転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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……ふっ、まさかお前があの女に惚れるとはな


最終回:運命の夜

 あの野郎との死闘が終わって数日後。俺は、趣味探しの一つとして読書をしていた。何をすべきか思い出して、先ず真っ先に言峰から無理やり読まされて、今では暗記した聖書から連想して読書に思い至る辺り、あの野郎の影響を受けていると実感したものだ。

 

「……駄目だ。やっぱり身体を動かさないってのはムズムズしてくるな」

 

 まだ数ページしか読んでない本を閉じる。慎二くんが薦めてくれた本なんだけど、彼らしいと言うか何というか。小難しい話で飽きてしまった。さてと、どうするかな。今、この家には炬燵の住人になってるイリヤしかいないけど、思いっきり寝てるし。何処かに出掛けるにしても、特にこれと言った候補はない。

 

「何も思い浮かばねぇなぁ……」

 

 聖杯戦争が終わって、何かに追われる事も必死になって足掻く必要も無くなった。ただそこにある平和な時間というのはとても良い事なのだが、そういう明るい日常から遠い時間をずっと過ごしてたから、暇な時に何をすれば良いかが分からない。鳥の囀りが聞こえる中、俺は何をする訳でもなくただ縁側に座って、空を眺める。そんな非生産的な時間を過ごしていると、玄関の方から人の気配を感じた。士郎たちのものではないソレに首を傾げながら、立ち上がり玄関に向かい、寝ているイリヤを起こさない様にインターホンが押されるより早く扉を開ける。

 

「っと……これはこれは。私は、聖堂教会の者です。別に争いに来たわけではないので、殺気を収めてください」

 

 カソック服が見えて反射的に漏れてしまった。軽く息を吐き、相手の顔を見るが特に見覚えはない。しかし、聖堂教会の人間がこの家には何用だ?

 

「壊れていた教会の修理が完了した事を知らせるのと、遺品整理中に見つけたこちらを貴方に渡しに来たのです」

 

 そう言って、目の前の男は懐から手紙を取り出す。そこに記された名前は、間違いなく俺の名前であり差出人が誰かなど考える必要は無かった。今更、何を遺したというんだあいつは。礼を言いながら、手紙を受け取り内容に目を通す。

 

『さて、お前がこの手紙を読んでいると言うことは私は、無様にもお前に負けたのだろう。そんな事は万が一にもあり得ないと思うが、その万が一の為にこの手紙を記しておく。

 先ずは、おめでとう。お前の働きで最悪は阻止され、この世が悪に満たされる事は一先ず無いだろう。だが、お前が知り合ったというフランチェスカという魔術師には気を付けておけ。彼奴は、碌な魔術師ではない。いずれ、何か最悪を引き起こすことになるだろう。その時のお前の苦難を見られないのが実に残念だ。

 そして、これが本題だが私が貸し与えた灰錠を覚えているか?アレは、歴とした聖堂教会の武装でありただの一般人に貸し出すものではない。お前が無断使用したとあれば、さぞ教会は怒ることだろう。だが、喜ぶと良い。私としてもそんなつまらない結末は認められない。故に、私の死後あの教会を引き継ぐ者としてお前を任命している。教会には話を通して、お前を弟子にした時から神父見習いとして聖堂教会に登録しておいた。

 

 おめでとう。私という巨悪は討ち滅ぼされ、君は正しく神の使徒となった。衛宮影辰、お前のこれからの苦難を祈っている』

 

「言峰ぇぇぇぇぇぇ!!!」

 

 思いっきり手紙を地面に叩きつける。あの野郎、なんて事をしてくれやがった!!なんで、死後も人の苦労を愉悦にしようとしてんだあいつは。どうやって愉しむつもりなんだよ……なんだ?死んでも見られてるのか俺はあの野郎に?嬉しくねぇぇ……心底嬉しくねぇぇぇ。

 あのにやけ面を思い出して荒ぶる俺を、残念な人間を見るようにちょっと引いていた聖堂教会の人が咳払いをして意識を向けさせる。

 

「中身を私は見ていませんが、その反応で大体察せられます。心の整理をつける時間も必要ですが、待っていられるほど私も暇ではないので。本日の21:00。貴方が継ぐ事になる教会に新米補佐として、聖堂教会本部よりシスターが派遣されますので、定刻までに教会で到着を待っていてください。それと、貴方が勤めていた職場の方にはこちらから連絡しておきましたのでお気になさらず。では、私はこれで」

 

 言うだけ言ってさっさと立ち去っていく男。いやいや……少しは話をさせろって。聖堂教会ってなんだ、コミュニケーション能力に難がある人間しか居ないのか?そもそも、コミュニケーションする気ある?ってレベルだけど。

 

「はぁぁ……つか、なんで21:00。夜ばっかりじゃねぇか」

 

 叩きつけた手紙を手に取り、一応見間違いを祈って、もう一度目を通す。整った字は時として、とても腹立つと言う学びを得るだけだった。

 

「……クソ野郎め。分かったよ、やってやるよ。神父だろうが、代行者だろうがなんだろうが。今更、それくらいなんだ。サーヴァントと戦ったり、お前と戦ったりするよりは簡単だ。何もかもやりきって、満面の笑顔でもう一度ぶん殴ってやるから覚悟しとけよ言峰綺礼」

 

