転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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この小説での一番可哀想なのは、全然出番がないアーチャー陣営かもしれないと思う今日この頃。
戦闘のせの字が薄らとあるアーチャー陣営VSキャスター陣営回。


葛木宗一郎という男

 初めてあの男と出会ったのは、私が暗殺組織から逃亡し穂群原学園で教鞭を取るようになった日だった。警備員として、朝から生徒達が来るのを見守っている明らかに浮世離れした血生臭い雰囲気の男。私は、当初、組織からの追手かと思っていたが私を警戒する素振りこそあれ、襲ってくる事はただの一度もなかった。

 

「少し、時間をもらってもいいだろうか?」

 

「えぇ。良いですよ、何か俺に用事ですか葛木先生」

 

 だから、生徒会関連で遅くなったあの日、私は衛宮影辰へと声をかけた。もし、この男が何かを企んでいてそれが生徒達に被害を齎すものなら、教師である私が対処しなければならない。そう感じたからだ。だが、結果的にそれは杞憂で終わった。私が彼の雰囲気について問えば、警戒していた気配を霧散させて答えた。

 

「あー……やっぱり葛木先生ぐらいの手練れならバレますよね。隠す事は望んでないと思いますので全部言ってしまうと、俺の両手は血に染まってます。誰に強制された訳でもなく、俺が正しいと思って自分からやった事です。けど、今此処で警備員をしている俺はこの力で生徒を守れれば良いと考えてます。葛木先生もそうでしょう?」

 

 私を見る彼の目はとても真っ直ぐで言葉に嘘偽りが無い事を告げていた。だからこそ、私は迷った。確かに彼を呼び止めたのは、生徒を心配してのことだ。だが、それは教師という役職であるが故だ。望みのない私が、本当に心の底からそう思ったのかが分からない。ならば、教師として答えることにしようと結論を出した。

 

「……そうですね。私も同じです」

 

「それは良かった!では、俺はこれで失礼します。お互い、形は違えど生徒の為に頑張りましょう」

 

 頭を下げて衛宮影辰は去って行く。ただそれだけなのに一部の隙も見えない辺り、やはり只者では無い。

 

「たとえ、血に濡れようとも守りたいと願う……」

 

 贖罪として余生を生きている私とは違う考え方だ。彼の様な生き方があるなど考えたこともなかった。何故なら、私に何かを望むなどという人らしい感情など無かったのだから。

 

 

 そんな、朽ち果てた心に一つの疑問が訪れた。それは本来なら出会うことのない人間と出会ったからだろうか。元々、心の奥底に眠っていたものに偶々気がついたのか。それは神にだって分からないだろう。それでも、その疑問は確かに男の思考を乱したのだ。

 

ーー何故、教師として生徒を守る。それを当たり前だと思ったのかーー

 

「……スター!!マスター!!起きてください、宗一郎!!」

 

「キャスター……」

 

 空を飛んでいた筈の背中が私の目の前にあった。何故?と思うと同時に、背中に痛みが走る。周囲を見渡せば、どうやら私は柳洞寺の外壁に勢いよくぶつかりその痛みで意識を飛ばしていたと理解した。徐々に記憶が戻ってくる。アーチャーとそのマスターと戦っている時に突如地面が揺れ、運悪くそれでバランスを崩した私は、アーチャーから蹴りを貰い吹き飛んだ。

 

「良かった!目を覚ましたのですね」

 

 安心した声を出しキャスターが結界を維持したままチラリと私を見る。思えば、彼女に出会わなければ、私はこうして戦いの場に立つ事もなく枯れ果てていただろう。あの夜、明らかに不審者である彼女を助け、自分には理解することも必要もない聖杯戦争の話を聞き、彼女へ協力する事を決めた。使い道が無くなった道具として、ただ朽ちていくと決めていた私が差し出された彼女の手を取った。

 

「宗一郎様?」

 

 立ち上がらずじっと見ている私を不思議に思ったのだろう。顔を隠しているローブの下に目を丸くしている彼女の顔が頭に思い浮かぶ。それほどまでに私は、この女に入れ込んでいた。そうだ、衛宮影辰に彼女がボロボロにされるのを見て、柄にもなく怒りを抱いた。何も望まないと決めたというのに。

