転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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エルデンリングに囚われてるマスターBTです。


カレンと影辰の日常4

 代行者。聖堂教会における異端狩りのプロフェッショナルであり、血生臭い人生から逃れる事が出来ない者達を指す言葉。それは当然、言峰綺礼から冬木教会を預かった衛宮影辰も例外ではなく、時折、教会本部からの司令を受け異端と定められた者達を狩っていた。

 

「……こんなものか」

 

 物言わぬ魔術師とその弟子達の亡骸を眺める影辰。相変わらずその瞳に光はなく、持参してきた可燃性液体をばら撒き、マッチで着火し、全ての証拠を燃やすとその場をゆっくりと離れていく。事前に聞いた情報では死を冒涜し、死徒を生み出しかねないとの事だったが影辰にとってはなんの興味もない情報だった。

 返り血すら浴びていない彼はそのまま、人通りの多い道へと歩き出し魔術協会から送られてきたであろう追跡者を掻い潜る。彼とすれ違った街の人達は少しだけ焦げ臭い様な臭いを感じたが、彼が口に咥えている煙草を見てその臭いかと納得し即座に気にしなくなる。こうして、追手も一般人も全て誤魔化し聖堂教会名義で確保していたホテルへと戻った。

 

「お帰りなさい。予定より早いですね」

 

「思ったよりは簡単な仕事だった。まぁ、連中の拠点にバイクを突撃させて爆破させたからだろうけど」

 

「相変わらず手段を選ばない人ですね。珈琲淹れておきましたので好きにどうぞ」

 

「あぁ、助かる」

 

 当然の様に二人同室で予約していた部屋で、カレンが淹れておいた珈琲を飲む影辰。濃いブラックという彼の好みも完全に捉えた珈琲は、疲れた身体に染み渡り、冷え切った彼に熱を与えていく。現在、彼らは住み慣れている冬木を離れ遠くスウェーデンのルンドまで来ていた。本来なら日本の冬木にいる彼らに連絡が来ることはないのだが、何者かによって聖堂教会の神父が殺されちょうど手が空いていた二人が選ばれた。

 

「その話を聞く限り、教会の人間を殺したのはその魔術師達ではなさそうですね」

 

「あぁ。仮に神父を殺す算段があったとしても低級の死霊を操る程度しか出来ない魔術師に到底殺せるとは思えない。ただ……」

 

 影辰はそこで言葉を止める。拠点を潰すついでに軽く調べた時に気掛かりな点が幾つかあったのだ。ただ、それをカレンがいる場で口にする事を恐れていた。もし、自分の予想が当たっていたとしてそれを伝える事で、嫌な縁が結ばれる事を懸念したのだ。

 

「何か思い当たる節があるんですね?でも、それを言いたくないと……分かりました。無理に聞くことでもないですから」

 

 そんな彼の胸の内を見透かした様にカレンが近くに座りながら言った。影辰は思わず、驚いた顔で彼女を見る。

 

「なんですか。今更、そんな事が分からないとでも?」

 

「いや……良いのか?自分が所属する組織に関して隠し事をしようとしてるんだぞ?」

 

「他の人がどうかは知りませんが、別に私は構いませんよ。貴方が不必要に隠す人だと思ってませんから。話しても良いと思ったらその時に教えてください」

 

 そう言ってカレンはそっと彼の右腕に寄りかかる。そのあまりの軽さに影辰は心配になりながら腕からゆっくりと伝わっていく優しい暖かさが心地よいと思うのだ。暫く、そのままどちらも口を開く事なく、静かな時間を堪能しふと、影辰が思いついた様に口を開いた。

 

「そうだ、まだ日数余ってるし明日は、何処か行かないか?ルンドの大聖堂とか観たがってたよな?」

 

「貴方は退屈かもしれませんよ?」

 

「お前と一緒に居てそれはないだろう」

 

 心の底から何を言ってるんだという笑みを浮かべて影辰はカレンの顔を見ると、そこには呆れた様な顔をしながらも頬を赤く染めているカレンの愛らしい顔があった。嘘偽りが無いという事が分かってしまうのも、また心臓には優しくないのだ。

