転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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色々と詰め込んだ回。話はほとんど進展してません!


平和な日常と問題児

 フォーリナー、アビゲイル・ウィリアムズの召喚はスノーフィールドに集う魔術師及び、サーヴァント達の間に言い知れぬ悪寒を齎した。黒幕の一人を担う魔術師は己が監視の為に用意した魔術の多くが澱んだ魔力を検知すると共に汚染され使い物にならなくなるか、無理矢理破壊される形で無効化された事に冷や汗をかく事になりまた、人間によるサーヴァントの打倒その裏で宝具を生み出し続ける小説家はその作業の傍らで増えていく報告書を盗み見る事でかの神話的存在を知り、楽しげに自身のマスターへと電話をし彼なりに警告を促した。

 

「随分と気味の悪い魔力だ……マスターとの約束があるから積極的には狙わない。けど、もし此処に来るようなら対処しなくちゃいけないね」

 

 傷だらけの合成獣を腕に抱く麗しき兵器はスノーフィールドの街を睨みながら静観を決め込む。彼あるいは彼女の桁違いな探知能力は澱んだ魔力にこそ警戒心を抱いたが、その魔力を発する者の本質が白にも黒にも如何様にも染まる事を見抜き自身のマスターが安全であるのならと判断したようだ。そして何より、あの街には彼がいるのだから。

 

「うっ…!?」

 

 スノーフィールドの地を古くから守り続けた一族の幼き長は土地を通して自身へと流れる魔力の澱みにより思わず口元を抑え、吐きそうになるのを必死で我慢する。土地と深い縁を結んでいる彼女だからこそ今しがた召喚されたサーヴァントがただそこに居るだけで狂気を振り撒く存在だと身体で理解してしまったのだろう。

 

「クッ……貴様は悉く人類にとって厄災と呼べるモノと縁があるようだな」

 

 そんなマスターの様子など気にも留めずに原初の英雄は喉を鳴らして笑い、臣下が辿るであろう凄惨な結末を想像し無いなと首を振った。普通の魔術師であればアレを御せずにその精神を擦り減らし、その果てに狂い死ぬであろうが奴に限ってそれはないなと。人の世を案ずるのであれば真っ先に殺しに行かねばならない存在であり今この場にいるのがもっと後年の王であればソレもあり得たかもしれないが、暴君である王は一切の確認を取らずに勝手に決めた。

 

「我は忙しい。故にお前にその厄災を任すぞ影辰、御せなければ分かっておろうな」

 

「ギルガメッシュ様……?」

 

「ティーネよ。慣れておけ、アレはいずれ眼前に現れるかもしれぬぞ。その時に吐いたとあれば、とんだ笑い者よ」

 

 未だ己自身で歩く道すら見えてないマスターへ言葉を投げながら王は酒を取り出し飲み始めた。

 無論、彼ら以外にも多くの魔術師達がその澱んだ魔力に驚いていたがその中でも召喚場所に近く使い魔でホテルから出てくる彼らを視てしまった者は一部例外を除き発狂し、自らの命を絶っておりただ召喚されただけでこれほどの被害を齎した存在はそう多くないだろう。そんなイレギュラー達はというと、呑気にパンケーキの話をしながらホテルを出て、マスターである影辰が初めに泊まっていたホテルで一睡し次の日、昼近くからスノーフィールドの街を二人で散策しているのだった。

 

「取り敢えずは服だな。いつまでも俺のスーツを羽織らせておくわけにもいかないし」

 

 ウェイバーに作って貰った視線逸らしの効果がある煙草を咥えながら歩く影辰。こんなものは生粋の魔術師相手には通用しない子供騙しなのだが、危ない格好の幼子を連れ歩いていると通報されても面倒なので頼っている次第だ。

 

「これがアメリカ……現代って凄いのね!色んなものが輝いて見えるわマスター!」

 

「サーヴァントから見れば何もかも新鮮な光景か。今じゃ、人が多い場所は何処行ってもこんな景色だよ」

 

「私が居た頃とは全然違うわ……」

 

 キョロキョロとスノーフィールドの街中を眺めて楽しそうにするアビゲイルと、スマホにある地図アプリ頼りで煙草を吹かす影辰の組み合わせはとても微笑ましいもので、もし影辰が日本人ではなくアメリカ人であれば親子の様に見えたかもしれない。

 

「お、此処だ。アビー、こっちだ」

 

「今行くわマスター」

 

