転生特典が動体視力?これ、無理ぞ   作:マスターBT

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多分、一番の被害者は合衆国です。


夢幻の如く

 『ソレ』は決して、人の言葉を発さず理解する事もない。過去と現在、未来そして並行世界の全てに存在する人が理解してはならない化け物或いは、神と呼ばれるもの。

 

 『ソレ』に明確な性格があるのかは定かではないが、悠久の時を生きる存在であるために退屈を覚える時もあれば呼ばれた声に応じる事もある。だから、そう。言ってしまえば運が悪かったのだろう、彼方で蠢いていた『ソレ』は認識しづらい世界から届く『声』を聞いてしまった。そして、あぁそうだ暇だから行ってしまおう。そんな気軽さでその声に応じた。制約は色々とあるが、なんと都合の良い事に干渉しやすい準備が出来上がっていた。

 

──だから、運が悪かったのだ。スノーフィールドにおいて、戦いを見学していた魔術師の実に八割が発狂してしまったのは。

 

 

 

 

 

 時は戻り、アビゲイルが呪文を唱えた場面。

 小さな彼女に抱かれながら影辰は自らの目の前に、今まで利用していた門より大きなものが現れたのを見ていた。それと同時に自分からアビゲイルへと多くの魔力が流れ込んでいる事も。そのパスを通して理解する、この門から呼び出される存在は良くないものだと。恐らく大半のマスターがソレを理解すれば令呪を使用してアビゲイルを制止するのだろうが、彼にその気は一切なく寧ろ拒絶されるかもしれないと恐怖に震える自身の肩へ乗せられている震えた小さな手を握りしめる。

 

「……!」

 

「大丈夫」

 

 たった一言、それだけでアビゲイルの震えは止まった。それと同時にアルケイデスは、皮肉な事に神話に語られる英雄としての直感が現れ出る『ソレ』を出してはならないと告げ、狙いを人間である影辰から門へと切り替える。

 

 アルケイデスの弓から禍々しい聖杯の泥の魔力を乗せた矢が放たれるとまるで、蛇の如く畝りながら門へと迫るその数は、実に九つ。それらが門に迫るのが妙にゆっくりと見えていた影辰の後ろからアビゲイルが突き出した鍵を回すと音も立てずに門が開き、そこから人が理解出来ない超常の生物が触手と共に現れる。

 

 『その生物はどんな鳥ともコウモリとも違っていた……何故なら体は象よりも大きく、馬に似た頭部がついていた』

 

 二匹の生物は門から凄まじい勢いで現れると霜と硝石に塗れた翼で羽ばたきながらアルケイデスの放った矢と勢いよく衝突し──

 

「キリュァァァァァ!!!!!」

 

 ──聞く者の耳を蝕み精神を軋ませる不気味な悲鳴を上げながら、半分の矢を引き受け地に落ちていく。その直後、山と形容できるほどの強大な泡立つ触手が迫る残り半分の矢を絡み取りその門の内側へと戻って行くのだった。

 

「うっ……オェェェ……」

 

 この場において最も正常な精神をしていたティーネが、王の船を汚す訳にはいかないと耐えていたが正気を削るその光景に堪える事が出来ず腹の中の内容物を全て溢してしまう。それでもなお、嘔吐だけで済んだのはこの土地が彼女を護ったのかギルガメッシュの、大きすぎる存在感が故か。

 役目を終えた門はまるで、その場所には何もなかった様に消えていき地に落ちた筈の生物もまるで夢幻の如く、消えたのだ。

 

「……ッッ!?おい、彼らは何処に消えた!!」

 

 女王の叫びに釣られてその場にいた全員が影辰とアビゲイルが居た場所に視線を向けるとそこに二人の姿はなく、スノーフィールドに吹く風が砂を巻き上げるのみだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「まさか……これほど人の精神にとって毒と呼べる存在がいるとは……上も混乱状態で連絡がつかず此方の兵も見ただけで自死を選んでしまいました」

 

 アサシンが見るなと警告を出さなければ自分もどうなっていた事か。紙に書かれた警告文に視線を落とすと同時に響き渡る絶叫や、拳銃の発砲音果てには自らが持つ武器で近くの人間との殺し合い……それら全ての()()はどうにか終わりましたが、街中でも魔術師が自殺したりで混乱が起きている。この程度なら、原因不明の集団自殺としてまだ誤魔化せられますがこれ以上となればどうなるか。

 

「……作戦の放棄にはまだ早計ですがすぐに手を打つのも儘ならない」

 

 アサシンを差し向けるのも手ですが英霊と真っ向から戦えるイレギュラー相手に幾らずば抜けた気配遮断能力があろうと通じるのか……参加者である立場を失う事は構いませんが、襲撃者だとバレて此方に危害が加わり万が一にも聖杯が破壊される様な事態は避けなければならない。

 

──魔術師であっても理解が及ばない怪物の被害を受けファルデウスは判断を迫られていた。明確に、衛宮影辰とそのサーヴァントは合衆国にとって不利益を齎す存在であるが彼らが平常は何もせず、ただ街を散策しパンケーキに舌鼓を打つという一般人と大差がない事も理解しており殺すよりこれ以上聖杯戦争に関わるなと対話をした方が有益ではないかと考え始めていた頃、更なる知らせが彼の耳に届く。

 

「ディオランド部長……更なる異変が起きました……」

 

「今度はなんですかアルドラさん……」

 

「スノーフィールドを出ようとする魔術師、そして一般人が同じ時間を境に街へ引き返しています」

 

「……先ほどの怪物の影響ですか?」

 

