転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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月下の誓い

 長い夜だった。けど、思い返せば一瞬で過ぎ去っていった様な気もする。俺、衛宮士郎にとってこれからの人生を決める事になったであろう第5次聖杯戦争の顛末を俺の視点で纏めようと思い、こうして日記を書いている。最後の敗退者は、英雄王ギルガメッシュで終わりを告げた。傲慢で不遜で、兄貴への褒美にこの世全ての悪を再び呼び起こそうとしたが俺はあの英雄を恨むことは出来なかった。今でも目を閉じれば思い出すほど、あの英雄は俺の脳裏に焼き付いているのだ。数においては、劣勢であるはずの英雄王は、その事実に一切恐れを見せる事なく、俺たちに英雄とは王とはこう在るべきだという姿をまざまざと見せつけ消えていった。

 

 そして、全ての戦いに決着が着いた後残されたキャスター陣営と俺たちは話をしたが、どちらも平行線を辿るばかりで有益な結論にはならなかった。当然なことではあるのだが、俺たちは汚染されている可能性のある聖杯を起動させたくなく、キャスターは願いの為に聖杯を使う必要があった。お互いに譲れない部分が、重なっているのだから着地点なんて見つかる訳もない。一触即発の空気が流れた時、何処からともなくイリヤが現れて事態は解決の方向へと向かいだす。

 

「キャスター、貴女の願いはなに?」

 

 この時の俺は知らなかったが、天の衣というドレスを身に纏ったイリヤは何処か神秘的で儚き雰囲気を漂わせていた。彼女の問いにキャスターは、やや詰まった後に葛木を一度見た後、「故郷に帰ること」と答えたがそれに対しイリヤは首を傾げた。

 

「本当に?万能の願望器が起こす奇跡が二度も貴女に微笑むことはないわよ。確かにその願いを叶えてあげる事はできるけど、本当にそれで良いの?」

 

 誰もがイリヤの神秘的な雰囲気に呑まれ、口を開くことが出来なかったが葛木が何かを考えた後、キャスターの前に立ちローブを捲り、視線を合わせた。 

 

「そ、宗一郎様?」

 

「キャスター。もし、私を気遣っているのならその必要はない。お前が願いを叶えた後、この場から消え衛宮達に殺されたとしても私に悔いはない。お前がこの世界に復讐をしたいと言うのならそれに付き合おう。だから、偽る事なくキャスターの心の底からの願いを叶えると良い」

 

 何処となく葛木に兄貴の姿が重なって見えた。大切な人の為なら、全てを敵に回す事が出来るそんな俺とは違う正義の味方の姿だ。葛木の言葉に暫く沈黙を貫いていたキャスターだったが、やがてとても愛おしそうに葛木の頬に手を伸ばし少しばかり背伸びをし、その唇に自身の唇を軽く触れさせた。

 

「キャスター」

 

「宗一郎様。私は今から我が儘を言いますね、私は貴方と一緒に居たいです。聖杯戦争なんて血生臭い事ではなく、ただの日常を貴方と一緒に。朝、朝食を用意して貴方と一緒に食べて、見送って。仕事から帰ってくる貴方を家で出迎えてなんて事のない話をしながら、夕飯を食べて。休日には貴方の隣に立って、街中を散策したり買い物をしたりして……愛した貴方と一緒に、普通の日常を過ごしてみたいのです」

 

 震えた声で、それでも口にした未来への楽しさを滲ませたキャスターは、俺たちの時代ではとてもありふれた細やかな願いを葛木に伝えた。綺麗な姿勢で立ったままの葛木は、キャスターの告白を聞いてもなお無愛想な顔を少しも動かさなかった。その顔を見て、キャスターは自身の願いが拒絶されたと感じたのか、葛木から離れようとしたがその手を葛木は掴んだ。

 

「……先ほど、漸く願いに気づいた私にはお前の想いにどの様に答えるべきか言葉が見つからない。だが、キャスターの願いが私と共にあるというのなら、私はそう在ろうと思う。そしていつか、答えを見つけた時に必ずお前に伝える事を約束しよう。キャスター、それでも構わないか?」

 

 キャスターの嘘偽りの無い言葉に葛木も嘘偽りの無い言葉を返すと、キャスターが目に涙を浮かべて抱き着いた。葛木もゆっくりと彼女を抱きしめる。それが彼らの答えだった。

 

「……私の願いは宗一郎様と共にある事。だから、願いは受肉するわ」

 

「それくらいなら、器に満ちてる魔力を使って簡単に出来るわ。他のサーヴァント達も受肉したいのなら可能よ。私は一仕事あるから、キャスター。貴女に任せても良いかしら?」

 

「えぇ。大丈夫だけれど、貴女はどうするの?」

 

 キャスターがイリヤにそう問い掛けると、空に空いた孔を指差しながら見惚れる様な笑みを浮かべて答えた。

 

