転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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アンケート協力ありがとうございました。その結果につき、1話に纏めました!
戦闘シーンはとても少ないです。問われているのは、その覚悟ですので。


その理想を示す

 嘗て、男には理想があった。■■から引き継いだ正義の味方という理想だ。その果てに、誰もが笑って過ごせる世界になれば良いなと夢を抱いていた。そう、全ては思い出すことすら叶わない遠い過去の話だ。今の男は、身も心も費やした程の熱意はとうに失われ残骸となった。決して、満たされることの無い渇いた夢のなれ果てでしかない。

 

I am the bone of my sword(身体は剣で出来ている)

 

 世界との契約。死後を差し出すことで、例え死んだとしても誰かを救う事が出来る。そんな、馬鹿な思いに取り憑かれた結果、体のいい掃除屋と化した自分を男は嘲笑する。身体は剣で出来ている?それはそうだろう。そういう在り方しか出来なかったのだから。目の前で、一切動かない過去の己を見ながら、男は詠唱を続ける。

 

Steel is my body, and fire is my blood(血潮は鉄で、心は硝子)

 

  I have created over a thousand blades(幾たびの戦場を超えて不敗)

 

   Unknown to Death(ただの一度も敗走はなく)

 

    Nor known to Life(ただの一度も理解されない)

 

 世界がゆっくりと塗り替えられていく。

 男の不幸は幾つもあるが、その中でも特に不幸なのは、夢物語の理想をある程度形に出来るほどの力があった事だろう。ただの人間、それも一人だけで出来ることなど高が知れているが、こと解決方法を荒事に絞った場合、男はただの個人が持つには強大すぎる力を手にしていた。故に、敗走は無くその理想は誰にも理解される事も無かった。

 

Have withstood pain to create many weapons(彼の者は常に独り 剣の丘で勝利に酔う)

 

  「Yet, those hands will never hold anything(故に、その生涯に意味はなく)

 

 誰一人、隣に立つことは無く、後ろに続くことも無かった。もし、世界との契約が無ければ英雄としてこの場にいる事も無かっただろう。男からしたらそれはどうでも良いことだが、頑張ったのに何一つ報われないその姿は契約者の少女の同情を買うには十分だったが、男がそれに気付くことはないだろう。

 

So as I pray, unlmited blade works(その体は、きっと剣で出来ていた)

 

 だから、見せてみせろ衛宮士郎。私には居なかった先を歩く者がいる貴様が、どの様な正義を抱いているか!

 

 ──世界は塗り変わり、男の心象世界が展開された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 突然、連行されて最初は何かと思ったが、固有結界?ってやつを見せられてはっきりと理解した。俺がアーチャーの奴に感じていた既視感や、こう胸がザワザワとする感覚を。頭ではまだ完璧に理解していないが、こいつは俺だ。いつか至る可能性の俺、それがアーチャーの正体なのだろう。

 

「あの男から殺すなと言われているから、殺しはしない。だが、お前が抱く理想が何一つとして変わっていないのなら、その心が折れるまで叩き潰す」

 

 アーチャーを止める遠坂も、俺を守るセイバーも今はここに居ない。俺とあいつの正真正銘一対一だ。あいつが白黒の剣を握り、構える。同じ様に俺もそれを投影し、構える。消えない投影が異常だって話は遠坂から聞いた。きっと、これが俺に許された魔術なのだろう。

 

「ふん。形だけの投影なぞ……まぁ良い。答えろ、お前が目指す正義の味方とはなんだ?」

 

 アーチャーの問いにすぐ答えることは出来ない。俺は切嗣に憧れ、正義の味方になりたいと願った。そして、兄貴から切嗣の正義とは何か、昔聞いたことがある。徹底して、数の多い方を救うのが切嗣の正義だと兄貴は言っていた。そこに切嗣本人の感情は無く、ただ機械の様に数が多い方を救い続けるのだと。そして、兄貴にとっての正義も聞いた事がある。兄貴は、少し照れた様に頬を掻きながら答えてくれた。

 

『大切な人達と自分の命を守る事だ。その為なら、俺は大勢を殺す事も厭わないよ』

 

 兄貴は自分の感情に従って決めていた。機械の様な切嗣と人間的な兄貴、二人の男の正義を聞いて俺はそのどちらも正しいと思った。大勢の人を救えるのは良い事だ。線引きが存在しているのは悲しい事だが、より多くの命を救えているのだから。対して、兄貴は大勢を殺すかもしれない。けど、大切な人達を守っているのだ。それは一概に悪と断じて良いのだろうか。

