転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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Fate界屈指の脳筋、参戦


カレンと影辰の日常3

 拳が空を切る。発生した拳圧が彼女を強者であると告げていた。あの野郎のせいで乗り気はしないが、聖杯戦争が終わって鈍っていたこの身体を叩き起こすのには心地よい殺気だ。追撃で振るわれた拳を叩き落としながら重心を落として拳を突き出すが、持ち上げられた膝で受け止められる。

 

「……やる気になりましたか」

 

「黙って殺されてやるほど、甘くないんでな」

 

 相手は隻腕とは言え、魔術師だ。その時点で俺の不利は決まりきっており、油断や慢心などしている余裕はない。好都合なのは、遠距離だったりフランチェスカの様に空間を固定してきたりなどをせず、グローブを強化し体術で攻め込んでくる所だ。実体化しない魔術だと叩き落としたり掴んだりができず、相手の土俵で戦う事を強いられるが、今回は俺の土俵でもある。

 

 灰錠を展開して構えると同時に、目の前の魔術師──確か、バゼットと名乗った彼女が一直線に俺に向かって駆け出してくる。搦手など用いず、真正面から殴り飛ばすその姿には好感を得るが、余り俺を舐めてくれるなよ。彼女が間合い内に入ってくると同時に、その場で震脚を行い彼女の体勢を崩し、ガラ空きの胴体を狙い拳を突き出す。瞬間、自分の身体が前に崩されたのを理解した。

 

「器用な事をする!」

 

「隻腕ですからね!」

 

 引き込む様に俺の拳を下に逸らした彼女は膝を俺の鳩尾に向けて放つ。それを空いている方の手で受け止め、そのまま膝の骨を砕く為に力を込めていくと、片足立ちという力の入れ辛い体勢から俺の側頭部目掛けて裏拳を放たれたので半歩身を逸らし避けるが、その間に後ろに飛び退き体勢を立て直される。

 

「「……」」

 

 互いに拳を構え、睨み合う。先ほどまでは正確に力量を測れていなかったが、数回拳を交えて互いに相手の力量を把握した。突撃してこないところをみるに、考えている事は同じだろう。迂闊な攻撃は敗北を招くと。

 両脚に力を込め、一度の跳躍で距離を詰め拳を叩きつける。数歩下がる事で避けられるが、勢いよく振り下ろした拳は地面を砕き、巻き上がった石片がバゼットに攻撃する隙を与えない。そのまま、両手で跳躍し肘鉄を放つが土煙で視界が悪い中驚異的な反射神経で反応したバゼットに受け止められた。やっぱり、こいつ目も良いが反射神経がズバ抜けている。

 

「しっ!」

 

 短い息と共に繰り出された蹴りが俺の顎を掠めると同時に、掴まれている肘に力が加わり俺の身体が宙に浮く。投げられたと即座に理解し、空中で身体を捻り、壁に着地すると同時に斜め前へと移動。瞬間、先ほどまで居た場所にバゼットの踵落としが落ちた。視線だけは俺の方を向いている辺り、避けられると理解した上での攻撃だったのだろう。ならば、この後の攻撃など自ずと分かる。

 即座に攻撃体勢になったバゼットが突き出した拳を先程の仕返しとして態と自らの方へ引き込み、その勢いを下へと逸らす。

 

「この!?」

 

「見様見真似は得意でね!」

 

 俺の時より勢いのあった彼女は大きく体勢を崩している。そして、俺の狙いを理解した彼女は頭を逸らそうとするが、俺の拳の方が早く彼女の元へと到達し、勢いよくその顎を叩き教会の方へと吹き飛ばす。もし、彼女が隻腕でなければこの戦いどうなっていたか。

 

 しゅるる。

 

「うん?なんだこの気の抜ける音と共に身体がめちゃくちゃ痛い!?」

 

「教会の神父が来客を殴り飛ばして、挙句気絶させるなど何をしてるんですか。少しは加減をしなさい」

 

 教会から出てきたカレンが、俺に聖骸布を巻き付けながら呆れた顔をしている。どうやら神父である俺がバゼットを殴り飛ばした事にお怒りらしい。でも、多分この人殴り合いしないと話を聞いてくれないタイプだと思うんだ俺は。

 

「……反省の色なしですね。では、このまま連行します」

 

「ちょ!?それは待って!これ、苦しいんだって!!」

 

 ズリズリと聖骸布で簀巻きにされた状態で引き摺られていく俺。ジタバタと暴れたところで男性を縛り付けるこの聖骸布からは、逃れられない。やがて、抵抗を諦めて大人しく引き摺られる俺はバゼットの事を思い出し、辺りを見渡すと同じように簀巻きにされているバゼットが目に入り、なんだかとても虚しい気持ちになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ん。此処は……」

 

 寝ていた身体を起こし辺りを見渡すと、すぐに聖母像が目に入り此処が教会の中だと理解した。なんでこんなところに……そう思うと同時に顎に痛みが走り全てを思い出す。そうだ、私は言峰神父に会おうと思って教会に訪れて……そこで知らない男と戦闘になり敗北した。

 

「くっ……また此処で負けたのか私は」

 

「あ、起きた?」

 

 下から聞こえてきた声に勢いよく飛び退きながらその場所を見ると、簀巻きにされて横たわる先程の男が居た。……どういう状況ですかこれは。顎の痛みとは別種類の頭痛を感じながら彼を見ていると、奥から水を持った銀髪のシスターが現れ、その手に持つ布は簀巻きの男へと繋がっていた。

 