 もしそうなら早急に対処しなければなりませんが、アルドラさんは静かに首を横に振る。彼女から告げられる時間はあの化け物が出現するより数分後の出来事であり、化け物の影響とするには些か遅すぎる。……はぁ、胃が痛くなってきましたね……

 

「ん?」

 

 カサリと突然、手の中に入ってきたメモを広げるとそこには『心せよ、此処の結界より外は忌むべき厄災が蠢いている』と、アサシンからの警告が書かれていた。

 

「……厄災なら先ほども起きましたが」

 

 ──アビゲイル・ウィリアムズが理解の出来ない超常的な厄災であるのならば、これより起きる厄災はまだ人が理解できる範疇の厄災である為、心優しいのかもしれない。尤も、その風に触れた者の身を蝕み内側から死に至らしめる人類史とは切っても切り離せない『呪われし死病の風』なのだが。人の心を殺す厄災と、肉体を殺す厄災。その二つがスノーフィールドの地を蠢くこととなる。

 

 

 

 

 

 

 

「……何処だ此処?って、アビー!?大丈夫か?おい!?」

 

 目を覚ましたら森の中とか意味が分からん状況で頼りになるサーヴァントは、なんかぐったりしてるし魘されてるとか俺に一体、どうしろと。暫くの間、苦しそうにしているアビーに声をかけるが反応はなく霊体化する様子も無い為背負うと鼻に強く薔薇の匂いを感じた。

 

「……そういや初めて召喚した時も薔薇の匂いだったな」

 

 魔術に詳しければ何か分かるのか?まぁ、俺が考えたところで意味はないか。

 しっかし、此処は本当に何処だ?全く見覚えがないし、雰囲気からしてさっきまで戦ってた谷じゃないだろう。王様の気配も感じ取れないし……となると、アビーが門を開けてあの場から逃走して此処に連れてきたって事か。やっぱり、サーヴァントの力って凄いな。

 

「ありがとうアビー、あの時の俺は明らかに冷静さを欠いてたから助かったよ」

 

 魘されてる彼女の助けになればと思いながら礼を言い森の中を歩く。サーヴァントだとしても小さく軽い存在を暖かく感じながら、俺の思考は泥によって汚染されたヘラクレスへと移っていく。……分かっているさ、座から召喚される英霊は例え同じ存在であっても俺が知る存在とは全くの別だと。けど、信じたくなかった、俺と共にイリヤを助ける為に戦ってくれ命を救ってくれた英雄がこの身に蠢く泥に屈している姿というのは。

 

 俺と言峰のクソ野郎、そして王様。俺が知ってる限り、あの泥を受けてなお変質した様子はない。まぁ、アイツに関しては元々が泥みたいな性格してるから影響がなかっただけかもしれないが。……強いて言うなら俺はあの日からどうにも何かを忘れている感覚と、このアホみたいな再生力が変化した点と言えるか。

 

「……ん?サーヴァント……か?」

 

「そうだよ。君達が突然、侵入してきたから迎撃に来たんだけど。どうやらその気は無さそうだね」

 

 まさか、こんな森を工房にしている魔術師が居るとは思わなかったな……だが、結界の類を超えた感覚も何もなかったしもしかしてウェイバーみたいな魔術師が呼んだサーヴァントか?取り敢えず、敵意はないと分かってるみたいだが黙っているのも変だな。

 

「あぁ。見ての通り、意識不明のサーヴァントを抱えてるただのマスターさ。許可も取らずに侵入した事は謝るから、どうか見逃してくれないか?」

 

「それは君の保身のためかい?」

 

 そう問われて背中に背負うアビーをチラリと見る。相変わらず何かに魘されている様で、可愛らしい顔を歪めている。返答次第で攻撃される事も考え、そんな彼女を背負い直してから答える。

 

「その気持ちは勿論ある。けど、今はこの子の為だ。こんなマスターの為に全力を出し逃がしてくれた礼をまだ伝えてない」

 

 俺がそう告げると僅かに目を丸くする目の前のサーヴァント。そんな間抜けな表情さえ、一枚の絵画の如き美しさを誇りながら次の瞬間にはまるで、子供の様な無邪気な微笑みを浮かべる。

 

「君は本当に不思議だね。君から感じる空気は間違いなく悪人だけど言動がまるでそれに見合ってない。……それならそこの彼女を任せても良いかもしれないね」

 

「任されるも何も俺はマスターでフォーリナーはサーヴァントだ。初めから一連托生だろうに」

 

「ふふっ、その感性を捨てないでおくれよ。それがきっと彼女を繋ぎ止める鎖になる」

 

 何を言いたいのかさっぱり分からないが目の前のサーヴァントから感じる殺気は霧散していった。どうやら許されたらしい。

 

「……ふぅ。取り敢えず、何処か休めるところが欲しいんだが知ってるか?」

 

「そうだね、それならこの先にある建物を使えば良いと思うよ。ただ、どうやら君に来客の様だ」

 

 彼、或いは彼女に促されて視線の先を見ると木の影からコソッと警察署で見たサーヴァントが現れ、それとほぼ時を同じくして後ろから現代の服を着た金の髪に赤いメッシュの入ったサーヴァントと金髪の女性が現れた。おいおい、こっちのサーヴァントは絶賛気絶中だってのになんでそう集まるかな。

 

「あっちは僕への来客ぽいね。君は向こうの彼女の相手をすると良い」

 

「お、おう」

 

 何故か森にいたサーヴァントに指揮られて話し合いが始まるのだった。……疲れてるから休ませて?

 




Q:何故、エルキドゥのところに飛んだの?

A:谷から遠く目印になる大きな魔力があったから。

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