転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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暫く影辰くんの出番は、無いです。


それぞれの戦いの幕開け

「……ふむ。漸く来たか。山門から動けぬ身ゆえ、待ちかねたぞ」

 

 柳洞寺の山門に士郎たちが到着した時、そこには和服の英霊が佇んでいた。数の不利を背負っていながら一切、気にした様子を見せず口元に笑みを携えたまま男──佐々木小次郎は、眼前の侵入者を見定める。そして、彼らの中にキャスターから聞いた風貌の人物が居ない事に些かの落胆を感じながら、口を開いた。

 

「悪いが、この山門を通す訳には行かぬ。全員でかかってくるか?無論、私が勝てる道理はないが時間は稼がせて貰うぞ。お前たちには時間がないのだろう?」

 

 佐々木小次郎は別に勝つ必要がない。山門を守護する者として、ただ時間を稼げばそれで良いのだ。事実、孔から生まれ出ようとしているモノを阻止するのが士郎達の目的なのだから。聖杯に願いなどない英霊にはうってつけの役目だ。

 

「此処は私が」

 

「おっと、待ちなセイバー」

 

 手筈通りセイバーが佐々木小次郎を引き受けようとした瞬間、背後から声がかかる。階段を登り、セイバーを追い越すのはランサーだ。言峰綺礼が貸し出すと言っておきながら作戦会議には一切、顔を出さなかったランサーがこの場に現れた。

 

「あの野郎に従うのは癪だが、こうして強い奴と本気で戦える機会を寄越したんだ。勝敗が決するまでは許してやらぁ。つう訳で、先に行きな坊主ども。此奴は、オレが引き受けてやる」

 

 ランサーは槍を構えながら、此処に至るまでの経緯を思い出す。無理やり令呪で従わせてきたあの言峰綺礼が、その縛りを解除してランサーに自由を与えていた。流石のランサーもこれには困惑し、自分に殺されるとは思わなかったのか?と問えば当然の様にあの男は言った。

 

『無論、その可能性は理解しているとも。だが、私は奴と何の憂いもなく戦いたいのだ。その時に、お前に魔力供給をしていたから負けた、などという結果は望まない。そして衛宮士郎が心配だからと奴の気が取られるのも望まない。故に、令呪でお前を自由にしギルガメッシュの元に向かわせる。私怨に駆られ、此処で私を殺すかランサー?その時は、私共々、詰まらない戦いに幕を下ろすだけだ』

 

 殺される可能性を認めた上で、自分を自由にしたのならと槍を向ける。それを言峰綺礼は避ける素振りも見せなかった。その態度にランサーは、舌打ちをしながら槍を引っ込め、背を向ける。

 

『全部が終わったら、テメェを改めて殺す事でその令呪に従ってやる』

 

 全く、何もかも気に食わないマスターだと思ってたが最後に面白い面見せやがって。と思い出した内容に小さく舌打ちをした。

 

「助かる。ランサー!」

 

 ランサーにお礼を言って、士郎達が佐々木小次郎の横を通り過ぎていく。不思議なことにそれを佐々木小次郎が妨害することはなかった。雅な笑みを浮かべランサーを真っ直ぐ見たまま見送ったのだ。

 

「随分素直じゃねぇか」

 

「なに、あの夜に本気を見せず私の剣を凌いだ男の本気、確かめずに心臓を取られる訳にも行かぬのでな」

 

「そうかよ。んじゃあ、始めようかぁ!!」

 

 生きて生還しろなどと云うふざけた令呪の縛りはもう無い。そして、目の前のサーヴァントが舐めてかかれば殺される相手だと理解している故に、ランサーは初めから本気で佐々木小次郎に襲い掛かる。ランサーのクラスの中でもずば抜けて高い敏捷性から繰り出される圧倒的な加速度は、一瞬でランサーと佐々木小次郎の間にあった距離を詰め、間合いに入った瞬間目にも止まらぬ速度で槍を突き出す。

 

「ふっ──」

 

 それを佐々木小次郎はその場から一歩も動くことなく、その余りにも長い日本刀で受け流し、両者の間に火花が散る。そのまま、返す勢いで佐々木小次郎の刀がランサーの首へと迫るが、引き戻された槍がそれを弾く。上へと弾かれた日本刀が、流れを変えそのままランサーへと振り下ろされるが後ろに飛び退きそれを避けるランサー。

 

「上を取られてるってのはやっぱり厄介だな」

 

「なに、こちらは山門から離れられぬのだ。気にするな」

 

 最終決戦に備え、キャスターから強化を掛けられている佐々木小次郎だが、元々正規の手段では呼ばれていない事に加え、ガチガチにキャスターが強化した事で更に活動範囲が縮小し、本当の意味で山門の近くでなければならなくなった。

 

「だがまぁ、そのお陰でその槍の様な宝具と打ち合ってもこの刀が歪む事はあるまいて。伝承も碌にない私では持ち得るのはこの刀と術理のみ故」

 

「それだけでサーヴァントとして成立する時点で、可笑しいんだがな!」

 

 再び加速して距離を詰めたランサーの槍を、先ほどの再現の様に弾く佐々木小次郎。弾く事に専念しているのは、単純な力比べにおいて勝てる道理がないと分かっているからだ。闇夜に、槍と刀が散らす火花が踊り狂う。未だ、互いに奥の手を見せる事はない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「凛!」

 

「分かってるわよ!」

 

 矢に見立てた剣を番えるアーチャーの元に光線が迫る。凛が宝石を投げそれを防ぐが、アーチャーがキャスターに向けて矢を放つ事はない。何故なら、葛木がアーチャーにその拳を振るった為だ。悔しげに顔を歪めながら、アーチャーが一度凛の隣へ戻る。

