ちなみに時系列としては、ギルガメッシュが召喚される三日ほど前に影辰はスノーフィールドに来てます。
令呪が浮かび上がるという現実から目を逸らし、不貞寝した次の日。スノーフィールドにある警察署、その入り口に影辰の姿はあった。埋葬機関でも、聖堂教会としてではなく、フランチェスカの使いパシリとしての彼はカソックではなく黒いスーツに身を包んで来ていた。
「……歓迎会をしてくれるって空気じゃなさそうだな」
警察署から漂う魔力と殺気を感じ取りながら、どうせ逃げたところでフランチェスカに連れ戻されるだけと諦めて警察署へと歩を進める。入った瞬間、署長が用意した人払いの結界に触れるがピリッとしたのちに足を止める事なく影辰は堂々と歩き続ける。元より、聖杯の泥をその身に宿し続けている彼は魔術による呪いの類を一切受けないのだが、今彼が着ているスーツはフランチェスカお手製の魔術礼装であり防御力は例え、銃弾の雨に晒されても穴が空くことはなく、触れた結界の効果を着ている本人には無効化する事も出来る優れものだ。
まぁ、そんな事は一切影辰に伝えられておらず、着ていってね!の書き置きと一緒にいつの間にか部屋に用意されていたのだが。そして、ついでに言うのならこれを着ている限りフランチェスカにありとあらゆるものが筒抜けなのだが、そんなものは一切知らないのである。
「当然の様に人影は無しっと……」
人払いの結界が張ってあるのだから当然だが、警察署内部に人はなく本来なら受付が立っているであろう場所や、無料で飲める珈琲エリアなどが物寂しい存在感を放っていた。周囲の気配に気を配っていると、影辰がちょうどホールの中央に到着したと同時に反対側から日本刀を携え、軍服の様なものを着ており左目の上にある傷が特徴的な男性とそんな彼に付き従う様に怜悧な表情をした女性が現れた。
「確認を取りたいのだがお前は衛宮影辰であっているか?」
「同姓同名がいなければ合っているな。そういうあんたらは?」
「スノーフィールド警察署署長、オーランド・リーヴ。こっちは私の秘書のヴェラだ」
剣呑な雰囲気を隠さないままに彼らは互いの名を明かす。自身のフィールドである警察署で行われる会話はオーランド主体で話が進むと思われたが、挨拶もそこそこに影辰が発した言葉で一気に会話の主導権を握られる事となる。
「なるほど……それで?わざわざ物陰に二十数名ほど隠している理由は何かな。俺はまだ犯罪を犯していないと思うが」
「ッッ!?……一体、何の事だ」
「具体的な数を言ってやろうか?俺のすぐ後ろの柱、一本ずつに隠れる様に三名。そして、左右に六名ずつと残りは二階でこの場を取り囲む様に配置……こんな感じか。魔術で隠れてるのは良いが、本人らの殺気が漏れ出ているし俺みたいに神秘に鋭い奴からすれば、どの辺を魔術で隠したのか丸わかりだ。それで?こんな厳戒態勢の理由を聞きたいのだが、教えてくれるか署長」
かつての聖杯戦争で飲んだ霊薬よりもたらされた効果は未だに消える事なく、その恩恵を発揮しておりその鋭い霊感から魔術による違和感を見抜き、歴戦の勘から自身に向けられる殺気を完全に把握している影辰は色のない瞳でオーランドを見つめる。
「……これが二度、聖杯戦争を生き抜いてきた男、我々が目指すべき到達点か」
スッとオーランドが片手を挙げるとそれが合図だったのかゾロゾロと隠れていた者達が姿を現す。総勢、二十八名。オーランドがこの偽りの聖杯戦争の為に用意した戦力であり、全員がその手に強力な神秘を宿す武具を持っていた。