 

「……俺は」

 

「ここで迷うだけ、私とは違うという事か。だが、はっきりとした答えが出ないというのなら少々手荒にいくしかあるまい」

 

「なにをっ!!」

 

 アーチャーがサーヴァントとしての身体能力を存分に活かし、俺に斬りかかる。それを咄嗟に手に持つ夫婦剣、干将・莫耶で受け止めようとするが、奴の干将・莫耶に触れた瞬間、硝子細工の様に砕け散った。そのまま、斬り裂かれるなんてことは無く、アーチャーの蹴りをモロに喰らい地面を転がる。

 

「言った筈だ。形だけの投影などと」

 

「くっ……トレース・オン!」

 

 再び、硝子細工の様に砕け散る干将・莫耶。当たり前の話だ、使える様になってからさほど時間の経ってない俺の投影と、英霊に至るまで使い込んだ奴の投影が同等な訳がない。けど、そんな事で諦められる夢じゃない。

 

「トレース・オン!」

 

 また砕かれる。考えろ、俺と奴の投影の差を。もっとだもっと、あいつの持つ干将・莫耶をいや、この世界に無数に突き刺さる剣を見ろ。形だけの投影に意味を持たせろ!

 

「……あまり私を失望させるなよ衛宮士郎。借り受けた偽物の理想など捨ててしまえ」

 

 ガキンッと音を立てて、奴の干将・莫耶が俺の干将・莫耶に切れ込みを入れその場に刺さる。硝子細工の様に砕けはしなかったが、結局俺の投影は奴に負けている。技術も足りない。なら、もっと奴と波長を合わせて──

 

 地獄を見た。

 何もかもが死に絶えた世界で、ただ一人武器を握り立ち尽くす男の姿を。

 

 そこにカケラも希望はなく、ただの作業の様に屍を積み重ねる男の姿を。

 

 誰もが怒りに顔を歪めながら、男を非難し、友だと思っていた者に裏切られ処刑台に立つ自分の姿を。

 

 果たして、この男は一度でも誰かを救えたのだろうか?人としての心を持たず、ただ闇雲に争いに加入しては人を殺していく者を同じ人間と定義して良いのだろうか。地獄とも呼べる光景を生み出し続ける者を果たして、正義の味方と言って良いのだろうか。

 

 パキンっと砕ける音が響いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 少し話は逸れるが、衛宮影辰という男は異常だ。どれだけ命の危機であろうと、どれだけ相手が強大であろうと、どれだけ自分がボロボロになろうと諦めるという事をしない。聖杯の泥にその身を犯されようともだ。そもそも、あの男に諦めるという機能が備わっているとは思えない。何せ、あの衛宮影辰という男は非日常を日常と受け入れている男だ。昔から非日常が当たり前、相手は格上という状況が当たり前だった男はいつの間にか、諦めるという機能が消滅していた。

 

 対して衛宮士郎はどうだ?その精神性こそ普通とはズレているが、あの大災害以降、これと言って事件に巻き込まれること無く育ってきた。日常は極々ありふれた平和なもので、武器を持ち戦わなければならない聖杯戦争は彼にとって非日常である。故に兄とは違い、諦めるという機能は備わっている。その上で、そんな資格はないと断じるのが衛宮士郎という男なのだが。

 

 だが、それでもアーチャーからいつか辿る未来を見せられ、未だに具体性に欠ける理想はその景色を否定出来なかった。膝を着き、このままずっと抱いてきた夢を諦めるのもアリかもしれない。そんな甘言が一瞬、脳裏に過ぎる。

 

『僕はね、正義の味方に憧れてた』

 

 ──綺麗だったから憧れた。全てが失われて、空っぽだったあの日に救われた衛宮士郎は、その理想に憧れた。そんな風に生きられたらどれだけ良いかと。だからあの日、少年は養父の願いを継承したのだろう。誰も傷付かない世界なんて無いと分かっている。正義の味方に救う事が出来るのは、加担した側の命だけだと。

 

 兄貴、俺はあんたみたいに賢く生きる事は出来なさそうだ。きっと、俺は目の前で誰かの命が失われそうなら、それが無関係な奴だとしても身体が動いてしまうだろうから。

 

『士郎、俺はお前の夢が何であろうと否定しない。だが、これだけは教えてくれ。お前はどんな正義の味方になりたいんだ?』

 

