転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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衛宮影辰とフラット・エスカルドス

「こちらのお席でよろしいですか?」

 

「あぁ」

 

「それでは注文が決まりましたらお呼びください」

 

 パンケーキ屋の前では鉢合わせた影辰達は店内に入り広々としたテーブル席へと案内され、影辰とアビゲイルが店内の入り口に近い椅子へ座りフラットを店内の奥、ソファの方へ座らせ何かあれば自分達が逃げやすくかつ、相手が逃げ辛い形へと自然な形で誘導されていた事にフラットは一切気が付いておらず、影辰は目の前の男は本当に殺し合いの場だと理解しているのか首を傾げたくなった。

 

「それで話とはなんだ。フラット・エスカルドス」

 

「あ、それですけどちょっと待ってください。先に注文をしてしまいましょう」

 

「……分かった。アビー、どれが食べたい?」

 

 メニュー表を手に取りアビゲイルに見えやすい様に広げる影辰。どのパンケーキも美味しそうと目を輝かせるアビゲイルに微笑ましく思いながらも彼の意識はフラットに向けながら警戒を続けており、それに一切気が付いていないのかなんとも空気が読めないフラットは何事もなく、パンケーキを注文するのだった。暫くの間、無言であったが注文したパンケーキが届くと共にその沈黙は破られた。

 

「これで漸く話せますね」

 

 そう言ってフラットが呟くと同時に、周囲の音が遠ざかり雑音の類が一切聞こえなくなった。アビゲイルは突然の魔術に驚いていたが、身に覚えのある影辰は特に驚く事なく、フラットを見た。

 

「どっかの先生より簡単に使うもんだな。楽天的かと思ったが、なるほど。それに付随するぐらいの実力はある様だ」

 

「あはは、褒めてくれてありがとうございます。早速、本題なんですけど昨夜の気持ち悪い魔力の出どころ貴方ですよね?」

 

 直球で問われた事で影辰は内心で、目の前の人物が腹芸の類は不得意だと判断を下す。そして、彼の目が真剣ではあるものの魔術師らしい好奇心の色が浮かんでいる事から隠し事をしても無駄だと悟った。

 

「そうだ。とは言え、その表現が悪い言い方はこれっきりにして貰おうか。俺の魔力が澱んでいる事は重々理解しているが、呼び出されたのは見ての通りの子供だ。幼い精神に配慮してくれると助かる」

 

「マスター……私は大丈夫よ。自分がどの様なモノかはよく理解しているわ」

 

 純真無垢な姿ではなく、だからと言って神に魅入られた姿でもない姿で呼び出されたアビゲイルは自身がどういう存在かを最も客観的に理解し、受け入れている。故に自分が気持ち悪いと評される事も、悪であると判断される事も全て受け入れるつもりでいた。それがどれだけ自分の心に傷を生み出す事になろうともそれこそが自分の受けるべき罰として。

 

 だが、そんな少女の幼気な献身も懺悔もただ黙って見逃す気のない男は、机に備わっている紙ナプキンを手に取りパンケーキを頬張った事で汚れてしまった彼女の口を拭いながら、自分勝手な言葉を投げかける。

 

「さっきも言っただろうアビー。なんでもない時間くらいは楽しんでくれって。今は戦いの場じゃないんだから……よしっ、綺麗になったな。こういうソースは時間が経つとベタベタして大変だって弟が言ってたからな。早めに落とすから気になったら言ってくれ」

 

「……マスター。分かったわ、貴方がそう望むのなら今この時間を目一杯、楽しむ!」

 

「おう。それで頼む」

 

 自分の近くで暗い顔をされても嫌だからという理由が彼の根底にはあり、それを決して優しいとは受け取らないだろう。けど、彼の本心は置いておいてその行動は他人から見れば、子供を気遣うものであり歴とした優しさとして映る。少なくとも、魔術師らしからぬフラットには好意的に見られた様で、目の前で繰り広げられる微笑ましい光景に思わず笑い声が漏れた。

 

「ふふっ、仲が良いんですね、先生の友人ってのが分かる気がしますよ。あ、さっきの気持ち悪いって言葉は訂正しますえーと……そうだなぁ……おどろおどろしい感じとか!」

 