「非礼を詫びよう。あの女からは聞いていたが、実際にどの程度の実力なのかこの目で確かめたかった。伏兵に気付かない様であれば、襲わせるつもりだったが……その選択を取らずに良かったと安堵している」
やっぱりフランチェスカのやつ態と隠してやがったなと内心で毒を吐く影辰だったが、今目の前で頭を下げている男を無碍にするわけにもいかず顔を上げる様に促す。
「あいつが全部言ってればこんな事にはなってないし、事実俺は襲われてないから気にしなくて良い。それで、力試しが終わったのならもう帰っても良いか?」
「いやそれは困る。衛宮影辰、我々との手合わせを願う」
「……死なない程度で頼むぞ」
広々とした地下空間に連行された訳だが、おいおい連中が持ってる武器ってどう考えても宝具の類だよな?生身の人間が宝具……バゼットみたいなもんか?だとすれば見た目に騙されるとやばいな。極力触れず、回避が可能ならしていく方針でいこう。
「二十八対一ってのも、中々におかしい気がするが」
「あの女から君のことは、サーヴァントの様に思えと言われているのでな」
本当にトンズラしてやろうかな……あいつ、適当言うにも程があるだろうに。俺はサーヴァントと違って、戦車の砲弾とか直撃すれば木っ端微塵だってのに。
「はぁ……んじゃ、いつでも良いぞ」
手合わせを申し込まれた側として先手は譲ろう。はっきり言ってしまえばそんな余裕はないが、向こう側の士気が明らかに高いし不意打ちとかしたら不服でもう一戦!とかの流れが見えるし。っと、早速か。
「嘘っ!?」
背後から放たれた矢が顔のスレスレを通過していくのを感じながら次の攻撃への対処へと移る。槍、薙刀、そして直剣……その背後に短剣持ちか。左右から挟み込む様に突き出された槍と薙刀を、避け彼らの体勢が伸びきったタイミングで刃では無い部分に手を添えて振り下ろされた直剣とぶつけ合わせると、同時に飛び出してきた短剣持ちを殴ろうとして、大きく後方へと飛び退く。
「……」
避けられても即座に拳銃のリロードか。流石は副官と言ったところか。っと分析している暇はないか。槍を構えたかと思えば凄まじい速度で刺突が放たれる。もちろん、見えているので上体を逸らし避けながら肢の部分を蹴り上げ彼女を動かし追撃しようとしていた男の動きを封じる。連携を取りはするが、自分の持つ武器の破壊力を恐れて全員一斉に来るわけではないのか。
「んじゃ……そろそろ此方からもいくぞ」
灰錠を起動させグッと腰を落とす。先ずは、大将首を狙わせて貰うとしようか。視線を真っ直ぐにオーランドに向ければ意図を理解した様で刀を抜刀し、構える。そして、そんな彼に連動する様に道を塞ぐ様に人の壁が生まれた。ハハッ、いいね戦士として守るべき者は理解している様だ。
低姿勢のまま真っ直ぐに駆け出すと大楯を持った大男が立ち塞がる。その瞳には通さないという確固たる意志と自信が浮かんでいた。そういう瞳は嫌いじゃないが、俺をサーヴァントと同等と見ているのなら避けるべきだったな。
「んなっ!?」
「馬鹿正直に激突すると思ったか?」
目の前の大男が腰を落とし衝撃に備えようとした瞬間に、走って生まれたエネルギーを全て震脚によって地面に向けて放ち体勢を崩させ彼が俺を見ていないうちに跳躍、背後に回ると同時に蹴り飛ばす。
「……仲間を案じずに攻撃に転じるのは一つの選択肢だろうな。ただ、覚えておくと良い。遠距離攻撃は対処されやすいぞ」
曲射で放たれた三本の矢を掴み取り鎚と、鎌で攻撃しようとしてきた者達に投げ放ち駆け抜ける。オーランドとの距離が近くなると先程同様に副官からの射撃が飛んでくるが、急停止と方向転換を繰り返し避けると弾切れを起こし、リロードの隙を晒す。それをカバーする様に短剣を持った若者が斬りかかってくるのを避け、腕を掴みリロード中の副官へと投げ飛ばすと見事に激突し、両者共に体勢を整えるのに時間がかかるだろう。
