転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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今回は短め。セイバー召喚による第四次聖杯戦争のプロローグの様なものです。

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この願いが悪だと言うのなら、俺は……悪でいい

 時間が過ぎるのは早いもので、あの試験から一年が経過した。俺は今、切嗣、アイリスフィールと共にアインツベルン城にある聖堂、つまり、セイバーを召喚した場所に来ている。切嗣の手には令呪が浮かび上がっているが、召喚されたサーヴァントがいきなり殺意を向けてきた時に、制止が間に合わないかもしれない。その時にアイリスフィールを守れと命じられ、この場にいる。いやあの、いくらなんでもサーヴァントの速度に俺が間に合うと思ってます?

 

「よし。アイリ、聖遺物を祭壇に置いてくれ。それで準備は完了だ」

 

 切嗣の指示に従いアイリスフィールが聖遺物。現存するエクスカリバーの鞘を祭壇に置く。あの鞘、間近で見たのは今日が初めてだけど存在感というものが圧倒的に違う。簡単に言えば、年季を一切感じず、それなのに呑み込まれる様な魅力と迫力がただそこにあるだけで感じられるものだ。流石はFate世界という事だろう。

 

「影辰。万が一の時は頼んだよ」

 

「分かった。アイリスフィールさん、俺の後ろに」

 

「えぇ。分かったわ」

 

 小さな俺の背中に守られるアイリスフィール。背後からチラチラと視線を感じるが、俺が彼女を守るというのは何度も説明した。見た目が子供だから心配されたが、なんとか下がってもらった。それでも、完全に納得していないのだろう。あり得ないけどセイバーが襲いかかって来たらアイリスフィールに手を引っ張られない様に気をつけよう。

 

「素に銀と鉄。礎に石と契約の大公。

 降り立つ風には壁を。四方の門は閉じ、王冠より出で、王国に至る三叉路は循環せよ」

 

 切嗣の詠唱を開始すると同時に、床に描かれた魔法陣が輝きだす。魔力を持たない俺でも分かるほど空間に魔力が満ちていく。

 

「閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ、閉じよ。

 繰り返すつどに五度。ただ満たされる刻を破却する───告げる。

 汝の身は我が元に、我が命運は汝の剣に。聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うのなら応えよ」

 

 満ちていた魔力が、詠唱と共に光を放ちだす。余りにも幻想的な光景に呑まれかけ、詠唱している人物が目の死んだおっさんである事を思い出し現実に意識を戻す。油断をする訳にはいかないんだった。

 

「誓いを此処に。我は常世総ての善と成る者、我は常世総ての悪を敷く者」

 

 切嗣の願いそのものの様な詠唱。詠唱者である切嗣がここだけ力を込めたのは偶然ではないだろう。そして、その切嗣に応える様に魔法陣が更なる光を放ち、風が巻き上がる。……これをあの聖杯が演出で行ってるとしたら酷く悪趣味だな。

 

「汝、三大の言霊を纏う七天、抑止の輪より来れ、天秤の守り手よーーー!」

 

 魔力と共に風が一点に集約していく。目を開けていられないほどの輝きと、吹き飛ばされない様に踏ん張らなければならないほどの風が吹き荒れ、そのサーヴァントは召喚された。

 鞘が正しく触媒として作用したのなら召喚された英霊は彼女だ。目を開けて確認する。まず真っ先に目を惹かれるのは、金髪翠眼の美貌。美しい美少年と言われればぎりぎり分からなくもないが、その顔立ちは女性的だ。なぜ、かの円卓の騎士達は男だと思ったのか不思議である。念のため視線を顔より下げれば、赤い甲冑という事はなく、予測通りの青いドレスに甲冑を身に纏っている。あぁ、良かった。俺が知っている通りの英霊が呼ばれた様だ。

 

「問おう。貴方が私のマスターか?」

 

 切嗣を真っ直ぐと見据えるセイバーのサーヴァント。切嗣やアイリスフィールは、その容姿に驚いている。それもその筈だ。彼女は、ブリテンを治めた俺が生きた時代でも一度は名前ぐらい聞いた事のある存在。アーサー王が女性だったのだから。

 

「……あぁ、遂に始まるのか」

 

 召喚されたセイバーを見ながら呟く。彼女が召喚されたという事はいよいよ俺が知る原作が始まるという事。その事実が、目で分かる事実が俺に恐怖と興奮を教えてくる。恐怖は言わずもがな、死に対するものだ。第四次聖杯戦争、他の戦争と同様に様々な思惑が絡み合う戦争で俺は、生き残れる可能性こそあのライダー陣営を除き一番高い陣営であるセイバー陣営で参加するが、その代わりに死の危険性が幾つもある。セイバーという作品の顔、絶対の主人公である衛宮士郎へ至る前日譚。メタいが、盛り上がりの為に危機にならない訳がない。

 

そして

 

 その恐怖心と共にある興奮は、あの聖杯戦争に自分が参加するという事実に対してだ。一つの時代、国を作り上げた英雄達が戦う戦場。神秘に満ちたそれを間近で体験出来るのだ。男として、興奮しない筈がない。格好いいは正義だ。可能なら絶対の安全が欲しいが、この陣営で、いや聖杯戦争にそんなものはない。やるかやられるか、生か死か。それしかない場だ。

 

「俺は生き残る……死ぬのは、ごめんだ」

 

「あぁ。僕は必ずこの聖杯戦争に勝つ。勝たなければならない。その為に君にも働いて貰うからね影辰」

 

 俺の独り言に切嗣が返答する。聞かれてたのは恥ずかしいが、別に困る発言じゃない。真っ直ぐと切嗣の目を見ながら口を開く。これから発する言葉は切嗣への誓いであり、謝罪だ。俺はこの聖杯戦争の結末を知っている。もちろん、俺がいるから結末は変わるかもしれないが大筋は変わらないだろう。だから、謝罪だ。

 

「分かっている。あんたが、最後の一人になるまで一緒に戦う。あんたの絶対の弱点を守ってみせる。どんな結末になろうと、俺はあんたを見届ける。道具の一つとして」

 

 痛む良心を、自分が生き残る為だと封殺する。結末を知ってるからと言って、俺にはどうにも出来ない。聖杯に対する知識も魔術も何も持ち合わせていないのだから。そう自分に言い聞かす。

 そして、舞台は聖杯戦争の地。日本──冬木市へと移動する。




現在の影辰のスペックは、歴戦の少年兵という感じです。切嗣の様に戦闘のプロにも、抗えるレベルですね。とはいえ、子供ゆえの体格差や筋力差は埋められない。あれ?確か聖杯戦争にやばい拳法の使い手がいましたね?

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