あ、独自解釈モリモリなので嫌な人は注意を。……今更な気がするけどね
カレンと影辰の日常1
1日目、晴れ
あの聖杯戦争が行われていた土地で、長らく監督役を行なっていた言峰綺礼神父が突如、後継として指名した影辰神父と話をしました。彼は、聖堂教会が何をする組織かは知っていたけれど、具体的に所属している者が何をするのかは殆ど知っておらず前任者の監督不行き届きが、明らかになりました。見習いのシスターからの説明を嫌な顔一つせず、真剣に聞き一度で理解していたので頭の方は悪くないと思われます。
ただ、私の様な者にまで優しいのは気になりますが。
3日目、晴れ
彼は信仰心がある様には見えませんが、表向きの仕事は完璧と言って良いほどに行える様です。言峰神父を頼って足を運んだ信者の皆さんに、残念がられても嫌な顔一つせず、1時間も話せば溶け込み信者1人1人の個人的な悩みや懺悔にも、耳を貸していました。信者の皆さんが、満足そうに教会を去って行くのを見送ると、まるで定位置の様に聖母像の一番近くの長椅子に座り、聖書片手に暇そうに読んでいる姿が時折り見られた事からも、信仰心の無さが伺えます。
この日から、彼も教会で寝泊まりをする様になりました。毎日というわけではありませんが、1週間の内、3日は教会に泊まって行きます。理由を聞いたら、「女性1人は何かと危ないだろ?」などと言ってました。神のお膝元で愚を犯す不届き者などそうそう居ないと思いますが。
15日目、雨
怒られました。私からすれば慣れていた事なのですが、悪魔に取り憑かれた者を別行動で探す時に体質を利用していたのがバレ、それはもうこっ酷く叱られてしまいました。どうやら、聖杯戦争中に飲んだ霊薬の効果で彼の目には悪魔が見える様で自分と一緒にいる時は、そんな無茶をするなと泣きそうな顔で伝えられました。……本当に不思議な人です。
18日目、月の見えない暗い夜。
……屍鬼と遭遇することになるとは思いませんでした。聖堂教会からの指令は、低級霊への対処だけだったので影辰神父と共に指定された場所へと足を運んでいました。彷徨っていた霊が影辰神父によって1回殴るだけで消えていくのを隠れながら見ていると、そんな私を狙って魔術か何かで隠れていた屍鬼が飛び掛かってきたのを、彼が殴り飛ばしました。
「……」
普段は人懐っこい笑顔を浮かべている彼が、冷たいまるで塵を見る様な目で屍鬼を見下しているのが分かりました。殴り飛ばされた屍鬼が何かを喚いていましたが、その全てを無視し再び殴り押し倒した後、立ち上がる事を許さず灰錠で顔を殴打。やがて、潰れた柘榴の様に屍鬼は頭の中身を地面にばら撒いた。動かなくなった後、心臓を抉り取り潰すと返り血に身を染めた状態で振り返り、私を見る。
「……怪我はない?」
冷め切った瞳に熱がゆっくりと宿り、私を気遣うその姿は今まで一度も見る事がなかった姿でした。体質を利用している事も、ボロボロになる私の事も一切気遣う事なく、あくまで道具として使い潰すのが今までの聖堂教会の方々でした。私もそれで良いと受け入れていましたが、彼に気遣われる度に胸の奥が暖かくなるのを感じていた。
「えぇ、大丈夫です。慣れていますからお気になさらず」
その暖かさを表に出さない様に冷たい物言いをしても、彼は優しく微笑み安心した様に「良かった」と言うのだから反応に困るのです。
ですが、これで漸く確信しました。私の体質は、影辰神父の近くにいると正しく機能しない事を。そもそも、本来であれば向き合うだけで感じられるほどの濃い呪いを身に纏っている彼の近くにいるだけで、死んでもおかしくないのですが、今こうして生きていられるところを考えるに、正しく機能していない若しくは、機能した上でこの状態なのではないかと考えられます。明日、聞いてみましょう。
19日目、夜。
「……タイミングを逃して結局、聞けてないですね」
聖母像に祈りを捧げながら、私は今日1日のタイミングの悪さを思い出す。朝から、来訪する信者達にお昼は彼の友達というイリヤスフィールさんが遊びに来たりして呪いに関して聞くことが無いまま、夜になってしまった。今日、彼は教会に泊まっていくから聞いても良いのですけど先程、部屋を訪ねた時には既に寝ていましたし……なんなんですかね本当に。
「……はぁ」
「ため息を溢すと、幸せが逃げるらしいぜシスター?」
「……」
後ろから聞こえてきた言葉に思わず、マグダラの聖骸布を向けると慌てたように両手を挙げる不審者。
「待て待て!ただでさえ、こいつの強靭すぎる魂抑えて出てきてるんだから、ソレ使われたら引っ込んじまうよ。オレは弱いんだから」
「……誰ですか。その身体は、影辰神父の物ですよね」
「オレの正体なんて後で分かるさ。それより、呪いの事とか気になってるんでしょ?オレなら俺以上に詳しく答えてあげられるよ」
どうしてと問うより早く彼が手に持つ日記帳が目に入る。聖堂教会への報告書を書く時に参考になればと今日まで書き残した中身を読んだというのなら、私が影辰神父の呪いを気に掛けていた事が分かっていても不思議ではない。……話を聞けるのなら良いでしょう。敵意も感じませんし。聖骸布を回収し、立ち上がり彼を見る。見たことのない模様が身体に浮かび上がっている以外に私の知っている彼との相違点はない。相変わらず、霊障が再現される兆しもなかった。
「さてと、じゃあ何が聞きたい?シスター」
「そうね……単刀直入に聞くわ。何故、彼の呪いは私に再現されないのですか?」
