フラットと別れて数時間後、すっかりスノーフィールド全域に夜の帷が下り辺り一体は真っ暗……とはならずカジノやそれに伴うホテルの明かりなどにより冬木とは違い、人が多く明るい夜の街へと顔を変えた街中を影辰は歩いていた。職質を受けるのは面倒なので、アビゲイルは現在霊体化し彼についている。
「……まぁ、知ってたが此処が戦場になるとは全く思えん景色だな」
『夜だけどとても綺麗ね。まるで、星があるみたいだわ』
アビゲイルの言葉に内心でなるほどと思う影辰。空を見上げれば、そこに満天の星空はなく地上の明かりが空の灯りを掻き消しているこの光景は人が生み出した人工の星空と呼べるかもしれない。そんならしくない事を考えながら、街中を歩きながらマスター及び、サーヴァントを探していると予想外な人物に出会う事になる。
「ん?」
「お?」
カジノから神父服を着たまま現れ、四人の女性を連れる眼帯と男と視線を合わせ同じ様なリアクションをする。暫く、無言の空気が流れた後に両者は腕を伸ばし──ガシッとお互いの肩を組み、嬉しそうに口を開いた。
「ハンザ、久しぶりだな!元気にしてたか?」
「俺が体調を崩す訳がないだろう?影辰」
「ハハッ、それはそうだな。それで──」
組み合った状態から自身の首を絞めようと迫っていたハンザの手を退け、そのまま拘束から抜け出し返しと言わんばかりにハンザの喉元へ手刀を突き出し、ギリギリの所で止める。そこまでして、漸く控えていたハンザの部下のカルテットと呼ばれるシスター達が動く。
「──随分な挨拶の理由を聞こうか。監督役」
「全く、お前の勘の良さは嫌になるな。……なに、マスターとして参戦してるとは思えなくてな。偽物か確かめさせて貰っただけだ。だから、そのサーヴァントを大人しくさせてくれるか?彼女達を失いたくはないのでね」
「大丈夫だ。だから、霊体化しててくれ
「分かったわマスター」
カルテット達の心臓を背後からいつでも貫ける様に準備していたアビゲイルが再び、消えていく。自らが死の淵に立っていた事に気がついたカルテット達は冷や汗を浮かべるが、そんな事はお構いなしにハンザと影辰は話を続ける。
「まぁ、そりゃ俺が参戦してるとは思わんわな。だからって、いきなりに首締めはどうかと思うぞ」
「考えてみろ。予備役でかつ、嫁大好きなお前が嫁を連れずに居るってお前と交友を持ってる奴が想像できるか?先ず、偽物の線を辿るだろ」
「そう言われると否定出来ないな」
「だろ」
はっはっはっと顔を見合わせて笑う二人と完全に置いてけぼりにされるカルテット。暫く、笑い合った彼らはスッと真面目な顔になり口を開く。
「此度の聖杯戦争、監督役を拝命した。今回、聖堂教会は完全に後手に回っているのが現状だ。何か知っている事があれば共有を頼む」
「ふむ……そうだな、俺に関する情報は教えられるがそれ以外はどの様な監視が俺にあるか不明だ。故に、俺は俺自身の為に情報を秘匿するが構わないか監督役」
「致し方あるまい。なら、それで条件を飲む代わりに同行を願おうか。これから俺達は黒幕と思われる一人の男に会いに行く」
「了解した。では、道中話そうか」
二人揃って歩き出し、影辰は自身がこの聖杯戦争に参加する事になった経緯と召喚したサーヴァントの真名を隠し伝えた。フォーリナーという聞いたこともないクラスにハンザは一度首を傾げるが、目の前の男の異常性を考えればまぁ、そういう事もあるだろうと失礼な納得をした頃合いに彼らは黒幕の一人とされる警察署所長オーランド・リーヴの元へと到着した。
「……手引きしたのか?」
「いやいや、唯の付き添いだよ」
顔を合わすと共に怪訝な顔と共に睨まれた影辰は首をぶんぶんっと振って否定する。オーランドからすれば、自身のサーヴァントから齎された警告の相手が影辰である為、本拠地に乗り込まれた事に警戒を隠せなくなっていたのだ。