 

「人誑し……そうやって誰も彼も落とすんですね変態」

 

「なんでそうなる!?」

 

 だから、仕返しにちょっとだけ意地悪をするカレン。立派な衛宮の人間である影辰にはとても刺さる言葉なのだが、あの家で育った以上気付けという方が難しいだろう。意地悪をされて、子供の様になんだよぉ…ってぼやきながら拗ねる彼の手を引き共にベッドで横になる二人。

 

「あのー、カレンさん?手を離して頂けると有難いんですけども?」

 

「……明日のエスコート、楽しみにしてます影辰」

 

 耳元でそっと囁かれ、こそばゆい感覚に思わず身体を震わせる影辰だったが、直後にカレンが掴んでいた腕が僅かに重くなるのを感じ、慌てて彼女を見るとそこには規則正しいリズムで寝息を零す聖女の姿があった。

 

「……素数数えてたらその内寝れるだろ…うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ……眠い」

 

 寝れる訳がないだろ!?一仕事した後に徹夜になるとは思ってなかったよ。惚れてる相手に抱きつかれた状態で熟睡できる奴が居たら、是非とも顔を見せて欲しい。そんな訳で、カレンには申し訳ないが道中での移動手段で少しだけ休ませて貰い俺達はルンドの大聖堂に来ていた。

 

「ちゃんと寝ないからそうなるんですよ」

 

「お前なぁ……」

 

「なんですか?その非難するような視線は。私のせいではありませんよ」

 

 しれっと言ってくるカレンの態度に思わず、眉間を押さえつつ空いている手でしっかりと彼女の手を握る。見知らぬ土地で離れるというのは流石に避けたい。

 

「しかし、歴史がある建物ってのは迫力があるな」

 

 重厚感を感じる黒ずんだ石造りの大聖堂は、これといって神を信仰していない俺でも厳かな雰囲気を感じ取れた。

 

「12世紀の中旬に完成した北欧最大のロマネスク様式の建築ですね。その時代においては、知識、技術そして、芸術が最も要求されるものです。こうして今でもしっかりと現存しているのにはそういった背景があるのでしょう」

 

「ほー、流石に詳しいな。俺にはさっぱりだ」

 

「日本に戻ったら勉強の時間を設けましょうか?神父様」

 

「お手柔らかに頼むよシスター」

 

 そんな会話をしながら教会の中に入る。中も外に負けず劣らず、神秘的な雰囲気を醸し出しており、軽く首を動かすだけでカレンが言っていた通り作り込まれている事がよく分かる。ゆっくりと動かしていた視線が大きな時計に止まる。

 

「アレは、14世紀に作られた天文時計と呼ばれるもので、月の位置や満ち欠け、星座や太陽が沈む位置が分かるらしいですよ」

 

「また古いな」

 

「驚くのはまだ。そろそろ……」

 

 カレンの言葉を待っていたかの如く、時計が動き出し何処に隠しているのかオルガンの音が鳴り、讃美歌が流れ出す。時計の天辺では、騎士のカラクリ人形が戦い、赤子を抱く女性恐らく、マリア像の周りを人形達が行進していく。

 

「おぉ……」

 

「指定の時間になるとああやって動くんです」

 

 一通り流れた後、人形達が動きを止めていき元の大きな時計に戻る。周りで聴いていた人達もそれを合図に各々好きな様に動き出すのが、少しだけ面白かった。

 

「さてと、私達もお祈りをして次に行きましょうか」

 

「そうだな」

 

 教会の奥まで二人で歩いていき、キリストの絵が描かれた場所の近くで足を止め祈る。まぁ、俺には特に祈る事も何もないのだが。一応、神父なので形だけは祈りを捧げておく。隣で熱心に祈りを捧げているカレンと対照的な状態だな。やがて、カレンが祈りをやめて俺の手を取る。

 

「何処に行きますか?影辰」

 

「調べた限りだと……クルトゥーレンランドって所が博物館があったり敷地内にカフェとかもあるから、行こうかなって思ってる」

 

