転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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邂逅の時は迫る

「そら、どうした!!疲れたと悲鳴をあげる時間などお前にはないぞジョン!!」

 

「は、ハイっ!」

 

 重心が左に偏った型も何もない不恰好な体勢で振るわれた拳を避けて掴み取り、地面に叩き落とすとジョンからこぼれ落ちた汗がボダボタとマットの上に染みを作る。すぐに立ち上がらず、口を大きく開けて呼吸をしているジョンを叱責してやれば震えながらも立ち上がり、再び殴りかかってきたのを同じように避け叩き落とす。

 

「……教練開始から何時間経った?」

 

「えーと……朝の5時から初めて今が昼だから……ざっと七時間くらいかしら。ちなみに彼ら、一切休んでないわ」

 

 副官と途中から見学に来たガタイの良い男が何か話しているが放置だ放置。ジョンの教練を引き受け、流石に腕を失った直後というのは可哀想だった為軽く休ませた後、寝ているジョンを叩き起こし教練という名のぶつかり稽古を始めたのだが存外に耐えるなこいつ。初めこそ、文句を言っていたが今は無駄口を叩くことなく、俺に何度も叩き伏せられても立ち向かってきている。

 

「はぁ……はぁ……はぁぁぁ!!」

 

「動きが遅い、もっと自分の戦闘可能距離を理解しろ。普通に攻撃して、サーヴァントが素直に一撃受けてくれると思うなよ。最短で、最速に間合いに入り一撃を食らわせる事だけを考えろ……こんな風にな!」

 

 分かりやすくジョンの一撃を避け、あえて距離を取った後に縮地でジョンの懐へと入り込み手加減に手加減を加えた鉄山靠で吹き飛ばす。重心のズレた状態にも慣れ始めてきたのかどうにか受け身を取るジョンだったが、流石に限界が来て立ち上がる事を身体が拒否していた。

 

「はぁーーっ……はぁ……はぁ……くっ……」

 

「無理すんな。それ以上は本当に限界だ」

 

 さきほどああは言ったが、体を壊し歪めてしまっては本末転倒だ。言峰みたいに治癒魔術が使えればまだ稽古する事は出来るが俺にそれは無理だしなぁ。警察署の魔術師に頼んだとしても流石にこの様子のジョンに使う気にはならんだろ。

 

「で、ですが!!」

 

 納得がいかないって顔だな。まぁ、分かるよその無力感に苛まれる感覚は。チラリとジョンを見てから、俺は倒れたままの彼の隣へ座る。

 

「人とサーヴァントには、どう足掻いても差がある。連中は、マスターが魔力供給さえしていれば怪我や疲労とは無関係だ。対して、俺らは怪我も疲労もする。その時点で圧倒的に不利だってのに向こうには伝承が形になった宝具なんてとんでも兵器があるときた。人の身でサーヴァントに勝つ……それは凄まじく無謀で愚かな試みだ」

 

 突然、自分達の方針を全否定されてポカンっという表情を浮かべるジョンやガタイの良い男。副官は少しばかりムッとした表情を俺に向けてきているな。まぁ、最後まで聞け。

 

「だが、連中と違って俺達は今を生きる人間だ。力も技量も勝てないってなら、あとはもう気持ちで勝るしかないだろ。ちなみに昔俺はずっと生き残りたいって気持ちで戦ってそれだけを考えて、鍛え抜いたし抗った。今は追加で愛する人の元に戻りたいって気持ちだな。お前らもそういうのあるだろ?」

 

「俺は……この街の平和のために……戦ってます!」

 

 ジョンが最も早く自信満々に口を開くと次にガタイの良い男が口を開いた。

 

「俺は……そうだな。家族のために盾になる」

 

「お前は確か盾の宝具だったな。その気持ちは相性が良いかもしれんな」

 

「私は……尊敬できる姉に並び立ちたいでしょうかね」

 