「んじゃ、俺は適当に寛いでるから話ししててくれ」
備え付けの珈琲を淹れに行く自由人はオーランドとハンザの間に流れる剣呑な空気を一切、気に留めずに珈琲を飲み始める。早々に影辰に関して、考える事を放棄し取り敢えず、監督役を名乗るハンザへの対処をする為に二十八人の部下、クラン・カラティンを呼び出した直後オーランドの携帯が鳴り響いた。
『今すぐそこから逃げな兄弟』
「……なんでさ。運無さ過ぎだろ俺」
瞬間、警察署の結界が砕かれ空より暗殺教団の狂信者が訪れる。その身に宿した先達の力かアサシンクラスでありながら、結界を砕くという力技で侵入した彼女と迎撃の為に襲い掛かるクラン・カラティンの面々が交戦を開始する中影辰はというと。
「おー……俺と戦った時より連携がしっかりしてるなというか手の内を隠してたのが正解か。とは言え、真名解放には至ってない状態でサーヴァントを倒すのは無茶じゃないか?」
呑気に珈琲片手に観戦と洒落込んでいた。アサシンに狙われないのなら彼が参戦する理由は一切なく、ただただ冷酷に冷淡に彼らの勝利条件を考察していく。八割くらいが、死んで残りの心が折れなきゃ勝ち目があるか?いや、あのアサシンが全てのスペックを明らかにしてるとは限らない以上、全滅の線が濃厚か?などといった具合に。
「混ざらないのか?顔見知りだろうに」
「いや、手伝う義理も理由もないな。あれはアイツらが望んだ戦いだろう」
組み手の相手として言葉は交わしたし、どういう人間達かも少しは知っている。が、ただそれだけだ。影辰からすれば、今こうしてハンザと話している間にも失われる可能性がある命は、等しくどうでも良い。目の前で惨たらしく死のうが、あぁ死んだか程度の感想しか抱けない。そこに嫌悪感も、忌避感はなくただ当たり前の事実として、死体という物が増えたという認識しかしない。
「冷たいな」
「俺の手はそんなに広くない。愛する人でもう一杯だ」
冷え切った瞳で戦場を眺めるこの男が自発的に動くとしたら自らの命が狙われた時、大切な人が狙われた時、そして──
「やぁ良きかな良きかな!中々に私好みの泥試合だ!」
仕事柄倒さねばならない存在が現れた時だろうか。
警察署を取り囲む結界を破壊する事なく、まるでなんの障害もない様に擦り抜けて室内に入ってくる一人の男。彼は室内にいる人間達を全て塵のように見ながら、堂々の中央を歩きながら演説する。
「いやいやお見事お見事。如何なる手品で宝具の力を解放しているか知らんが、まさか人の身で英霊に挑むとは!なんとも身の程知らずと思ったが、どうだ!良い勝負になりそうじゃないか!」
声量の割にはそこに込められた感情は薄く、まるで場末の劇場で行われる三文芝居の様な軽薄さで言葉が紡がれていく。
「闇に生きる術を持ちながら正面切って挑む愚かで愛らしい英霊に!自らの英霊を後方に置き、自らが矢面に立つ血気に満ちた魔術師か!……中々に面白い見せ物だ」
ニヤリと嗤った後に先ほどの影辰と同じような推察をし、英霊に対して勝利する可能性がある事を匂わせる発言を放つ。それを聞いていたクラン・カラティンの一人、正義感に満ちた青年ジョン・ウィンガードが背後から手に持つダガーで斬りかかり──その手を武器ごと切断され、諸共に食われる。宝具を食らった化け物はオーランドが呼び出した使い魔を触れずに殺した後に、まるで従者の如く恭しく片膝をつきながらアサシンを見た。
「自己紹介が遅れたね我が愛しの君よ。私の名はジェスター・カルトゥーレ。マスターとして君の全てを肯定し……」
初めてこの場にいる存在に向けて感情の宿った瞳を向けるジェスターはアサシンに向けて、言葉を続ける。
「人ならざる『死徒』として君の全て!?」
言葉の途中でジェスターの顔面が殴られ、勢いよく吹き飛んでいく。地面で数回跳ねながら、警察署の壁に勢いよく叩きつけられ漸く彼の吹っ飛びは停止した。その突然の出来事にアサシンも含め、その場の全員が驚きの表情を浮かべその下手人へと視線を注ぐ。