「アレを閉じてくるわ。貴女に任せても良いんだろうけど、これは私達、アインツベルンの不始末だから」

 

 ゆっくりとイリヤは光り輝く大聖杯の方へ足を進める。あの笑みに嫌な予感がした俺は、走ってイリヤを止めようとして足から崩れ落ちた。ギルガメッシュとの戦いで魔力が底を尽き、強烈な殺気を受けていた身体は俺が思っていたより疲れていた。

 

「イリヤ!!」

 

「心配してくれてありがとうシロウ。それに、皆んなも。でも、もう決めたの。カゲタツに助けられてから、私は皆んなの為にこの残された命を使うって。私は、カゲタツもシロウも皆んなも大好きだから。辛くて苦しくて悲しい事しか無かった私が笑って過ごせたあの場所を守りたいの」

 

 ーーだから、さようなら。皆は、早く死んじゃダメだからねーー

 

 光が一際強くなりイリヤを飲み込むと、光の柱が空の孔へと繋がる。そして、孔が一度脈動した後に、こぼれ落ちていた泥の流出が止まり黒く禍々しい孔がゆっくりと閉ざされていく。再び、光の柱が強く輝いたかと思うと、まるで窓から物を投げ捨てるが如く、ポイッとイリヤが光の中から飛び出してきた。危ないと思った瞬間には、紅い影が飛び出しイリヤをお姫様抱っこで抱えていた。あの野郎、格好つけやがって。

 

「無事かね、イリヤスフィール」

 

「アーチャー……待って!!カゲタツは!?あの光の中で、カゲタツと会ったの!!」

 

 その言葉に全員が混乱するが、やがて全員が兄貴の事だからと済まし後で確認を取ることにした。なんとなくだが、兄貴は生きているという直感があったのだろう。今考えても酷い扱いな気はするが、事実兄貴は生きていたのだから問題ない。そして、キャスターが聖杯を弄っている間誰が受肉するかという話になり真っ先に慎二が呼び出したアサシンいや、メドゥーサが手を上げた。

 

「シンジ、私に受肉して欲しいですか?」

 

「は!?この流れで僕にそれ聞く?……凄く恥ずかしいんだけど」

 

「その言葉で十分です。それに、貴方達兄妹の行く末を見届けたいですし」

 

 そう言って微笑むメドゥーサに慎二は顔を赤らめており、こりゃ、尻に敷かれるなと思った。

 

「私にも願いはあるのですが、以前影辰にその願いを肯定する訳では無いと言われた事を思い出しました。ここで出来た新たな友と別れるのも悲しいですし、考える時間も欲しいので私も受肉します」

 

 続いてセイバーが俺たちを見ながら受肉を宣言した。ギルガメッシュにも言っていた通り、どうやら俺たちを掛け替えのない友と思ってくれている様で、一人一人の顔を見て笑みを浮かべていたのを覚えている。残っているアーチャーはというと、暫く考えた後俺の顔を見た。なんとなく彼奴が考えている事が俺には分かったというか、考えるまでもない。あいつが受肉した場合、衛宮士郎が二人いる事になり、気に食わない自分の顔を見続ける事になる。それが嫌なのだろう。

 

「アーチャー」 

 

「ん?どうかしたかね凛」

 

「ずっと働いてたんだから、少し休暇を貰いましょう?」

 

 遠坂の言葉にアーチャーが目を丸くした。どうやら彼奴は一切、そんな事を考えていなかったらしい。同じ俺だからよく分かる。

 

「別に受肉を選ばなくても良いわ。貴方、一人ぐらい私の魔力で賄えるし。勿論、無理強いはしない。けど、少しぐらい一握りの幸せを手に入れて欲しいの。世界とかそういうのを抜きにしてね。どう?アーチャー」

 

 優しい笑みと共に遠坂は、アーチャーに選択を委ねる。俺と同じ様に彼奴の過去を知っていたらしく、純粋な願いでアーチャーの幸せを願っていた。ずっと戦いを共にしてきた彼女の言葉には、弱いのか困った様な顔をしながら遠坂の顔を見て笑顔が返されると同時に諦めた様にため息をついた後、両腕をあげた。

 

「降参だ凛。私も此処に残ろう。君の言う幸せを掴めるかは分からないがね」

 

「掴めるわよ。だって、私がいるんだから」

 

 全てのサーヴァントが受肉を選び、キャスターが自分を含めて受肉させる頃には、夜は終わりを迎え空は白み始めていた。犠牲なく決着が着いた事を喜びながら帰路についていると、ちょうど家の前でやっぱり生きてた兄貴と出会った。この時の兄貴は何処となく、暗い雰囲気をしていた気がするがイリヤを見ると同時に、無言でボロボロと涙を流し始めた。

 

「あ、あはは。生き残れちゃった」

 