「ふーっ……しっ!」
刀の間合いに入ると同時に刀が顔面目掛けて突き出される。殺す気満々じゃねぇかおい。顔を横に傾け避け、刀身に触れない様に彼が持つ刀の鍔を叩こうとしたが、それより早く突き出した刀が振り下ろされる。斬られる訳にもいかないので、横に転がる様に飛び退きそのまま足払いを放つがこれも跳躍で避けられてしまった。
「やるな署長」
「食らい付くのに必死だとも!」
彼が着地するのと俺が立ち上がるのはほぼ同時だった。斬り払う様に振るわれた刀を一歩、下がる事で避け彼が次の攻撃に移るより早く距離を詰めるが、攻撃するより早く横槍が飛んできた。一発だけリロードしたのだろう、彼の副官が倒れたまま銃弾を放った。雑な体勢、そして俺とオーランドが近い事もあって弾は明後日の方向へと飛んでいったが、銃声に気を取られ攻撃は行えなかった。その間に引き戻された刀が、俺から距離を取ると同時に振るわれる。
「オォォォ!!」
くそ、刀身に触れる気はなかったが仕方ない。首元に迫る刀の間に腕を割り込ませる。スパンっと斬られない事を祈っていた俺だが、そこで予想外な事が起きた。
ガキンッ!
「「……は?」」
なんとスーツによってオーランドの刀が防がれたのだ。これには俺もそして、オーランドも同時に呆気に取られたがフランチェスカが渡したものだったなと考える事を放棄した俺の方が立ち直りが早く、ガラ空きの腹部を軽く殴り飛ばしこの腕試しの終わりとした。
暫くの休憩の後に俺はオーランドから彼の方針を聞いた。なんと、人間の身でサーヴァントを打倒するらしい。その為のサーヴァントを呼び自身が選んだ部下達に宝具という下駄を履かせているらしい。
「……可能だと思うか。人の身でサーヴァントを打ち倒す事が」
真剣な顔で問われ思わず唸りながら考える。サーヴァントが如何に人間と比べて規格外か俺はよく知っているが、もし人間側にサーヴァントと同じ武具が有ればどうなるかなんてはっきり言って分からない。だから、悩んだ末にこう伝えた。
「条件次第……としか言えんな。先ず、サーヴァントってのは俺たちより格上だ。宝具があっても無くてもな。そもそも、人類史に名を残した英雄と正面切って戦うなんて正気じゃないだろう。そうしなければならない理由があるなら兎も角。……もし、お前達が持つ宝具を使い熟せる様になれば可能性はあるだろう。だが、低い確率だぞ」
仮に力量で並んだとしても、相手はマスターの魔力が続く限り疲れる事なく動けるし、戦いの余波で発生した瓦礫などに当たってもダメージはない。けど、ただの人間は違う。疲れるし、瓦礫が直撃すればそれだけで死ぬ。可能性があるとすれば、相手がただの人間だからと気を抜いているうちに倒す事だろうか。それも難しいとは思うが。
「それでも構わん。可能性がゼロではないのなら、我々は勝利の為に足掻く」
「……そういう考えは嫌いじゃない。んじゃまぁ、頑張ってくれオーランド」
「君も我々に協力しないか?」
「いやぁ……基本的には深く関わる気は今のところないんだすまんな」
じゃあなと挨拶を交わして、俺は警察署を去った。よくよく見ればあれだけ動いたのに、破れてないし汚れもないなこのスーツ……絶対、良くない効果も隠されてんだろうなぁ……
「我々と戦い終わってなお、息切れも無しか……全力ではないとは言えここまで差があるとはな」
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