の食べ物になってしまっていたから、白野ちゃんという言峰のクソ野郎以外と食すチャンスが来たのだから。
「は、白野。兄貴が、ごめんな。断っても良いんだぞ?」
おいこら、士郎。新しい同志の確保を邪魔するんじゃない。
「ん?心配はいらないよ。例え、どんな麻婆豆腐が出てこようが私にとっては士郎の料理が一番だから」
「……ありがとう。白野」
「なんだ、士郎。照れてるのか?」
この子、女の子だけどイケメンだわ。士郎が顔真っ赤で、抱かれたみたいな顔になってるもん。
「先輩!私も先輩の料理が一番だと思ってます!」
「……そうだよな、士郎の料理に比べれば僕の料理なんてまだまだだよな……」
対抗意識で突っ込んで来た桜ちゃんの言葉が慎二君に突き刺さり、項垂れる。だが、そんな兄の姿に桜ちゃんは気がつくことなく、白野ちゃんと一緒に士郎と楽しく会話をしていた。うん、料理で士郎と競い合うのは無理があると思うよ慎二君、でも君本当に多才だね。
「か〜げ〜た〜つ〜うちのクラスの子、デートに誘ったって本当?」
「うわっ、酒臭っ!?お前、もう相当飲んでるな??」
「こんぐらい平気よ〜!そんな事より、私の事、ショタコンとか言っておきながらそっちも年下に手を出そうとしてるんじゃん。やーい、ロリコーン」
「あぁ?言ったな、この枯れ専!上等だ、酒もってこい。飲み比べで勝負してやる!」
「あっはは!そうこなくっちゃ。よーし、飲むぞー!!」
大河が抱えていた焼酎を互いのコップに並々に注ぎ、二人して一気に飲み干す。アルコールが一気に身体を熱くさせるが、そんな事は関係ない。負けてたまるか。枯れ専でショタコンとかいう業の深い大河に。その後も、互いに騒いだり罵り合ったりしながら、どんどん瓶を空っぽにしていった。正確に覚えているのは、五本くらいでそこから先は全く覚えていない。決着がどうだったか?セイバーに二人揃って、気絶させられたから引き分けだと思う。というか、セイバーのやつ、大河には優しく一瞬で意識奪っておいて俺には全力腹パンしやがって。
「……頭痛い」
自室で横になるが、頭が痛すぎで寝れる気がしない。アルコールも急速で分解して、元通りの身体に戻してくれて良いんですよ?聖杯の泥さん。宴は終わり、もう全員は寝静まっただろうか。水でも飲もうかと思っていたら、扉が開きアーチャーが入ってきた。
「……起きていたかね」
「誤魔化すならその手に持ってる水は隠そうね?でも、ありがとう。ちょうど欲しかったんだ」
身体を起こしアーチャーから水を受け取り、ちびちびと飲む。わざわざ来たのだから何か話があるのだろうと思って、待っていると視線を彷徨わせたり、落ち着きのない動きを繰り返した後、大きく深呼吸をして漸く口を開く。
「私は、未来の衛宮士郎なのだが」
「え?そこから??もうとっくに気がついてるよ」
「ンンッ!良いから黙って聞きたまえ!……未来の衛宮士郎が故に、彼奴が辿る愚かな結末を知っている。10人を救ったとしてその裏で、5人を地獄に叩き落とす。そんな、哀れな正義の味方に成り果てる結末をな。だから、私はこうして未熟な己がいる世界に呼ばれた時には、未熟な己を殺すつもりでいた。その方が、私という空っぽな正義の味方に狂わされる人が居なくなるからな。だが、貴方に会って驚いたよ。私に兄などいない筈だったからね」
どういう結末になったかは想像出来ないが、士郎は士郎で理想の壁にぶつかったらしい。内容的に多分、切嗣みたいな事をしていたのだろう。天秤は常に重い方に傾く。それも正義の一つだろう。だって、大勢の命を救った事に変わりはないのだから。けど、どうやらそれはこの士郎にとって、正義の味方足り得なかったのだろう。
「……ここで生活してる衛宮士郎を見ている内に、こいつは本当に私になるのか分からなくなった。だが、もう悩んでいる時間は無くなった。故に今夜、あいつの覚悟を見定める。殺さない様に加減はするが、構わないか?」
なるほど……そういう事か。士郎が自分の様になるか今に至るまで、判断がつかなかった。だからこそ、最後に最も分かりやすい手段に出た訳か。
「良いよ。でも、殺さない事は約束しろ。出来ないのなら、今この場でお前を殺してでも止めるぞ」
「ッッ!……あぁ、約束しよう。だから、その殺気は抑えてくれ」
「ん。じゃあ、あとは好きな様にしていいよ。確かに、士郎には目指すべき姿をしっかり決めて貰う必要があるからね」
水を飲み干しアーチャーに許可を出し、俺は横になる。
「見に来ないのか?」
「漢が自分の道決める時に、保護者がいる意味あるか?」
「……なるほど。それが貴方の方針か。では、私はこれで」
アーチャーが霊体化して部屋を出て行った。もし、士郎が道を誤るなら、俺自身が叩き直すさ。
「……止めなくて良かったの?」
「起きてたのかイリヤ」
「隣の部屋だもん。聞こえるよ」
あー、此処の部屋襖で遮れてるだけだからな。会話してれば聞こえるか。
「士郎の道は士郎が決める事だ。それに、アーチャーも悩んで自分殺しなんて決めた筈だ。けど、あいつは殺さないと覚悟を見定めると俺に約束した。なら、俺の敵じゃないし、漢って馬鹿だからな。前に進むにはああするしかないんだろ」
俺がそう言うと襖越しからイリヤの笑い声が聞こえてくる。俺、何か変なこと言ったかぁ?
「ふふっ……なら、影辰も馬鹿なのね」
「えぇ……どういう事……」
「自分の行いを振り返って見れば良いと思うわ」
楽しげな気配のイリヤ。突然、馬鹿と言われたけどまぁ、良いか。楽しそうだし。なんだか、目が覚めてしまったのでこのままイリヤが眠くなるまで他愛のない雑談を続けた。
「あ、そうそう。神父さんからの話は貴方が酔い潰れている間に話しておいたわよ」
「おぉ、ありがとう。お礼は何が良い?」
「もう十分に貰ってるわ」
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