 照れ臭そうにイリヤがそう言うと同時に兄貴はすごい速度で詰め寄り、彼女を抱きしめた。「良かった……本当に良かった」と繰り返す兄貴の姿は、切嗣コートを着てるのも相まって、俺を助けてくれた時の切嗣みたいでなんだか可笑しくて、思わず笑ってしまった。

 

「また、貴方に助けられちゃった。でも、聖杯の中にまで居るなんてどういう手品を使ったの?カゲタツ」

 

「聖杯の中に俺が?……いや、多分気のせいじゃないか?俺はずっと教会に居たしな」

 

「んー……まぁ、カゲタツがそう言うならそう言う事にしてあげる。それで、どうする?約束は」

 

 イリヤがそう言うと兄貴は、鼻を啜って涙を拭いた後、いつもの見る者を安心させる優しい笑みを浮かべて、こう言った。

 

「どうせなら皆んなで鬼ごっこするか!」

 

 その言葉に全員が、まずは休ませろ!って言ったのがとても面白く、全員で笑っていると家に残っていた桜や寝ていた藤ねぇが家から出てきて、これまた皆んなで顔を合わせて笑い合った。非日常が終わり、新しい日常が戻って来たのをこの時俺は感じて、本当に全てが終わったんだなって思えた。

 

「よしっ。こんなもんかな」

 

 筆を置いて日記帳を閉じる。手加減なしの鬼ごっこで、疲れていたけど案外、寝れないものだな。寝ている皆んなを起こさない様に、外に出ると兄貴が縁側で、座って月を眺めていた。俺に気がつくと、手をあげる。

 

「よ。どうした寝れないのか士郎?」

 

「そういう兄貴こそ」

 

「漸く全てが終わったんだって実感がきてな。寝る気にもなれず、こうして月見しながらお茶を飲んでたんだよ。飲むか?」

 

 兄貴の隣に座りながら差し出された湯呑みを受け取り、二人で月を見上げる。

 

「どうだ。聖杯戦争を通して、お前の理想は定まったか?」

 

 切嗣から受け継いだ俺の理想をカケラも笑わず、兄貴はずっと形になるのを待ってくれていたからこそ、久しぶりに二人っきりになったこのタイミングで聞いてきたのだろう。真剣な顔で真っ直ぐと見てくる兄貴の目を見ながら俺も恥じることのない理想を答える。

 

「俺は俺の手が届く人達を守る正義の味方になるよ。切嗣の様に大切な人達を斬り捨てる事は出来ないし、だからと言って兄貴の様に目の前の無関係な人を見捨てる事も出来ない。だからこそ、この手が届く人達は守りたいと思う」

 

 言い終わると同時に兄貴は俺の頭に手を伸ばし、優しくゆっくりと撫でてくる。久しぶりの感覚だった。少なくとも高校生になってから、こうして兄貴に頭を撫でられる事はなかった。

 

「ん、そうか。良い理想だ」

 

 俺の頭から手を離した兄貴が懐から拳銃を取り出す。確か、切嗣から貰ったって言ってたコルトパイソンだったか?少しの間、それを弄ったり構えたりした後にクルッと回し、持ち手を俺の方に向ける。

 

「魔術が使えるお前には必要ないかもしれないが、コレを使うか使わないかはお前が決めろ。魔術とは違って、純粋に人を殺す為だけに存在している武器だ。いいか士郎、誰かを守るという事は誰かを守らないという事であり、必要ならその手を血で汚す行為だ。その時、コレは役に立つだろう。だからコレをお前に託す。いざという時に使うか、血濡れの戒めとして持ち続けるか好きにしていい。俺にはもう必要のない物だからな」

 

 使い込まれたコルトパイソン。それに手を伸ばし、受け取るとズシリとした重さがあった。鉄の塊としての重さだけじゃなく、切嗣や兄貴の想いも宿っているから重いのだろう。

 

「重いな」

 

「それくらいでちょうど良い」

 

「兄貴」

 

 何処か遠くを見ていた兄貴を呼び止めると、一拍置いて俺の顔を見て首を傾げる。

 

「俺はちゃんと俺が決めた道を歩く。だから、心配しなくても大丈夫だ。任せろって、俺は切嗣の息子で兄貴の弟だ。尊敬できる大人が身近に二人も居るんだから、道は踏み外さないさ。だから、兄貴は兄貴の時間を生きてくれ。誰かの為じゃない自分の時間をさ」

 

 兄貴をずっと縛ってきた冬木の聖杯戦争は、もう終わりを迎えた。零れた泥で周辺の木々とかに被害は出たけど、第四次と違って人的被害はない。だから、切嗣の理想を継いだ俺をずっと見守り続け、今回で忘れ形見のイリヤを助け出した。これから先の人生は、兄貴だって自由に生きていい筈だ。

 

「ふっ、ふふ。そうだな、先ずは趣味の一つぐらい見つけるとするか」

 

 そう言って兄貴は困った様にけれど、嬉しそうに微笑んだ。




次回、最終回(それ以降も後日談的なのは投稿予定)
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