 こういった願いを口に出すのは慣れていないのだろう髪を少し弄りながら小さくつぶやく副官。それを珍しいものを見たと顔にはっきりと書かれている男二人が彼女をジッと見ていると、彼女は顔を赤くし部屋を出て行ってしまった。

 

「それで良い。この戦いの果てに何を望むのかそれをしっかり胸に秘めておけ。なんとしても生きる覚悟を持って自分が出来る最大限の足掻きをしろ、それが今を生きる俺達の力になる。だから、今は休めジョン。命の張り所を間違えるな」

 

 他人を導くなんてらしくないからこう真面目なこと言ってるとむず痒くなって仕方ないな。とは言え、俺の言葉に納得してくれたのかジョンがそのまま脱力し、マットの上で横になって、目を瞑り始めた。寝たわけではないから、ちゃんと休息をしてくれる──

 

「ッッ!?なんだ、この殺気!!すまん、ちょっと失礼する!!フォーリナー!」

 

「いるわマスター」

 

「オーランドの所に先ずは向かうぞ。いつでも、戦闘できる様に準備していてくれ」

 

 ──アビーと共に警察署を走りながら殺気の出どころに疑問を覚える。詳細な場所が分かった訳ではないがかなり遠くなのは確かだ。少なくとも、このスノーフィールドの街中から放たれたものではない。それなら、もっと方向や具体的な場所が分かるはずだ。だとすれば……郊外からか?そんな芸当が出来るのはアーチャーのクラスに該当するサーヴァントの筈だが、王様がこんな白昼堂々超遠距離狙撃なんて態々する訳がない。

 相手に認識すらされない遠くからの不意打ちなど、王の所業ではないとか言いそうだし。あぁ、くそ!アーチャーのクラス以外にこんな真似は出来ないはずなのに、該当するアーチャーの性質と合わない事がこんなにも気持ち悪いとはな。

 

「オーランド!!今のはなんだって、何してんだフランチェスカ」

 

「聖杯戦争の見せ場は、やっぱりマスターとサーヴァントじゃないと!って語ってたところに良いタイミングだよっ!ねぇねぇ、気になるよね?この砲撃じみた攻撃がどのクラスによって放たれたのか」

 

 割れた窓ガラスの破片をするするっと避けながらフランチェスカがいい笑顔で、近寄ってくるので半歩下がるとアビーが俺とフランチェスカの間に割り込んでくれた。

 すると、今までの笑顔が嘘の様に気持ち悪いものを見た様に顔を顰めて立ち止まるフランチェスカ。なんだ、こいつアビーの事苦手か?意外だな、可愛いし次の肉体にしよう!とかやるかと思ったが。

 

「そりゃまぁ気にはなるが、どうせお前教えないだろ」

 

「それはそう。だけど、場所くらいは教えてあげようかと思って。此処から北の渓谷、そこに行けば今回の襲撃者に会えるよ」

 

「わざわざ丁寧に教えてくれてありがとう……とでも言うと思ったか。あのな、フランチェスカ俺が」

 

 死ぬ様な場所に行く訳がないだろうと続けようとした言葉は次の瞬間、フランチェスカが発した言葉によって止められるのだった。

 

「──同じモノを宿す君達なら仲良くやれると思うんだけどなー」

 

 同じモノ?一体何の事だと思った瞬間、身体が脈打つのを感じた。同時に、本能で今目の前にいる女が何を言ったのか理解した。俺の身体がこんなことになっている原因にして、運命を捻じ曲げた根源。かつて、第四次聖杯戦争で浴びてしまった『聖杯の泥』それを宿したサーヴァントがいる。

 俺の顔が険しくなっていくのを見て、答えに辿り着いたのを察したのかフランチェスカは愉しげに顔を歪めていく。

 

「アレがどういうものかは君が一番よく知ってるよね。もし、アレを宿した英霊が勝利者になって願いを叶えたらどうなっちゃうかなー?

