転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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本日、二回目の更新


心の在り方

 傲岸不遜にして唯我独尊。己が歩く道、それ即ち王道と憚らん金色に輝く王がその財を惜しみなく撃ち放てば、対する人の究極、不撓不屈の最強の名を欲しいままにする戦士が、戦う事に特化した生まれながらの戦士にして彼らにも劣らぬ輝きを持つ女王が飛来する宝具を瞬く間に撃ち落とす。彼ら一人一人が、神と人の間に生まれた者達であり人の領域ではあり得ない規模の戦いがスノーフィールドより二十キロ離れた北の峡谷で行われていた。

 

「来いカリオン!」

 

 女王が弓の撃ち合いでは拉致が明かないと自らのクラス──ライダーに恥じない馬を呼び出し、戦士によって巻き上げられた瓦礫を空中で駆け上がり、戦士の頭上を取る。戦いにおいて、上を取るのは極めて有利に働く事であり頭上からの一撃は致命傷となり得る。だが、その程度で討ち取れるほど容易いものでは無いと女王は理解していた。

 

「アーチャァァァ!!」

 

「……そうか。貴様か裏切りの女王」

 

 戦士がそう呟いた後、矢は放たれ戦士に当たるより早く閃光と共に爆ぜた。閃光と煙が晴れた時、頭上に女王の姿はなく戦士の背後から矢は必殺のタイミングで放たれる。一寸の狂いなく、戦士へと迫るその矢は王のマスターであるティーネから見れば勝負を決める一撃に見えた事だろう。

 

「砕け散った…!?」

 

 だが、そうはならない。戦士が纏う魔獣の皮から剥ぎ取り生み出された皮衣に触れた瞬間、容易く砕け散ったのだ。もちろん、戦士へのダメージはない。そしてその光景を見て、王は戦士の真名を予想し気を昂らせ期待する。自らの宝物を打ち払うなどという無礼を働いてなお、王が気にかけるだけの価値が戦士にはあった。それは本来であれば大変栄誉であり、栄光であっただろう。

 だが、神という存在に並々ならぬ憎悪を燃やす戦士にとって半神である王からの栄誉など塵にも等しい無価値な物であり、それは宝具として持っている神気の濃い布からも伺えた。

 

「神の力は己に宿すものではない。ねじ伏せ、踏み躙り、人の腕で支配するものだ」

 

 神をそして、神から生み出された己すら怨み、憎悪する戦士とそんな戦士に生前殺された女王の人智を超えた戦いにより渓谷の彼方此方は傷付き、その地形を矢が放たれる度に書き換えていた。そして、再び王と戦士、女王の攻撃が再開される一瞬の刹那にソレは現れる。

 

「ほぅ。この場に名乗りをあげるか」

 

 三騎の中間に出現した奇怪な門を見据えながら王は笑みを浮かべる。

 

「……」

 

 妙に身体が騒つく感覚を覚える戦士は弓に矢を番えながら現れる者を待つ。

 

「なんだ……これは」

 

 門が異質なものである事を理解し無意識の内に冷や汗をかく女王は警戒心を高める。

 

「王よ。御身の前に姿を現す許可を」

 

「ふっ、構わぬ。来るが良い」

 

 常人であれば向けられる神気そして魔力に意識を投げ捨ててしまうこの場所に足を運ぶただの人間が一人、門よりその姿を現す。黒いスーツに身を包み、己の武器である白銅色の灰錠を起動させその手の先に自らのサーヴァントを繋げた男が。

 

「ッッ……!」

 

 男の姿を認識した瞬間、戦士は番えたままの矢を放つが虚空より突如として出現した無数の触手が壁となり男を貫く事はない。それでもなお、矢を番えようとした戦士は男と目が合いその動きを止めた。

 

 憧憬、感謝、喜び、失意、憐れみ、そして怒り。己に向けられる数々の感情を戦士は男から読み取り思わず動き止めてしまったのだ。どれか一つだけであれば理解も出来よう。それだけの偉業を功績を妬みを、恨みを生み出したのは他ならぬ自分なのだから。だが、今こうして相対している男は自らの偉業を認め、まるで憧れの人物に出会った様に喜びながら同時に己を憐れみ、怒っている。意味が分からない……これほど混ざった感情を向けられた事はないのだから。

 

「……此処に来ながら戦いを見ていたよ。貴方を忘れる事はなかったからその様に成り果てていても、すぐに理解した」

 

 湧き上がる衝動を抑えながら男──影辰は口を開く。言葉を紡ぐごとにゆっくりと両手に力が篭っていくのを影辰は感じていたが、それでも問わずにはいられなかった。

 

「認めたくなかった、全力で見間違いだと自分自身を騙したかった。けど、王様が興味を抱く姿を見て現実を理解した。なぁ……なんでだ?どうして、あんたがそんな姿になってるんだ!!そんな泥、ただの人間の一側面だろうに!!そんなもの腐るほど見てきているだろう!?」