 

「……あぁ、そうか」

 

 あの日の疑問も、キャスターに此処まで力を貸す理由も漸く思い至った。贖罪でも、義務でもない。

 

「アーチャー!あれ、破って!!」

 

 アーチャーが矢を構え、放つ。それをキャスターの結界は止めるが、徐々にヒビが入っていく。必死にキャスターがそのヒビを埋めて行くが、私が気絶している間も攻撃を受け続けた結界の限界は近いらしく、苦悶の声をあげるキャスターに諦めの色が少しずつ混じり始めていた。

 

「キャスター。拳の強化を頼む」

 

 立ち上がり、彼女の前に立つ。すぐ目の前で矢と結界が火花を散らしていた。だが、私の心に恐怖は一つもない。漸く、私の願いに気がつきそれを活かせる時なのだ。かつてないほどの充足感が身を包んでいる。

 

ーー私は、誰かの為になりたかったのだーー

 

「無茶です宗一郎様!!」

 

「信じろ」

 

 言葉を尽くすと云うのは得意ではない。それは求められてこなかったからだ。故に態度で示す。拳を構え、キャスターの強化を待つ。

 

「……分かりました。マスター」

 

 全身に力が満ち、拳が暖かいもので包まれる。どうやらキャスターは言葉足らずの私を信じてくれた様だ。そして、キャスターが私の強化に魔力を使った事により僅かな拮抗を保っていた結界は崩れ去り矢が飛来する。

 

「──ふっ!」

 

 正面ではなく、側面を殴る。飛んでくる矢を弾くなど初めての経験だ。そもそも、暗殺拳にそんな事は求められていない。だが、それでもやるしかあるまい。キャスターを死なせない為にも、此処で私が踏ん張るしかないのだ。

 

 全力で奮った右手が矢の側面に触れる。瞬間、激痛が走るが無視し吹き飛ばされそうになる身体を両脚が支える。激痛が走る腕を全力で振るって、矢を弾き飛ばす。右手があらぬ方向に曲がっているがこの程度で守れるのなら何も問題はない。

 

「なっ!」

 

「……サーヴァントの攻撃を正面から防ぐ奴が、アレの他にもいるとはな」

 

「なに、あの男に比べれば私は長い時間をかけて、漸く願いに気がつく程度の愚か者だ」

 

 何も空虚に生きることが贖罪の全てではない。殺人は間違いなく悪だ。それを実行した私も同じく悪だろう。だが、それを良しとしたのは他でもない私だ。いずれ、あの日奪ってしまった命には謝る必要があると今なら思える。この命が潰える時にそれを果たせるのなら、せめて私はキャスターの願いを叶えてから逝きたい。

 

「それでも、私はキャスターの願いを叶えたい。故に此処は譲れない」

 

 治癒の魔術で動く様になった右腕の動きを確認しながら構える。それに対応する為にアーチャーも白黒の剣を構え、睨み合う。

 

「アーチャー!分かってると思うけど、無力化が目的よ。決して殺さないで!あの孔がこれ以上広がるのは避けたいわ」

 

「分かっている。とは言え、手を抜けばこちらが首を飛ばされそうだがな」

 

 アーチャーと私の拳が交わろうかという瞬間、再び地面が揺れる。今度はバランスを崩さずに耐えたが、急に足元の感覚が消える。どうやら穴が空いた様だ。しかも、私達の真下にだ。

 

「宗一郎様!!」

 

「凛!」

 

 サーヴァントに庇われながら私達は落下する。そこで私達は目撃することになる。自分達が逆立ちしても勝てる未来が見えない規格外と称するしかない戦いを。




殺そうとしないアーチャー陣営との戦いだと相性もあって、千日手になりそうだなって思ってこんな形になりました。誰だよ主人公の出番ないとか言った奴。回想で出てきてるやん。

次回はセイバー陣営+慎二VSギルガメッシュ回だと思います。

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