 ありったけの呪詛を込めてあの世の野郎に向けて言う。玄関を閉めて、家に戻ると俺の叫びで起きてしまったイリヤがひょっこりと顔を覗かせていた。なんでもないと伝え、ついでに20:00ぐらいに起こしてくれと伝え自室に向かう。夜に動くなら、今のうちに睡眠時間を確保しておくに限る。あまり眠くないが、聖杯戦争で身に付いた癖は抜けず俺はあっという間に意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……タツ……カゲタツ……きて……カゲタツ起きて!!」

 

「……ん?時間かイリヤ?」

 

「あ、漸く起きた。最近、ちゃんと寝てないからすぐに起きれないんだよ」

 

 そう言って、彼女が指差した時刻は20:50……ってマズっ、寝坊したのか。飛び起きて、起こしてくれたイリヤに礼を言いながら部屋を出て貰う。神父服など持っていないので適当なものに着替え、部屋を出る。この時点で時刻は待ち合わせ時間まで5分となっていた。全力を出せば間に合うか?いいや、間に合わせてみせる。両脚に力を込め、夜の街を駆け抜ける。聖堂教会から頼まれた内容をすっぽかしたとなればどんな厄介事が起きるか分からんから、必死だ。

 

 見飽きた道を駆け抜け、綺麗に修復された教会が見えて来る。ちらっと時刻を確認すれば、残りは1分。門に手を掛けて、開き教会の敷地に脚を踏み入れる。

 

「間に合──」

 

「フィッシュ」

 

 えらく気の抜けた声が聞こえると同時に赤い布が俺の脚に絡み付くと、同時に空中へと引き揚げられる。なんだ、この布!?避けた筈なのに、空中で軌道を変えて巻き付いてきたぞ!?抗う事すらできず、巻き付いた布と共に地面に向かい叩きつけられた。どうにか手をクッションにしたが、痛いものは痛いし、治るとはいえ無闇に傷を負うのも好ましくない。未だに巻きつく布のせいで立てない為、視線だけで布を追い下手人を見つける。

 

「──」

 

 こんな事をしてくれた文句を言ってやろうと思っていた口は、その人物のあまりの美しさに動かなくなった。月の淡い輝きを受けて、夜の闇にその光を反射する美しい銀の髪に、まるでそこに星があるかの如く、見る者全てを吸い込むあの王様とは違い、儚くも優しい金の瞳。そして、見る事を辞めてしまえば、夜の闇に溶けて消えてしまいもう二度と見れないのではないかと錯覚するほどの儚い雰囲気を漂わせたシスター服の女性。

 

「いきなりなんの真似だとか怒るかと思ってましたが、随分と間抜けな顔をしていますね。そんなに驚きましたか?」

 

「あ──いや、アレくらいなら確かに驚いたけど、別に怒ることじゃない」

 

 その雰囲気に見惚れていた俺は、声をかけられて漸く意識が戻る。

 

「む……そうですか。随分とお人好しなのですね貴方は」

 

 俺の返事に何処となく不機嫌そうな彼女はそう続け、俺の脚の拘束を解く。そんな不機嫌な顔ですら、絵になると言うのだから美人は狡いと思うというか、なんだろうなその反応。なんとなく見慣れたものな気がする。立ち上がり、服に付いた砂埃を払う。

 

「俺がお人好し?いやいや、それは無いよ。それで、君は誰か聞いてもいい?」

 

「そうですね。私としたことが自己紹介がまだでした。本日より、この教会に派遣された見習いシスターのカレン・オルテンシアです。以後、よろしくお願いしますね。衛宮神父」

 

 俺の予想通り、どうやら彼女が俺の補佐役として送り込まれたシスターらしい。というか、見習いと言ったか?新米の俺に見習いのシスターを与えるって……人材居ないのか?聖堂教会。

 

「衛宮神父……慣れないな。せめて、影辰の方で頼むよ。っと、知ってるようだけど俺は衛宮影辰。事後承諾で前任者の言峰綺礼からこの教会を引き継ぐ事になった新米だ。色々と教えてくれると助かる、カレンさん」

 

「さん付けは必要ありませんよ、影辰神父。事後承諾……なるほど、では中で詳しい話をしましょう」

 

 そう言って歩き始めた彼女の背中をしばらく眺めた後、ある事に気が付いた俺は走って彼女に追いつき見えていないであろう右側に立ち、彼女の手を取る。その行動に驚いたように俺を見るカレンに、俺は弁明を口にする。

 

「右眼、見えてないんだろ?それに重心もズレてる。この教会は、微妙に足場も悪いし視界の通りが悪いところもある。何か起きてからじゃあ、遅いからな。余計な心配だったか?」

 

 俺がそう言うとカレンは、その綺麗な金の瞳を逸らす。黙ってしまう。明確に拒絶しないのなら、このままにするか。無言のまま、彼女の手を引っ張り教会の中へと入る。見慣れた聖母像に五月蝿いぐらいに脈打っているこの心臓の音が、彼女に聞こえていない事を祈る。

 

 これが、生涯を共にするカレン・オルテンシアという聖女との初めての出会いだった。

 




これにて、一先ずは完結となります。
時系列をごちゃごちゃにした後日談などは、引き続き投稿しますが、衛宮影辰の物語は一先ずこれまで。

ご愛読ありがとうございました。
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