 影辰が足を止めた場所は大衆向けの服を多く取り扱っている何一つ変哲のない服屋だ。アビゲイルの名前を呼び、今までは自由に歩かせていたが店内で迷子になっては大変だと彼女と手を繋ぎ店内へと足を運ぶ。当然、店内に入れば禁煙である為煙草は消している為二人の存在は店員や客にバレる。側から見れば、大人用のスーツを羽織っている子供とどう見ても血が繋がっている様には見えない日本人の組み合わせだ。嫌でも目立ち、様々な憶測が彼らの耳へと届くが全て無視し、服を選んでいると不審に思ったのだろう店員が話しかけてきた。

 

「あの、すみませんがこちらの子とはどう言ったご関係で?」

 

 警戒した様子の店員へと作り物の笑顔を向けながら影辰が流暢な英語で返した。

 

「あぁ、遠い親戚の子なんです。少しの間、日本で面倒を見ていた事がありまして。それで仕事の関係でアメリカに来て久しぶりに会えたものですから、服でも買ってあげるよって連れてきたんです。な、アビー?」

 

「えぇ!お兄さんは、とっても優しい人で今日もこの後、パンケーキをご馳走してくれる約束なの!」

 

 予め予定していた通りの会話をする二人。アビゲイルは遠い親戚の子で、影辰は日本に来た時にその面倒を見ていた優しいお兄さん。久しぶりに再会したから親交を温めているという筋書きだ。仲の良さをアピールする為に笑顔を忘れず、また店内の人間に聞こえるようにアビゲイルには大きな声で返事をし貰っている。二人の仲良さそうな態度に安心したのか店員は失礼しましたと言って戻って行った。

 

「さて、どんな服が良い?」

 

「そうね……あ、良い方法が思いついたわお兄さん!お兄さんが選んでくださるかしら?きっと、良いものだと思うわ」

 

「困ったな……そういうセンスには自信が無いがアビーの為だ頑張るとしよう」

 

 仲の良い二人だという事をアピールする為に演技半分、本心半分で会話を続け演技とは言えど並んだ服をじっくり吟味してどれがアビゲイルに一番似合うか真剣に考える影辰。そんなやり取りを見て、聞いていればその内二人を疑う者は居なくなっていた。そして、その間悩んでいた影辰は漸く納得がいくものを見つけたのか組み合わせ、アビゲイルへと手渡す。

 

「試着室は向こうだから着ておいで」

 

「えぇ、楽しみに待っていて」

 

 試着室へと向かったアビゲイルの後ろをゆっくりと着いていき、待つ間に周囲の気配へと気を配る影辰だったが魔術師特有の嫌な気配を感じることはなく一安心し、スマホで美味しいパンケーキに関して調べ始める。その三分後、着替え終わったアビゲイルが試着室のカーテンを開けた。

 

「どうかしらお兄さん」

 

 召喚時の時より小さな黒いハット帽子を被り、フリルの付いた白いブラウスに黒いチュールのスカートという組み合わせはアビゲイルの愛らしい雰囲気とマッチしておりとても似合っていた。少しお洒落なヒールを履かせてやればこれも良く似合っており店内にいる何人かはアビゲイルの可愛らしさに和んでいた。

 

「あぁ、可愛いぞよく似合ってる」

 

「ふふっ、ありがとうお兄さん。私もこれがとても気に入ったわ!」

 

「そう言ってくれると嬉しいよ……あぁ、店員さん。これこのまま着て帰ります、タグとかお願い出来るでしょうか?」

 

「はい。分かりました、少々お待ちくださいね」

 

 店員が服に付いているタグを取り外し、その場で影辰から料金を受け取る。お釣りを返すと、影辰はお礼を言いアビゲイルの名を呼ぶ。呼ばれた彼女はトテトテと駆け寄り差し出された影辰を手を握る。

 

「もう少し見るか?」

 

「いいえ、これで充分すぎるわ。それより早くこの服で外を歩きたいわ」

 

「そうか。なら、ちょうど良い。さっき調べたパンケーキ屋が少しだけ此処から遠いからな」

 

「まぁ!それはとても好都合ね」

 

 来た時と同じく仲慎ましい様子で服屋を出る二人に店員達はすっかりと騙されており、仲の良い二人だったわねぇなどと和かに話をするのだった。

 

「〜〜♪〜〜♪♪」

 

「随分と楽しげだなアビー」

 

「えぇ!だって、こんなにも可愛らしい服を着て歩けるんですもの。呼ばれた時は全く、予想していなかったわ!」

 

「まぁ、あんな格好ちょっと見逃せなかったからな……俺が犯罪者で捕まる方が先だよ」

 

 影辰の言葉を聞いて、あっ!っと隣でアビゲイルが言葉を発した。どうかしたのか?っと彼女の顔を影辰が見ると、気まずそうに視線を泳がした後、小さく消えゆく様な声で彼女は続けた。

 

「その……普段は私が霊体化していれば良かったんじゃ……ないかしら……」

 