 

「単純だが、得意距離をそれぞれ補っていると云うのは面倒だな」

 

「そうね。しかも、あのキャスター。ずっと空を飛んでるから攻撃するにはあんたの弓じゃないと無理。あー、もう。せめてキャスターじゃなきゃ私の魔術が通じるかもしれないってのに!」

 

 凛の魔術は挨拶代わりに放ったところ、キャスターが手を翳すだけで無力化された。それだけ、現代と神代では魔術師の腕に差があるのだ。また、無言で構えている葛木も厄介だ。キャスターによって強化された彼は、サーヴァントであるアーチャーと真正面から殴り合えるほどであり、彼の暗殺拳を知っているアーチャーでも、そう易々と突破出来ない。数度の打ち合いで手の内がバレていると悟った葛木が、攻めるのではなく守りに徹しているのも理由の一つだろう。

 

 キャスターに人間だからと凛を舐めてかかる慢心は無い。そんなものは衛宮影辰にボロボロにされたあの日に捨てている。例え片手で打ち消せる程度の魔術であろうと、一切手を抜かない。万が一格闘戦を仕掛けてきても良い様に、彼女の周りには常に防御用魔術が展開されていた。

 

「(負ける事はない。けど、勝ちも遠い。あの弓兵は一体どこで宗一郎様の武術を見たのかしら。それにあのマスターも厄介ね。隙あれば宗一郎様を狙おうとしている。そのせいで弓兵に集中できない)」

 

 だが、状況がキャスター有利かと言えばそうではない。キャスター自身も気が付いている通り、アーチャーを暗殺拳で早々に殺す事は出来ず、マスターである凛も魔力を蓄える宝石魔術の恩恵によって、守りであればキャスターの攻撃をギリギリで防いでいる。魔術に対して一切の抵抗力を持たない葛木も守らなければならないキャスターにとっては、それが中々にキツい。

 

 キャスター陣営もアーチャー陣営も勝利するための手段はあるが、どちらも発動させるまでに時間がかかる為、その手段を取れない。それが今の膠着状態を生み出しているのだった。守らなければならないものを放棄すれば、その均衡は容易く崩れるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 柳洞寺に入ってもギルガメッシュは居なかった。士郎、慎二、セイバーの三人は手分けをして探すが、やはり姿はない。アーチャー達が戦ってる音を聞きながら、思考の海に潜っていた慎二がある事を思い出した。此処、柳洞寺がある山。円蔵山の地下に大聖杯が設置されている事を。これを慎二が告げると、セイバーが地面に向け魔力放出で穴を開け二人を連れて、飛び降りた。

 

「ん?随分と雑な方法で来たではないか。そうまでして、我に会いたかったかセイバー?」

 

「誰が貴方なんかと会いたいと思いますか」

 

「クックッ、素直になれない愛い奴よ」

 

 無敵かこの男。平坦な声で明らかに照れてる要素などないセイバーの言葉を、自分に都合の良い方向に判断するギルガメッシュ。そんな彼の背には光り輝く大聖杯が設置されていた。

 

「……ふむ。やはり影辰はこの場に居ないか。であれば、今頃言峰の所に向かったか。全く、奴への褒美を用意していると云うのに我の所に来ないとは。つくづく不敬よな」

 

 言葉の割にとても楽しそうな顔のギルガメッシュ。王様などと呼びながら、ただの一度も自分に恭順していないあの男を思い浮かべ、やはりこうなったかと納得していた。

 

「仕方あるまい。セイバーとの婚儀を済ませたら、我自ら迎えに行ってやるとしよう」

 

 ポケットに手を入れたまま、ギルガメッシュは大量の宝具をセイバー達に向ける。

 

「喜べ、雑種ども。今宵の我は気分が良い、故に苦痛を与える事なくその生を終わらせてやろう!」

 

「偉そうに勝手に決めてんじゃねぇ!」

 

 士郎が全ての宝具に目を通す。瞬間、ギルガメッシュが展開しているものと全く同じ宝具群が士郎の背後に展開された。それらを不愉快そうに眺めるギルガメッシュ。

 

「ふん。贋作か、小癪な真似をしおって」

 

「得意の戦術を潰されるのはそんなに不満ですか英雄王」

 

 セイバーが一歩前に出て不可視の聖剣を構える。それを見て、ギルガメッシュは蔵から双剣を取り出し手に取った。その双剣は『終末剣エンキ』と呼ばれる宝具だ。かつての戦いでは一度も見せなかったギルガメッシュ自身が武器を取る姿をセイバーは予想しておらず、驚く。そんなセイバーに笑みを浮かべながら、ギルガメッシュは眼前の敵に向けて宣言する。

 

「フハハハ!この程度で勝ったつもりなど片腹痛いわ!!良かろう、偶には王自ら戦に臨むものだ。魅せてみるが良い雑種ども。貴様らが、あの男同様に生きる価値があるかどうか!」

 

 黄金の鎧を身に纏い、セイバーに向ける殺気と同様のものを士郎達にもぶつける。

 

「恨むぞ……兄貴」

 

「全くだよ……!これ絶対、あの人のせいで難易度上がってるよね!」

 

 それでも膝をつかない二人。確かに英雄王が放つ殺気は恐ろしく、気を抜けばそれだけで意識を手放してしまうだろう。だが、それは出来ない。夢のために、大切な人を守るために、憧れたあの背に少しでも近づくために。戦う前から生を放棄するなどという愚は犯さない。──戦いは未だ、始まったばかりだ。

 




佐々木小次郎VSランサー

アーチャー陣営VSキャスター陣営

セイバー陣営+慎二VSギルガメッシュ

それぞれの戦いを次回から書いていきます。

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