「そうだな……質問を返す事になるが、アンタ、呪いと願いの違いって分かるか?」
「誰かを害する為だけのものと、誰かの救いになるものかしら」
「意外とロマンチストだなアンタ……別にそれが間違ってるとは言わないけど、本質的には呪いも願いも同じさ。結論から先に言えば、この衛宮影辰という男は、多くの人間に生きろと願われ、そして呪われたのさ。別に誰かに生きて欲しいと思うのは悪い事じゃない、親が子供に、友達に、恋人に、そして親にそう願う事は誰だって思う事だ」
何か失礼な事を言われた気がするけれど、目の前の存在が言っている事は間違いではないと思った。人は1人では生きていけないから、周りにいる人間の幸福を祈るのだから。
「けどまぁ、それって余りにも身勝手じゃないか?もし、祈られた側が死にたいと思っていたらどうする?機械に繋がれてでも、自分で何かをする事が出来なくて死にたいと思っていても、周りが生きて欲しいと願うから生きる。そんなのそいつにとって、呪い以外の何物でもないだろう」
「それは……」
「此処からが本題だ。冬木にはなんでも願いを叶える聖杯があって、コイツはその聖杯戦争に二度関わった。もしも、聖杯が正常であればこいつの人生はとっくの昔に終わりを迎えていただろう。けど、正常ではなくなった聖杯の中身はその終わりを認めず、生きて欲しいと願われていた普通の男を呪い、何があっても死なない身体へと仕立て上げたのさ。その身にどれだけの苦痛、災厄が降り注ごうとも生きて欲しいと願われた男から死の救いを奪ったのさ。アンタの体質と同じで、欲しいと願って手に入れたものでもなんでもない」
きっと彼に生きて欲しいと願った人達は彼の幸福を祈っていた筈。それなのに、その願いが彼から当たり前の幸福を奪い、血塗れの日常へと引き込んでしまった。なんて、残酷な結末なのでしょうか。
「なるほど。彼の身体を蝕む呪いの本質は、生きて欲しいというもの。私の体質はそれを正しく再現していたからこそ、彼が近くにいる時は他の呪いを発現せず、受けた傷も治っていたと」
「そういう事。あぁでも、なんでも治せる万能じゃないぞ。軽い傷なら治せるが、出会った時からのその目や、足は治せない。それが正常の状態だと呪いが認識してるだろうからな」
「別に構いませんよ。漸く、彼に気遣われるのにも慣れてきた頃合いですし。それが無くなったら、言い訳に困ります」
私がそう言うと、目の前の存在はニヤリと笑みを浮かべた。そういう顔も影辰神父はしなそうですね。なんというか、顔も声も同じだというのに表情や言葉遣いではっきりと別人だと分かるのも不思議な気分ですね。
「まっ、こんな感じだ。細かいところは話してないが、別にそこに興味はないだろアンタ。他に何か聞きたい事はあるか?」
「彼に宿る呪いを解呪する方法はあるのですか?」
私がそう聞くと驚いた様な顔をする。何か不思議な事を言ったでしょうか、聖職者として神に仕える者として呪われている者を救うのは役目です。例え、それが私自身を手助けしていたとしても。
「……さぁね。宿った直後なら兎も角、ここまで一体化したものを取り除く術はアンタらにもないだろう」
いくら聖堂教会と言えど、完全に発現した呪い。いえ、悪魔を取り除く術はない。だからこそ、代行者と呼ばれる者達は悪魔の除霊ではなく、宿主を殺すのです。完全な消滅ではなく、一時的な退散として。既に代行者として歩き始めてる彼を殺さない理由は、殺す以上に有用な価値があると聖堂教会が判断しているからですし。
「けど、救いを与える術はあるぜ。それはアンタにしか出来ない」
「見習いのシスターですよ私は」
「ハハッ、そういう事じゃないのさ。まぁ、精々頭を悩ませるこった。オレのお節介はここまでだからな」
私が呼び止めるより早く、彼の顔に浮かび上がっていた模様が消えていき、完全に消えると力なく彼が倒れていく。急いで聖骸布で倒れるのを防ぎ、いつも彼が座っている長椅子に座らせ、私も隣に座る。本当にこの場所はよく聖母像が見えますね、信仰心のない彼には勿体ない場所です。
「……んんっ……カレン……」
私の名前を呼びながら、彼が私の肩を枕代わりに倒れてきたので、そっと頭を掴み膝へと誘導する。肉の無い身ですが、肩よりは寝やすい筈です。狸寝入りをしていたら、怒ろうかと思いましたが安らかな顔で気持ち良さそうに寝ている彼を見て本当に眠っているんだと分かる。そっと艶やかな白銅色の髪を撫でる。
「……私が貴方の救いになる。どういう意味でしょうかね」
返答はない。当たり前だ彼は寝ているのだから。ゆっくりと彼の頭を撫でながら、私も目を閉じる。思いの外、身体は疲れていた様で閉じた目が開かなくなる。このまま私も寝てしまおう、膝から感じる体温が心地よいですし。
このまま、眠っていつか朝が来て、自室で寝ていた筈なのに私の膝の上で寝ているという不思議状況に彼はどんな反応をするんでしょうね。何が起きたのか分からないと目を丸くするでしょうか。顔を真っ赤にして飛び起きるでしょうか。それとも、私への謝罪を口にするでしょうか。
「ふふっ」
どの結果でも面白そうで私は小さく笑ってしまう。明日が楽しみだと思うのは、初めてです。貴方も、そう思ってくれているのなら嬉しいですね影辰神父。
聖杯の中での約束通り、見守る(物理)してるアンリくんでした。
後日談はまったりと更新していくのでお楽しみに。それでは、またお会いしましょう。
活動報告で完結後の挨拶してるので良かったら読んでね。