 もう一度、言おう。衛宮士郎は衛宮影辰と違い、諦めるという機能を失っていない。だからこそ、アーチャーとの差、いずれ辿る可能性を前に膝を着きたくなってしまった。

 

 けれど、一度諦め、砕けてしまったものをかき集め、それを再び形に出来る強さを衛宮士郎は持っていた。

 

 錬鉄に火を灯し、ただの鉄の棒を剣にする。そういう強さが衛宮士郎には備わっていた。

 

 兄貴、決めたよ。俺は正義の味方になる。切嗣の様に、数を救う訳でも、兄貴の様に一部しか守らない訳でもない。例え、おとぎ話の世界であろうと

 

「俺は、自分の手が届く人達には、笑顔でいて欲しい。そういう正義の味方に俺は、なるよ」

 

 砕けた心に熱が宿る。衛宮士郎は、その手に持つ干将・莫耶でアーチャーを吹き飛ばした。吹き飛ばされたアーチャーは、士郎の言葉に顔を歪める。何一つ分かっていないのかと。

 

「その果てにあるものを見た筈だが?」

 

「あぁ。だが、俺はお前と違う。大勢を救う為に安易な方法は取らないし、俺が選ばなかった側の命も背負ってみせる。切嗣から受け継いだ理想が間違ってるなんて思わない!例え、偽物であっても俺がそれを貫き通せば本物だ!」

 

「ッッ」

 

 偽物であっても貫き通せば本物。それは奇しくも、アーチャーが屋根上で衛宮影辰に言われた言葉と同じであった。衛宮士郎は、覚悟を持ってその言葉を口にする。その言葉が、理想に裏切られた男のものであったとしても、それは間違いなく衛宮士郎の言葉なのだから。

 

「体は剣で出来ている」

 

 今までとは比べ物にならない存在感を放つ干将・莫耶が握られる。それが指し示す答えは、アーチャーの領域に士郎が辿り着いたという事。その切っ先をアーチャーに向ける。

 

「俺がお前の様にならないか心配なら、かかってこい。その全てを背負って俺はお前の先を行く!」

 

 俺はお前にならないと宣言する士郎。その姿は先程と打って変わり、強気であり充足感に満ちていた。間違いなく、己のあり方をしっかりと定めた一人の漢がそこに立っていた。それを見て、アーチャーは自身と近いが決して交わる事のないあり方を選んだと直感で理解した。だが、それをはい、そうですかと返せるほどアーチャーは大人ではなく、また素直でもなかった。

 

「ふっ、ならばついて来れるか。俺の剣製に!」

 

「ふざけんな、お前の方がついて来やがれ!」

 

 アーチャーが背中に浮かべた剣を全て同じ様に投影する士郎。自分対自分というこの二人以外見れなさそうな戦い、いや、意地の張り合いという喧嘩は、無限に剣を投影するアーチャーに対して、同じ様に無限に剣を投影する士郎という絵面になり、全く決着の兆しを見せないまま続けられた。いつの間にか曇り空であった固有結界は晴れ渡り、暖かな陽射しが差し込んでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「士郎ー?アーチャー?朝ご飯はー?ってうわっ、何してんのよ二人とも」

 

 翌日の朝。剣道場でボロボロになったまま大の字で倒れてる士郎と、何処か納得の表情を浮かべ庭を眺めているアーチャーを凛が発見した。どうやら士郎は寝ている様で、凛は声をアーチャーに近寄り、何があったのか聞く。

 

「……そうだな。ただの喧嘩さ」

 

「サーヴァントと人間が?呆れた、何やってんのよあんた」

 

「ふっ、許せ凛。私達には必要な事だったんだ」

 

 人を馬鹿にする笑みでも、自虐に満ちた笑みでもない。ただただ純粋な笑みを見せられ、凛は固まるが、相棒の何処か憑き物が落ちた様な態度に、安心して隣に座る。

 

「そ、じゃあ良いわ。あ、そうだ膝貸しなさいよ。何故か、魔力が減ってるのよ。不思議ね」

 

 見惚れる様な綺麗な笑顔で言うものだから、アーチャーは特に反論する事なく自分の膝を払う。

 

「男の硬い膝で良ければ存分に使いたまえ」

 

「ふふっ、ありがと……良かったわねアーチャー」

 

 ポンっとアーチャーの膝の上に頭を乗せる凛。確かに硬いが、これはこれで安心感があると、満足そうに目を閉じる。

 

 冬にしては心地の良い暖かさを感じる朝の出来事だった。




上手く書けてるか心配ですね……

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