職業は何かと聞かれればまぁ、神父と答えるしかない。当然の事だが、化け物殺してます!とかウェイバーやフランチェスカに頼まれて魔術世界に首突っ込んでる傭兵紛いとか言えるわけがない。まぁ、そんな訳で事実冬木教会でシスターのカレンと一緒に聖書を読んだり信者達の懺悔とか悩みを聞いているのだから神父という職業が当たり障りなく答えられる正解なのだが、そもそも言峰の奴に押し付けられた様なもので恐らく世間一般の神父らしい考えは持ってないのだ。
サーヴァントなんて規格外な連中を見ているし、王様やヘラクレスみたいな事例も知っているからこの世界には神は居ると思ってはいる。けど、俺らが祈ったところで態々、手を差し伸べてくれる存在だとは思っていない。だって、そんなんで解決するならとっくの昔にそうしてるしな。
「宗教の鞍替えをするつもりはないか?」
「いや……悪いが、そういうのに興味はない」
だからまぁ、宗教のどうのこうのって話をされても困るんだわ。
アサシンに鞍替えを要求されたが断ると少しばかり残念そうな表情を浮かべたが、俺の答えは分かりきっていたのかすぐに表情はキリッとしたものに戻った。
「聖杯に興味はないと言っていたが、ならば何故この地に立ちサーヴァントを従えている?」
チラリと俺の膝の上で魘されているアビーに向けられた視線は敵を見るのもではなく、幼子を見る優しいものであった。恐らく宝具の発動を見ていたのだろう僅かな警戒心こそ宿っているがそれだけで俺にはこのアサシンが善い人なのだと思えた。
「過去の約束だ。俺にとってどうしても譲れない一戦に挑むために握った手が、悪趣味な奴だったってだけさ。本当はこの地に居るだけでサーヴァントを召喚するつもりもなかったんだが、令呪が宿りギル……王様が参戦してるのなら自衛の為にサーヴァントを召喚する必要があっただけの話だ」
そんな善い人だからこそ俺も嘘偽りなく答える。視線の先では、ランサーとクラス不明の英霊が何やら話し合いからの戦いに移行しそうな空気を出しているがまぁ、俺らを巻き込まない様にはしてくれるだろう。
「──では、聖杯に望む願いは無いということか?」
空気が変わった──なるほど、それが真に問いかけたい主題か。
ゆっくりとアビーの頭を撫でながら俺は視線を戦っている英霊二人からアサシンへと切り替えて、彼女の目を見る。
「ない。俺の都合で呼んでしまったこの子が何も望まないのなら、俺に聖杯を勝ち取る意志は一切ない」
暫くの間、無言で見つめ合う俺とアサシンだったがやがてアサシンの視線がアビーに向けられると彼女の張り詰めた空気は完全に霧散していった。どうやら俺は敵ではないと理解してくれた様だ。
「ならば頼みたい事がある。私は私を呼び出したあの魔物を討ち滅ぼしたい、手を貸してくれないか?」
魔物……ジェスターの奴の事か。チッ、やっぱりあの野郎生きてやがるのか。手応えは微妙だったし、こうして今目の前に奴に呼び出されたアサシンが居るのが何よりの証拠だな。
「あぁ。奴は俺も仕事柄倒さなければならない敵だ。手伝える事があれば協力しよう」
「そうか。それなら早速頼みたい事が──!?」
アサシンと共に急に高まった魔力の方に視線を向けるとそこには、黄金に輝く剣を……違う。アレはただの木の枝だ。間違いなく木の枝である筈なのに俺の目にはそれがある剣に見えて仕方がなかった。忘れる筈がない、俺の原点とも言える第四次聖杯戦争において関係は決して良好とは呼べなかったがその輝きを俺は目に焼き付けている。海魔をそして、ランスロットを打ち倒したかの剣の名前は──
「悲しくも尊き夢は──決して何者にも阻まれぬ果てへ至る──!今、ひとたびに刻む!その
黄金の輝きが
「……
記憶にある威力よりは弱いと言えるがそれでもランサーが生み出した周囲を取り囲む武器を破壊しランサーと斬り結ぶその光景は、決してただの木の枝で起きて良いものではない。手に持った宝具があの聖剣になる宝具なのか?だとすれば、どんなものであれあの英霊にとっては剣となり得る規格外な宝具だ……あのランスロットにも利便性という点で決して負けていない。
「あの宝具を再現出来るのなら……なるほど、セイバーのクラスに相応しいな」
騎士王の宝具を再現出来るその一点だけで、セイバーと名乗っても申し分ない。それほどまでにあの聖剣は有名なのだから。……ん?なんか俺の事を見てる様なというかすっごい勢いで迫ってきたな!?