 

 その叫びを聞き戦士は目の前の影辰が愚者である己を知っている者だと理解した。なるほど、確かに己を知る者なら斯様な態度も理解出来ると思いながらも、その神経を逆撫する下らない叫びを黙らせるために矢を放った直後、戦士の視界から影辰と奇怪な触手を操るサーヴァントが消えた。

 

「速いな。人にしてはだが」

 

「……」

 

 ティーネには瞬きの瞬間の出来事にしか捉えられなかった。消えたかと思えば次の瞬間には、先ほどまでの激情が嘘の様に能面の如き表情で戦士の頭上から踵を落とす影辰とそれを矢で受け止める戦士の姿が広がっていた。その事実に驚く間も無く、彼らがぶつかりあった衝撃で戦士の足元の地面には大きな亀裂が入る光景を目撃する事になる。これには、流石の女王も驚きつつマスターの一人から入った悲鳴の混じりの警告に従い彼らから離れる。

 

「……」

 

「暗く澱んだ瞳だ。なるほど、貴様も同類か」

 

 影辰の瞳の色を見ながら呟く戦士だったが言葉を発した直ぐに、王から放たれた宝具を避ける為に影辰と同じタイミングで左右に分かれ避ける。戦士はチラリと王を見るが、影辰が王を見る事はない。その態度に笑みを浮かべながらその背に多くの宝具を浮べ王は両者を狙う。

 

「そこな道化を貴様と同じなどと括るな戯け。どこまでいっても、運命に抗い続ける筋金入りの道化よ!さぁ、此度の沙汰も生き延びてみせよ」

 

「……」

 

 自身へと迫る無数の宝具を一度見た後に影辰は戦士に向けて駆け出す。戦士は己に迫る宝具を手にした弓で撃ち落とす為に一度影辰から意識を逸らす。この時、戦士は油断していたのだろう。まさか、降り注ぐ宝具の雨の中一切、立ち止まる事なく迫る訳がないと。

 

「本当に人間なのか彼」

 

「フハハハ!!サーヴァントを得てもなお、変わらぬか。つくづく、道化よな影辰!」

 

 女王と王の言葉を聞き、戦士が見た光景はとても現代と思えるものではなかった。一切の加減なく、降り注ぐ宝具をまともに見る事すらなくただの人間が走る勢いを落とす事なく、避け時には掴み次に迫る宝具を打ち払いながら己に迫るその姿の何処に現代足り得るものがあるのだろうか?

 戦士が影辰を見た直後、掴み取られた宝具が戦士へと投げられる。矢による迎撃──不可能、ならばと弓矢本体で受け流す戦士だったが投げられた宝具を弾いたその瞬間、勢いよく自らの手が反対方向へと弾き飛ばされる。

 

「なんだと……」

 

 埋葬機関にのみ、伝わる投擲技法の中に鉄甲作用と呼ばれるものがある。抉り込む様に射つべしとされるソレは、投擲物が着弾した時の効果を劇的に増加させることが出来、此処ではない世界では真祖とされる吸血鬼ですら直撃すれば、吹き飛ばしなんらかの魔術による強化を施していると錯覚させるほどの体術であり、今正しく戦士の腕を弓ごと弾いた衝撃の正体である。

 

「……」

 

 魔獣の衣がない部分に新たに掴み取った宝具を投擲しながら戦士の懐へと入り込む影辰。投擲の衝撃を理解した戦士が投げられた宝具に当たる事はないが、全てを避けた事で影辰の攻撃を阻止する手段を失い──皮衣の上から顔面を勢いよく殴られる。走りながら放たれた渾身の一撃は、その衝撃を戦士に伝え、その場から数歩後ろに仰け反らせる事に成功する。

 

「ッッ!」

 

 咄嗟に腕を胸の前でクロスし戦士の蹴りを防ぐが骨が折れる音を発しながら、凄まじい勢いで後方へと吹き飛ぶ影辰。ただの人間であれば、柘榴へと変わる一撃も、並の英霊であれば衝撃で暫く動きを止める一撃も、戦士の前では数歩仰け反らせるだけで即座に反撃されてたのだ。先ほどの戦いで鋭く尖った岩場に激突するより早く、アビーが呼び出した触手で事なきを得る影辰だったがその両腕は見るも無惨にひしゃげていた。

 

「ヒッ……」

 

 ティーネが小さく悲鳴をあげる。

 幼い彼女の精神にはあまりにも衝撃的な光景だったのだろう。見るも無残にひしゃげてしまった影辰の腕が音を立てながら元の形へと戻るその光景は。その光景を見ながら戦士は弓をしまい無手で構えながら、影辰へとミサイルの如く突撃する。