「……アイツ風に言うなら『楽しそうな顔をしていたから歪めたくなった』って感じか。俺も運が無いが、お前も運が無いな死徒」
側にアビゲイルを控えさせながら灰錠を起動させた影辰が呟いた。代行者そして、埋葬機関の人間として死徒が現れたというのなら対処しなければならない。まぁ、最も目の前で死徒と名乗らなければ無視する気満々だったのだが。
「ハンザ、周辺の人払いを。署長、余計な被害を出したくなきゃそれを手伝え」
「了解した」
指示を聞き足速に外へ出るハンザと、状況の変化について行けず動けないオーランド。だが、既に彼らの事は影辰の脳裏になくハンザが走り出すと同じタイミングで瓦礫の向こうにいるであろうジェスターへと容赦なく近づき、拳を振り下ろすと巻き上がる土煙の中から白いスーツを汚したジェスターが飛び出した。
「チィ──油断した。まさか、こんな所に代行者が居るとはなぁ!」
「……」
囀るジェスターに向けて手近にあった瓦礫を掴み砕き、投擲する。細かく砕かれた事で散弾銃の様になったその瓦礫をジェスターは避け、お返しと言わんばかりに来客用の大きな椅子を掴み上げる。
「死ねぇ!!」
「……」
死徒の全力で投げられ高速で迫る椅子を冷めた瞳で見ながら、真正面から拳をぶつけて一歩も下がる事なく粉砕。直後、直近まで迫っていたジェスターの手刀を受け止め正面から組み合うとその力の余波で、彼らの足元の地面に大きくヒビが入った。暫くの拮抗の後、影辰がふっと力を抜き僅かに前傾姿勢になったジェスターの額に頭突きが見舞われると、同時に未だに掴み合っている手を引き込み怯んだジェスターを回転しながら投げ飛ばす。
「……戦い慣れしてる辺り、相当長生きだなお前」
「貴様……本当に人か?私を外に出さない様に考慮しながら戦うとはな。そんな奴、初めて見たぞ」
「失礼だな。何処をどう見ても人間だろうに。お前らみたいに吸血衝動の様なものは抱えてない」
天井からぶら下がる電灯の上から影辰を見下ろすジェスターと、逃走してもすぐに追える様に構える影辰は一時的に言葉を交わす。
「死徒を何故、そこまで敵視する?貴様、途中までここに居る連中を見殺しにする気満々だった筈だ」
「……代行者にそれを聞くか?まぁ良い。仕事ってのもあるが、お前の様に呪いを振り撒く奴はな邪魔なんだよ。アイツが自由に外を出歩けない、お前らが居るだけで傷付く。だから、とっとと絶滅してくれよ死徒」
「……なるほど。貴様から血を奪い、その愛しい者を貴様自らの手で殺させるってのも面白そうだ」
悪趣味極まりない事を発するジェスターであったが、それは明らかに愚策だったと知る事になる。ジェスターの言葉が影辰の耳へと届いたその瞬間、彼から凄まじいまでの濃厚な殺気が溢れ出し、それだけでオーランド達は全身から冷や汗が吹き出し手足が震え出す。ジェスターは急変した影辰を見ながら愉しげな歪んだ笑みを浮かべる。
「フォーリナー」
名を呼んだ直後、門が形成され影辰がその中へと入ると出口がジェスターの真横に出現し驚きも束の間に頭を鷲掴みにされて一気に床へと叩きつけられる。そのまま引きずられるがジェスターは人体には不可能な体勢から影辰を蹴り飛ばし、無理やり拘束から抜け出すと距離を取るが次の瞬間にはアビゲイルが呼び出した触手を足場にして、跳躍した影辰が目の前に現れ再び勢いよく顔面を殴り飛ばされ警察署の外へと弾き出される。
「……」
それを追い、影辰は警察署を出て行った。外で人払いの結界を構築し、人を逃していたカルテットを監督していたハンザはそれを見ながら一言溢す。
「完全にキレたなアレは」
狂信者ちゃん「( ゚д゚)」
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