「君!先ほど、俺が真名を解放するのとほぼ同時に名前を口にしたよな?まさか、かの王を知っているのか!?」
「うおっ!?すっごい、キラキラした目を向けるなこの英霊!?……俺は二度聖杯戦争を経験しているんだ。そこで騎士王と同じ陣営に居たんだよ」
宝具になるぐらいだから薄々勘づいてはいたが、この英霊相当な騎士王ファンだな……今も俺の返事を聞いて羨ましいって言葉が漏れ出てるし。まぁ、間違いなくアーサー王伝説は人々に夢を抱かせ、その心に熱を宿させるものだからこういう英霊もいるよな。
「くぅぅ……アーサー王と肩を並べて戦場を走る……想像しただけで身に余る幸運だな!よしっ、決めたぞ。君達も同盟を結ばないか?どうにもこの聖杯戦争には嫌な気配を感じているんだ。それを片付けてから聖杯の取り合いを行いたい、そう俺は考えている」
「……ついでに俺から話を聞こうとか思ってないかお前」
「あぁもちろん!」
良いお返事ですねぇ……しかし、同盟を組めるというのは願ってもない申し出だな。確かにこの聖杯戦争の裏にはフランチェスカの影がある以上、何が起きても不思議ではないし、俺やヘラクレスが宿す泥が何かをやらかす可能性も当然ある。というか、聖杯戦争が何一つ問題なく終わる訳がないと確信を持って言える以上、対策は多いに越したことはない筈だ。
「分かった。俺はその申し出を受けよう、アサシンお前はどうする?」
「……こちらとしても利がある提案だ。但し、そちらのマスターかお前かどちらでも良いが私に魔力供給を頼みたい。あの魔物によって生かされているというのは拒否したいんだ」
そう言って怒りの表情を浮かべるアサシン。倒すべき敵によって生かされているというのは確かに気に入らん事態だろうな。
「その状況には同情するが俺はオススメしないぞ。俺の魔力はそのなんというか、澱んでるらしいからな。アサシン、君が善い人物でなければ俺の魔力でも良かったのだろうが……」
「えっとそういう事なら私が……」
俺の返事に残念そうな顔を浮かべるが続けて、セイバーのマスターが了承の返事を返すと安心した様にこの場で魔力供給をする為のパスを繋げる。そのやり取りを横目に見ながら、未だに魘されて起きないアビーの事を考える。原因は恐らく、あの宝具を使った事だろう。あの時、アビーに持っていかれた魔力は普段より明らかに多く宝具を使ったのだと分かったが、アレは本来の使い方ではないのだろう。根拠も何もなくただ漠然とそう思うだけだが、本来の使い方でないのであれば相応の負担がアビーを襲い、結果この様に魘されていると考えれば納得がいく。
「ううっ……」
「……何もしてやれなくてすまないな」
魔術が使えない俺に魘されているアビーをどうにかする術はない。精々、目が覚めるまでこうして頭を撫でてやる事ぐらいだ。心配ではあるが今は信じて彼女が戻ってくるまでの間、この聖杯戦争を生き抜くしかないと覚悟を改めるのだった。
「此処は……何処かしら……」
先の見えない暗闇をただ一人で歩いていた少女は突如として明るい場所へと辿り着きました。其処は、何処となく手を繋いでくれる優しいお兄さんと一緒に歩いた街と似ていましたが少女はあの時のワクワクとした感情ではなく、寂しいという感情を胸に抱きました。何故かは分かりませんがそう感じたのです。
「……マスター、一人は寂しいわ」
周囲の雰囲気に感化されてしまったのかずっと歩き続けていた少女はその場で立ち止まり、可愛らしいぬいぐるみを抱きしめて呟きます。けれど、その手を掴んでくれる人はこの世界にはいません。
「あなたはだあれ?わたしは、くるおかつばきです」
不意に幼い声が少女の耳に入りました。ゆっくりと顔を上げるとそこには黒髪の子が一人後ろに大きな大きな黒い影を従えながら立っていたのです。黒い影に導かれてこの場所に来た女の子は一欠片の警戒心もなく、目の前の少女へと手を差し出す。
「私は……アビゲイル。アビゲイル・ウィリアムズ」
少女は自分の名前を名乗り、女の子の手を取る。……こうして彼女達は出会ってしまいました。幸運な事は、少女には目の前の女の子が現実世界で何をしているのか、女の子には手を握った少女がどれほど異質な存在か知る術がなかった事だろう。けれど、けれどね此処はいつか壊れる偽りの世界。いずれ、知る事になるだろう。己の罪を、己の歪みを。
「アビゲイル……うん!ながいからアビーってよぶね!」
「えぇ!私はツバキって呼ぶわ。良いかしら?」
「うん!」
──どうか、無垢なる少女達に救いあれ。
感想など待ってます。