 

「……」

 

「……」

 

 ミサイルの様な突撃によって舞い上がる瓦礫の中、戦士と影辰は無言で睨み合いほぼ同時に距離を詰め、ゼロ距離となる。己の首を掴み取り、へし折ろうと迫る戦士の腕をしゃがんで避け、蹴り上がる脚を足場に跳躍。背後を取った影辰は心臓を抉り出そうと手刀を放つが、向けられる殺気だけで場所を特定した戦士に腕を掴み取られ、握力で砕かれながら投げ飛ばされるが空中でアビーの触手を足場し反転。戦士の顔を横から蹴り飛ばし、砕かれた方と反対の手で腹部を連続で殴ると抱き潰されないうちに、一度離れる。

 

「……」

 

 治る自身の腕を眺めながら影辰は、目の前の戦士──ヘラクレスとの力量差を痛感していた。激情に支配されたまま、戦って勝てる相手ではない事は理解している為、即座に意識を切り替えたがそれでも勝ちの目が見えない。攻撃を当てるだけならどうにか出来るが、それだけで仕留められるかと言えば話が変わってくる。確かに先ほど、影辰の攻撃はヘラクレスを仰け反らせ数歩後ろに後退させるほどの威力はあったがそれは彼自身の油断も加味してだ。それに、仰け反らせる事が出来ても霊核が砕ける訳じゃないのだから。

 

「……」

 

 現代にも未だこれ程までの人間が居たのかと神と己に対しての憎悪しか抱いていないアルケイデスは思った。もし、目の前の男が自分と同じ時代を生き、同じ船に乗っていたのなら確実に歴史に名を残す英雄になっていただろう。だが、悲しい事に今の彼は英雄ましてや、英霊ですらないただの人間だ。そう、ただの人間だ……己と同じ。

 

「一つだけ問おう。貴様は何故、人の業をその身に宿しながらその様に振る舞える?」

 

 ただの人間がこの泥を、悪意を拒める筈がない。それほどまでにこの毒は人に仇なすものであり、魂の在り方すら塗り替える人の膿なのだ。故に不思議でしかない。狂った様子もなく、然りとて己の様に憎悪に身を焦がしてる訳でもない。それがアルケイデス(ヘラクレス)には不思議だった。故に問う、その在り方を。

 

「……人から悪意は切り離せない。人が人である限り、それは無理だ。けど、悪意があるならまた善意もある。だってそうだろう?誰かを妬んで、恨んで殺したいと願って……もし人がそんな願いしか抱けないならとうの昔に滅んでる。

 けど、そうじゃねぇだろ……悪意を抱きながら人はより善い世界が欲しいって願うんだ。その祈りが今の俺達に繋がってまた次代へと歴史を紡いでいく。この泥みたいにどうしようもない悪があるのなら、光輝く善もまたある。なら、絶望するのは諦めるのは早過ぎるだろうよ。たった一側面、見て知っただけの話じゃねぇか」

 

 聖人が悪を成そうと、悪人が気紛れに善を成そうと影辰にとっては等しく同じものだ。何故ならその矛盾こそが人を人たらしめると知っているから。初めから神に救いを求める気などなく、己の力だけで運命に立ち向かうと決めた男は何処までいっても、『人』しか見ていなかった。

 

 故に、『神』とそれに迎合する『人』を憎むアルケイデスと相容れる事はない。

 

「そうか。では、死ね。何処までも綺麗に人への幻想を抱く者よ」

 

 矢を構えると同時に魔力がうねりを上げていく。泥によって変質し汚染された魔力が、番えられた矢へと注がれていくその光景は正しく、宝具発動の兆しだ。女王は影辰を助けようと動くが、二人の闘気に呑まれていた事もあり今からでは間に合わない。王は、この状況ですらどの様に影辰が足掻いてみせるのか見守るのみで動く気配がない。

 迫る死から視線を逸らす事なく、影辰は自らの気を整える。逃げる事も間に合わないと判断した彼はあろうことか迎撃を選んだのだ。しかし、いくら膨大な魔力を宿していようとも神代の大英雄が放つ宝具を防げる道理はない。故に、どう足掻いても彼の身は跡形もなく消えていた事だろう。

 

「駄目よ、マスター。今ここで貴方が死ぬのは許されない事だわ」

 

 彼を背後から抱きしめながらアビゲイルはその手を前に翳すと彼方への祈りを紡ぐ。

 

「イグ・ナ。イグ・ナ、トゥフルトゥクンガ」

 

 小さき魔女は繋がれた温かな手を手放さない。悪い人なのかもしれないけどずっと繋いでくれているこの手を自分から離すことはしたくない。そんな願いが、何処にでもあるありふれた子供のささやかな願いが大英雄の放つ宝具を防がんと展開された。




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