「あっ」

 

「マスターも全く考えになかったのね……ごめんなさい、私ったらすっかり浮かれてマスターに迷惑を」

 

 そこまでアビゲイルが言葉を発すると同時に影辰は彼女の柔らかな頬を片手で挟む様に摘んだ。口が少し突き出す様な形になるアビゲイルの顔は可愛らしいが何処のなく間抜けであり、思わず影辰は笑い突然の事でアビゲイルは混乱した。

 

「君に服を買うことなんて、大した問題じゃないさ。そもそも、俺が俺の都合で君を呼んだんだからこれくらいは寧ろ、支払うべき報酬だよ。この後行くパンケーキ屋でもそうだけど、俺に一切遠慮をする必要はない。その分、いざという時は頼りにさせて貰うからね」

 

「……マスター」

 

「戦いは辛いし痛いし怖いものだ。だから、こんな何もない日常くらい楽しんでくれ。その方が俺も嬉しいから」

 

 サーヴァントをただの道具ではなく、一個人として尊重する影辰。そこには裏切られない様にするなどの打算的なものは一切、含まれていない。第五次聖杯戦争で、セイバーやアーチャー、そしてギルガメッシュと接した様に良き隣人として接しているだけだ。

 

「……マスターって優しいのね」

 

「いいや、俺は優しくないさ。優しければこんな戦いに参加してない」

 

「私はそう感じたわ。ふふっ、ありがとうマスター!」

 

 そう言って微笑むアビゲイルは影辰と繋がっている手を握る力をそっと強める。優しい彼の熱を、生きているという証を感じ取る為に。そして何より今彼と話している自分を繋ぎ止める為に。そんな事は露知らず、握られる力が強くなったと感じた影辰はアビゲイルの頬から手を離しながら握り返す。理由は分からないが、そう求められている気がしたから。

 

「そう言えばマスターは何をしている人なの?」

 

「んー?そうだなぁ……表向きは神父で裏で化け物退治をしてるかな」

 

「神父様!?マスターって神父様だったの?」

 

「あぁ、全然そう見えないだろ?まぁ、神は居るだろうが祈り頼る存在だとは微塵も思ってないから仕方ないんだが。よくうちのシスターに怒られてるよ。『せめて信者の前ではそれらしく振る舞いなさい』と」

 

「まぁ、でも私もそう思うわマスター。だって神父様なのだからしっかりしないと駄目よ」

 

「うぐっ……そ、それでも悩み相談とかはこれでも上手くやってるんだぞ」

 

「懺悔とかかしら?確かにマスターはとても上手そうだわ」

 

「だろ?まぁ、庭の柿の木が大きすぎて邪魔だとか子供が外で遊びたいけど遊び場がないとか、ガス爆発とか。お悩み相談を装った頼み事が多い気がするけど」

 

「……何故かしら。私の中の神父様像が音を立てて崩れていく気がする。でも、全部やってあげてるんでしょう?」

 

「手が空いてる時はな。それにカレンあぁ、うちのシスターなんだけど。彼女が本格的な悩みとかそれこそ懺悔は聞いてくれるからうちの教会はなんだかんだ成り立ってるよ」

 

 そんなたわいのない話をしていると案外早いもので目当てのパンケーキ屋へと彼らは到着し店内へと入ろうとした瞬間だった。

 

「見つけた!!おーい、そこの人、止まってください!!」

 

「ん?」

 

 声がした方に視線を向けると彼らの元に金髪の男性が駆け寄ってきていた。白昼堂々仕掛けてくる輩か?と影辰が警戒の色を強くすると、予想もしていなかった言葉が駆け寄ってきた彼から放たれた。

 

「そう怖い顔しないでください!えっと、俺はフラット・エスカルドスって言います。時計塔のエルメロイ教室出身です!」

 

「……あだ名をなんでも一つ」

 

「グレートビックベン☆ロンドンスター!」

 

「なるほど。俺の記憶とも一致するよ問題児筆頭くん」

 

 脳裏に先ほどの名前を聞いてキレるウェイバーを浮かべながら影辰は頷く。なお、アビゲイルは彼の勢いに押され影辰の背中へと隠れてしまっている。

 

「やっぱり貴方が先生のご友人で、脳筋バカって呼ばれてた影辰さんですね!」

 

「本人を前にして馬鹿と呼ぶか普通……なるほど、アホだなお前。んで、なんの用だ?」

 

「少しお話をと思いまして。昨夜の気持ち悪い魔力に関して」

 

 時計塔、エルメロイ教室が誇る筆頭問題児。フラット・エスカルドスとやることなす事問題だらけの影辰。ある意味似ている要素を持つかもしれない二人の邂逅はどの様な結末を引き起こすのか。




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