「あんまり意味変わってねぇ……」

 

「でも格好いいと思うわ。とても凄い!って感じがして」

 

「でしょ!」

 

「アビーが気に入ってるならそれで良いか……」

 

 アビーの言葉にフラットが笑い、影辰がそれに呆れる。そんなありふれた景色へと瞬く間に空気は切り替わり、即座に動ける様に椅子から少し腰を浮かしていた影辰は静かに座り直す。

 

「しかし、よくエルメロイII世が聖杯戦争の参加に許可出したな。あいつ、絶対認めないと思ったんだが」

 

「口酸っぱく止められましたよ……『君は魔術師同士の闘争というのがどういうものか理解しているのか?』とかそれはまぁ色々と。でも、流石は先生です!俺にサプライズで、用意してくれていたんですよサーヴァントを呼ぶ為の聖遺物を!透視で偶々、見ただけなんですけどこうしちゃいられない!って此処まで来たんです」

 

「……そう、か?」

 

 フラットの話を聞き、影辰の脳裏に過ぎった考えは『あいつがそんなことをするか?』という疑問だった。確かに目の前にいるフラットは自分のペースで話し、生きる典型的な自由人であり言って駄目なら諦めて相手の言い分を認めるウェイバーとは悪い意味で相性が良いと思う。だが、だからこそ不思議なのだ。弟子として面倒を見ている彼を見殺しにする様な選択を取るのか?仮に参加を認めるのなら、あの聖遺物を渡している筈という疑問が影辰の歯切れを悪くしていた。

 

「やっぱり歴史に名を残した英雄というのは凄いですね。昨日の戦い、明らかに規模がおかしいですもん。そして、その後におどろおどろしい魔力……あの英霊達と貴方は何か関係があるんですか?」

 

 そんな影辰の様子に気がつくことなく質問するフラットに一旦、疑問を脳裏から追い出し口を開く影辰。

 

「あぁ。あの黄金の英霊は少しばかり因縁があるからよく知っている。あいつから生き残る為に彼女を呼んだんだ」

 

「相手の方は知らないんですか?」

 

「ん?……あぁ、そうか。戦ってるなら当然、その相手がいるか。まぁ、多分見ていても分からなかったと思うから気にしなくて良い」

 

 本当にギルガメッシュしか見えていなかった男である。

 とは言え、彼の性質からあの宝具を即座に抜く相手は限られている事にすぐに思い至るがフラットには教えなかった。良くも悪くも行動力のあるフラットに教えすぎると、ギルガメッシュの眼前に踊り出そうで危ないと判断した為だ。

 

「そうですか……あ、そうだ!」

 

 一瞬、残念そうな表情を浮かべるがなにかを思いついたのか一瞬で表情を切り替え、携帯を取り出す。

 

「連絡先!交換しましょう!!」

 

「……それは、聖杯戦争に参加する者同士、同盟って訳か?」

 

「いえ、こうして知り合えたので折角なら友達として関わりたいなと。それに先生のご友人なら、きっと貴方も凄い人でしょうから!」

 

 どこまでも聖杯戦争に向いてない男だなと思いながら影辰は携帯を取り出し、フラットと連絡先を交換する。どうせ、この聖杯戦争が終われば破棄する端末だ。もし、彼がこの聖杯戦争を生き延びたのなら普段使っている方の連絡先を教えようと考えながら。

 

「わぁ、ありがとうございます!」

 

「おう」

 

 疑問が解けて納得したのかフラットは魔術を解除し、そこからは周囲にも会話が聞こえてしまう為こういう時の話題、ウェイバーに関するアレやソレを食べ終わるまでの間話す二人。フラットがどれだけウェイバーが凄いかを話すと、影辰がウェイバーの笑い話(主に絶叫)を話す。

 

「ふーっ、先生の面白い話をたくさん聞けて満足です。ありがとうございました影辰さん」

 

「あれくらいなら幾らでも話やるさ。んじゃ、今日のところは解散だな」

 

「はい。では、また会いましょう!」

 