「……もしかしてそういう趣味ですか?」

 

「違うわ!なにいきなり勘違いしてんだ!?」

 

「あら、でも抵抗を辞めて大人しくしてるじゃないですか影辰神父」

 

「聖骸布に抵抗するだけ無駄だって、カレンが一番よく分かってるだろ!」

 

「まぁまぁ、ほら疲れているでしょう。先ずは水分補給をどうぞ」

 

 そう言って彼女は手に持っていたコップを私の前に置き、彼の前には犬に餌をあげる器に入れた水を置き、少し離れた場所にある椅子に座る。余りの状況に私は言葉を発する事が出来ない。一体全体これはどういう状況なのでしょうか。チラッと影辰神父の方を見ると、もう全てを悟った表情でただただ横たわっており、そこに私と戦っていた時の覇気は一切ない。

 

「先ずは自己紹介でもしましょうか。私は、カレン・オルテンシアと言います。新米神父である彼の補佐役として、この教会所属のシスターとなりました。よろしくお願いしますね」

 

「……衛宮影辰だ。言峰綺礼から後継に指名され、この教会の神父になった。決して、そういう趣味はないからな」

 

 やはり、彼が言峰神父の後継だったのですね。

 

「えぇ、分かりました。私は、バゼット・フラガ・マクレミッツです。隻腕にこそなりましたが、執行者です」

 

「それで本題ですけど、なぜこの教会に訪れ、影辰神父と戦闘を?」

 

「そうですね。説明します」

 

 私は彼らに第五次聖杯戦争にランサーを召喚し参加していた事を教え、その際に言峰神父の騙し討ちに遭い、左腕ごと令呪を奪われた事を説明する。この時、影辰神父があの野郎……って恨み言をぼやいていた。その後、何者かに助けられ意識不明の重体のまま聖堂教会に保護された後、色々とあり元の魔術協会に戻れた事を話す。

 

「すっごい、来歴だな……大変だったろ」

 

「えぇ、まぁ。それでもどうにかこうして生きています。腕に関しても義手という手段もありましたが、これは戒めとしてせめて言峰神父にお礼参りをしてからと思ったのですが、まさか既に死んでいるとは……あっ、それと突然の無礼申し訳ありませんでした。貴方が、悪人かもしれないと思ったので」

 

 明らかに普通の神父とはかけ離れた気配を放っていた彼を私は悪人かもしれないと思ったのですが、今のあまりにも可哀想な姿にそれは無いと判断して頭を下げる。すると、彼は気にしないでと笑いながら私を許してくれる。

 

「突然襲われたのは驚いたけど、殺す気がないのは分かってたし、楽しかったからな。義手だっけか。それで、両手になったバゼットとはまた戦いたいぐらいだ。今回は隻腕だったから勝てた気がする」

 

 簀巻きで床に転がっているというなんとも情けない姿だが、私を強者と認め再戦を申し込んでくる彼の姿に胸が熱くなる。あぁ、この人は言峰神父とは違い、良い人間だ。可能であれば良好な関係を築いていきたいと思う。

 

「はい!義手に慣れ、満足のいく仕上がりになればまた此処に来ます。その時、再戦しましょう影辰」

 

「おう。俺も鈍った身体を十分に解してお前を待つ事にするよ」

 

 私の返事に嬉しそうに返す影辰神父。その表情から嘘偽りなく私との再戦を楽しみにしてくれている事が分かり、私の方も釣られて笑みを浮かべる。この日はこのまま教会に泊まることとなり、影辰とカレンの二人との親睦を深めた。……その間ずっと簀巻きにされてたけど、本当に趣味じゃないんですよね影辰?

 

「それでは私はこれで失礼します」

 

 翌日、共に朝食を食べた後私は魔術協会に戻る事にした。次の仕事があるのもあるけど、今すぐにでも義手の調整を依頼したいのが一番大きい。流石に朝からは簀巻きではなかった影辰と、そんな彼に手を握られながらカレンが私を見送ってくれる。極めて自然にカレンの右側に立ちその手を握っていたところから、それが自然体になるまで繰り返し行われている行為なのだと分かり微笑ましくなる。

 

「っと、そうでした。影辰、連絡先を教えて貰っても良いですか?」

 

「あぁ、まだ教えてなかったか。良いよ」

 

 互いに携帯を取り出し、連絡先を交換する。そのままカレンとも交換しようと思いましたが、どうやら彼女は携帯を持っていないようで、契約した時に影辰から教える事になった。

 

「これで思い残す事はないですね。では、暇な時や何かあれば連絡する事もあると思いますが、その時はよろしくお願いします」

 

「おう。そっちも頑張れよ」

 

「えぇ。そちらこそ」

 

 互いに突き出した拳を軽くぶつけ合う。そうして、二人にお辞儀をした後教会を離れる。真っ直ぐ歩き、教会の敷地を出てから後ろを振り向く。そこには、言葉は聞こえないが互いに笑みを浮かべて話している影辰とカレンの姿があった。

 

「……カレン、早く恋人同士にならないと私が横から奪ってしまいますよ?」

 

 目的こそ果たせなかったが、より良い成果が手に入った私の二度目の冬木市訪問は終わりを告げたのだった。……今になって思えば、私を助けてくれた人に何処となく雰囲気が似ている気がしますね彼。

 

 

 

 

 

 

 

「……」

 

「どうしたカレン?」

 

「いえ、なんだか宣戦布告された様な気がしまして」

 

「んん?」

 




壊れた教会敷地内の壁や床を補修する神父の背中がそこにはあったという。
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