 あの事件の再演とか起きちゃうかも!?あぁ!それは大変大変。今度は、どれくらいの規模でこの世界を地獄に変えちゃうかな。もし、また大元の泥に触れた時、もう一度君が耐えられる保証は何処にもないよ?さぁさぁ、どうする?」

 

 もう一度、あの泥が溢れ落ちてしまえばどうなるか。冬木を焼いたあの災害……いや、本当の意味で悪意を叶えるのだとすれば際限のない地獄がこの世に具現する筈だ。あの男が欲したモノはそういう醜悪で最低な存在なのだから。

 ならもう考えるまでもなく、答えは決まっている。

 

「……北に行けば良いんだな」

 

 その答えを聞いたフランチェスカは、邪悪な満面の笑みを浮かべて頷いた。全く……俺の周りにいるのはこんな奴ばっかりだなクソが。

 

「フォーリナー、頼めるか?」

 

「魔力が許す限り、貴方を連れて行くわマスター」

 

 俺の横に並び手を握るアビーに頼もしさを感じながら握り返す。本当にこの身一つでサーヴァントと対峙しなくて良いのは助かるよ。

 

「そういう訳だ。この件は、俺が動く。兵隊を向かわせるかは好きにしろオーランド」

 

「おい待て──」

 

 オーランドの制止を無視し、アビーを抱き抱えながら割れた窓から飛び出す。当然、落下して行くが途中でアビーの門が出現し落下しながら入ると視界に捉えていた最も遠い場所に出る。そのまま、着地し走りながら再び門に入るのを繰り返して行く。

 この方法は魔力の消費は多いが仕方がない、可能な限り早く矢を撃ったサーヴァントの元に辿り着く必要があるのだから。もしもあの泥を使い熟していれば他者を呪い汚染するのも容易い。矢の襲撃を受けたサーヴァントが迎撃に向かい、汚染される……そんな事態は避けたい。

 

「アハハハハ!!さぁさぁ、ポップコーンの用意は十分?残念だけど、無いって言ってもあげられないよ。キヒッ、人の業、人の悪意に沈み変質した神代の英雄と、遍く悪意を人はそんなものと全て受け入れた狂人と彼に付き従う外なる存在の戦いの幕が上がるんだからね!!」

 

 影辰が飛び出した署長室でフランチェスカは今この瞬間、この世界の誰よりも愉しげに嗤いながら語る。自分自身の目的はあるが、それはそれとして聖杯戦争を貶め、玩具として気に入っている男が苦悶に顔を歪めるであろう機会を得た事に喜ばずにはいられなかった。彼から血と僅かな泥を掠め取り、それを媒介に見学した第五次聖杯戦争。彼の物語は良い見せ物だったけど、特に何処が気に入ったかとフランチェスカに問えばこう答える。

 

『神話の英雄の戦いに混ざったあの戦いかな。彼らしく実に愚かで、勇ましい戦いだったもの』

 

 自身のサーヴァントから得た情報であの場所には奇しくもあの戦いに関与した者達が形を変えて揃っている。なら、今度こそ守る者が居ない彼らの戦いを人の限界を超え足掻く愚か者を見て愉しみたくなるのがフランチェスカなりの乙女心というやつだろう。

 

「どんな顔をするかなぁ。返せないほどの恩があり無意識に憧れすら抱いている相手が、あんな泥に汚染されて堕ちてる姿を見て!!失望するかな?それとも怒るのかな?まぁ、なんでも良いか!きっと君なら私を愉しませてくれるって信じているよ。衛宮影辰」

 

 一つ、フランチェスカにとって気に食わない事があるとすれば彼に付き従う存在だ。衛宮影辰(アレ)は自分の玩具であって他の誰にも渡すつもりはない。もしも玩具が壊れてゴミになるのなら、そこまでの過程を存分に堪能したいしお膳立てした上で見届けたいのに突如、盤外から掠め取られるなんて認めてなるものか。

 

「……期待しているよ。英雄王に堕ちた大英雄」

 

 歪んだ独占欲から生じた願いは聞き届けられるのか。それは皮肉な事に神にしか分からない。




歪んでんなぁ……

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