 日傘を差しながらカレンと共に歴史ある街並みを歩く。片足が不自由な彼女に合わせ、周りに比べ明らかにゆっくりとした速度だがそれがとても心地良い。いつもの様に俺がカレンに弄られたり、弄られたりまぁ、弄られたりしていると目的の場所に着く。

 

「結構広いんだよな此処。確か、北地区に当時を再現した建物と庭があった筈だからそっちから行こう」

 

「任せますよ」

 

 先程と同じようにカレンと一緒に歩く。教会に関する建築ではないため、カレンの蘊蓄がある訳でもなく互いに知識のない俺達はただ珍しいものに感心しながら散歩を続ける。……聖杯戦争のことしか考えてなかった頃の俺に教えてやりたいな。お前は将来、呑気に観光をするぐらい余裕が出来るって。まぁ、どうせ信じないだろうけど。

 

「……教会の仕事で来たのに傷付かず、こうして観光できるってのも不思議な感覚ですね。私は傷付くのが当たり前でしたから」

 

「その体質を利用した悪魔探しか……やっぱり好きじゃないなそのやり方。でも、それがカレンにとっての誇りだもんな、すまん」

 

「どうして謝るんですか?」

 

「俺はお前に傷付いて欲しくない。だから、こうして必ず近くにいる様に心掛けてるし、仕事の時は可能な限り俺が一人で向かう。けど、それは今までのカレンの誇りを否定してる様なものだろう?だから、謝ったんだよ」

 

 ふと言葉を溢した直後のカレンは何処となく迷っている感じだった。俺と違って見知らぬ誰かの為にその命を使い、それが自分の役目だと納得していた彼女から俺はその役目を奪っている。それはきっと、とても残酷な事だろうと理解はしていた。そんなつまらない罪悪感を俺は謝罪として口に出したのだ。

 

「今更ですね。なら、その役割を返してほしいと私が頼めば貴方は、返してくれますか?」

 

 狭い日傘の下、俺達は向き合う。そして、その問いに対する答えは決まっていた。

 

「いいや、例えお前が望んでも俺はお前が傷付く未来を認めない。カレンと出会った時からそう決めてる」

 

「……全く、貴方は本当に強欲ですね。謝罪をしても変える気はないと」

 

 カレンがジッと俺の顔を見つめる。繋いでいた手が解かれ、両手が俺の顔の方に伸びてきたので僅かに屈むと、頬にカレンの白く細い指がゆっくりと触れていく。

 

「……でも、それで良いです。漸く、大切に扱われるというのも慣れてきましたし。貴方のその強欲を赦せてしまうぐらいには、私もこの暖かさに慣れたので。今更、それを失うのは……凄く嫌ですね」

 

「ありがとう。カレン」

 

 ゆっくりと微笑むカレンに俺も笑みを浮かべる。……ああもぅ、本当にカレンは狡いなぁ。俺が欲しい言葉を返してくれる。

 

「さぁ、行きますよ。まだ観光は途中ですから」

 

「あぁ。ゆっくり見て回ろう。時間はたっぷりとあるからな」

 

 こうして俺とカレンはルンドを十分に観光した後、日本と戻った。帰りの飛行機の記憶は一切ない。起きた時にカレンと寄り添う様になっていたので寝ていたのだろう。まぁ、互いに結構はしゃいだからなぁ。

 




「暇潰しに手伝ってあげた所に彼が来るなんて運命は面白いねぇ」

 水晶玉に映った衛宮影辰を見ながら、女は妖しく微笑む。此度の神父殺しの黒幕は、愛しのおもちゃを眺めながら当時の自分が起こした気紛れを褒め称える。

「でもまだ、舞台が出来上がってないから会えないんだよねぇ。衛宮影辰、やっぱり君の真価は聖杯戦争の中でこそ、輝くものだよ。だから、準備が出来たら真っ先に呼んであげる、全てが偽りの聖杯戦争。そこでも君が、潰れなければ、私の寵愛をあげても良いよ?」

 加虐性に満ちた笑みを浮かべながら女は呪いを紡ぐ。男が契約のツケを払うことになるのは、まだ先の物語。
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