 店の入り口で手を振って去っていくフラットを見送り、懐から携帯を取り出す影辰。もちろん、連絡先は彼だ。

 

『このタイミングでお前から連絡か……嫌な予感しかしないぞ』

 

「ハハッ、正解だウェイバー。良い話と悪い話、どっちから聞きたい?」

 

『……悪い話からだ』

 

「既に把握してるとは思うが、聖杯戦争が開催されている。そこに、お前の生徒。フラット・エスカルドスが参加してるぞ」

 

 ウェイバーが何かを落としたのか電話口がうるさくなる。そっと耳から離し、怒声に備える影辰。

 

『あの馬鹿……!こっちでも出国確認が出来た。色々と突っ込みたい事はあるが、先ずはお前の話を聞こう。良い話とはなんだ?』

 

「心中察するよ。良い話はな、俺もその聖杯戦争の参加者だ。で、どうする?」

 

 なにがとはウェイバーは聞き返さない。このタイミングでこの男が自分に聞きたい事など分かりきっているからだ。ストレスでズキズキと痛む胃を服の上から撫でながら、ウェイバーは口を開く。

 

『頼む。フラットの奴の面倒を見てくれ、あいつ自身が自分で決めて納得のいく死を受け入れるというのならその場にいない私が出来ることはない。師として無責任なのは重々理解しているのだが、せめて理不尽な死から守ってくれないか?』

 

 聖杯戦争がルール無用の殺し合いだというのをウェイバーはよく知っている。だからこそ、誰かを殺す覚悟のないフラットを止めたのだ。けれど、その甲斐なくフラットは聖杯戦争の舞台に登ってしまった。サーヴァントを持たない三流魔術師の己では単身で乗り込んでも死体が一つ増えるだけ。であるなら電話先の男を頼るほかない。ウェイバーが知る限り、殺し合いというものに最も長けている影辰を。

 

「先に言っておくぞ、確約は出来ない。なにせ、この聖杯戦争にはあの王様がいる。彼と鉢合わせば、俺に誰かを守るなんて余裕はない。だが、フラット・エスカルドスが俺という道具を頼った時はお前の顔を立てて付き合ってやる。だから、あいつによく言い聞かせてやれ」

 

 影辰にとって最も優先すべき事項は生きてカレンが待つ冬木に戻る事だ。フラットを一々気に掛ける必要性はない──ないのだが、友人が頼むと言うのなら手助けぐらいはしてやろうと決めた。

 

『あぁ……それで良い。あいつは殺す覚悟こそ出来てないが、魔術師としては間違いなく一流だ。もしお前がその方面で困れば頼ると良い。私の方から話を通しておこう』

 

「おお、それは助かる。まぁ、やっぱり予想通りお前に無断で出てきてたか。征服王があいつの隣に居ない時点で、察してはいたが」

 

『なにをどう勘違いして飛び出したのか問い詰めたいぐらいだ……すまないな、影辰。余計な手間をかける』

 

「あぁ本当だよ。今度、イギリス行く時は美味い飯でも奢ってくれ。それでチャラにしてやる」

 

『財布に余裕を持たせておかなければならんな。では、私はフラットと話をしてくるとしよう』

 

「ちゃんと言い聞かせよ」

 

 分かっていると返事が返され、通話が切れる。携帯を懐にしまうと影辰を見ていたアビゲイルと視線が合い、どうした?と問えば握られた手をぎゅっと握り返しアビゲイルは口を開く。

 

「マスター……フラットさんはいい人だわ」

 

「そうだな俺もそう思う」

 

 人の話は聞かないし、ずば抜けた行動力とそれに伴う警戒心の無さはあるがただ一人の人間として見た時、影辰はフラットをそれなりに気に入っていた。きっと、善人の側に立っている人間なのだろうなと。けれど、此処は聖杯戦争の舞台であり殺し合うかもしれない相手だ。余計な感情は邪魔になる。

 

「……出来れば殺し合いたくないわ」

 

「向こう次第だな。俺も不必要な殺しはする気ないさ」

 

 それはフラットの態度次第では殺すと言ってるのと同義だったが、アビゲイルはそれに何か反論をする訳でもなく、ただ握る手を強めた。




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